何も武器がなかった就活期からのキャリア形成│入社後に得られる実績・スキルをイメージしよう

スキルプラス 代表取締役社長  塚田 侑さん

Yu Tsukada・就職活動中に出会った研修企画の会社ラーニングエッジで、インターンとして働き始め、大学卒業後そのまま入社。27歳の頃に独立し、セミナー企画・集客・運営支援を手がけるティーズコーポレーションを立ち上げ、現職。2021年、AI技術を取り入れた新サービスの開発に着手したことをきっかけに、現社名に変更

この記事をシェアする

人とは違う就職活動をしてみたことでインターンや1社目への道が拓けた

キャリアにおける最初のターニングポイントは、大学4年生の4月頃、「周囲がやっていない動きをしてみよう! 」と経営者の講演会に参加したことです。

私が就職活動を前にして直面したのは、これまでの人生で「頑張ってきた」と自信を持って言えるものがない、自分には何も武器がない、という現実でした。

Jリーグが流行っていた小学校時代にはサッカー部に、スラムダンクが流行った中学生時代にはバスケットボール部に入っていましたが、周りや流行に合わせて意思決定をしてきた自覚がありました。

高校・大学時代には居酒屋でアルバイトをし、お客さんとのコミュニケーション力を磨くことができたかもしれませんが、楽しんで働いていただけで、これも特段、頑張ったという実感はありませんでした。学業にしても内心点が足りず一浪して進学しており、何かをやり抜いたと言い切れる経験がひとつもなかったのです。

友人にアドバイスをもとめても「とにかく自己分析を徹底しろ」と言われるのですが、深掘りできるほどの自分がいないことにも愕然としましたし、掘ったらすぐに底が見えてしまうような自分の浅さを痛感させられていました。

そのような焦りのなか、思いつきで参加してみたのが、人材教育をテーマにした講演会です。

社会人向けの内容だったので、講演の内容は当然、さっぱりわかりませんでした。ただ終了後の懇親会に参加してみたところ、学生という珍しさから注目され、複数の参加者たちから「約30人の参加者全員にあいさつして名刺をもらってこい! 」なんて声をかけていただいたのです。

そのなかで講演会を主催していたベンチャー企業の方が気に入ってくださり、インターンとして働かせてもらうことになりました。

私のように学歴にも経歴にも目立った武器がない状態で就職活動を始める学生さんは非常に不安だと思いますが、そんなときはいつもの就職活動とは違う動きをしてみると、別の縁が生まれるかもしれません。それで万が一、何も起こらなければ、普通の就職活動に戻れば良いだけなので、ぜひ試してみてください。

ファーストキャリアは自分を必要としている企業に入って「実績づくり」に励もう

この経験から皆さんに伝えたいのは、自分自身に興味を持ってくれて「一緒にやろうよ」と言ってくれるような会社を選んでみるのは、ひとつの有意義な選択肢ではないか、ということです。

もちろんやりたいことが明確にあって、手持ちの武器がたくさんある人であれば、行きたい会社にチャレンジしてみるのが一番です。

ただ学歴やスポーツの実績など何も手持ちの武器がない、行きたい業界も企業も特にない、だから知名度、給与や福利厚生制度など条件だけを見ている……といった状況ならば、人気企業ランキングをとりあえず受けてみるような高望みの就職活動をしたところで、実りは少ない気がします。

私自身もそうでしたが、就職活動で実力に見合わない企業を望んだとしても、そこにマッチングするのは全体の1割程度。9割の人は選考に通りません。そのたびに落ち込んで、最終的に行き詰まってしまうくらいなら、自分のやってきたことを評価してくれて、一緒にやろうと言ってくれる人や企業の誘いをありがたく受け入れてみたほうが、長い目で考えたときにキャリアが拓けていくように思います

就職活動はたった1年間ですが、キャリアは何十年も続きます。年収100万円〜200万円くらいの差であれば、私は今でも「自分を必要としてくれる」と感じられる企業のほうを選びますね。自分を評価してくれる場所にいたほうが、5年後には代えの利かない”経験”ができているのではないか、と思うからです

それに「たまたま入った会社が成長して、どんどん良い会社になっていく」という可能性はゼロではありません。成長ベンチャーであれば、「あの時期だったから入社できたけど、今ならすんなり入れなかったかも」と思えるような企業に飛躍していくことも十分にありえます。

またこれからの時代に活躍する可能性が高いと私が思うのは、自分の実績づくりに目が向いている人。終身雇用時代の名残で、日本には「(会社の仕組みの都合で結果として)社内調整やマネジメントが得意です」という人がたくさんいますが、その強みを発揮できる場所は少なくなっていくだろうと予想します。

組織の形態が多様化してきている分、「自分はこういうことができます」と明確に言語化できないと、自分を売り込まなければならない場面でとても苦労する気がしますね。

ファーストキャリアでは実績ゼロからスタートすることになるので、「自分を受け入れてくれた会社で、まずはどんなスキルを磨くか、どんな実績を作るか」という視点を持って就職活動をおこなってみるのは一案かと思います。

入社後は「自分に完璧に合う業界や企業など幻想でしかない」と諦め、とりあえず自分から企業や業界の側にがっつり合わせてみてください。そのほうが自分のためになるからです。

私が尊敬する仕事ができる人たちは、皆そうです。どうせ結果を出さなくてはならないなら、イヤイヤ言われたことをこなすよりも「どう集中し、どう楽しむか」を考えてみる。期間限定で構わないので、一旦、その環境に浸かってめいっぱい働いてみたほうが建設的です。

それに「〇〇業界に入りたい、この会社に入りたい」といった憧れが強いと、入社前はどのような先輩の話を聞いてもプラスに聞こえることでしょう。しかし理想を持ちすぎて、入ってから理想と現実の違いに落胆して気力をなくし、腐ってしまう人もいます。

最初から「理想どおりの会社など幻想だ」と思っているくらいのほうが、自分のために努力をし続けていけると思います

働くやりがいは規模じゃない! 誰と働くかが重要になる

インターンと並行して就職活動を続け、最終的には小さな広告代理店の内定をいただくことができました。

ただインターン先の先輩たちや社長のほうが魅力的に見えてしまい、「卒業後も働かせてください! 」とそのまま入社させてもらうことに。ここが2つ目のターニングポイントと言えるかと思います。

その会社は現在、40名以上の組織になっていますが、当時はワンルームにひとつのテーブルで5〜6人が働いているような状況でした。ただ自分を気に入ってくれた先輩たちなので、仕事はとてもしやすかったです。「人柄や価値観が合う人たちとであれば、気持ちよく働けるのだな」と心底、実感しました

そこから4年で独立を決めたのは、サラリーマンとしての働き方に限界を感じ始めたのが理由です。

仕事をする感覚が掴めてきて「自分でもできそうだな」「自分でやってみようかな」という気持ちがふわーっと湧いてきて独立の決意ができました。

独立してからは質の違う大変さがありましたが、自分で動いた分だけ業績が跳ね返ってくる環境のほうがおもしろい、という実感はありますね。

ただしそのおもしろさは、収入の不安定さと天秤にかけられているものではあります。安定収入がないとどうしても不安だという人や、大勢で大きな課題を解決するのが好きな人は、組織の中で働いたほうが満足度は高いと思います。独立するかで悩んだら、ぜひそのような視点を持って考えてみてください。

それに独立したからといって、何もかも理想どおりにやれているわけではありません。いつもいつでも「心からビジョンに共感できる」というパートナーと手を組み、「おもしろそうだな、これはやりたい」と思えるような仕事ができれば理想的ですが、経営をしている以上、背に腹は変えられないときもあります。

独立後に手がけた事業のなかには、負債を抱えて畳んだものもありますが、だからこそ小さな仕事でもコンスタントに依頼してくれる相手に対して「ありがたい」という気持ちは忘れないようにしています。  

現在は3人の子どもがいるので、これからの学費などを考えると何が起きてもやるしかない状況です。そうして自分を追い込む環境を作ることで、踏ん張れている実感もありますね。

妄想力を活かして新しい技術をサービスに変えていくことが、これからのビジョン

当社を立ち上げてから最大の危機は、コロナ禍をきっかけに訪れました。講師の先生を招いてリアルで講演会や研修をおこなうビジネスモデルを主軸としていたからです。オンラインセミナーの形式にはスムーズに移行できたものの、このままでいいのだろうかと危機感を覚えました。

講師の先生ありきのビジネスモデルの課題を解決できる手段として注目したのが、AI技術です。この新しいビジネスの骨子は、同じマンションに住んでいたパパ友との出会いがあり、一緒に固めていきました。

技術を持っている世界中の企業を調べ上げ、とある国のAI先端開発企業との提携を実現。現在は写真と音声から本人や講師のアバター「デジタルヒューマン」を生成できるソリューション「メタスピーカー®️」の開発に着手しています。

心機一転、社名も変更したこのタイミングが、キャリアにおける3つ目のターニングポイントです。

私はもともとテクノロジーに興味があり、おもしろそうな技術を見つけると「こういうサービスはできないかな? 」と妄想するのが好きでした。AIにイラストを書いてもらったり、文章を入れるとブログや論文を勝手に作ってくれたりする技術などが今は有名ですが、このような新しいテクノロジーに触れることが趣味と言えるかもしれません。

写真と音声を組み合わせて架空の偉人でアバターを作り、名言を勝手に作り出すbotを作れるのではないかな? なんてことを日々考えていますし、「マネタイズできたら楽しいな」と想像している瞬間も好きですね。

技術者ではないので、あくまでいちユーザー、いちファンとしてですが、現在開発中のものを含め、テクノロジーを生かした新しいサービスを考え、提供し続けていくことが今後のビジョンです

新しいことに取り組むことが新しい価値創造になり、ひいては社会貢献になると感じていますし、その意味で今が一番、やりがいや充実感を持って仕事ができている状態といえるかもしれません。技術を持ったサービスを手がけ始めたことで、大企業が興味を持ってくれる機会が格段に増えており、今までになく事業がダイナミックにスケールしていく予感や手応えも得ています。

社会人になって気づいたことですが、私の強みは妄想力。面白いことが好きなこの資質を、学生時代にはわかりやすく評価できる形でアウトプットする機会がなかったのだな、と今では思えています。小学校の頃にはすでにこの価値観を持っていたので、学生の方々も「今は自覚できていなくても、自分には何かしら本質的な強みがあるはず!」と思っていてほしいですね。

ちなみに「こうしたら楽しいな」という妄想スキルを活かす方法論は、1社目の仕事を通じて身につきました。 妄想力を使って「こうすればお客さんの課題が解決できて、その解決策に対価を払ってくれるのだな」ということが理解できたからこそ独立できた気もします

また、フリーランスを含めて自分でビジネスをしたい人は、顧客の購買動機がリアルに体感できる部署や業務を経験できる就職先を選んでみるのがおすすめです。

あまり大きすぎる企業だと、既に完成されたシステムのなかに乗っかるだけになってしまい、お客さんの意向を感じ取りづらいかもしれません。もちろん大企業は優秀な人がたくさんいるので、また違うことをたくさん学べるとは思います。

あくまで私にとってはですが、縁あって出会い、自分を必要としてくれて、かつお客さんの購買動機を理解できる小さなベンチャー企業をファーストキャリアに選んでよかった……と心から思えています

取材・執筆:外山ゆひら

この記事をシェアする