「自分らしさ」を忘れずに就活に臨もう|オリジナルの考えや想いは就活の軸になる
島田電機製作所 代表取締役社長 島田 正孝さん
Masataka Shimada・1969年生まれ。東京都出身。専門学校卒業後、1990年に島田電機の関連会社に入社。日立の工場へ出向し経験を積んだ後、1993年に24歳で島田電機製作所に入社。旧態依然の古い町工場を大改革した後、2008年に中国上海へ赴任し現地法人を設立。2013年に本社の移転を機に5代目の代表取締役社長に就任し、現職
自分が働きたい会社に変えていく。どんなことも自分事に捉えてポジティブに前進
学生時代はまったく勉強をせず、音楽やファッションなど自分の好きなことだけをやっていたんです。働くこと自体、自分で受け止められていなかったというか、将来のことを何も考えていなかったですね。
ただ、祖父が創業した島田電機製作所を父親が継いでいたので、ゆくゆくは3代目として後を継ぐのかなとは思っていて。専門学校は経営ビジネス科に進み、少しずつ準備を進めていました。
新卒では島田電機のグループ会社に入社し、エレベーター製造の工場に就職。今までアルバイトさえもほとんどしたことがなかったので、全体で500名くらいの大企業で働くのが新鮮でした。当時は社会的に残業時間が長かったこともあり、「会社で働くってこんなにもしんどいことなのか」と疲弊することが多かったですね。
そして3年後、島田電機製作所に入社しました。世間的にはバブル崩壊を経て変化を遂げる企業もあるなかで、当社は旧態依然でいわゆる古い町工場のまま。組織内のルールや決まりは不明瞭で、職人気質の幹部たちの言われた通りにする。時代の変化に気付くことなく、目の前の仕事をこなすばかり……。
「自分が働きたいのは、こういう会社じゃない」「一緒に働きたいと思える人と働きたい」。そう思い立ち、自分が働きたい会社にしていこうと決心しました。物事をポジティブに考えるようにしているので、現状の課題をチャンスだと捉えて前に進むことにしたのです。
それから本当にいろいろな取り組みをおこなってきましたね。たとえば、「仕事は与えられたことをやれば良い」という受け身の人が多かったので、頑張った人がきちんと評価される仕組みを策定したり、新規営業をおこなって経営を安定させたりしました。さらには下請けから脱却するために、中国へ出向いて海外進出にも挑戦しました。
「社員に楽しく働いてほしい」という想いからオリジナルの環境づくりに励む
とにかくあらゆる面を変えていき、やっと世の中の変化に適応した会社になってきたと思った矢先、社員の3分の2が辞めてしまうという出来事がありました。会社のためを思って大改革を進めてきたけれど、社員に向き合うことはできていたのか。人の重要性を分かっていたのかと自問自答をし続けました。
そして、自分が経営者として成し遂げたいのは、会社で働く人を幸せにすること。熱意をもって働く人を増やすことだと気付いたのです。それ以来、人を中心に考えた組織づくりをはじめました。
企業理念には「社員が働くことに誇りをもてる企業を創る」と掲げ、社員のパフォーマンスを上げるために30以上の“仕掛け”を作り、楽しく働ける環境づくりに力を入れています。
たとえば、仕事終わりに無料で利用できるバーを併設したり、オフィスはオープンスペースでフラットな雰囲気に。どうしたら喜んでくれるだろうと考えて作ったものを、実際に社員が活用してくれているととてもうれしい気持ちになりますね。
また、採用選考にも当社の社風は現れています。カジュアル面談では、学生さんが本音を言いやすいように、その場でガチャガチャを引いてもらい、そこに書かれている質問に答えてもらっています。さらに、面接には当社への“ラブレター”を持参してもらいます。志望動機や自己PRなどの履歴書の内容は、かなり綺麗にまとめられていますよね。そうではなく、当社に対する想いを自由に表現してほしいんです。「その人らしさ」を引き出すためにさまざまな工夫をしています。
ここまで会社全体を変えてきて、客観的に考えると努力を重ねてきたのかもしれませんが、実はあまり大変だったとは思わないんです。「自分が働きたいと思える会社にする」、「働く人の幸せにする会社にする」という目的をもち、それを実現していくのが当たり前だと思ってやってきたので、ずっとブレなかったんだと思います。
このスタンスは今でも変わらなくて、社員にとってより良い企業にするにはどうすれば良いかを日常的に考えながら実行しています。
何事もそうですが、目的をしっかりもっていれば、その途中で何かが起きても、あくまでも通過点なので失敗にはならないですよね。目先の目標よりも、さらに遠くの目的をもつほうが仕事を楽しめると思いますよ。
「自分らしく働けるか」を最優先に企業選びをしよう
企業選びで大切なのは、自分らしさを活かせる環境があるか。それを判断するためには、自分自身を知ることが必要です。自分は何ができて、何ができないのか。どんなことをしたくて、どうなっていきたいのか。就活は自分を知るチャンスなので、まずはやってみてくださいね。
そして、自分らしさを活かせる環境というのは、その会社の人、価値観、目的の3つをチェックすると分かりやすいと思います。
就活ではどうしてもどんな職種にするか、どんな業界を選ぶかなど、仕事にフォーカスして選びがち。でも、実際は何をやるかより誰とやるかが重要だと考えています。というのも、変化の多い世の中で、企業の事業、すなわち社員の仕事は変わる可能性は少なくありません。そういうときに、その会社で働く理由がなくなってしまうので、事業が変わりゆくなかでもずっといたいと思えるような「人」が大切なのではないでしょうか。
特に中小企業にいえることですが、社長の人柄や想い、考え方も見ておくことをおすすめします。社長になって分かりましたが、会社は社長の能力以上には大きくなりませんし、やはり社長次第で決まることが多いです。採用担当者や社員だけではなく、社長の考えを聞いたうえで判断してみてください。
また、会社の価値観に共感できるかどうかもとても重要です。ここが合っていれば「本当の自分」と「働く自分」を分けなくて良いので、自分らしさを発揮しながら働ける可能性が高いです。そういう環境に身を置くと、自然と会社のために頑張ろうと思えて、自分から前向きに動きたくなると思うので、お互いにとって幸せだと思います。
あとは、会社の「目的」も見ておきたいところ。売上目標なども大切ですが、それが目的になっていると、社員としては何のために頑張っているのかを見失いがちです。売上目標を達成した先で、何をやりたいのかという未来まで見据えているかというのは、確認しておくと良いと思います。
どの会社でも通用するのは「人間力」。成長できる会社を選び、目的をもって仕事をしよう
今後もとめられるのは、市場価値の高い人です。
一昔前は会社に入社すれば、ある程度安定したキャリアが描けていましたが、今はそうではありません。だからこそ、その会社だけで通用するテクニカルスキルだけでなく、どの会社でも役立つヒューマンスキルを高めていきましょう。年齢を重ねるとどうしても自分のこだわりが強くなり、改めて人間力を高めようとするのが難しくなるので、特に若いうちから意識しておくと良いと思います。
また、市場価値の高い人を目指すには、自分が成長や進化できる会社を選ぶのも大切です。いくら給料が高くても、自分の成長につながらない仕事をやっていると経験値が高まりませんよね。せっかく働くのであれば、自分のためになる仕事や環境を選びましょう。自分中心に考えるようで気が引けるかもしれませんが、会社としても社員に頑張ってもらえるとうれしいので、お互いにとって好影響をもたらしていきます。
最後に就活生の方に伝えたいのは、どのようなことでも良いので夢をもってほしいということ。明確でなくても、かっこよくなくても構わないので、周りに流されすぎずに考えてほしいです。「自分はこういうことをしていきたい」「こういうことはしたくない」など、キャリアに対してオリジナルの考えや想いを大切にできると良いですね。
自分の未来は、自分の言葉によって創られます。ぜひ想いを言葉にしながら、自分の価値観や基準を大切に、就活やキャリアに臨んでくださいね!
取材・執筆:志摩若奈