意思決定の数だけ成長は加速する|周りを巻き込み応援される人になろう

ワサビ 代表取締役 大久保 裕史さん
Hiroshi Okubo・滋賀県生まれ。バーや携帯ショップの経営、探偵業などを経て、古着店に勤務。店長としてリユース事業にかかわった後、作業改善や効率化を目指して2012年ワサビを設立。メルカリShops アワードや「グッドパートナー賞」大賞、eBay Japan Awards 2024 Vender of the Yearを受賞
勝ち筋はライバルを知ることから見出す
これまでバーやクリーニング、携帯ショップの経営、探偵業など、さまざまなビジネスを手掛けてきました。携帯ショップは最終的に5店舗を経営することになり、毎日必死に稼いではそのお金を好きなことにつぎ込んでいましたね。
今考えても大きな目標もなく、バランス感覚だけを頼りに経営をしていました。でも、難しいことはなかったです。
たとえばスポーツの大会でも、地区大会は結構勝てたりしますよね。それはレベルが高くないのもさることながら、ライバルの姿が見えるからです。戦うべき相手の姿をしっかり見すえることができれば、いくらでも対策ができて勝ちやすいのも当然。地域を対象とした小さな店舗で、ある程度決まり切ったサービスをおこなうのだから、やるべきことは見つけやすかったですね。
ライバルやフィールドが見えている勝負は、対策がしやすく勝ちやすい。本当に難しいのは、今までにないことをやるとか、ライバルがわからない状況で始めるなど、そのような場合です。その難しさは自分で起業して新たな事業を始めてから実感するのですが、このときはまだ目先のお金だけを追って、比較的簡単な商売をやっていました。

目先のお金より喜ばれる仕事を
携帯ショップ事業はそれなりにうまくいっていましたが、人間というのはお金が入ってくると満たされてしまって、あまり頑張らなくなるものです。高い目標を持つのも面倒になります。その後、目標もなく成り行きで探偵業を始めました。
探偵業では浮気調査がほとんどでしたが、やはり人の裏側にかかわる仕事なので恨まれることも多かったです。徐々に「人から嫌われ、疎まれ、嫌がられる仕事では、誰も幸せにできないなあ」と考えるようになりました。ちょうどその頃、妻と出会って結婚を考えたこともあり、人から恨まれない・喜ばれる仕事をしようと、探偵業を畳みました。
目先のお金だけの仕事は、きっと長く続きません。また人から喜ばれない仕事も、続けていくにはかなりの忍耐が必要でしょう。どんなに簡単にお金が手に入るとしても、気持ち良く、長く、意欲を持って働くには、人に喜ばれる仕事かどうかを吟味したほうが良いと思います。社会に必要とされて応援される仕事こそ、一生をかけてやるべきものです。

未来への志を持ち周囲を巻き込める人材になろう
安定した仕事がしたいと思って始めたのは、知人が経営する古着屋さんでの仕事。仕入れから販売、EC(インターネットショッピングサイト)の運営まで自由に任せてもらうなかで、その作業の多さ、煩雑さに驚きました。どの古着店でも似たような作業が発生しており、特にECへの掲載や事務処理はかなり面倒な手順をふむ必要がありました。
そこでこの課題を解決しようと、意を決し独立起業しました。まずは古着店のコンサルティングなどをおこないながら、リユース市場のITシステムを作り上げる事業を進めていったのです。市場は大きく海外へも広がっており、海外対応・展開にも着手していきました。

実は私自身はプログラミングは一つもできないし、英語もまったく喋れません。それでも会社は回っており、ビジネスも大きく動いています。それは私が有能だからではなく、巻き込む能力・助けてもらう能力があるから。優秀な人を巻き込み、一緒に仕事をしたいと思ってもらえる、手を貸したいと思わせることができるからだと感じています。
誰もが万能ではないからこそ、この力は重要です。そして人を巻き込み、力を貸してもらうには、未来志向が大切だと思います。自分が目指す未来をしっかりと示し共感してもらえれば、きっと力をくれる仲間を見つけられるはずです。
成長速度は意思決定の数に比例する
このように自分のキャリアを振り返ってみると、これまで経営したことがすべて血肉になっていると感じます。就活生の皆さんに起業や経営をしてみろ、とは言えませんが、少なくとも意思決定と失敗を繰り返すことで、確実に成長できるとお伝えしたいです。

自分で決めて動くこと、痛い目にあったり、しんどい思いをしたりすること。その実体験の積み重ねの上にしか、ビジネスの成功はないと思います。その部分をすっ飛ばしてキャリアアップを重ねようとしても、きっとどこかで帳尻が合わなくなるでしょう。人は、自分で決めた結果に責任を負うなかで社会的に成長できるからです。ぜひ皆さんも、物事の大小を問わず積極的に意思決定をしてみてください。

つらいな、大変だと感じているときは、きっと成長しているときです。冒頭のたとえでいうなら、全国大会という道の舞台で、見たこともない敵を相手にしている証拠。つまり、それだけ大きなものを相手にできていると言うことです。だからこそ「これは成長のチャンス」と思って前向きに取り組んでみてください。
それでも乗り越えるのが難しいときには、発想の転換をおすすめします。大きくて手に負えないと思う課題は、小分けにしてみてはどうでしょう。問題を要素に分けて、部分から解決していく。そうすることで、少しずつ、けれど確実に解決に向かって進んでいけるはずです。
感情が動くことに熱狂せよ
現在当社が提供しているサービスは、国内リユース市場ではトップクラスの規模を誇り、香港・台湾・タイなどでも使われ始めています。今後はさらにアジア進出を続けながら、アメリカや中国などにも広げていきたいとワクワクしています。何事もこのワクワクが大事だと思っています。熱狂する情熱があれば、どんな困難も乗り越えられるのではないでしょうか。
あまりワクワクを感じられない人は、感情が動くことを探してみてはどうでしょう。熱く盛り上がるだけではなくて、常に考えてしまうことや、常に追ってしまうものは誰しもあるはず。なぜかひかれるものをぜひ、突き詰めてみてください。

取材・執筆:鈴木満優子