企業選びの判断軸は「一歩先のリーダー」に共感できるか|前向きに挑戦し続けられる環境に身を置こう
アクセスグループ・ホールディングス 代表取締役社長 木村勇也さん
Yuya Kimura・アクセスグループ・ホールディングスの事業子会社であるアクセスコーポレーション(現アクセスプログレス)に2004年入社。人材紹介の現場で提案営業を経験、経営企画を経て取締役に就任。2014年に代表取締役専務就任、翌2015年に現職
企業詳細:コーポレートサイト
一貫して魅力を感じる「リアルな場」
これまでの経歴を振り返れば、「リアルな場」
に常に魅力を感じ続けていたように思います。まず高校から大学までの学生時代に没頭したのは、楽器でした。上手か下手かは別として、人前で披露するライブでの臨場感に非常にはまりました。
しかし、楽器に没頭するあまり、周囲が就活モードになっている中で自分を見つめなおしたときに、「学生として何も学んだことがなかった」ことに気付き、「自信を持てる分野を身に着けよう」と反省し、両親と相談して大学院に進学をすることにしました。
大学院で選んだ研究対象もやはりリアルな場に関することでした。選んだ分野は、国際会議の誘致・開催を担うコンベンション分野。今でこそ「MICE」ともてはやされる旬の分野ですが、当時は未開拓の分野です。
きっかけは大学3年の時(2000年)、沖縄県で開催された主要国首脳会議(沖縄サミット)を見たとき。「たった9人のリーダーが集まるイベントで、これほどまでに世界が盛り上がるんだ」とイベントの影響力を実感したのがきっかけでした。
演奏とコンベンションの研究、2つを通じて「リアルの場」の魅力を強烈に実感しました。オンラインで済むけどリアルを求める声が多いこと、技術ではプロに及ばないのに盛り上がるアマチュアのライブなど、やはり人はリアルだからこそ感じられる臨場感を求めているからだと思っています。
コンベンションの場合も、人が集まる理由は同じだと思います。リアルで会うからこそ表情の変化や微妙なニュアンスまでくみ取って、濃密な会話ができる。だからこそ、世界中から一か所に集まって、重要な内容を話し合うのだと思います。
この「リアルな場」という魅力は、最初のキャリア選択の上でもキーワードとなりました。入社したアクセスコーポレーション(現アクセスプログレス)は父が創業した会社。自分は2代目になります。当然、周囲は「社長の息子」と見るわけですから、入社することに不安や葛藤もありました。
当時から就職情報サイトはありましたが、合同企業説明会も全盛期。当社は、人と社会をリアルに結びつけるという理念でしたので、就職のイベントに力を入れていました。私は、父の事業を承継することを最初の目的とせず、リアルの場を提供するビジネスモデルに魅力を感じ、純粋にこの事業に携わりたいという思いで入社をすることにしました。
今の当社は事業モデルを変革させていますが、原点や理念は今も同じです。
学生時代の経験を振り返って思うのは、重大な選択こそリアルで感じたことを大切にしてほしいということですね。就職活動でも「社風」で決める学生が多いように、リアルでのコミュニケーションを通じた「生の直感的な情報」が貴重な判断要素になります。
これは決して稚拙な判断ではないと思っています。
ファーストキャリアは人生に一度の選択。まだ社会経験や知識がない中での決断になるからこそ、リアルで感じたことも踏まえてキャリアを選んでほしいと思っています。
営業の現場経験で学んだ「経営の基礎」
配属先は人材派遣・紹介の提案営業でした。志望動機はどうであれ、父の会社に入社した以上、継いで経営者になることを視野に入れなければなりません。「クライアントがどういう人材がほしいのか」という企業目線を知り、業界理解も深められる機会と考えました。
人材業界での提案営業を経験したことで、「企業社会」を知れたのは自分にとって大きな学びでした。どの企業も人材採用は事業の源泉。クライアントと話す中で、企業の考え方を蓄積し、経営者目線の考え方が養われたと思っています。
今は、朝から晩までスマホで情報はインプットできます。仕事は、文字やイラストだけで理解しきれない部分もたくさんありますし、この時代だからこそアウトプットを意識して行わなければいけません。現場を肌で感じられることから自分で考えて、学びながらアクションを繰り返すことは非常に重要です。
現場からの視野は経営者となった今でも大切にしている視点で、常に事業責任者と相談して理解を深めてから判断します。現場目線を重要視するあまり、広い視野で考えられない時があるのが、経営者としてのウィークポイントだと反省するところもありますが(笑)。
そこを自己の改善点と自覚して取り組んでいます。
アクセスグループの新卒採用の総合職は、原則として提案営業から始めます。これは、クライアントを理解し課題解決をする姿勢が、今後のマネジメントや経営にも必要なことだからです。
ファーストキャリアの判断軸は「一歩先のリーダー」の存在
就活生をはじめとした若者に伝えたいことは、「“前向き”に挑戦し続けられる環境かどうか」を基準にキャリア選択をしてほしいということです。
当たり前の基準ですが、前向きに挑戦できる環境は極めて重要だと思っています。人間社会が組織で構成される以上、望まない挑戦を指示されて後ろ向きな気持ちになってしまう環境に身を置かなければならないこともたくさんあるからです。
では、ファーストキャリアの選択において「前向きに挑戦し続けられる環境」をいかに判断していくべきか。一度も企業で働いたことがない人にとってみれば非常に難しい判断に思えるかもしれませんね。
最も大きく影響するのは、組織の人間関係だと考えています。特に重要視してほしいのは、一緒に働いていくリーダーや先輩との関係性です。
「仲良くなれそうか」ではなく、先輩やリーダー達に「本気で付いていきたいか」どうか。壁にぶつかったときに諦めずに頑張るためには、同じ目標に向かって自分の一歩前を行く人の存在が大きいからです。
入社直後は、理想と現実のギャップに大きな壁を感じてしまうこともあると思います。大きな目標や理想を持って入社したとしても、はじめは想像以上の困難にぶつかるかもしれません。
最初は、意味の分からない仕事を指示され、その仕事のために悩んで勉強して数字目標を追いかける。ビジネスする以上は「数字目標」といった可視化されたものが必要ですが、ふと我に返ると「これ、自分のやりたかった仕事だろうか?」と悩むことが多いはずです。
こうした理想と現実のギャップを感じたときに踏ん張るためには、「この人に付いていって一緒に頑張ろう」と思える直属のリーダーや先輩の存在が重要になると思っています。リーダーも、過去には同じことで悩んだことがあるはずです。そのリーダーとのコミュニケーションを通じて、今のミッションの本質や目的の理解を深めることにもなるでしょう。
さらに望むならば、そのリーダーの業務を知ることも大事です。一段上の仕事を理解することで、自分の役割が明確になりますし、数年後のキャリアプランを描くこともできます。
入社後にやりがいをもって働くために、直属リーダーの業務に対する価値感や考え方を知ったうえで、それに共感できる企業を選ぶことが理想と現実のギャップを埋めるカギになります。
個人と企業が寄り添う社会だからこそ自分の選択に自信を
今後の社会情勢を踏まえたキャリア形成についていえば、より「個性に自信を持つ」べきだと考えています。
これまでは、企業人生そのものがその人のキャリアそのものでした。昔であれば異動辞令が出たら、選択肢は「受ける」「企業を辞める」の2択だったと言われています。今は、働き方が多様化し、育児や介護をしながらリモートワークや時短勤務ができるようになりました。企業が個人に寄り添うようになったのです。アンケートでもワークライフバランスを重視して企業選択する傾向が強くなっています。
一方で、個人が企業に寄り添う姿勢も求められていると思っています。企業の理念やミッションを理解し、今何をするべきか、何がやりたいのかを整理した上で、企業に最大限協力する姿勢も今後一層求められると思います。
だからこそ「前向きに理解する」ことが大事です。与えられた仕事を「やりたくない」という消極的に解釈してしまうと、気持ちがどんどん後ろ向きになり、いつしか逃げ出したくなる気持ちが先行しがちです。
会社の経営者やリーダーとしっかりコミュニケーションを図り、その中で「自分は何ができるのか」「自分は何をやりたいのか」を考えて、前向きにキャリアを選択することが重要だと思います。
「やりたいこと」がその企業とマッチしているのであれば、企業が求めるスキルを身に付けて貢献できるように成長するという姿勢は必要ですね。そのためにも、自分のスキルを主体的に伸ばしていこうという考え方を持って、キャリアを選択していくべきだと思います。
個人と企業が寄り添う時代になってきたからこそ、企業ときちんと会話して理解しあえるコミュニケーション能力、さらにそこから自分で考えられる思考力が重要になのではないでしょうか。
「ベスト」ではなく「最もベター」な選択を
就活の企業選びのアドバイス、それは「ベスト」ではなく「最もベター」な選択をするという心構えを持つことです。
なぜ「最もベター」なのか。ベストを選ぶ姿勢だと「本当にベストだったのか」「ほかにもっと良い選択肢があるのではないか」と完璧を求めてしまいがちです。
しかし、当然ながら自分が望む完璧な会社は存在しません。小さな違和感は受け入れられるような柔軟性がなければ、仕事に向き合うこともできません。
完璧を求めると入社後に「何か違うな」と感じた時、その違いを受け入れられずにいると、また違う「ベスト」を探し続けてしまいます。こうなると今の仕事から気持ちが離れているも同然です。
「最もベター」な選択をしようという意識を持てば、「こんなもんなんだ」「こういうこともあるか」と寛容になり、人間としても「柔軟性」を身に着けることができます。
労働人口の高齢化や外国人人材の雇用加速が急速に進みます。世代や文化なども多様化が進む今後の社会では、自分の描くイメージの「違い」を受け入れられるということがとても重要になります。ベターだと思う選択をし続けることで柔軟性を身に付け、これから多様化する社会で生き抜けるような人間力のある人材になってほしいと思います。
取材・執筆:山本梨香子