10年後の未来図を思い描いてキャリアの道標に|会社員としてのメリットを生かして専門性を磨こう

ビッグツリーテクノロジー&コンサルティング 代表取締役社長 杉山 健さん

Ken Sugiyama・1993年電気通信大学卒業。アンダーセンコンサルティング(現:アクセンチュア)でコンサルタントとして20年勤務し、エグゼクティブ・パートナー(現:マネイジングディレクター)として活躍。2012年にビッグツリーテクノロジー&コンサルティングに経営参加し、2015年より代表取締役社長

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自然な成長に少し負荷をかけることで、常に成長し続けられる

就活をするより前、高校生くらいまで振り返ると、実は宇宙物理学者に憧れていた時期がありました。しかし当時、最先端の宇宙物理学を学べるのは東大・京大しかなかったんですよね。合格のために頑張ってはいたのですが、残念ながらその目標は叶わず、電気・電子系の学部に進学しました。

この時点で、学者として一流になるのは無理だなと感じており、代わりに「学者ではなくビジネスの世界で成功してやりたい! 」という気持ちが芽生え始めました。

就活当時は、バブル期真っ只中。電気・電子系の勉強をしていた同級生は、大手メーカーでエンジニアをするのが王道の就職でした。しっかり安定した生活ができるだろうし、仕事内容も魅力的ではありましたが、なんとなく天井が見えてしまう気がして……。自分の大学やスペックで、何歳にはここまでというモデルケースを淡々とたどるのは、つまらない気がしました

そこで個人の特性や能力をシビアに見てくれる、外資系のITコンサルティングファームに身を置きました。会計・英語・コンピュ―ターという今後伸びていく分野に強いのも魅力でした。

結果、この会社に20年籍を置き、全くのゼロから着実に成長できたので選択は正しかったのだと思います。なぜ成長できたのか振り返ると、成長速度と負荷のバランスが絶妙だったからでしょう。

会社では、できることだけをやり続けても評価されません少しずつレベルを上げることがもとめられ、それは階段状に設定されます。でも、人の成長は階段にはなっていませんよね。大体なだらかに上昇していくはずです。

だからどこかで自然な成長以上の負荷をかけて、レベルアップしなければならない。そして階段に追い付かないといけない。このちょっと難しいけれどチャレンジする繰り返しが、成長速度を早め、常に成長しつづける仕組みになっていたと思います。

杉山さんの考える、成長と負荷の最適なバランスの画像

積極的に手をあげて、自分で自分の居場所を作ろう

もう1つ振り返って思うことは、自分で手をあげて自分の仕事や居場所を作っていたからここまで成長できたということです。よく上司は選べないと言いますが、私は選べると思っています。

やりたいことが見えてきたら、実績を作ってそれを形にする場所や上司を探す。相手に伝わるように、相手が動きたくなるように伝えることで、やりたいことは叶っていくものです。

「上司や組織が悪いせいで自分の思いを叶えられない」といって転職したところで、結局また同じような理由で転職することになるでしょう。「環境は自分で作る」というマインドが大切だと思います。

やりたいことを会社で叶えるにはを解説する画像

会社は常に正しい判断・采配をして、全員に等しくチャンスを与えられるわけではありません。私も常に「出る杭は伸ばす、出ない杭はほっておく」と社員に伝えています。会社とはすべての社員の願望を満たすために常に平等な評価と支援をする場所ではなく、自分で自分の思いを遂げる環境を作っていける場所だと思うのです。

会社にすべて委ねすぎず、上司は選べるというマインドと行動で、自分の居場所・環境を整えていく。これが成長の基盤になると思います。

モチベーションとアウトプットを切り離すことを意識してみよう

モチベーションの重要性について語るビジネスマンは多いですが、そもそもモチベーションってそんなに重要でしょうか。モチベーションがあろうがなかろうが、やるべきことに集中して、ハードルを超えていく。モチベーションとアウトプットはあくまで切り離すべきだと思います。

お客さんの立場になればわかりますが、新入社員であろうが経験が浅かろうが、平等にプロです。そのため、モチベーションの有無ではなく、すべき仕事の質を保つことが優先されますよね。

こういうマインドセットがあると、困難を困難と感じなくなります。もちろん大変なことやうまくいかないことはありますが、「やるべきことをやる」と集中すると辛いとは感じにくくなるんですよ。モチベーションを上げるための試行錯誤より、目の前のことに集中するマインドチェンジこそ意識してほしいですね。

ゼロから成長するために、あえて新しい挑戦へ

やるべきことをひたすらやり、成長してきた20年の会社員人生でしたが、慣れ親しんだ会社を辞めて経営者へ転身したきっかけは、天井が見えてきたことでした。

実績も徐々に積み、実質的な最終ポジションが見えてきた時、「このままずっと同じ仕事をやるのだろうか」と思ってしまって。あと10年勤めたら、本当に1つの会社しか知らないまま終わるのだろうな……。そう思って「今しかない! 」と決意しました。

自分のこれまでの経験を振り返ると、コンサルティングもITも全くわからないところからスタートして、一応20年で一人前のサラリーマンにはなれたという達成感がありました。同じようにこれから20年あれば、それなりの経営者になれるかもしれないと思ったのです。

同じことを繰り返すより、挑戦を重ねてゼロから成長する未来を選びたいと思いました

杉山さんのキャリアを解説する画像

コンサルタントとしてかかわれる領域の限界を感じていたのも事実です。顧客に素晴らしい提案ができたとしても、どこまでいっても自分達は第三者。事業に直接タッチするわけではなく、責任を負うわけでもない。それを歯痒く感じてもいました。それで、かつての部下が立ち上げたビッグツリーテクノロジー&コンサルティングに誘われたのを好機と捉え、あと20年の挑戦をしたいと足を踏み出しました。

ここまでの20年の会社員キャリアが充実していたからこそ、あと20年でさらに何かができるはずと信じられたのです。積み上げたものがあれば自分を信じられます。目の前の仕事の積み重ねと、挑戦の繰り返しがキャリアを豊かなものにしてくれるはずです。

実際に経営者になってみると、会社員は自由だなと感じますよ。経営者は自分の裁量で動けるから自由だと考える人もいるでしょうが、全くの逆です。経営者は成長戦略とともにリスク分析も必要であり、常に難しい判断が求められます。

さらに、何か1つがうまくできるだけでは成り立たないポジションです。サービス内容、財務、人材、法務……。すべてに気を配る必要があります。視野が広がって面白いですが、常に勉強が必要で難しいですね。

会社員であれば何か1つがうまければ評価されます。営業、企画、マネジメント……。何かできればいいんです。多少の無茶をしても問題ありません。リスクについても考える必要がないとは思いませんが、会社の存続や社員の生活、サプライチェーンへの影響の責任を負う必要はないですよね。上司に歯向かってうまくいかなくなっても、異動する程度ですよね(笑)。なんだってできるのが会社員です。

こんな風に「会社員は自由なんだ」と考えれば、いろんなことができるはず。会社の名前や組織、お金を基盤にして、自分なりの挑戦やスキルを磨くことができる環境なんて、素晴らしいと思いませんか。会社が窮屈だと感じたら、実は身の回りにある自由に目を向けてください。

杉山さんからのメッセージの画像

自分だけのプロフェッショナルを極めよう

では、会社でどんなスキルをどうやって磨いたらいいのか。これは私がたどってきた20年とは随分前提が違うと思います。これだけ変化が早い時代なので、10〜20年かけてじっくりスキルを培うのは難しくなります。それに横並びでゼネラリストを育成していく会社は、どんどん時代に取り残されてしまうでしょう。

だとすれば自分のプロフェッショナルを早くに見極め、その道で成長するのが王道です。さまざまなスキルがありますが、ITやコンサルティングスキルは絶対に必要とされるし、成長がわかりやすいスキルの1つです。常に進化するのでアップデートは必要ですが、必要不可欠で基礎的スキルになるでしょう。

現在のデジタルネイティブ世代は、小学校からプログラミングの授業に触れている人もいるように、きっとスキルと思わずITやデジタルを使いこなしていくでしょう。現時点での大学生は、そういう意味では少し狭間の世代になってしまうかもしれません。下から追いかけてくる真のデジタルネイティブに匹敵できるだけのITスキルを、意識的に身につけて欲しいです。

学生時代から多様性に触れる経験をしよう

若い世代はデジタルに慣れており、柔軟な思考と真面目さがあると思います。一方で、SNSの隆盛で自分の好きなもの、好きな人、狭く居心地のよい世界に浸っていられる環境のせいか、自分と違う価値観を許容しづらくなっているようにも見受けられます

社会人になると、絶対友達にはならない人と仕事をしなければならない場面も多々あります。性別国籍だけではなく、さまざまな背景を持った人と向き合って、初めてビジネスが進みます。そこで異文化を許容したり、想像したり、気遣ったりできるかどうかは、大切なポイントなのです。

そのために、ぜひ学生時代のうちにさまざまな人と関わってほしいし、多様な価値観が生み出す“掛け算”を体感してほしいんです。自分とは違う人々と出会って生み出される世界は、新鮮でパワフルなものですよ。

杉山さんが思う、学生時代からやっておくべきことを解説する画像

企業の未来を想像すれば見えてくるキャリア

これから社会に出るにあたって、1つだけ必ずやってほしいことがあります。それは、あなたが志望する業界・分野・会社の10年後の未来を思い描くこと。SF的な空想でも、願望まじりの未来図でも良いです。その世界を考えてみると、自ずとその業界の役割や貢献、それに紐づいた自分のキャリアも見えてきませんか。

私の10年後の予想は、AIやロボットの導入が進み、単純作業がなくなることで、人間の能力が生かされる部分は逆に限定される、というものです。さらにコロナ禍を経て考えたのは、一次産業の重要性。食料自給率の低い日本は、世界的危機に翻弄されることもあるでしょう。テクノロジーが介入して、もっと革新があっても良い分野だと思います。

ちょっと大きなこと、先の未来を自由に発想してみたら、その中にいる自分も見えてきませんか。やりたいこと、やるべきことも浮かんでくると思います。ぜひ一度未来を空想して、キャリアの指標にしてほしいですね。

杉山さんが贈るキャリア指針

取材・執筆:鈴木満優子

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