29歳から目指した税理士の道|現状に満足しなかったからキャリアアップができた

税理士法人あおぞら 四日市事務所 所長 宮武 信行さん

Nobuyuki Miyatake・岐阜県高山市出身。1999年に経理職で名古屋の自動車部品を販売する卸売会社に就職。2006年から税理士資格の勉強を始める。2011年に上京し、東証プライム市場(旧:東証一部上場)に転職。2012年税理士資格取得。2019年に三重県に移住し、現職である税理士法人あおぞら四日市事務所所長に就任

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「経営にかかわる仕事がしたい」。29歳から税理士の勉強をスタート

現在、三重県四日市で税理士法人あおぞらの四日市事務所長をしています。税理士として、企業の経営をサポートすべく日々奮闘している私ですが、税理士という仕事を目指したのは29歳のとき、実際に税理士資格を手にすることができたのは35歳のときです

現在の仕事に就くまでは紆余曲折がありました。ただ一つ、自分のキャリアは自分で切り開いてきたことだけは確かです。現状に満足することなく常に高みを目指してやってきたことで、今この仕事に辿り着いたと思っています。

私の時代は超就職氷河期。大手企業への道は非常に狭き門で、内定をいただいた会社の中から自動車部品を扱う名古屋の中小企業への就職を決めました。

入社後はすぐに「20代で課長になる」ことを目標に掲げ、入社後2年目には、経理の仕事全般を一手に引き受けるほどに。

一方で、経理の仕事を深く知れば知るほど、中小企業の経理はやれる範囲もその規模も小さいことを実感しました。もともと私は、上昇志向が強いタイプ。「このままでは思うように成長できない」と焦る気持ちが出てくることとなりました。

さらに、「20代で課長になる」ことを目標に頑張っているのに、なかなか課長に昇進できない現実にも直面していました。当時はまだまだ年功序列が当たり前の時代でした

こんなにやっているのになんで課長になれないんだ」というもどかしさも相まって、「このままではだめだ、このままでは自分が思い描くキャリアを築くことができない」と強く感じるようになりました。

自分がこの先何をやりたいか、どうなっていきたいか、改めて立ち止まって考えました。「人のうえに立って仕事はしたいけれど、経営者になるのは無理そうだ」

その代わりに浮かんできたのが「税理士」という道です。

経理の仕事をしていたので、日頃から会社の顧問税理士さんとお話をする機会がありました。お話を聞けば聞くほど、その仕事内容が面白そうだと常々感じていたので、経営者にはなれなくても、「税理士という仕事を通して中小企業の経営にかかわっていく仕事がしたい」と考えるようになっていったのです

安定していた大企業からの転職! 悩んだときは「自分はどうなりたいか?」と振り返ろう

29歳で「税理士になろう」と新たな目標を掲げた私は、会社には内緒で働きながら税理士の勉強をスタートしました。税理士試験は、11科目の中から5科目を選ぶ「科目合格制」です。これは科目単位で合格を認定するというもので、毎年1科目ないしは2科目程度の合格を積み上げていくことができる資格です。

4科目目に合格し、資格取得まであと一歩となった34歳の時点で、「東京で自分の力を試してみたい」という気持ちから転職活動を始めました。「税理士資格を生かせる仕事×東京の大企業」という条件で仕事を探した結果、東証プライム市場の企業の東京本社の経理部門への転職が決まったのです

憧れていた東京、しかも大企業での仕事です。子会社7社の監査を担当するなど、希望していたとおりスケールの大きな仕事にかかわらせてもらいました。「もっと大きな仕事がしたい」という20代の頃からずっと感じていたもどかしさも、ようやく払拭できたと思います。休みも多く福利厚生も充実していたことから大企業特有の安定感というものも強く感じました。

大企業だからこそ見えた景色があったのも確かです。

でも再び、「人のうえに立って働きたい」「経営にかかわる仕事がしたい」というビジョンを実現したいという想いが湧いてきます

会社員でいる限り、「もっと上を目指したい」と思ってもさまざまな制限があります。自分の裁量で仕事ができる範囲は決まっていますし、もっと遅くまで仕事がしたいと思っても当然残業規制があります。「現状に満足しない」「もっと上へ、もっと上へ」と高みを目指したい私にとっては、管理される側の会社員でいることに苦痛を感じました。

「税理士としてトップに立って中小企業の経営にかかわっていこう」。そう決心しました

ただ、大企業に勤めている安定感を捨て去るのは簡単ではありませんでした。家庭のことを考えるとなかなか決断できず、2年間も迷い続けました。そんな折、私の地元(岐阜県)に近い三重県の税理士事務所で、所長のポストを引き受ける人を探しているという話が舞い込みました

こんなチャンスは二度とない」。飛び込むことを決めました。

長年掲げてきた「人のうえに立って働きたい」「経営にかかわる仕事がしたい」というビジョンをようやく実現することができたのは、43歳のことでした。

宮武さんのキャリアの考え方

常に上を目指す! 「自分は〇〇になりたい」という成長イメージを持とう

新卒で入社したときに掲げた「20代で課長になる」という目標が達成できなかったことが、結果として私の大きなターニングポイントとなりました。今改めて振り返っても、スムーズに昇進できていたら、税理士という新たな道を考えることはなかったと思います

一方で、どんな状況でも現状に満足することなく、常に上を目指して頑張ってきたという自負はあります。

与えられた場所、役割の中で、「自分は会社にきちんと貢献できているか? 」「もっと貢献できることはないか? 」という視点をもって仕事をしてきました。経営者となった今ではさらに一段上がって「社会に貢献できているか? 」という視点を大切に仕事をしています

宮武さんの仕事を進めるうえでの視点

  • 自分は会社に貢献できているか?

  • もっと貢献できることはないか?

  • 社会に貢献できているか?

どんな仕事でも、現状に満足せず、自ら向上していこうと考える人が上に上がっていきます。朝時間通りに出社して、いつも通りに仕事を進めて、夕方時間になったら帰る。この繰り返しでは成長はありません。そもそも日々、目の前の仕事をこなすだけでは、仕事をしていてもおもしろくないはずです。

常に「自分はこうなりたい」という成長イメージをもって働く人がやはり強いのです。それがあるかないかで、後々成長スピードが大きく違ってくることとなります。ぜひ、目標をもって仕事に取り組んでいってほしいと思います。

将来どうなりたいのか、自分がもとめる未来のビジョンを考えよう

就職活動をはじめる前に、「自分が将来どうなりたいか」をまず考えてください。一つの会社でずっと働き続ける時代でもないと思います。目の前だけを見てしまいがちですが、将来的なビジョンをもって仕事を選んでいってほしいと思います。

会社の規模や給与、福利厚生などについつい目が行くのは当然です。私も、新卒で入った中小企業の会社で働きながら「大企業に就職してもっと大きな仕事をしたい」とずっと思っていたので、それもよくわかります。

ですが、その気持ちが最初にきてはいけない、と思っています。

あくまでも「自分が将来どうなりたいか」から考えること。ミスマッチを防ぐために、ネームバリューなどで選ばず、最低でもその仕事に興味があるか、適性があるかは良く見極めてください

就職活動で大事にしてほしいこと

  • 「自分が将来どうなりたいか」を一番に考える

  • その仕事に本当に興味があるか、自分に合っているかを見極める

  • 会社の規模や給与などの条件は、その後に検討する

どんな仕事が自分に合っているかまったくわからないという人は、どんどん会社訪問をするべきだと思います

実際に働いている人と話をすることが大事です。あまり興味がない業界にも積極的に足を運んでみましょう。「こんな仕事があるんだ」「面白そうな仕事だな」など、これまで知らなかった世界を知ったり、何かしら新たな気づきがあるはずです。

インターネットや本の情報だけではわからないことがたくさんあります。今だからこそ多くの企業を訪問したり、経営者の生の声を聞けるチャンスがあるはずです。そのチャンスを無駄にせず、たくさんの人の話を聞いてほしいと思います。

最終的に入社する会社を決めるときにも、会社訪問したときの雰囲気直感のようなものが決め手になることも多いでしょう。

その場で自分が働いている姿をイメージしてみて、良い雰囲気の中で働けそうな会社かどうか。これが最後には重要なポイントとなってくるはずです

今後もとめられる人材とは? 活躍する人の2つの特長

これからの時代にもとめられる人材の条件は、まずは「常に目標をもって行動していける人」。一つの会社でどんどんキャリアアップしていく人も、転職という選択をしながらより高みを目指す人も、上にいけるのは常に高い目標をもっているからこそだと思っています。今後はますます、より高い次元を目指そうとする成長意欲のある人だけが生き残っていく時代になると考えます

もう一つの条件は、「コミュニケーションがとれる人」です。よく言われることですが、AI時代で多くの仕事が失われていっても、人とやり取りが必要な仕事は人間にしかできません。今後は間違いなく、コミュニケーション力が必須の時代になると思います。

今後活躍する人材の条件

  • 常に目標をもって行動していける人

  • コミュニケーションがとれる人

学生時代には、ぜひいろいろな人と積極的にかかわること、話しをすることをおすすめします。アルバイト先の店長さん、旅先で会った人など、普段話す機会のない年代や属性の人と意識的に交流してみましょう。

そして何より、好きなことにのめり込み、没頭する体験をたくさん積んでください。その体験の過程で「将来こうなりたい」「こうなっていきたい」というビジョンにつながっていくヒントが生まれてくるのではないでしょうか。

ネットや他人の意見ではない「自分の意見」をもつことが大切

最後に伝えたいことは、人に流されず、自分の考えをしっかりともってほしいということ

確実にキャリアアップしていくには、人に聞いたことやインターネットの情報を鵜呑みにせず、自分なりの方法でしっかりと調べて自分で考えることを大切にしてほしいと思います。

たとえば、経理や税理士の仕事というと、向き・不向きがある仕事だと思われているかもしれません。私自身が楽しんでできているのはなぜか? と考えたとき、向いている人に共通するポイントは3つあると思っています。

経理・税理士に向いている人の特長

  • 数字が好き

  • 社会情勢にアンテナを張るのが好き

  • 積極的に人に聞ける人

とくに「②社会情勢にアンテナを張ることが好き」に関しては、税金制度などは社会情勢によっても次々と変化するものなので、税理士や経理ではそれらの情報をキャッチして日々アップデートしていかなくてはいけない仕事だと考えます。

目の前の就職活動についても同じです。世の中で言われている会社のイメージや評判で判断せず、しっかりと足を運んで現場の話を聞いてみてください。なぜその会社が良いと感じるのか、本当にやりたい仕事なのかをはっきりさせて、本当に自分が活躍できる会社なのかを考えてください

一つの会社でずっと働き続ける時代でもないと思います。でも、興味がある仕事、やりたい仕事でなければ長続きしません。目の前だけを見てしまいがちですが、ぜひ将来的なビジョンをもって仕事を選んでいってほしいと思います

宮武さんが贈るキャリアの指針

取材・執筆:小内三奈

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