夢のためにあえて選んだ遠回りのキャリア|好きだから努力し続ける“狼”になるために
サイバーコネクトツー 代表取締役社長 松山洋さん
Hiroshi Matsuyama・大学卒業後、コンクリート二次製品メーカーを経て、1996年大学時代の友人とサイバーコネクトを設立。2001年、社名をサイバーコネクトツーに変更し、代表取締役に就任、現職
夢をかなえるためには、遠回りこそ近道なときもある
日本中の子どもが『週刊少年ジャンプ』を読んでいた時代――。私も例外ではなく、少年漫画にハラハラドキドキしていました。
夢は漫画家。小学生のころから自作漫画を描き始め、大学では漫画研究会に入りました。スタジオジブリが「風の谷のナウシカ」を劇場公開したり、テレビアニメが増えたり、特撮作品が注目を浴びたり。エンターテイメントの世界は、日々進化し続け、私はその全てに魅了されていきました。漫画を中心にしながら、映画も撮ってみたい、アニメも描いてみたい、と夢は膨らむ一方でした。
ところが実際に夢を叶えようと行動した大学の先輩たちは、散々な状況で夢破れて出戻ってきました。
当時私は九州の大学に通っており、漫画家やアニメーターになろうとした先輩方は、大学を中退し上京する人が多かったんです。彼らはアニメ制作のスタジオや漫画雑誌の編集者にツテができて、意気揚々と上京していきます。しかし1〜2年で地元に戻ってきて、「エンタメ業界はほんとに非常識だ」と嘆くのでした。
あまりにもこのパターンが多かったので、自分は同じ轍を踏むまいと考えました。そもそも、今まで自分の地元から出たこともない人が、大学も卒業せず、社会経験もない中で“非常識”と言っていても、それを信じて良いのかもわかりません。先輩たちの方こそ、非常識なのでは? という思いもありつつ、自分は常識を知ってからエンタメの世界に乗り込もうと考えたんです。
夢は叶う、諦めたくない、だからこそ失敗したくないと思いました。まさに少年漫画のマインドです。「いつか絶対エンタメ業界で成功しよう」と心に誓いました。
夢があるからこそ、あえて周り道をしたほうが成功の確度が上がる場合があります。周りをじっくりと見て、先輩や世間から学ぶことは、どんなキャリアにおいても大きな糧になるはずです。
世の中の常識を知るために選んだ就職の道
いつかエンタメ業界で活躍するためにも、世の中の常識を知っておきたいと考えて就職活動をしたので、社員1,000人規模の伝統のある業種を選びました。日本の企業の王道を知っておこうと思ったんです。
1社目に選んだのはコンクリートの二次製品を作る会社で、何もないところからビルや公園を作る仕事は面白く、充実していました。エンタメと建築物ではモノが違いますが、やはり自分はゼロからモノを生み出すことが好きだと感じました。
しかし、やはり業界的にエンタメの話ができるような仲間を見つけることは難しかったです。自分は相変わらず『週刊少年ジャンプ』を購読していたし、アニメも映画も大好きだったんですが、同僚や上司との飲み会では、自分の全く興味のない話で周りは盛り上がっていて、仕事の付き合いとはいえ、何のためにこんなことをしているのか? と思いましたね。
とはいえ、会社員としての生活では、社会の常識の一端を知ることができました。どうやって仕事を回していくのか、お金やモノ、人の動き、礼儀など、学びたいことを学べたと思います。一方で自分は変わらずにエンタメが大好きで、そのほかのことに情熱を傾けることはないということを再認識しました。
やりたいことが定まっていたとしても、世の中の常識を知ることは大事だと思います。世の中を分からないままに、自分の意思を貫いて社会と戦っていくのは至難の業です。そのためのステップとして、まず社会に出てみる、会社に所属してみるというのもアリだと思います。そこで常識を知り、自分自身のことも知ることができますよ。
ゲームの奥深さを知り、「自分専用のコックピット」を見つけた
1994年、Playstationが発売されたことで、夢への扉が開きます。
当時ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)が関連ソフトなどを開発するための独立起業を後押ししており、学生起業なども盛んになりました。東京でゲーム業界にいた友人もこの波に乗って独立し、「一緒にオリジナルゲームを作る会社を作ろう」と私にも誘いの声をかけてくれました。
私は相変わらず漫画が一番好きでしたが、ゲームも好き。願ってもないチャンスに、すぐに会社に加わることにしました。
しかし、ゲームは詳しいというレベルになかったので、まずはいろいろと調べてみました。ゲームのこれまでの歴史やトレンド、どんなジャンルや技術があるのか、そして新規参入の自分たちに勝ち筋はあるのか。調べれば調べるほど、ゲームは「総合エンターテインメント」だと感じました。
そして絶対にこれがやりたい、自分がやるべきことはこれだ! とスイッチが入ったんです。まさに自分が乗るコックピットを見つけ、身を収めたような感じでした。
起業当初の従業員数は10名。私以外、全員がゲーム業界で経験を積んだ人材でした。私は意欲にみなぎっていたものの、実力差は圧倒的です。パソコンすらまともにさわれず、間違ったボタンを押したら爆発すると真剣に信じていたほどです(笑)。
そんな状態でも私はあきらめませんでした。毎日年下の同僚に分からないことを聞いて、アドバイスをもとめ、勉強を続けました。そんなふうに4年間、今では考えられませんが会社に寝泊まりをしながら、がむしゃらな努力を続けました。わからなかったことがわかるようになり、毎日できることが増えていくのは、喜び以外の何者でもありません。そしてその喜びは今も続いています。
どんなジャンルであっても、一流になるためには、無我夢中で鍛錬を積み重ねなければならない期間があると思うんです。10年とは言いませんが、7年くらいは修行期間が必要だと感じています。
自分は4年間寝る間も惜しんで学び、濃縮で7年分の知見を得たと思っています。必死に知識と経験を積み重ねる日々を経て、気付くと自分の実力やリーダーシップが周りを上回り、会社の中心的な存在になっていました。
当時のゲームはまだまだ素朴で、技術よりアイデアが必要とされていました。キャラクターなどを半分作って、左右反転のコピーで済ませていたくらいですからね。だから素人だった自分がリーダーになれたのかもしれません。覚えたての技術を駆使して、思い描いた世界を一つひとつ形にしていくのは楽しい時間でした。
もし何かの業界でプロになりたいのなら、一足飛びでトップに立とうなんて思わない方が良いです。ただただ必死に努力を重ね、基礎を学び、基本を身につける時間が必要です。そこを省略しても一流にはたどり着けないということは覚えておいてほしいですね。
努力し続けられることが才能
エンタメ業界は、昔も今も比較的人気の業界だと思います。だからこそ「秀でた才能がないと通用しないのでは」と思っている人もいるでしょう。
では才能とはなんでしょう。私が思う才能とは、努力を続けられる能力のこと。ずっと苦にならずに努力し続けられたら、それこそが才能です。
昨今のゲーム業界は非常に成熟しており、小学生のころからプログラミングなどをやっていて、さらに専門学校で技術を磨いて、当社の門を叩くのが当たり前のようになっています。思いつきでゲーム業界に入ってみようという人は少なくて、正門から入ってくる人がさらなる努力をもとめられる場所です。
それだけ長い期間をかけて、飽きずに努力し続けられる人は、確実に“才能”があると思います。あきらめず努力し続けたことの証明が、技術へと結晶します。
だから当社では、端的に「技術」を見て採用をしています。飽きずに弛まず密度の濃い努力を続けてきた証明だからです。それは才能があるということでもあります。
プロとして生きるなら「上を目指し努力し続ける飢えた狼として生きろ」
こんな業界大変そうだな、と思った人は正直やめておいた方が良いと思います(笑)。でも、そこそこを目指すのではなく、せっかく生まれたのだから、この時代に生きた証を残してみたくないですか。
ひどい言い方になりますが、エンタメ業界では「飢えた狼のように生きろ」と思っています。上を目指し、好きを追求する飢えた狼のように生きればどんなことだってできると思います。それができない人ほど、言い訳をしますからね。
とにかく好きだという気持ちを追い求めれば、やり続けられるし、上を目指せる。努力だって厭わない。プロであればあるほど、根っこにある好きだという気持ちを大切にしていると思いますね。
狼は最初から狼なのか、というと必ずしもそうではないパターンもあります。子犬が長い時間を経て覚醒して、狼になることだってあるんです。
でも、全てが合理的に進んでいくこの時代に、すごく長い時間をかけて覚醒する人材は稀だと思います。やっぱり狼になりたいなら、覚悟を決めて狼の振る舞いを続けていくしかありません。生まれたからには狼として、仕事を全うし、生を全うする。そんな人生も楽しいですよ。
取材:森実咲
執筆:鈴木満優子