女性のライフステージの変化に合わせてしなやかにキャリアを築く│出産を機に使命を感じた「健康づくり」の仕事

J.H.Wellness 代表取締役 野々下 直子さん

Naoko Nonoshita・1998年3月早稲田大学人間科学部卒業。半導体商社や大手IT企業等の経営企画室・社長室で関連会社管理、IR、M&A業務を担当。出産を機に社会保障に問題意識をもち、健康づくり現場での実績を積む。2021年、家族で熊本に移住したのを機に、熊本でJ.H.Wellness(ジェイ エイチ ウェルネス)を設立。少子超高齢社会における高齢者医療費削減と現役世代の健康づくりを中心に、地域課題解決のための事業を展開し、官民連携で資金の流れを作る仕組みの構築を目指している。女性起業家支援もおこなっている

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スポーツにのめり込んだ学生時代の体験が生涯運動に関わる仕事につながった

中学まではバスケットボール、高校ではハンドボール、大学で体育会のバスケットボールに戻ったのですが怪我をしてしまい、サークルのタッチフットボールに転向しました

サークル活動として、精神的にも身体的にも負担を軽減しようと始めたタッチフットボールでしたが、実際にはアメフトのタックルと同じイメージで相手が飛び込んできます。肋骨を折るなどの怪我もしました。それでも、とにかく体を動かすことが大好きでスポーツにのめり込んだ、そんな学生時代でした。

スポーツを通じて学んだ沢山のことの中でも、特に身をもって知ったのは、「運動」が思うようにできない状態が続くと心のバランスを崩すことです。

高校時代はハンドボール部に入って頑張っていたのですが、のめりこみすぎて学業の成績が下がってしまい、部活を続けたいという家庭内プレゼンも失敗に終わった結果、退部することに。

運動ができない毎日に大きなストレスを感じ、精神的に不安定になりました。崩壊寸前だったかもしれません。

運動することが生活の一部だった人から運動をとるとどうなるかを身をもって知ったことから、大学で学んだのは生涯スポーツです。「生涯運動をすることが自己肯定感、自己効力感にどれだけ影響を与えるか」という研究をして卒論にまとめました。

その後、企業に就職し、結婚、出産とライフステージが変わっていくことになりますが、出産を機に、少子超高齢社会によりかさむ日本の医療費や介護給付費、といった社会課題に強く問題意識をもったことが大きなターニングポイントとなりました。

目の前に迫るこの社会問題は、子どもの将来のために絶対に取り組まなくてはならない課題であると、半ば使命のように感じました。

運動と心の健康が密接に関わっていることを、身をもって体験した経験もあるので、関連すると思われる資格は片っ端から取得して、健康づくりのための事業に携わろうと決心しました

民間のスポーツジムで働いて経験を積みながら、自治体の介護予防のモデル事業では企画段階から関わらせていただくなど活動の幅を広げていきました。そして、2021年に、夫の実家に近い熊本に拠点を移したのをきっかけに、地域に根差した介護予防を中心に活動を行うJ.H.Wellness(ジェイ エイチ ウェルネス)という会社を設立しました。

社名のJ.H.Wellnessとは、「Japan Health Wellness」の略で、「日本人の健康とよりよく生きる」をサポートする会社です。

民間企業からスタートしたキャリアで意識したこととは

就職活動の過程では、ひたすら迷い、悩みに悩みました。小学校時代を台湾で過ごしたのですが、子どもなりに人種差別をはじめ異国の地で生きる大変さを経験したり見聞きしたりすることがありました。その体験から、将来は海外で困っている人の役に立ちたい、海外で暮らす日本人を助けられる存在になりたいと漠然と考えていました

候補として考えたのが、青年海外協力隊や日本語教師の仕事です。実際に色々と見て回ったのですが、心に決めかねて。就職活動も終盤となった頃、ようやく一般企業で働こうと心が決まりました

ただ、既にほとんどの企業で募集は終わってしまってい時期ですので、人数が不足していて追加募集をしている会社しか選択肢はありませんでした。その中から、大手企業グループだから、福利厚生もしっかりして安定している、自分も親も安心な条件面に惹かれ、半導体商社であるイノテック株式会社に入社を決めました。

かなり遅れをとっていた就職活動でしたから、入社面接は必死の覚悟で挑みました

自分が選んだ会社に自分も選んで欲しいと、自分の中で決めたことが3つありました。

面接官の一人を笑わせること
笑わせた人は自分の味方だと思ってその人を巻き込んで話をすること
私は採用しなかったら損をすると思ってもらえるように話すこと

この3つをクリアすることを自分自身へのミッションとして全力で面接に挑んだことは今でもはっきりと覚えています。

無事採用されたのですが、実際は最後の1人の人数合わせの採用だったわけです。総務部に配属されたのは良かったのですが、実際に与えられた役割は、届いた郵便物を各部署に配布するという仕事でした

そこで、「これまで担当した人の中で、一番早く郵便を届ける機嫌のよい人になる」ことを自分自身のミッションにして、楽しんで仕事をしていたら、ある役員の目に留まったようです。秘書室に呼ばれ、新たに十数人いる役員全員をまわるという仕事をいただきました。全役員とすっかり顔馴染みになったころ、今度は専務に呼ばれて「経営企画室にいってほしい」と言われました

郵便を各部署に配布していたのだからすべての部署を知っているだろう、役員全員とも話をしたはずだから、会社が何を大切に取り組み、問題は何なのか少しはアンテナが出来ただろうという事で、IR(投資家対応)と、関連会社の管理やM&Aに関わる仕事に関わってほしいということで、異動をしました。

入社後早い段階で、経営企画室で働けたのは何ともラッキーでした。ただ、人から言われるのは、たまたま幸運が舞い降りてきたわけではなく、「これまでで郵便を一番早く届ける機嫌のよい人になる」ために頑張ったことがすべての始まりだったと。そういう事であれば、その時の私の働き方は間違っていなかったなと思います

キャリアアップ、大病、転職、妊娠、出産。女性ならではの将来を意識したキャリア選択

1社目は、店頭公開から二部上場までの期間を駆け抜け、入社からとにかく忙しい環境のもと無我夢中で働いていました。私にとって仕事とはスピード感もあるイレギュラーな事、目まぐるしいものだと思っていたので、会社が一旦落ち着くと一気に物足りなさを感じるようになりました

就職エージェントに相談に行ったところ、「ちょうど今、活発に動いている会社がありますよ」と紹介されたのが、楽天です。社長室でM&Aの実務と関連会社の管理ができる人材を探していて、私の経験がぴったりはまったのです。

楽天はまさに大きくなり始めたタイミングでした。再び前職のようにがむしゃらに働き学び、睡眠時間は2、3時間という日々が続きましたがとにかく楽しかったです。2年ほどたったころ、お腹が痛いと感じて病院に行ったところ、卵巣が見嚢腫がみつかりました。すぐに取らないとまずいと言われ、急遽手術することに。

しばらく入院して会社に戻ってみると、なんと社長室の会話がすべて英語になっていました。今では全社英語が公用語になっている楽天ですが、今考えると当時私がいた社長室がまずトライアルだったのかもしれません。

退院後はまだホルモンバランスも崩れている状態だったので、この環境はきついと思い退職を決断しました。ちょうど結婚を考えていた時期でもありました。今までの激務を続けている限り結婚は難しいはずです。少しペースダウンしたキャリアを考えようと思いました。

3社目のピーシーデポコーポレーションを選んだ際のポイントは、1社目のイノテックが本店移転する前に入っていたビルで、ご縁を感じたことでした。

できれば早めに子どもを授かりたいと思っていました。ただ、現実はそう簡単にいかず、仕事のペースを落としたつもりだったのに、なかなか妊娠できませんでした。

どうしても仕事にのめり込んでしまう性格なので、女性ホルモンが足りないのかな? もっと女性ホルモンが出る生活にシフトした方がいいかな? と考えて、最終的に退職を決めました

ここまでお世話になった3社には社会人として大変貴重な体験をさせて頂き、鍛えて頂いたと思っています。今の働き方も、この時の経験があるからこそと思う事が良くあります。

速いスピード、イレギュラーの対応。特に設立間もない会社にはつきものですので、これを「普通」と思えるのは、お世話になった3社で関わって頂いた方々に対して感謝しかありません。

さて目標が「妊娠・出産」となって打ち込んだのは、粘土素材を使ったお花づくりです。粘土特有の柔らかい手触りがなんとも心地よく、いかにも女性ホルモンが出そうだと思ったのが始めたきっかけです。実際、一緒に習っていたメンバーも女性らしい方が多くて、新鮮な気持ちになりたくさんの刺激を受けました

しかし、何にでものめり込む私は、ここでも講師を養成する資格まで取るほどにどっぷりとはまりました。そして……本当にその後妊娠し、新しい命を授かることができたのでした。

その後無事出産したことをきっかけとして、「健康づくり」に関わる新たなキャリアを描いて邁進していくこととなります。

「健康づくりのための運動に生かせるか?」を軸に多くの資格を取得

出産を機に、少子超高齢社会によりかさむ医療費や介護給付費に強く問題意識をもったことから、子どもたちの将来のために介護予防、健康づくりのためにの事業に携わっていこうと決めました。

健康づくりのための運動と向き合うには、もう一度しっかりと勉強しなくてはいけません。目指すのは運動による健康づくりです。健康づくりのための仕組みを広めていくことが最も重要となるので、トレーナーとしての知識を深めることもしながら、幅広いアンテナを立てた知識を習得することが大切だと考えました

パーソナルストレッチ、パーソナルトレーニングなどのトレーナ資格の他、健康経営アドバイザー、健康運動指導士、経産省実証実験医療連携トレーナー、介護予防運動指導員、の本赤十字社の救急員など、自分なりにこの事業に必要と考える資格を選んで学び、資格取得しました。

起業を意識したのは、思い起こせば経営企画室で働いていたころに遡ります。関連会社の管理という役割だったので、たくさんの社長と話し事業計画策定に携わる機会に恵まれたことで自然と起業家マインドやパワーをいただけたと思います

「鮮度を」意識することでキャリアの成功が高まる

これまでのキャリアで大切にしてきたことは、まず中長期目標を立てたうえで目の前のことをとにかく地道に頑張ることです。

ただ、私の場合Iターン起業ということになりましたので、最近になって強く意識するようになったのは、あるお世話になった経営者からいただいた「鮮度」という言葉でしょうか

チャンスだと思ったら何事もとにかく早く着手、小さい実績を積み上げ、都度告知することで、その「鮮度」が活きて世の中に与えるインパクトは大きなものになる。

私は、2021年の3月に熊本に移住しました。新天地である熊本で会社を立ち上げるにしても、移住してすぐ立ち上げましたというのと、移住して5年経ってようやく立ち上げましたというのでは鮮度が全く違います。

「人は新しいことを新鮮に思う」という気持ちを大切にするということかもしれません。常に新しい情報をなるべく手に入れようと務める、これまでとは違う新しい切り口を考える、今までになかった新しい組み合わせで事業をする。そのほうが、想像力も刺激されて、仕事も楽しく感じますよね。真面目な方は「現状に甘えない姿勢をもっておくことも大事だ」という言葉を使うかもしれませんが、私としては「もっと自由に楽しい発想で真面目な事業をする」っていうニュアンスです

就活生の皆さんへ向けて。直感を信じてどんどんエントリーシートを書いて応募しよう

自分にはどんな仕事が合っているか、どんな会社が合っているかは、直感を信じて大丈夫と伝えたいです。直感なんかで決めたら危険だと言う人もいるかと思いますが、興味があるから直感が働くんです。そして、どうしようかなと迷ったら(行ければ)現地に行ってみることをおすすめします

いきなり連絡を取るのが厳しい場合は、誰ともコンタクトを取らなくても、一度行って外から会社を見てみるだけでもいいんです。

会社の近くには何があって、街の雰囲気はどんなで。

また業界や企業の目星をつけたとしても、すぐに入れるわけではないですよね。直感を信じて何をすべきかというと、それはまずエントリーシート(ES)を書くことです。書くだけですから、良さそうだなと思ったところにはどんどん書けばいいと思います。いいな!と思ったらインターンもどんどん応募すればよいのです

自分で自分の幅を狭めてしまう学生さんが多くてもったいないなと思うことが多いです。就職した経験がないのはみんな同じなので、不安に思っているのも皆同じです。でもそこで、ちょっと自分には難しいかなと後ろ向きに考えるのではなく、いいな!と思った直感を信じてチャレンジしてみようかと考えるだけで就職活動の見え方が大きく変わってくるはずです。

大切にしてほしいのは、働いている自分を想像すること。そこで働いている自分はワクワクしていますか? 想像したときに一番楽しく働いている姿を描ける会社にいってほしいと心から思っています

就職先を決めるための軸をつくるためにお勧めしたいのは、これまで生きてきた過去を振り返って印象に残っているキーワードをあげていくことです。幼少期から、小学校、中学校と時期ごとに鮮明に覚えていることから順に言葉を書いてみる。出来事でもイメージでもモノでも何でもよいです。すると自分が何に興味を持っていたのか、何を大事に生きてきたのかが実感できて、目標を定める材料になるのではないでしょうか? 

そうすると、直感で選んだ会社がなぜ自分の心にひっかったかが見えてくるので、面接時には志望理由を、まさかの「直観です!」ではなくて自分の言葉で紡げます

起業する時にもそれまでの自分を棚卸して自分にしかできない仕事は何だろうかと考えることを繰り返し行います。自分にしかできないこと、自分の強みは何で弱みは何なのか?をクリアにするのは、どのようなキャリア形成にしていくうえでも、おすすめです

「この会社に入りたい」と思ったらそれを全力で伝えることが大切

幅広くエントリーしてみて「この会社に入りたい」と思った会社には、戦略的に挑むべきだと考えます。

いざ面接の場に立ったら、その場で決定権をもっている人が誰なのかを判断して、上にあげてもらえるよう(具体的には次の面接のステップに進めるよう)努力することが大事です。何が何でも採用されたいというアピールをして、惹きつける空気感を出すというイメージでしょうか

決定権をもっている人を察知して、その人に自分を売り込んでいくというのは何も就職活動に限った話ではなく、社会人になって色々な企画を通すときも同じようなことがもとめられます。

ここぞというときには、このチャンスを絶対に逃さないという気迫でチャレンジしてほしいと思っています

あ、もちろん面接官に気迫そのものを見せつけるんではないですよ。

ニッコリ笑顔で心の中で気迫を持って戦略的に受け答えをする。できないと思いましたか?大丈夫、皆さん20年も生きてきてそれなりにいろいろな問題を解決してこの就職活動を受ける立場にいるんですから、やってみればできます。

これからは恐れずに提案できる人材がもとめられる! 遊び感覚で常に頭の中で物事を考え続けよう

既存の価値観ではなく、新しいやり方を提案できる人がこれからは求められると考えます。

学生時代にできる事としては、頭の中だけでもいいので色々な組み合わせで物事を考えてみる癖をつけることです

学生時代に一から団体をつくりあげるとか、組織を運営するなど自分からチャレンジできる人はそれで充分だと思います。たとえそういうことができなくても、頭の中だけで遊んでいるだけでも大丈夫です。社会課題を一つあげてみて、その課題を解決するための具体策を当事者の立場に立って想像しながら考えてみる。妄想でいいんです。

たとえば私は最近、「介護予防」「健康経営」というテーマを考えているのですが、これらの言葉を聞いて「健康のために運動をしたい!」と楽しくモチベーションが高まる人がどれくらいいるでしょうか。どこか言葉が独り歩きしていて、残念ながら介護予防は「高齢者がやるもの」健康経営は特に地方の中小企業には「何をしたらいいかわからない」というイメージになっていることが多いです

となると、そのイメージを変えるためにはどうすればいいか。何と組み合わせればもっと楽しくやりたくなるか、明るい未来をイメージするか。たとえば全く異業種のどんな分野とタッグを組めばいいかと頭の中であれこれ考えます。

そこで熊本県の「介護予防」については現在Jリーグのチームの力との相乗効果で明るく楽しいイメージを作り、事業を進めようとしているところです。

遊び感覚でよいので、あれとあれを掛け合わせるとどうなるかなと考える力をもっている人がこれからの時代は強いだろうなと思います。皆さんもぜひトライしてみてください。

取材・執筆:小内三奈

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