「ワクワク」が待つ方へ駆け抜けていけ|時代が求める「リーダーシップ」と「デザイン力」を身に付けよう
ギークス 取締役 / IT人材事業本部長 成末千尋さん
Chihiro Narisue・早稲田大学卒。新卒で大手総合商社に入社。その後2002年にデジット(現リンクアンドモチベーション)に転職し、国内におけるインターンシップの普及に尽力。2008年トレンダーズへ転職。マーケティングやブランディング領域の業務に従事する。2009年ギークスに入社。新規事業・新サービスの立ち上げを経て、2016年よりIT人材事業本部長、2018年11月に取締役に就任。ITフリーランスの「働き方の新しい『当たり前』をつくる」を事業ビジョンに掲げ、同社の主幹事業を牽引する。また中央大学商学部にてキャリア教育分野の特別講師も務める
大病を患ったことで抱いた「後悔のない人生を送りたい」
新卒で入社した大手の総合商社からベンチャーに移り、その後はベンチャーからベンチャーへと渡り歩いてきました。キャリアを振り返ってみれば、どのフェーズのどの選択においても大切にしていることは共通しています。それは、「楽しそうに感じられるか」「ワクワクできるか」といった要素です。
これらを意識するようになったのは、中学生のときに大病を患ったことが大きく影響しています。奇跡的に回復したものの、生死をさまよう経験から「後悔のない人生を送りたい」「これからの人生は楽しいことを何でもやろう」「自分がワクワクすることを実行しよう」という想いを抱くようになりました。
だからこそ、我慢する、諦める、何もしない、ということはできません。いつも率直に気持ちを伝えて、やりたいことをやっています。
それに、ワクワクした気持ちを感じられない仕事では、楽しく働くことも、意欲的に取り組むこともできないと思います。なので、学生の皆さんも今後のキャリアを選択していくうえでは、しっかりと自己分析を重ねて、自分が夢中になれたり、振り返って成長できた行動・場面・環境などを明確にし、「その仕事のなかにワクワクできる要素があるか」を確認して欲しいです。
「就活が始まったから探し始める」のではなくて、日常的に探して準備しておくことをおすすめします。
「ワクワクできるか」を軸に歩んできたキャリア
振り返ってみれば、学生の頃から確立していた「ないものは作ればいい」というスタンスがファーストキャリアに影響したように思います。
大学時代、バックパッカーとして海外を回っていたときに、各国でどんなものが売れているのか観察・比較することが好きでした。そのなかで日本人が好んで買っていくもの、かつ日本ではあまり流通していないものに目を付け、それらの商品を日本の雑貨屋に卸すということを個人でおこなっていました。
当時は私からの持ち込み企画でしたが、売上が好調で、店側から次々に依頼が入るようになりました。この経験が、「ないものは作ればいい」というスタンスが私の中に生まれたきっかけとなっています。
結果的に1社目に選んだのは大手の総合商社です。さまざまな商品を手広く取り扱う総合商社が自分のスタンスにもっとも近いと感じて、入社を決めました。
入社後は、一生懸命働きましたが、大手企業だと歴史もあって制度も整っています。働いていくうちに「制度や仕組みが出来上がった会社ってあまり面白くないな」と感じ始めていました。
もともと自分は決まったことや与えられたことだけをやるよりも、困難なことに取り組んだり、チャレンジをすることに楽しさを感じるタイプ。整備されきった環境よりも自分がワクワクして仕事に臨める、よりチャレンジングな環境を求めて転職を決意しました。
転職先の会社は、日本の学生にインターンシップの機会を紹介する会社です。ベンチャー企業だったので、1社目の総合商社に比べれば「出来上がった会社」ではありません。まさに自分が求めていた環境でした。
当時は今ほどインターンシップが浸透しておらず、就活の前に学生が企業の人と会える機会もほとんどありませんでした。「インターンシップという制度を持ち込み、就活のシステムを変えよう」という会社の在り方に共感し、ワクワクしたことが、その会社を選んだ決め手の1つでした。
入社後は、単発で学生にインターンを紹介するだけではなくて、1人1人の学生の志向や適性を見て、「〇〇な職種を目指すのであれば、一度▲▲の職種も経験しておいた方が良い」とアドバイスするなど、長期的なキャリアプランを見据えながら伴走する形で支援をしていました。
楽しくてやりがいもありましたが、段々とマーケティングに携わることが増え、「もっとマーケティングに注力してみたい」と思うように。「新たな環境でもっと成長をしたい」とも感じていたので、マーケティングやブランディングの領域を得意としているベンチャー企業に転職をしました。
3社目は女性向け商品がメインの会社。2社目とはターゲットがまるきり違いました。この会社では自分が望んでいたマーケティングの仕事を任されていたこともあり、充実感を覚えながら業務に取り組んでいましたが、知人から「もう一度学生向けのサービスをやらないか」と誘われたことがきっかけで、ギークスに転職をしました。
ギークスでは、サービスを一から作るフェーズから関われることにワクワクしていました。加えて、一から作ったサービスを広めるという形で、自身の得意領域であるマーケティングやブランディングの業務にも携われることも、転職の決め手の1つとなっていたと思います。
困難を切り開くのは「使命感」
多くの学生と接してきた経験やマーケティングの知識を生かして、ギークスでは就活生向けの事業や、まったく新しいエンジニア採用の仕組みなど、新しいことを立ち上げるチャンスをいただくとともに、会社のリブランディングや全社の採用も責任者としておこなっておりました。
それらはどれも、これからの「会社をつくる」という共通点があり、忙しく大変なことも多い毎日でしたが、充実感を持って働いていました。
また、IT人材事業本部で「現場経験のない自分が急に組織のトップに立ち、メンバーは納得してくれるのか? ついてきてくれるのか?」という不安もありました。
ただ、そこは「困難なことへのチャレンジ」「自分で事業を作り上げられる」という自分なりのワクワクがある環境だと理解し、新しい気持ちで取り組みました。そして何よりも、根底には「主幹事業を自分に任せていただいたことへの使命感」を感じていたと思います。
それから6年が経ち、組織内で様々な変化を起こしながら今に至ります。おかげさまで、売上・利益ともに毎年成長を続け、一緒に働くメンバーも大きく増えました。今では「働き方の新しい『当たり前』をつくる」という事業ビジョンの実現に向け、信頼できるメンバーとともに仕事に励んでいます。
事業や組織のこれからの方向性を提示することや、売上・利益を伸ばすための戦略策定はもちろんですが、やはりメンバー個人の成長を促せる仕組みをより整えることが大事だと考えています。
自分自身、多くのチャンスをいただいて今このポジションにいるので、メンバー一人ひとりの可能性に向き合って、メンバーにも挑戦の機会をたくさん提供していきたいですね。
これまで個人プレーが多かったキャリアですが、多くの仲間たちと共に世の中に価値を与えていく現在の仕事や働き方を、誇りに思っています。
就活生のみなさんも、今後社会に出ていくうえでは困難に感じることや壁にぶつかることは絶対にあります。そういったときは、使命感を持って取り組んでみることをぜひ意識してみてください。そうすれば、困難のなかにもワクワクする部分を見出せて、困難を困難と思わず切り抜けられます。
自身としては「やりたいことをやっている」と最初にお話しましたが、「やりたいこと『だけ』をやっている」わけではありません。こういう場面では「やりたくないこと」をいかに「やりたいこと」に変えていくかが重要で、そのプロセスの源泉となるのが「この仕事は自分がやらなければならない」という使命感なのです。
使命感を持つためには、学業やアルバイトなどでも、「自分がやらなければ」と意識して取り組んでみてください。いうなれば、「自分で選んだことをやり切る美意識を持つ」といったところでしょうか。そうすれば、学生のうちからでも使命感を養えます。
また、就活のみならず、壁にぶつかったときに、ただ悩んでいるだけでは時間がもったいないです。行動せず悩んでいても事態は解決しません。ある程度の自己反省は必要ですが、自分の内面ばかりにフォーカスして自己嫌悪に陥りすぎないようにしてください。
悩むのであれば、「なぜ悩んでいるのか」を突き止めるために悩みましょう。その悩みをなくすためにはどうすればいいのかを考えて、次の日から行動を起こしていく。壁にぶつかったときは、そういった意識を持って立ち向かって行ってほしいなと思います。
自分に合った会社を見つけるカギは「人」と「数字」と「成長性」
就活生の皆さんには、キャリアを選択していくうえでは「ワクワクすること」をぜひ意識して欲しいと思いますが、「なぜワクワクするのか」は必ず明確にしてください。
たとえば、「スポーツが好きだから」という理由で安易にスポーツメーカーへの就職を選んでしまうと、ミスマッチにつながる可能性があります。
なぜ好きなのかを掘り下げていくと「試合に勝つことにワクワクする」「仲間との繋がりを感じられる瞬間にワクワクする」など、好きな理由にはそれぞれに個性があることが見えてきます。
徹底的な自己分析によって、「自分が何にワクワクするのか」「なぜそれにワクワクするのか」を詳細に把握すること。そして、その働き方が叶えられる場所を選ぶこと。その結果、自分に合った企業に出会うことができます。
また、就活は企業に話を聞くことが簡単にできる大チャンスです。社会人になって営業するとなればアポを取るだけでも苦労しますが、就活生であれば話を聞きにいくだけでも歓迎されます。
「面倒くさいな」と行動を惜しんでしまい、このチャンスをふいにしてしまうのはあまりにもったいない。さまざまなところに足を運んで「人」から話を聞き、自分と企業のフィット感をぜひ確かめて欲しいです。
有名な会社や自分の知っているサービスだけから企業を選ぶのではなく、幅広い選択肢を持って話を聞きに行ってみるのも大切です。
しかし、人の話は主観的な要素がどうしても入ってきてしまうものです。企業のIR情報など、「数字」から客観的に企業の実態を読み解き、事実に基づいたデータを収集しておきましょう。企業選びにおいて重要な参考資料になります。
数字からは、企業の「成長性」なども読み取ることができます。成長性のある企業はチャンスも多くあるため、自身の成長にとっても良い環境です。
加えて、「その企業が何を目指して成長しようとしているのか」、「企業の理念」なども調べてみてください。自分の求めている環境としてマッチしているか判断できます。
成末さんが教える自分に合った企業の探し方
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求めている環境であるか、人に話を聞きに行って確かめる
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IRなどから事実ベースで客観的な情報を集める
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会社の成長性や、成長を目指す背景にある理念などを調べる
自分がやりたくないこと、嫌いなことも企業選びの参考になります。やりたくないことが含まれない企業は、すなわち自分に向いている企業とも捉えられます。「やりたいこと」よりも「やりたくないこと」のほうが明確にしやすいということもありますね。
さらにいえば、「好きではないけど続けられること」も見つけておくと良いでしょう。仕事は好きなことばかりではありません。そういった事実がある以上、「好きではないけど続けられること」を明確にしておけば、仕事を選ぶ際の手掛かりの1つになります。
選択肢の幅を広げることにもなりますので、ぜひ自己分析を通じて、「やりたいこと」「やりたくないこと」「好きではないけど続けられること」を探してみてください。
「リーダーシップ」と「デザイン力」がこれからの時代を切り開く
今後活躍できるような人は、まず1つは「リーダーシップを発揮できる人」だと思います。
周りの意見に流されず、自分の軸を持って選択や決断をした。行動し続けてきた。そういったリーダーシップを発揮してきた人は、これからも人に頼られ、人を巻き込んで大きな仕事を動かしていくので、ますます活躍していくと思います。
もう1つは、ビジネスにおける「デザイン力のある人」だと思います。現状を把握して課題を探し、課題を解決した将来にどんな良いことがあるのか想像し、現実化するために行動をする。
そもそも課題というのは見つけることが難しいもの。これからの時代は課題を解決する力と同じように、「課題を発見する力」が大切です。したがって、ビジネスにおける「デザイン力のある人」はより求められていくと思います。
成末さんが考えるこれからの時代に求められる2つの能力
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リーダーシップ
意志を持って決断をしていて、周りの人を巻き込む能力 -
デザイン力
課題が何かを発見し、妄想を膨らませ、形にする能力
これらの能力を身に付けるためには、日常の中で「もやっ」としたことをそのままにせず、問題意識を持って観察することを心掛けてみてください。
たとえば、外で食事をするときに「このお店が今困っていることはなんだろう」と、自分なりに課題を見つけることも1つの訓練になります。どんなに小さなことでも、ちゃんと見て観察をする。こうしたことの積み重ねが能力を養います。
ちなみに、ハーバード大学やイェール大学では「絵画を見る」といった授業があります。有名な絵画を見せたうえで、「これは何を描いていますか」「この絵をストーリー立てて教えてください」などと尋ねる。すると学生はその絵を集中して観察しアウトプットを出します。
「観察することによって見えてきたものを言葉にする」能力を養うための授業を取り入れているのです。観察力、すなわち「課題を見つける力」がいかに大切にされているかが良くわかりますね。
私は自分のチームのメンバーにも、「美術館にいって絵画を見てきて、感想を教えてね」とよく伝えます。固く考える必要はまったくないです。まずは日常生活の中で「これってなんでなんだろう」「これって不思議だな」と感じられる心、見つけられる目を持つことから意識してみてくださいね。
あらゆる選択肢を「自分で選ぶ」
就活を進めていけば、今まで意識もしたことのないような「未知」に直面することがあります。そんなときも「嫌だな」と思わず、ぜひ未知を楽しんでください。
ときにはつらく感じることもあるでしょうが、避けるのではなく、しっかりと対峙して、乗り越えて欲しいです。そうすれば、未知の中に楽しさを見出すことができますし、成長にもつながります。
しかし、就活を大きな壁に感じてしまい、立ち向かう余裕を持てない人も多いと思います。そんなときは、「なぜこの会社や仕事、業界を選んだのか」と、原点に立ち戻ってみてください。原点を再考すれば、モチベーションを取り戻すことができます。
原点が見つかっていないと、そもそも立ち戻る場所がありません。だからこそ、自己分析をしっかりとおこなって、「なぜこの選択をしたのか」を明確にしておくことが大切です。
「就活だから準備をする」のではなく、普段の生活から、自分の身の回りで起きること1つ1つに対して良く考えて決断をしたり、さまざまな場面に潜んでいる課題を探してみてください。そうすれば、意識や能力が養われて、人生そのものも豊かになります。
あくまでも、自分の未来に責任を持つのは自分です。環境やタイミングに左右されて行動や意思決定をするのではなく、あらゆる選択肢を「自分の意思で選ぶ」こと。これを常日頃から意識してみてください。
取材・執筆:小林駿平