複業で開かれる豊かな人生もある|リスキリングでキャリアの可能性を広げてみよう

Co+soon(コツーン) 共同代表 長尾 浩志さん

Nagao Hiroshi・2016年東京大学大学院 機械工学専攻を卒業後、大手プラントエンジニアリング会社で設計業務を手がける。2020年よりDataMix(データミックス)でプログラミングを学び、2021年データサイエンティスト協会主催「ビジネススキルの高い課題解決型データサイエンス人材の育成」で表彰。2021年5月、個人事業主Co+soonとして、DXの導入・推進事業を開始した。会社員との兼業で、パラレルキャリアを楽しみながら歩んでいる

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会社員×個人事業主が生んだ好循環

個人事業主という形で、中小企業を含めたさまざまな事業者にDXの導入を推進する事業をおこなっています。屋号は「Co+soon」(コツーン)。共に(co)、素早く(soon)、DXへのコツを見つけようというコンセプトで名付けました。

一方、現役の会社員でもあります。建設系の企業でプラントエンジニアとして働いており、世界の至る所で大きな工場を作る仕事もしています。会社の終業後や休日、朝出勤前にCo+soonの仕事を進めることが多いですね。時間を捻出するために、会社員として就業中の8時間でいかに集中するかが重要です。仕事の質を落とさずに、複業の時間を作るー。今はそのための試行錯誤ですら、楽しんでいます。

会社は複業を認めていますし、上司も理解があります。Co+soonの仕事を始めてから、会社でもデータ分析やIT分野の仕事を手がけるようになりました。他方、会社員としての経済的な安定があるから、始めたばかりの個人事業を余裕を持って進められる部分もあるので、会社員の仕事と個人事業主であることが相互に良い循環になっています。

忙しいけれど、面白く充実していて、困窮することもない。会社・個人事業の双方のビジネスに還元される気づきやスキルアップもある。現在の時点では、複業という形で働くことが合理的だし、理想的でもあります。誰にでもすすめるスタイルではありませんが、これからの時代の選択肢の一つではありますよね

自分の力を社会で試したいという気持ちに素直に

そもそもCo+soonを立ち上げるまで、事業立ち上げに向けて明確な計画があったわけではありません。元をたどれば、大学時代のロボコン出場経験でしょうか。この経験でプログラミングの面白さや、答えのない世界の楽しさに目覚めました

会社に入って少し経つと、自分の仕事をより効率化して、質の高い仕事をしたいという気持ちが芽生えました。単純作業や簡単な判断であれば、機械学習などを使って効率化できると思ったんです。しかしロボコンで基礎的なスキルはあったとはいえ、ITは専門分野ではないので、できることに限界がありました。そこで、IT系のスクールに通ってスキルアップを図りました。

ところが勉強を続けるうちにどんどん面白くなってしまって。自分でできることも増えていく中で、社内の業務を効率化するだけでは飽き足らず、実力を試してみたい気持ちがムクムクと湧いてきました。そこでデータサイエンティスト協会が主催する、「ビジネススキルの高い課題解決型データサイエンス人材の育成コンテスト」に応募してみたら、準優勝することができたんです。

自分のスキルを使ってビジネスを立ち上げることも、全くの夢物語ではないと思いました。それでも、プロではない自分が外部の仕事を請け負っていいのか、迷いはありました。その迷いを後押ししてくれたのが、二人の人物です。

一人はIT業界の大先輩。インターネット上で相談したら「やれば! 」の一言(笑)。もう一人は、黄皓さん。バチェラーに出ていた、あの実業家です。かっこいいじゃないですか(笑)。自分のビジネスを持っている彼に憧れて、一歩を踏み出してみることにしました

仕事に直結しない分野であっても、興味関心があれば学んでみる。もしくは仕事の範囲を広げてくれそうなスキルを身につける。こういった「リスキリング」の姿勢は、今後ますます重要になってくると思います。その知見をどこで生かせるのかというチューニングとセットで進めていけば、キャリアを切り開く大きな力になると思います

成長や気づきのある場所にまずは身を置くこと

当初は自分の力を試してみたい、DXの可能性をみんなにも知ってもらいたいという気持ちだけでスタートした個人事業。「20万円以内なら雑所得なので大丈夫だろう」と思っていたほどで、Co+soonで稼ぎたいという気持ちはありませんでした。

まずお客さんになってくれたのが、会社の先輩で現在一緒にCo+soonを支えている、岡崎貴浩さんのご実家。営んでいる中小企業の業務改善・DXに取り組みました。ヒアリングを重ねながら課題を見つけ出し、ちょっとしたコツを伝授しながら、業務の効率化を進めていくのは、楽しい仕事だと感じました。

岡崎さんとも意気投合し、Co+soonは個人事業のユニットといった感じになりました。分業や上下関係などはなく、各々が助け合いながらも、自由に名乗れる屋号・成長の場所になっています。

当初はまとまった利益を得ることを考えていませんでしたが、仕事として始めてみると思ったより反応が良く、収入にもつながっていきました。中小企業の困りごとがIT技術等で改善されることも実感できました。いただく報酬には、給料よりも生々しさがあって、痛みも喜びも感じられましたね。お金を得ることが当然ではなく、取り組みにかかる時間や期待される効果で金額を決定する、まさに対価の意味を実感しました

Co+soonを通して、自己実現や成長を感じ、社会の様々な需要や対価の意味に気づくことができたー。もちろんこれは、会社員であっても感じられることだと思います。成長や気づきのある場所にまずは身を置くことで、より大きなキャリアの充実を得ることができるのではないでしょうか

会社員として得られるものをフル活用しよう

プログラミングにハマった時に、プログラマーやITエンジニアとして転職するという道もあったかもしれません。でも、現在の会社の仕事も大好きで、職場も居心地が良く、やめる理由がなかったんですよ。

一方で会社の仕事や仕組みがわかってきた故に、先が見えてしまう感覚もありました。このスタイルで、これくらいの仕事をして、こうやって昇進して…という予想がある程度できてしまうんです。キャリアや人生の見通しという面では素晴らしいことですが、マンネリ感があるのも事実でした。だから、キャリアや生活の変化の一つとしてCo+soonを始めたという理由もあります。

個人事業を始めてみると、会社という組織・会社員という存在のメリットを実感します。収入が安定しているのはもちろん、会社員として働いているときは会社のネームバリューを使えるというのは大きなメリットです。

人のつながりも大きいですね。会社にいれば、わからないことがあっても詳しい人にすぐ頼れます。あの部署のあの人、というつながりの中で、スキルアップ学びも容易です。しかし個人の場合、自分の能力を超える課題に対しては、お手上げするしかありません。自分から学べる場所・人を探さなければ、次のステップに進めないんです。会社の良さを感じるたびに、複業という選択肢に魅力を感じています。

自分が就職活動をする時には、当然のように大企業志向がありました。今はスタートアップに入ったり、起業をしたり、新卒の選択肢が広がってきましたよね。学生の就職への意思も多様化していると感じます。しかし、どんな会社であっても、会社に所属するメリットは大きいと思います。

成長するために、若いうちから経験を積むことができる会社なら、なおさらです。自分も入社2年目で海外に長期出張し、プロジェクトに携わる機会を得ました。人材を育て伸ばそうという会社のスピリットを感じられましたね。もしご縁があって就職したのなら、会社員として得られるものをフル活用して、貪欲に成長のチャンスをものにしてほしいです。

これからの時代に必要なのは、課題を見つけて動けること。課題の掘り下げや設定の力だと感じます。それがそのまま、仕事を生み出すことにつながります。

課題にも2種類あると思うんです。一つは文字通り、困りごと解決するともっと楽になる、早くなる、安くなる、といったものです。中小企業にお邪魔して話を聞くと、DXしたいけど、何からやれば良いのかわからないという声や、DXのためにリソースを割けないという声を聞きます。まずは困りごとを見つけ、解決のために必要な手段を構想して、初めて必要なリソースも見えてくるもの。DXありきではなく、より良い仕事・経営のための一つの方法論だとお伝えします。

もう一つは、より面白くなる・良くなるには? という観点いわゆる、答えのない問いです。ロボコンで経験した答えのない世界は、とても楽しかったのを思い出します。わかりやすい効率化や合理化だけでなく、もっと楽しい・意義深いビジネスを生み出すための課題設定もできるようになりたいですね。

最近、若手の漁師さんとお話して、面白いことをやりたいと目論んでいます。まずは漁師さんの仕事を知ろうと、船に乗せてもらうこともあります。まるで知らない世界は、本当に面白くて刺激的。こういう経験が発想にもつながると信じています。

いつでも人生のメニューはたくさんあると考えておこう

自分は計画的なタイプではなく、大きな野望を持っている人間でもありません。でも、いつでもやってみたいことがいっぱいあるんですよ。会社員だから、この職種だから、父や母だから、日本人だからと制限をかけて、やりたいことを我慢する必要はないと思います。ちょっとしたチャレンジや学びを続けていると、思わぬ道が開けてきます

どちらの道を行ったら正解なのかは、わからないですよね。人生はABテストできないので、一旦信じた道を進むしかありません。でも、進んだ道を正解にしていくためなら、いくらでも方法があるはずです。

一方で少し俯瞰的に考えると、キャリアには色々なメニューがあると、知っていることも大切かもしれません。辛いことや困難なことがあったとき、やってみたいことができたとき、今の形の働き方ができなくなったとき、選択肢はたくさんあります。退職や転職だけが身の振り方ではありません。起業するには、他の全てをやめる必要があるわけではありません。私のように、会社員でありながら個人事業主でもあるというあり方も、許容される時代になってきました。

今後は事業の法人化や、自分の事業一本化もありうるかもしれませんが、会社も本当に好きなんですよね。単なる夢ですが、バーも経営してみたいと思っていて(笑)。焦らず、柔軟に、自分にとってのワクワクする環境を追い求めていきたいです

取材・執筆:鈴木満優子

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