「自分の良さを殺す仕事」はもったいない! とことん考え、自分で決めた場所へ飛び込んでみよう
BEENOS(ビーノス) 常務執行役員 佐藤星さん
Sei Sato・学生時代にインターンとして入った同社で学生起業を経験し、そのまま新卒として2009年に入社。設立直後のtensoにて、事業立ち上げに関連する基盤構築のため、多岐にわたる業務に従事。2012年、現在のBEENOSグループの主軸となる越境ECの代理購入サービスBuyee(バイイー)事業を立ち上げる。同事業は国内クロスボーダー事業でナンバーワンの地位を確立。2017年にtenso(テンソー)取締役、2019年にCOOに就任。2020年より現職
自分のやりたいことと合致するフィールドが、たまたま当社だった
「人の意見を聞いて動くことが、好きではない」。この性分が私のキャリアを形作ってきた、と言っても過言ではありません。学生時代から自分でイニシアチブ(主導権)を取れる仕事がしたい思いが強く、企業に就職すること自体もポジティブに捉えられずにいました。
起業にも興味を持っていましたが、一方で、国内の大学には実践的なビジネスを学べる場がないこともネックに感じていました。色々と情報を集めるなかで、「この会社は面白いビジネスをたくさんやっているな、ビジネスモデルを構築する能力がすごい」と感じたのが、当社BEENOS(ビーノス)でした。
大学3年の終わりに会社説明会で話を聞きに行き、当時、CEOを務めていた佐藤輝英氏(※2014年に退任/現BEENEXT〔ビーネクスト〕CEO)にその場で「自分もビジネスを立ち上げたい、どうすればいいか」と相談したところ、「うちでやっていいよ」とすぐに受け入れていただき、インターンとして学生起業に挑戦する場をいただいた次第です。
この事業は結果的にほとんどうまくいきませんでしたが、成功も失敗もすべて自分で責任を持ってビジネスを動かす経験ができたことは、非常に有意義だったと感じています。それまでになく真剣に考え、真剣に取り組むことができましたし、さまざまな角度からのアプローチを試すことができました。当時はゼロから当社を立ち上げ、大きくしてきたメンバーが数多く在籍していた時期でもあったので、周囲の方に学ばせてもらうことも多かったですね。
卒業後もそのまま当社に残り、設立直後のtenso株式会社に配属。最初の数年間は既存のビジネスのなかで、事業開発やカスタマーサポート、倉庫作業、プログラム、デザイン、法務、経理など、ひととおりの業務を経験しました。頭の切り替えは大変でしたが、右肩上がりに伸びているビジネスに携わることは、とても楽しかったです。
その間も「自分で新しいビジネスを考えてやっていきたい!」とはずっと考えており、2012年、ついに事業の立ち上げにゼロから携わることができるチャンスをいただきました。それが今日のBuyee(バイイー)事業になります。
私がファーストキャリアとして当社を選んだのは、新しい事業をやりたい自分と会社の目指す方向性が合致していたから。自分の考え方と合致する企業のうちの一社がたまたま当社だった、それだけです。
この考えで最適な選択ができたと感じているので、就職活動をしている皆さんに何かアドバイスをするとすれば、「会社に合わせにいく」のではなく「自分に合う会社を選べ!」と伝えたいですね。人の根本や本質的な部分はそうそう変わらないもの。自分に合わない会社に入ってしまえば活躍しにくいだろうと思いますし、仮に自分を変えて活躍できたとしても、あまり楽しくはない気がします。
無理に合わせて入社すると、そのうち限界が来て辞めてしまう可能性も高いですし、そうなれば会社側にも損失になってしまいます。入社時点からその人にとって一番良い選択をしてもらうことが、結局は学生と企業、双方のメリットになると思います。
今は採用側としての面接もたくさん行っていますが、その方のそれまでの生き方や人生の選択から判断して、当社に入るのが自然だなと思う人を通しています。うちに向いていないと思えば、他社を勧めることもあります。志望動機などは聞かないことが多いですね。会社側に合わせて考えてくれている動機が多いので、あまり判断材料にならないと感じています。
自分で考えたことは、蓄積になる。考え尽くして決めることが重要
とはいえ、「自分に合う会社を選べと言われても、それがどこなのか分からない」という人もいるかもしれません。たしかに、人生の早いうちから「絶対に〇〇になる!」などと明確に宣言できる人は、少数派ですよね。誰もが自分のやりたいことや明確な方向性を早々に定められるわけではないことは、理解しています。
私自身は、自分でビジネスモデルを考えて、新しいビジネスをやるんだ! と言い続けてきた人間ですが、天からの啓示があったわけでもないですし、本当にこれがやりたいのか、一番向いていることなのかは今でもわかりません。ただその決断に従って行動してきた結果、今があるという感覚です。
明確に方向性が定まらない場合は、自分の頭で考え尽くしてみた先で「自分にはこれだ!」と一旦、決めてみるといいと思います。選択肢はいくらでも考えられるものですが、どこかのタイミングで諦めることも肝要。自分でしっかり考え抜いて決断をし、その決断を信じて、まずはやってみる。一旦進んでみることで、見えてくるものもあるはずです。
併せて「完璧な会社はない」ということも、心得ておくといいかもしれません。私は入社の際、ビジネスモデルについて学べる企業かどうかを重視していたので、社風や人間関係などは気にしていませんでした。社風が一番大事だと思う人は、そちらを重視しても間違いではないですし、「自分にとってはこれが大事。だから、こっちが合うかな」と選んでいくといいと思います。
無論、どんな会社でも多少は、自分を合わせていかなければならない部分があると思います。ただ無理をする部分はできるだけ少ないほうが、仕事のパフォーマンスは絶対に上がりますし、パフォーマンスが上がれば、会社にとっても有用な人材になることができます。
「自分で考える習慣」は、社会人になってからの成長においても重要になると思います。ほんの少し深く考えてみるだけで、自分のなかに色々な考えが蓄積されていき、成長スピードが速くなり、その結果、活躍できるチャンスにもつながっていくはずです。
たとえば、与えられた単純作業をやっている際、早く終わらせることばかりに注力するのではなく、「なぜこの仕事をやっているんだろう?」と考えてみる。考えているうちに「では、あの仕事はなんのためにあるのだろう?」などと考えや理解が広がっていき、そこから有用な気づきが閃くことも期待できます。私は無駄な仕事をやるのが大嫌いなので、「この仕事をやらなくていい方法はないのか?どう省略できるか?」といつも考えています(笑)。
自分で考える経験をしてもらうためにも、新卒社員にあえて新規事業を任せることも珍しくありません。大きなチャンスや役割をもらうと、人は知識や経験がなくても“本気”になるので、想像以上のパフォーマンスをしてくれる実感があります。最初は軽作業から、という企業は多いと思いますが、当社では学生インターンや新卒の皆さんにも、世界的なビジネスに関われる機会をどんどん提供したいと考えています。
充実感を得られるキャリアは、成長とともに変化していく可能性も
立ち上げから関わってきたBuyee事業は、この10年弱で当社の主力事業へと成長しました。現在は流通総額500億が見えてきた状況で、私が入社当時から公言していた「1,000億円のビジネスをやりたい」という目標が現実味を帯びてきています。
今だから言えることですが、内心ではずっと「1兆円」を目論んでいました。現実味がなさすぎるので心の中に留めておいたのですが(笑)、そろそろ、1兆円を目指そうと公言してもおかしくないかなと思い始めています。越境EC(国際間のEC事業)を代表するAlibaba(アリババ)やeBay(イーベイ)などと対等な立場で世界的なビジネスを目指せていることも含め、とても面白い仕事がやれている実感がありますね。
無論ここまで来るには、大小さまざまな壁にもぶつかってきました。壁は挑んで乗り越えるべき、という考え方もあると思いますが、私は原因が不可抗力であれば仕方ない、と割とスッパリ諦めるようにしています。たとえ話ですが、アメリカの法律が変わったことで当社の売上が落ちたとしても、他国の法律を変えることは難しいですよね。
自分たちではどうしようもできないことに悩んでパフォーマンスを落とすよりも、切り替えて「では次どうするか」に100%の力を注いだほうが良い結果にたどり着けるはず。そう考え、次のアクションへと動くことを大事にします。就職活動などにおいても役立つ考え方かと思うので、よければ参考にしてみてください。
長期的なキャリアに関しては、入社の時点で描いていたビジョンだけに必ずしも固執する必要はないと思います。私自身、学生時代から入社当時にかけては「新規事業を企画すること」だけに傾倒していましたが、今はそれに加え、ビジネスの中で違和感がない状況を作れること、部下たちが頑張っていることにも充実感があります。
俯瞰的に見る立場にはなりましたが、プロジェクトの進捗を聞いていて「ちょっと気持ち悪いぞ」と違和感を感じる状況があれば、早めに手を入れるようにしています。本当はトラブルが起きてから解決するほうがかっこいいのですが(笑)、トラブルは未然に防ぐほうが重要ですので。部下にほぼ任せている仕事に関しても、「違和感なくビジネスが回っているか」というポイントはよく見るようにしています。
世の中の企業に対する見方も、かなり変化してきました。大学時代は「なるほど!」と感心させられるようなビジネスモデルを構築している会社以外に興味を持てませんでしたが、今はお客様にお金を払っていただける事業はなんでもすごい、と思えています。ビジネスはそれ自体に価値があるもので、良い・悪いはないという境地に至っていますね。
ただ、一時的なビジネスを追いかけている会社に入ってしまうと、社員としては満足いく働き方をするのが難しいかもしれません。企業研究の際は「今の局面だけでなく、ちゃんと先々まで考えて行われているビジネスかどうか」という点はチェックしてみるといいように思います。
周囲の人を学びの師に。自他の“良いところ”にフォーカスしよう
若手の皆さんと話していると、「ビジネスに必要なインプットはどう行っているのか?」といった質問もよくいただきます。私が勧めたいのは、まず職場を見渡してみること。書籍や他社の取り組みなどからもインプットはしていますが、私は職場にいる人たちの良いところをどんどん盗むようにしたことで、自分に身に付いてきたものが多くあると感じています。
職場は色々なスキルの集合体。当社で言えばエンジニアも、CSの担当者も、それぞれに優れた技術やその立場からの考え方を持っていて、皆に対して「すごいな」とリスペクトを持っています。
その人が持っている“良いところ”を大事にする視点は、マネジメントにおいても大切にしています。たとえば、行動は早いけれどミスが多い人がいるとして、それを指摘すれば、スピードという良さを殺してしまう可能性があるわけです。
そうしてしまうくらいなら、私は自分側の考え方を変えます。「最後のアウトプットが同じなら、ミスをしながら進めていく仕事の仕方もあるよな」「ミスを指摘すれば素直に修正できることも、すごいことだ」などと考え、できるだけその人のやり方を尊重するようにしています。
私がこういった考え方をするようになったのは、大学時代に1年間のイギリス留学を経験したことも関係しているかもしれません。「どの国にも色々な人がいるのだな」と分かり、「この国の人はこうだ」といった決めつけをしなくなりました。当社では多国籍の社員が活躍しているので、フラットに良さを見つめられる目線はかなり役立っていますね。
皆さんが自身のキャリアを考えていくにあたっても、必ずしも既存の型に当てはめる必要はなく、「自分のよさが最高に活きるやり方があるのでは?」と柔軟に考えてみてほしいです。せっかく働くなら、自分の良さを殺すような仕事や会社はもったいないと思います。
取材・執筆:外山ゆひら