自分で決めた場所で一旦やりきってみる姿勢がキャリアを拓くコツ|「人生のどのフェーズで苦労するか」を考えてみよう

タイズトラスト 代表取締役社長 原 忠寛さん

Tadahiro Hara・大学卒業後、2004年に光通信へ入社。全国各地の拠点で責任者を務め、約8年をかけて経営のノウハウを身に付ける。2012年8月にタイズトラストを創業し、現職。保険代理店事業を中心に、電力事業や児童福祉事業など幅広く手がけている

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卒業直前まで「ここなら頑張れそうだ」と意思決定できる会社を探した

これから社会に出る方に私が言えることがあるとすれば、「就職活動に正解はない」ということです。「ここなら頑張れそうだ、と自分で意思決定した場所で必死になってやれば、どこへ行ってもそれなりの成果は出せるよ」と伝えたいです。

自分が頑張れそうな会社の条件は、人でも社風でも事業内容でもなんでも構いません。とにかく自分で選んで、入ると決めたからには必死で頑張ってみる。シンプルな考え方ですが、これができれば十分だと思います。

私自身もこの考えから、卒業直前に就職先を変える決断をしています。内定をいただいていた会社があったものの、入社前の食事会で年功序列の社風を感じたのをきっかけに、2月から就職活動を再開。1社目となる会社に出会い「こういう実力主義の会社のほうが自分には頑張れそうだ」と思えたことで、就職先を変更しました。

それがファーストキャリアとなる光通信なのですが、とはいえこちらの会社の社風になら完璧にしっくりきた、というわけではありません。入社後3カ月間くらいは違和感を覚える瞬間があったように思いますが、「ここで頑張ると決めたんだし、半年間死ぬ気でやってダメなら辞めよう! 」と決めて目の前の仕事に集中するようになってからは、そうしたことも考えなくなりました。

自分に完璧にマッチする会社は存在しないので、「選んだ会社の社風に自分から合わせに行く」という心がけは大切だと思います

入社時の決断もそうですが、キャリアを歩むなかでは、その後も自分で意思決定をしなければならない局面が何度か訪れると思います。

よりよい意思決定をするための手順としては、まず情報をできるだけたくさん集めることを意識してみてください。間違わない決断をするためには、とにかく情報が必要です。

しかしながら、情報のすべてが正しいわけではないことも心得ておく必要があります。集めた情報を参考にしながら、「これならやり切ることができそうだ」と思える選択肢を選び、そこから先は「絶対にやるぞ! 」と一回決めてみる。期限を決めてやり切ってみて、それでダメなら次に行けばいい。社長業は意思決定の連続ですが、私はそのようにして日々、意思決定をしています。

神様でもない限り、100%正しいとわかっている決断はできないので、「この選択で正しいだろうか」と考えすぎることに意味はない。自分でやると決められるかどうか次第だ……というのが私の持論です。就職活動も同じだと思いますので、よければぜひ参考にしてみてください。

組織にいるなら多少の我慢は必要。悩みを最小化する習慣を身に付けよう

1社目に入社後は「他の人が休んでいる間に、人の倍働いてやる! 」くらいの意気込みで仕事に取り組みました。頭で考え抜いて営業をしていたというより、とにかく行動量で稼ぎましたね。半年間のうち2日しか休まずに行動量を積み重ねた結果、1年目の9月頃には責任者に抜擢していただきました。

社内の若手社員にもよく言っていますが、営業で上を目指そうとしている人には「営業に向き不向きはない、結果が出るまでやれるかどうか次第だよ」ということをアドバイスしたいです。

あくまで私の意見ですが、営業には、日本語を話せる以外の特殊な能力は必要ありません。成果が出ないときにマイナスな気持ちに打ち勝てるかどうか、諦めずに数字に向き合えるかどうか。この部分の忍耐力さえ持っていれば、必ず成果を出せる日が来ます。

私自身の忍耐力は、高校時代のサッカー部で磨かれたように思います。県内ベスト8の高校にいて、ミスをしたり、レギュラーになれなかったりして落ち込む日もありましたが、「つまらないマイナスな時間を1秒でも過ごしたくない」と思い返し、悩みを最小化させる習慣を身に付けました。

今でもネガティブな心境になる瞬間はありますが、「普通に生きているだけですごく幸せなことだ、日本に生まれただけでこんなにも恵まれているのに」と思えば、悩みなどちっぽけなものに思えてきます。そうして無理やりにでも前を向くようにしていますね(笑)。

25歳の頃には、初めて名古屋拠点の新規立ち上げを任されました。この出来事が、私にとってのキャリアにおける最初のターニングポイントと言えるかと思います。ほぼすべての権限を与えてもらい、ここで会社経営の基礎を学ぶことができました。

当時はまだ独立を考えていませんでしたが、会社が大きくなるなかで「こうやったら良くなるのに」という意見が通りにくくなってきたことは少々気になっていました。とはいえ失敗したら会社が責任を取ってくれる状況で、文句を言うのはフェアじゃない、自分の考えでやりたいなら自己責任のもとでやるべきだ……と思っていたので、表立って抗うことはなかったです。

組織にいる以上「我慢」は絶対に必要です。最終的な責任を取ってもらえて、給料ももらえるサラリーマンの立場で「何もかも自由にやりたい」というのはフェアではないので、どうしても我慢したくない、自分の意見を譲れないという人は、自分で社長になるべきです

それに社長にしても、理不尽で社員に我慢をさせたいわけではありません。「会社を潰さず経営していくには、社員に我慢してもらわなければならないときがある」ということを、私も社長になってから身に染みて感じています。その分、社員としてラクをさせてあげられる場面もあるとは思っています。

いざ社長になってみると、今度は「辛抱」の感覚を味わう瞬間が増えました。思いどおりにいかないことは多くあるものの、絶対に投げ出せないという状況がひたすら続くためです。だからこそ、できるだけ辛抱がなくなるよう考えて動くようにはしています。常に「今何をすべきなのか」に向き合っていれば、辛抱が辛抱ではなくなる、という感覚も味わっています

30歳で独立を決意。信じて付いてきてくれたメンバーを幸せにしたい思いがモチベーションに

具体的に独立を考え始めたのは29歳の折です。私より2年早く起業していた先輩の話を聞いたことがきっかけです。ここが2つ目のターニングポイントと言えるかと思います。「30歳で独立しよう」と決め、そこから自分が心から一緒にやりたいと思えた社内の仲間たちに声をかけていきました。

営業は気持ちで取り組む仕事だと考えていたので、人として誠実だと思えるメンバーを中心に誘いました。入社を決めてくれたメンバーも、海の物とも山の物ともつかない私に付いてくることに不安はあったと思いますが、「せっかく付いてきてくれたのだから、皆を幸せにしたい」という気持ちが、独立後のエネルギーになりました。

社員全員に対してですが、人生の最期に「あの会社に入った決断は間違っていなかったな」「タイズトラストを選んで良かった」と思ってほしい……という思いは今でも大きなモチベーションです。実際にそんなふうに言ってくれる社員もいて、励みになっていますね。やりがいも給与も休日もすべての希望をかなえてあげたいですし、それが簡単じゃないからこそ走り続けていかなければならないな、と感じています。

後を追うように入ってきてくれたメンバーも多く、責任者の半数以上が私と同じ1社目の出身者です。営業職で数字が上がらないときのつらさは皆よく知っているので、若手社員のフォローが得意なメンバーばかりが揃っている印象ですね。

家族も含めたBBQや目標達成会なども定期的に開催しており、メリハリをつけて仕事をしつつ、楽しくコミュニケーションを図る時間は創業以来、大切にしてきたので、サークルの延長線上のような良い雰囲気の会社を作れているかと思います。人間関係の良い会社にできている、という点にはとても自信を持っています

人のせいにできない環境で仕事をしたほうが自己成長につながりやすい

とはいえ独立後、会社を軌道に乗せるまでの3〜4年間はかなりしんどかったです。人の出入りも激しかったですし、「3歩進んで2歩下がる」といった状況が続きましたが、ギザギザと上下しながら、じわじわと右肩上がりの業績を作っていくことができました。

この時期に気づけたことは、「責任を持って最終決断をするのは、あくまで社長である自分でなければならない」ということです。

自分がサラリーマンだった頃、上の人に意見を聞いてほしかった思いが強かったので、メンバーの意見にすべて耳を傾けていたのですが、社員の意見を聞きすぎてしまうと成果に繋がらないこともある、とわかりました。

ただし、結果を出している社員の意見は聞くようにしています。現在全国10拠点ありますが、順調に回っているところは基本的にノータッチです。MTGも半年に一度するかしないか、というレベルですし、自分が若い頃、現場に社長が来るのが好きではなかったので(笑)、意識的に行かないようにしています。数字が出ていない拠点だけ、個別にテコを入れています。

できるだけ裁量を任せるのは、他人の指示でやって結果が出ないと、人のせいにしてしまいやすいからです。権限を持ってやったほうが自分の力量がわかりますし、結果も自分の責任だと受け止められるので、本人の成長につながります。

私は名古屋拠点を任されたときに仕事の本当の楽しさを知ったので、彼らにもそうした経験をさせてあげたい、という思いもありますね。「自分の会社だ」くらいに思って取り組める環境のほうが社員たちもやりがいも感じられるだろうし、それによって会社も成長していくだろうと考えています。

ひとりでも多くの社員が自分の考えで仕事ができる立場になれるよう、管理職を担えるメンバーを精力的に育てていき、全国に拠点を増やしていってほしいというのが、ここからの10年間のビジョンです。

今は全国で200名ほどの会社ですが、400名分の席はすでに用意しているので、あと5年で席をいっぱいにして「次の席を作るために、新たな拠点を出そう」となっていけば、という展望を描いています。

また「会社をやるからには、社会のいろいろなことに貢献したい」という思いもあり、数年前からは児童福祉事業も手がけています。

背景にあるのは、子どもへの思い。学生の頃は小学校教師を志しており、教育学部で教員免許を取得しました。社会人経験がないまま、人の子どもに何かを教えるのは難しい気がして、「一度社会人になってから先生になってもいいな」と考えて就職をしました。

今は「どうせなら学校を作ろう」と思っていますが、その先駆けとして、福岡にて放課後等デイサービス『きずな園』の運営をしています。障がいを持つお子さんが学校の授業終了後や学校休業日に通える療育機能や居場所機能を備えた施設を、地域のコンサルティング会社の協力を得て運営しています。

施設の近くではコールセンター事業を運営しているので、親御さんのなかには当社で働いてくださっている方もいます。多様な事業を手がけることで、社員にも幅広いキャリアの選択肢を与えられるので、その点では主力事業との相乗効果も生めていると自負しています。

良い人生を送りたいならどこかのフェーズで「奮起(苦労)する時期」が必要

若手社員たちには常々「良い人生を歩みたいなら、どこかのフェーズで苦労が必要だよ」と伝えています

価値観は人それぞれ違いますが、「良い人生」の定義は、ある程度までは一緒ではないでしょうか。人生の長い期間、ちゃんと収入を得られる豊かな暮らしがしたくない、という人はいないはず。

体力も知恵も経験もないまま歳を重ね、そこから苦労をするくらいなら、元気のある若いうちに苦労しておいたほうが、あとがラクになるよ、ということは学生の方にも伝えたいですね。自ら大変そうな道を選ぶのは簡単ではないかもしれませんが、「良い人生を送りたい」という思いがあるのなら、そのほうが将来的には近道だと思います。

「安定的にのんびり働きたい」という価値観の人もいるかもしれませんが、時間があってもお金がなければできないことはたくさんありますし、「子どもが生まれてから頑張ろう」などと苦労を後回しにしていたら、そのときにはすでにチャンスを掴みづらい状況になっているかもしれません。

就職活動においても、長い目でキャリアを想像しながら「先々良い人生を送るために、自分はどのフェーズで頑張ろうか? 」について考えてみると、ファーストキャリアでどんな会社を選べばいいか、ということが見えてくると思います。

それにどんなに時代は変わっても、本質的に社会で活躍する人の特徴は変わらないと私は思います。向上心があるかどうか。稼ぎたいという思いがあるかどうか。周囲が遊んでいようとも「自分はやってやるぞ」という気持ちがあるか。

昔に比べれば野心的な若者の割合は減りましたが、「稼ぎたい」というシンプルな理由で熱心に仕事をしている若者は今も一定数いる印象です。

さらに意欲的な人になると、自己責任のもと学生のうちから起業したり、早々に自営業になったり、というキャリアを選ぶ人も増えており、仕事に対して意欲的な人とそうでない人が二極化してきている気がします。

ただ中小企業の社長としては「起業ほどの冒険は考えていないけれど、サラリーマンとしては活躍したい」という層を増やし、底上げしていきたい思いがありますね。そういった社員たちの存在が、組織づくりには欠かせないからです。

「やりたいことが特にないので、とりあえず就職してみました」という若い人たちのモチベーションをいかに上げてあげられるか? ということを常に意識しながら、日々組織づくりや育成に励んでいます。

 取材・執筆:外山ゆひら

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