仕事への興味や意欲ゼロからの出発でもいい│肯定する力で理想のキャリアを手にしよう

タウンライフ 代表取締役社長 笹沢 竜市さん

Ryuichi Sasazawa・大学卒業後、1990年に大和ハウス工業入社、トップセールスマンとして活躍。住宅相談に関するインターネット活用を社内提案しサイト構築を手掛ける。2003年に独立しダーウィンシステムを起業。2012年に「タウンライフ家づくり」サイトをオープン。2021年に社名をタウンライフに変更

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悔しい思いも自分次第でプラスに転化

ファーストキャリアである大和ハウス工業に入社した当初、仕事に興味を持てず、ましてや昇進への意欲も持てませんでした。ですから何となく毎日を過ごしていたというのが正直なところです。

そんな私も入社3年目の春に社内結婚することになり、その結婚披露宴での主賓の挨拶がキャリアのターニングポイントになりました。主賓は私の直属上司でしたが、その主賓挨拶がネガティブエピソード連発で、たぶん、面白い話題にしようとしたのでしょうが、会場全体が凍り付くような感じになってしまいました。

さすがにこの挨拶はショックでした。これがターニングポイントになって仕事への向き合い方を変えました。悔しい気持ちを原動力に変えることができたことが、本当の意味でのキャリアのスタートになったかもしれません

とにかく真似る! トップセールスマンに這い上がった方法

まずは自分に足りない営業力や顧客とのコミュニケーション力人を惹きつける力を身に付けるため、成績の良い営業の立ち居振る舞いを徹底的に観察して分析し、そこから学びました

たとえば、住宅展示場で接客する際に誘導する際の手の向きや動かし方体の向きや目線の動かし方間取りを説明する際の図の描き方使用するペンの太さを0.3mmにすべきか0.5㎜にすべきかなどまで研究。さらには方眼紙を切る際に、どうやったら良い音が出るかまでこだわり研究し尽くしました。

そうやって数年間の努力を重ねた結果、入社5年目には150人いる支店営業マンの中でトップの成績を上げられるようになりました。担当区域がお金持ちの多く住む東京の世田谷区や目黒区、大田区といったエリアだったこともありますが、自分でも頑張った方だと思います。その後、住宅展示場の店長も務めましたが、担当する展示場は全国でも上位の成績を収めました。

営業の才能はもともとなく、そんな私も心構え次第でトップセールスマンになれたわけです。持って生まれた才能や職種ごとの適性というものの存在は否定しませんが、それよりも仕事への覚悟や熱意のほうがはるかに重要なのだと思います。

特別な入社動機がなくたって構わない

就職活動をしていた当時の私は「就職」に対する意義を見出せず、志望動機などを特に定めることもなく、行き当たりばったりの就活だったなと思います。

大学生時代はバンド活動にのめり込み、ギターやボーカルを担当していました。しかし、仲間は1人また1人とバンド活動を諦め、スーツ姿に着替えて就職活動に励むようになった姿を見て、私も就職を決心しました。

就活をはじめたものの、正直あまり身が入りませんでした

第一志望とする企業どころか業界や職種に対する希望すらありませんでしたし、就活軸も無い状態で就職活動を進めていました。そんな中、たまたま就職雑誌で見つけた大和ハウス工業に応募したのです。

住宅や建築業界にもこの会社にも強い関心はなかったのですが、そこからはとんとん拍子で、適性試験を受けることになり合格し採用内定。採用人数は多く決して狭き門ではなかったと思いますが、こうして私のファーストキャリアの道は開かれたのです。

このファーストキャリアがあったからこそ現在の自分があるし、ここで得た知見や経験、社会人としての基礎体力はかけがえがないもの。ビジネスの基礎能力を養ってくれた場として、ファーストキャリアの会社には感謝しかありません。

いまは起業して会社を経営していますが、ファーストキャリアの経験があったからこその起業でしたし、事業を軌道に乗せるうえでも、それまでに培ったノウハウや経験があったからこそです。

具体的な入社動機もなく始まったビジネスキャリアでしたが、出発点がどこだったかよりも、その後の仕事への向き合い方のほうがはるかに重要なのだと実感しています

起業家たちの活躍にインスパイアされ、起業を決断

一人の起業家の活躍する姿に影響を受け、私は起業を決意しました。その方とは住宅販売の営業をしている時代にお客様として出会った、あるベンチャー企業の起業家でした。

注文住宅の依頼を受け、予算を尋ねると「10億円以内かな」と軽く一言。今まで担当したことのない規模の豪邸を建てたいと相談されました。

初めて接した成功した起業家のパワーに驚き強烈な刺激を受けました

ある飲食店に同席した際に「僕はここで無銭飲食をするほど追い詰められた経験がある。見たところ君はまだ苦労を知らない顔をしている。起業して苦労してみたらどうだ。人生は修行なのだから苦労をした方が良いぞ」と、その起業家に言われた言葉が後のキャリアに影響をもたらす程、私の中で強く印象に残りました。

またあるとき会社のトップセールスマンとしてインタビューを受けた雑誌の掲載誌を見ていると、目に留まったのが別のページにあった楽天の三木谷社長の記事でした。

創業後、株式を市場公開した頃で、Eコマースを武器にすごい勢いで成長していることが紹介されていました。インターネットを活用したベンチャーがぐんぐん成長。三木谷さんの記事を読みながら、インターネットの将来性と重要性をひしひしと感じた記憶があります

思い立ったら即行動。早速、情報システム部に集客のためのサイト開設を提案し、仲間4人とともにネット商談機能住宅関連の映像配信機能を備えたサイト作りに取り掛かりました。ところがその途中で会社から副社長側近を兼務してほしいという打診がありました。

話を受ければ経営幹部の側近として出世コースに乗ることになりますが、一方でそれは同時にますます会社を辞められなくなることも意味します。悩んだ末に会社を辞めて独立起業する決心をしましたが、最終的には起業家たちにインスパイアされたという面は否定できません

大切にしている先輩経営者からの教え「『縁』は決しておろそかにするな」

タウンライフ 代表取締役社長 笹沢 竜市さん

「笹沢君、人の『縁』は大切にしなければ駄目だよ」。私はある先輩経営者に言われたこの言葉を胸に刻んでいます。人の縁なんて、自分から切らなくてもいつの間にか切れてしまうことも多い。だからこそ自分が縁を大切にしなければならない、そう教えられました。

ですから私は義理を欠かないことを意識していますし、縁あってつながった人と人との関係をおろそかにしません。本音では一人で音楽を聴いているのが好きな私が、それなりに人脈を形成し、認められているのは、縁を大切にしようと心掛けているからだと思います。

私は人と人との関係に限らず、職場や仕事との縁も大切にすべきだと考えます。たとえば就活の末にせっかく内定を得ながら辞退してしまうのは残念なことです。もちろん、より自分が望む就職先を得たのなら良いのですが、単に気が変わったり気が進まなかったりといった理由で辞退するのはお勧めできません。

肯定する力は自分を幸せにする原動力になる

自分が他者から評価され、あなたが必要だと言ってもらえたのに、せっかくのオファーを簡単に手放してはいけません。それは自分を肯定する力の弱さの表れでもあります。人間が幸福を手に入れるうえで肯定する力は大変重要です。

物事をあるがままに受け入れて肯定できているときは、その人にとって幸福なときです。現状に不満ばかりを感じ、いまを肯定できなければ人はどんどん苦しくなっていくだけです。現状を肯定すれば、現実とよりよい関係を築けます。

望みを高く持つことはプラスもありますがマイナスもあります。高い望みを持って自分を鼓舞して挑戦するのは素晴らしいことです。ただしそれは、いまの自分や現状を肯定したうえでの挑戦であるべきです。

バンドをやっていた頃の私の音楽活動はロックが主体でしたがポップミュージックも大好きです。山下達郎さんの楽曲もよく聴きますが、彼はポップミュージックを「肯定する音楽だ」と説明しています。

基本的に人間が生きること、人間の生を肯定し、人の生きることに奉仕する音楽がポップミュージックだという説明です。この肯定する音楽の説明はサザンオールスターズやユーミンの楽曲にも当てはまります。最近で言えば緑黄色社会やVaundy(バウンディ)の音楽にも、この「肯定する」音楽性を感じます。

少々脱線しましたが、いずれにしても人の営みにおいて肯定する力の存在は重要で、肯定する力こそ、人の成長や事業の成功、幸福感の獲得につながるものだと思います

就活では「目の輝きがある人材」がもとめられる

人材を採用する際に私が重視しているのは目の輝きです。会社を起業してしばらくした頃に、中学生時代の塾の先生との食事会に参加する機会がありました。当時、採用について悩んでいることを話すと先生は「目の輝きのある人間は絶対に伸びる」と自らの経験を基に力説してくださいました。

目の輝きがある人間は内に秘めた何かをもっている。現状を変えようという闘志や意欲が目の輝きにつながっているのだというのです。たしかに目の輝きが弱くてショボショボしているような人材には魅力を感じませんよね

ただし経営者としては一方で、挑戦する目の輝きの強い人材だけではなくバランスの取れた採用が必要だとの思いもあるのが事実です。槍一本で風車に立ち向かって行くドン・キホーテのような人材ばかりでは会社が成り立ちません。

ですから人のタイプはさまざまでいいのです。ただし仕事への意欲を視線に込めて自分なりの目の輝きを意識し、自信をもって就活に臨んでほしいと思います。

取材・執筆:高岸洋行

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