「面白そうなことをやりたい」という感覚的な指針でも構わない|自分の気持ちが動くキャリアの軸を見つけよう
ネクストジェン 取締役執行役員 齊田 奈緒子さん
Naoko Saita・1998年、エヌ・ティ・ティ・コムウェア新卒入社。2002年には社内の先輩が立ち上げたネクストジェンへ。2008年に品質管理室長、2012年に内部統制室長、2013年経営企画部副部長を歴任。2016年には、コーポレート本部内部統制グループリーダーとしてSyn.ホールディングス(現Supershipホールディングス)に転職。2018年にネクストジェンに再入社し、事業企画部長に就任。2020年に管理本部長・執行役員、2021年に取締役に就任し、現職
最初の転職のタイミングで「自分のキャリアの軸」に気づけた
「面白そうだな、新しいことができそうだな」とワクワクする。この気持ちを感じられるかどうかが、常に私のキャリア選択における軸になってきました。
キャリアアップの野望や志を持ったことは、新卒社員だった頃から一度もありません。ただ面白そうだと思うとすぐに「やりたいです!」と手を挙げるタイプだったので、そのなかで光栄なチャンスをいただいてきました。
とはいえ就職活動中の段階では、「自分は面白そうなことをやりたがる人間だ」という自覚はありませんでした。大学時代は日本女性初の宇宙飛行士・向井千秋さんに憧れ、宇宙飛行士を目指して物理系の学部に在籍していましたが、志望者のレベルの高さを知り、この夢は断念することに。
そのタイミングで興味を惹かれたのが、私のファーストキャリアとなるエヌ・ティ・ティ・コムウェアです。ソフトウェア開発の部隊としてグループの母体から独立し、一期生を募集しているとのこと。「なんだか楽しそうだな」と感じ、あまり迷うことなく入社を決めました。
4年後には、新人時代にお世話になった上司や先輩たちが新しい会社を立ち上げると聞き、転職を決意。日本で初めて電話のIP化を成し遂げるプロジェクトに参画することになり、社会のインフラを変えるような、新しいことに携われる……とワクワクしました。
半数以上は知っているメンバーでしたし、「よく来たね、待っていたよ」と迎えてもらったので、私としては社内異動くらいの感覚でした。ただ周囲からは「なぜエヌ・ティ・ティ・グループに入社できたのに、わざわざベンチャー企業に移るの?」と反対する声もありました。しかしそう言われても「楽しそうだから、ワクワクするからやってみたい」という意志は揺らがず、一ミリも転職を迷わなかったのです。
このときに初めて「自分が大切にしている軸」のようなものに気づけた実感があり、その点でキャリアにおける最初のターニングポイントと言えるかと思います。
一般論よりも「自分との接点」を感じられるような志望動機を語ろう
キャリアの軸は、就職活動中に見つからなくても焦る必要はありません。ただその状態でファーストキャリアを選ぶのであれば、「何かしら自分との接点がある業界や会社」を探してみるのがオススメです。
たとえば「IT業界行きたい」という人の場合、「将来性があって安定していそうだから」「スキルが身に付きそうだから」という志望動機だと、世間一般論を述べているだけで自分との接点はないですよね。
一方、「スマートフォン(スマホ)を触っていて、こんなアプリがあればいいなと思ったから」「この業界の本を読んで、面白そうな仕事だと思った」ということだと、自分との接点から興味を持った、ということになります。後者のほうが入社後も興味を持って働ける可能性が高いですし、会社側から見ても説得力のある志望動機になると思います。
接点がある業界や会社が見つからないときは、「触れる情報の範囲」を広げてみてください。ニュースなどを見て関心を持ったテーマがあれば、それに関連する会社を列挙して当たってみるもよし。興味関心事は身の回りの環境によっても変化していくので、普段関わる人や場をちょっと変えてみるのも一案です。
それでも見つからないときには、「いっそ開き直ってみる」のも悪くはないと思います。1社目で得られる経験はキャリア形成の基盤になることを前提に、「自分が社会人としての基礎を身に付けられそうな場所はどこか」「先輩たちや職場の温度感と合いそうか」くらいの判断基準で絞ってみてはどうでしょうか。
面接でも、適当な理由を見繕って話すくらいなら「今は迷える羊ですが、運命を感じられる会社との出会いを探しています!」というくらい開き直って話してくれたほうが、その実直さに好印象を抱く面接官は少なくない気がします。
表裏のある態度を取っていると必ず相手にも伝わる……というのが私の持論です。日々の仕事のなかでも陰口を言わない誠実な態度を大事にしているので、採用面接でも「正直に話してくれる人」を評価しています。
「多様な考え方を受け入れて成長したい」と2度目の転職を決意
2010年には配偶者の海外転勤に帯同し、アメリカでのリモートワークを経験しています。この選択も「面白そうだから付いていきたい!」という理由からの決断でした。
ネクストジェンは創業当時からリモートワークを導入しており、海外の企業ともすでに遠隔でやりとりをする文化が根付いていました。普通の会社であれば辞めざるを得なかったと思いますが、そうした背景もあって上司のほうから「リモートでやれば?」と言っていただいた形です。
時差があるため1日4時間勤務にさせてもらい、日中は語学学校や大学の聴講生として勉強をして夜から働く、という生活を半年ほど経験しました。ただ当時は「自分ひとりが海外で、他の皆はオフィス」という感じだったので、アウェイな感覚を覚えることもありましたね(笑)。
今はそれぞれ自宅、オフィス、カフェなどから自由にアクセスをして、違和感なく会話をしあえる時代になった。この点は10年前と比べて、大きな変化だと感じています。
海外生活を経験して一番良かったことは、日本とは比較にならないレベルでの「多様性」に触れられたことです。学校には発展途上国から来ている学生もいれば、石油王のご子息もいて、自分を含めた世界中の人が、訛りのあるクセの強い英語でなんとかコミュニケーションを図っている。思うように通じない場面も多かったですが、「自分とは異なる、いろいろな考え方の人たちを受け入れて成長していこう」と考えられるようになった点で、キャリアにおける2つ目のターニングポイントだったと感じています。
日本人同士だとついつい「なぜこのように考えられないのかな」「どうしてこれができないの?」などと思ってしまいがちでしたが、帰国後は「それもすべて、それぞれの個性だ」と寛容に受け止められるようになりました。
帰国から数年後には、社会人大学院にも通い始めました。15名程度で立ち上げたネクストジェンですが、その頃には100名規模になっており、多くの中途入社メンバーから他社の話を聞くなかで「会社ごとに違う常識があるのだな。私も外の世界が見てみたい」という思いが膨らんだことが理由です。
業界も職種も異なる社外の人たちとのコミュニケーションから受ける刺激はとても大きく、この2年間で視野がかなり広がった実感があります。
当時はオンライン授業もなく、17時半退社で毎日通学する生活はそれなりに大変でしたが、上司にも「長いキャリアのなかの2年間なんて、たいしたことないから」と親身にサポートしていただき、とてもありがたかったです。
一方で、ずっと同じ先輩たちと仕事をしてきて、お互いの得意不得意も理解している仲間たちに甘えられる環境にずっといていいのかな……などとも思うように。その思いが極まった結果、2016年にはデジタル広告を扱う会社への転職を決意。
2018年には、またネクストジェンに再入社をしますが、このデジタル広告会社への転職では、これまでとは違い、誰ひとり知っている人がいない環境に飛び込んでみることに意味があったと思います。どの会社でも、似たような課題や悩みを抱えているのだという実感が持てましたし、一度外に出たことで、逆にまだまだネクストジェンで出来ることもあるなと客観視ができました。
就職活動は運の要素も大きい。「後からいくらでも挽回できる」と心得て
就職活動においてはキャパオーバーになってしまったり、思うようにいかずに悩んだりする人がいるかもしれません。もし志望業界や企業に入れなかったことで悩んでいるのであれば、それは結果として一旦受け入れるだけで十分です。チャンスは段階的にやってくるので、将来いくらでも挽回できます。
10年後には転職してその会社にいるかもしれないし、もしかしたら「結果的に今の会社に入ってよかったな」と思っているかもしれない。そんなふうに考えて、一旦やり過ごしてみるといいと思います。星の数ほどある会社をすべて見て回ることはできないので、「就職活動は“運”の要素も大きい」くらいに理解しておくといいかもしれません。
時系列としては少し戻りますが、私がこれまでのキャリアのなかで一番きつかったのは、SEとして長期間のプロジェクトを続けていた頃です。突然涙が出てくるなど、一時期「あれ、なんだか私おかしいぞ」という状態に陥ってしまいました。自覚のないまま、自分のキャパシティを超えてしまっていたのかなと思います。
そのタイミングで、法制度が変わり、急遽その準備をするための新設部署に入らないかとのオファーをいただき、「自分の得意なことを活かせそうだし、新しいことできるならやりたいです」と二つ返事で引き受けたのがエンジニアから管理企画系への転換契機になりました。
最初のキャパ超えの経験は焦りましたが、同僚や先輩と話してみたり、ジムで走ってみたりしながら、少しずつ気持ちを整理していきました。新設部署の異動も法改正のタイミングに合致していたという”運”が良かったと思います。その後もキャパ超え状態はありますが、初回に乗り越えられたことで、今は「これも私の個性で、そのうち戻るだろう」と客観的に自分を見ながらうまくリフレッシュして対処するようになりました。
抜けないトンネルはないし、明けない夜はないとはよく言ったもの。悩むにしても、「いつかは解決できる」ということは頭の隅に置いておくといいと思いますね。何が起きてもこの世の終わりではないので、「悩みには気楽に対峙する」くらいが最善です。
以前、昔のチームの同僚に「あのときは楽しかったね」と言ったら、「いやいや、めちゃくちゃ大変だったでしょ!」と返されたことがあります。私が忘れっぽいだけかもしれませんが、目の前の出来事が人生を左右するものに見えても、時間とともに良い記憶に塗り変わることもある、ということではないでしょうか。
「あとから振り返れば、この出来事も違って見えるかもしれない」なんて客観的な視点をもって、悩みや課題を見つめてみるのも一案です。
自分なりの工夫を仕事に込める+周りに協力を求める姿勢が成長の鍵
社会人になってから成長し、いろいろなチャンスを掴むためには、ぜひ「自分なりのエッセンス(ひと工夫)を仕事に込める」姿勢を心がけてみてください。
ソフトウェアの検証試験を例に挙げると、「指示された試験項目をやったら終わり」ではなく、「こういうパターンもやったらどうだろう?」と気になったことを試したり、創意工夫ができたりする人のほうが新たな価値を生めるので、活躍の幅がぐっと広がっていくはずです。
学業やアルバイト、サークル活動などでも「自分の考えを折り込む練習」をしておくと、社会に出てから役立つと思います。やらなければならないことや指示されたことをそのままやるのではなく、「この作業は何が目的なのか」を理解したうえで、その手順・方法に自分なりの工夫をしてみる。
併せて「周囲に協力を求めるのを恐れない態度」も身に付けておけると、強みになると思います。ひとりでできることには限界がありますし、ライフステージの時期によっても、仕事にコミットできる時間や量には波があるもの。会社は全体として回っていれば良く、世の中は助け合いで成り立っているんだ、と思っておいてください。
ただし周りにフォローをして欲しかったら、自分の考えや状況を隠さず、仲間に「きちんと伝える」という姿勢は不可欠です。
「きちんと伝える」という姿勢は、仕事相手に対しても有効に働くと思います。 以前SEとして開発部隊にいた頃、お客様とのやりとりで「前に言っていたことと違う」と気になりつつもやり過ごしてしまった結果、後から大きなトラブルになってしまったことがありました。
角が立つことを恐れるよりも正直な姿勢を貫いていたほうが、最終的にプロジェクトが成功し、お客様の満足をいただけるのだなと気づき、以来「その場できちんと伝える」ということは常に意識しています。
若手でも手応えある仕事ができ、意欲と期待値でチャンスをくれるのがベンチャーの魅力
ファーストキャリアで社員1万人以上がいる大規模グループの企業に入り、その後ベンチャー企業2社を経験してわかったことは2つあります。ひとつは、ベンチャー企業は若手でも会社に貢献できている手応えを得やすいこと。そしてもうひとつは、両者は重要な業務に抜擢する際の判断基準が違う、ということです。
ベンチャー企業は新人でも全力投球の活躍が求められる分、未熟だとしても「何かしらはやれている」という手応えを得やすいです。抜擢する場合にも、本人が目をキラキラさせながら「やりたいです!」と言っていて、かつ少しでも活躍の芽がありそうだと思ってもらえれば、年次を問わず、かつ実績がなくてもポジションを与えてくれることが多いです。
一方、大企業では全員をまず同じように育ててくれて、抜きん出てきた人を引っ張る……という感じなので、入社から10年くらいで役職を得ていく人が多いです。
どちらの環境が自分に向いているかは比較検討してみるといいと思いますが、今でもよく覚えているのは、3社目の転職先で、20代のプロジェクトマネージャーが50代の先輩社員に堂々と意見をしながらチームをまとめていた姿です。ベンチャー企業ならではの光景だな、年齢で役割を限定してはいけないな、と妙に感動を覚えました。
社外のベンチャー企業に飛び出していた時期は、私もリーダー職を任せてもらっていました。「業種が違っても、仕事における課題には似たようなところがある」とわかったこと、そして「どこで働いても力を出せる」と思えたことは、ひとつの自信になりましたね。
そうして2年間の経験を積んだ後、「これからやりたいことはネクストジェンにある」と気づき、2018年に再び当社に戻ってきました。
以降は事業企画部や、事業に寄り添った仕事ができる管理本部を任されています。長年いた開発畑とはまったく違う世界ですが、ここでも新しいもの好きな性分が活かされ、新しいことができる面白さを感じながら前向きに取り組めています。
これまでに経験した通信事業者へのインフラ構築プロジェクトの成功、新しい仕組みや制度の導入などの「変化を感じられる新しいこと」を今後も成し遂げていくことが、将来のキャリアにおける目標です。当社にはマレーシア在住の人事部長もいますし、「多様な働き方に柔軟に対応できるリーディングカンパニーになれたら」という思いも持っています。
明確なキャリア志向もなく、いつのまにか今のポジションになっていた感覚ですが、さすがに責任感は芽生えてきています(笑)。社内にも管理職の女性社員が年々増えていますし、後輩たちが参考にできるような仕事ぶりをしっかりと見せていけたらと思っています。
取材・執筆:外山ゆひら