「大企業かベンチャーか」の向き不向きはない|目的意識を持てる人が活躍する時代

ラストワンマイル 取締役 市川 康平さん

Kohei Ichikawa・学生時代に始めたアルバイト先で、新会社の立ち上げに参加するため入社。その後、グループの親会社の管理部門を経験。2015年にイズムスコンサルティング(現:ITサポート) を立ち上げ、代表取締役に就任。IPOを目指すプロジェクトで責任者を担うべく、2016年11月ラストワンマイル入社。同12月より現職

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大学を中退して入社。「必死にやればなんとかなる」と自信を得た1社目

初めて企業の立ち上げにかかわったのは、20歳のときです。人材系のベンチャー企業でコールセンター派遣のアルバイトをしていたのですが、社内ベンチャーを立ち上げることになり、アルバイトからも社員登用があるということで、その一人として名前を挙げていただきました

空き時間には経営の勉強などもさせてくれる変わった会社だったのですが、「面白そうだな、こんなチャンスは滅多にない」と思い、大学中退を決意。ここが私のキャリアにおける、最初のターニングポイントだったかと思います。

起業自体には、高校生の頃から興味を持っていました。父親が突然サラリーマンを辞めてフリーランスになった経緯もあり、親も大学を辞めること自体には割とすんなりと納得してくれましたね。バレーボールのサークル活動だけは熱心に続けていましたが、授業にはほとんど出席していなかったので、私自身も未練はありませんでした(笑)。

そうして、26歳の代表と20歳前後の若手社員3人というフレッシュなチームで、タクシー事業会社をスタート。最初の2年は現場を知るためにドライバー職も経験しつつ、主に管理部門の責任者を任されていました。

タクシー会社を運営するためには国土交通省の認可が必要で、開業後も定期的に監査が入るため、管理部門の責任者として監査関連の業務も担いました。しかし、初回の監査の折に準備が不十分だったため、「2週間の営業停止」という処分を下されてしまいました。

2週間も営業できないとなれば、単純に月の売上は半分になってしまいます。社長は私を責めませんでしたが、社長がグループの代表からお叱りを受けている姿を見て、自分が怒られるよりつらかったのを覚えています

このことから自らの責任を痛感し、一からすべてを勉強し直すことに。行政の判断基準を詳細に調べ、体系化したマニュアルを準備したことで、その後7回にわたる監査はすべてスムーズにクリアすることができました。

未経験からでも必死でやればなんとかなる」という自信を得られたことは、この会社にいた3年間での成長といえるかと思います。3年間でタクシー台数も3倍以上に増え、会社としてもそれなりに成長を果たすことができました。

「一見、難しそうなこと」をクリアする過程に充実感がある

2011年からは親会社に呼ばれ、グループ全体の管理部門に就くことに。ここでは税務調査や、労働基準監督署の対応業務などを経験しました。プライバシーマーク(Pマーク)取得のプロジェクトで責任者も務めたのですが、素人だったので、外部のコンサルティング会社にも入ってもらうことに。しかし彼らの仕事ぶりを見るなかで、「自分ならもっとより良いサービスを、リーズナブルに提供できるのではないか」と思うに至ったのです。

そうして2015年、Pマークの取得支援コンサルティングや経理代行業務を請け負う会社として独立を果たします。これがキャリアにおける、2度目のターニングポイントでした。

それまでは雇われの立場だったので、営業から実務まですべて自分でやらなければならない大変さは、ここで初めて知りました。「来月の売上をどう獲得するか」というプレッシャーは常にありましたし、時間を切り売りするビジネスゆえに人手が足らず、アルバイトも雇っていたので、収支のバランスを図ることにも苦労しました

とはいえ顧客を紹介してもらえる機会は多く、総じてみれば順調にやれていたほうかと思います。当社ラストワンマイルに出会ったのも、紹介をいただいて営業に出向いたのがきっかけです。社長とお話しする過程で、「これからIPO(新規上場)目指すから、うちに入ってサポートしてくれないか」と声をかけてもらったのが2016年。

しばらく悩みましたが、「ぜひやらせてほしい」と申し出て、IPOプロジェクトの責任者として入社を決め、翌月には取締役の立場もいただきました。これが3度目のターニングポイントになります。

市川さんのキャリアにおける、ターニングポイント

再び会社に入る決断をしたのは、「一見難しそうなことをクリアするのが好き」という性分が大きく影響していると思います。IPO経験者は社内に一人もいない状況で、ハードルはかなり高そうでしたが、だからこそ面白そうだと感じました

ちなみに「無理そうだと思うことを、努力して達成する楽しさ」を初めて知ったのは、アルバイト時代です。当時のコールセンターでは、受電後の平均作業時間が「3分」という状況でした。できるだけ時間短縮を目指そうというなかで、私はいろいろと工夫をして「4秒」にまで縮め、月間最高受電記録を何ヶ月も更新するような状況を作ることができました

社内エンジニアのところへ行き、「この作業のショートカットキーを作ってくれないか」とお願いしたこともあります。生来の面倒がりなので、同じ作業を2回したくないだけなのですが(笑)、いつも「仕組み化をして、いかにラクにその仕事ができるようになるか」は考えながら動いています。キャリア全般を通じて、「業務を属人化させない」ことは常に意識してきました

市川さんからのメッセージ

上場を目指す過程で初めて「報連相の大切さ」を知った

そうして2017年の年始から、本格的にIPOプロジェクトがスタート。当初は「2020年の上場」を目標にしていましたが、結果的に二度の延期が発生しました。一度目は税金関係、二度目はストックオプション関係のミスがあったことが理由です。

上場ガイドブックを読み込んで忠実に進めていたのですが、IPO審査は「教科書どおりにやれば通用する」という簡単なものではありませんでした。審査の中で「大丈夫だろう」と思っている部分が案外引っかかることもわかりましたし、証券会社と密にコミュニケーションを取る重要性なども痛感しましたね。最終的にはIPOの専門家にも入ってもらい、2021年11月に上場を果たすことができました

IPO審査の過程から学んだのは、報連相の重要性です。「もっと手前の段階で相談しておけば防げた」と感じた失敗もあったので、素直に反省し、小さなことでも、こまめに報告をするようになりました。「悪い情報ほど早くオープンにしたほうがいい」ということも心得ましたし、自分で判断していいのか迷うときは、それも含めてきちんと確認を取るべきだと今は思えています

報連相なんて、新人時代に学ぶことじゃないの?」と思われるかもしれませんが(笑)、ありがたいことに20歳の頃からそれなりに責任のあるポジションをやらせてもらってきたので、割となんでも自分で判断してしまう傾向があり、報連相の意義を真には学べていなかったのです。

入社3年目で気づけたこと

当社に来たことで学べたことは、他にもあります。以前は自己主張が強い性分が影響してか、あまり物事を客観的に判断できるタイプではありませんでした。

しかし今は「会社または自分にとって、中長期的な利益につながるかどうか」という視点を持って、ビジネスの判断ができるようになった自覚があります。リスクとリターンのバランスを冷静に見て合理的な判断をされる経営陣と仕事をするなかで、良い影響をいただいています

目先の給料よりも「興味を持って学べる業界かどうか」を重視しよう

ファーストキャリアについて今、私が思うことは、「給与や収入はあまり気にしなくていい」ということです。

採用をする側になってわかったことですが、高収入を打ち出した年度よりも、仕事のやりがいや社会貢献度を提示した年度に入った社員たちのほうが、入社後に活躍する傾向があります。お金だけを目標にするとモチベーションがぶれやすく、長続きしないということなのかもしれません。

新人時代の給料差は大抵、微々たるもの。職種を広げれば若いうちから稼げる仕事はありますが、「10年後、20年後にその仕事が社会に残っているのか」「歳を取ってからも、その仕事ができるのか」という視点で見れば、目先で稼げる選択肢が必ずしも正解でなくなるケースは少なからずあるように思います。

目先の給料にとらわれすぎず、「自分が仕事を通じて何をしたいのか」「どのような職種に就きたいか」といった視点でぜひ考えてみてほしいですね

また「その企業がやっているビジネスに対して興味を持てるかどうか」は、最低限見ておくべき条件だと思います。「好きこそものの上手なれ」とはよく言ったものですが、仕事で活躍したいと思うならば、苦労なく勉強できる分野を選んだほうが絶対に有利だからです

興味がある業界であれば自然に企業分析もできるでしょうし、インターンなどにも積極的に参加するはずです。実際、インターンに参加していた社員のほうが、入社後の成長率が高い印象もあります。譲れないポイントは人それぞれ違うとは思いますが、ぜひ長期的な目線で、意欲的に活躍できそうな場所を考えてみてください

市川さんからのメッセージ

面接に関しては、ロールプレイングをできるだけやっておくことをおすすめします。採用をする側として日頃感じていることですが、場数を踏んでいない人はやはり緊張感が抜けない印象です。最近はオンライン面接も多いですが、通信機器のトラブルなども準備不足に映ります。

質問に対して的確な回答が返ってこないケースも意外と多いので、「落ち着いて会話に臨み、相手の話の要点を捉えてきちんと答える」だけでも、かなり好印象に映ると思います。

大手を経験してみるのは悪くない。ただし仕事自体はどこでも同じ

転職をする前提であれば、「1社目はできる限り大手企業に就職してみる」のも一案です。

以前大手にいた」「大手とパイプがある」ということは結構な財産になるので、「大手を辞めてベンチャーに入る」というコースは比較的、難しくありません。しかし逆に「ベンチャーを辞めて大手に入る」というコースは、かなり難度が上がります。

就職活動をしなかった私のないものねだりかもしれませんが、新卒というプラチナチケットで大手企業に入れるならば、その経験はしておいて損はないように思います

予算の幅にしても、法律関係の許諾や認可の難易度にしても、大手企業と中小企業では「その会社の看板を使ってやれること」が大きく違います。アルバイト時代、「同じようなビジネスでも、大手とベンチャーでは予算の規模が2桁違うのだな」と驚いたこともありました

ただし、どんな規模の会社に入っても、どのような役職に就いても、「自分を評価してくれる相手に対して、どれだけ成果を出せるかを追求する」という点は共通です。

自分を評価してくれる人物が、大企業であれば直属の上司、小さなベンチャーであれば社長や役員陣、独立すれば顧客となり、相手が変わるだけ。仕事としてやること自体は変わらないので、向き不向きはあまり考える必要がないと思います

「目的意識を持って取り組む人」はどんな企業でも活躍できる

これからの時代に活躍する人材ということで言えば、「目的意識を持てる人」は強いと思います。

この仕事をなぜやるのか」という業務の目的をしっかり理解していれば、取り組んでいるうちに「こうしたらもっと上手くいくのでは? 」と業務プロセスの改善案を考えることができます。短時間で高い生産性を生みだす方法を考えられる人は、今後どんな職場においても求められる人材になっていくはずです

なぜなら実際の職場では、自分の業務を効率化することに恐怖感や抵抗感を抱く人が、想像以上に多いからです。「RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を導入して、数人分の仕事を削減できました」となれば自分の首を切られるかもしれないし、「自分でなければこの仕事はできない」と思いたい気持ちがあるからだと思います。

しかし実際には、その逆のことが起こります。以前、経理の若手社員にRPA導入を任せたところ、うまく業務に浸透させることができ、営業や他部署の人間からも「うちでも教えてほしい」と言われ、部の垣根を超えて活躍をする人材に成長していきました。「仕事を機械に任せたことで、自分自身はより多くの人に求められる」という状況が生まれたのです。

「言われた仕事を真面目にコツコツ淡々とこなせる」というだけでは、今後はAIやRPAに取って代わられる可能性が高いです。人間でなければできないことをしない限り、働くこともおもしろくないと思うので、ぜひこれから社会に出る皆さんには、「自分がやっている業務をどれだけラクにできるか」という視点を持ってみて臨んでみてほしいです。

目的意識を持つことが重要な理由

「目的」を意識していれば、壁にぶつかったときにも効率的に対処ができます。その目的に対して、与えられている権限の範囲でできることをして、範囲外のことは権限を持っている人を巻き込めばいいだけだと理解でき、ただ悩むだけの無駄な時間を過ごさずに済みます。

就職活動に応用するならば、「自分でまずは調べてみて、わからなければわかる人に聞く」「力を磨く必要がある部分は、できる人に協力を仰ぐ」ということになるでしょうか。このサイクルを最速で繰り返していくと、目的の達成に近づいていけるはずです

市川さんからのメッセージ

目的意識を身に付ける訓練は、日常生活のなかでも可能です。身の回りの世界から「なぜ」を見つける習慣を付けてみてください。「エレベータの開くボタンはなぜ上下2個ついているのか? 」「炭酸のペットボトルはなぜ丸いのだろう? 」といったことで構いません。

モノの形状や仕組みというのは必ず「目的」があってそうなっているので、インターネットでちょっと調べてみるだけで、「こういう目的があって、こう作られているのか」と分かるはず。こうした訓練を繰り返していると、仕事の場面でも目的意識が芽生えやすくなると思います

健康を大切にしながら「生涯現役」で挑戦を続けていきたい

最後に、私自身のキャリア展望についてお話しします。現在の当社は、個人向け新生活サービス『引越しワンストップサービスまるっとチェンジ』の事業に注力しています。顧客からも好評をいただいているので、この事業領域で圧倒的な優位性を目指し、中長期的に成長し続ける企業にしていくことが、現在の私のビジョンです。当社が持っている武器を研ぎ澄ませ、企業価値を上げていくことに貢献していきたいです。

個人的なキャリアということで言えば、外部のベンチャー企業に投資して上場を支援するコーポレート・ベンチャーキャピタル(CVC)には、一度かかわってみたいと思っています。

プライベートでは、人生の土台である「健康」を大切にしていきたいです。最近はマラソンの大会に出場しており、上位3割しか達成できないと言われている「4時間切り」を目標に練習に励んでいます。いずれトライアスロンにも挑戦してみたいですね。

仕事と同様、運動には「頑張ればクリアできるかも」というゲーム感覚があり、それが楽しいのかもしれません。いずれにしても、生涯現役で常に何か新しいことに挑戦し続けていくことが、今後のキャリアにおける目標です

市川さんが贈るキャリア指針

取材・執筆:外山ゆひら

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