仕事の情熱は、今の「好き」から生まれる|苦しい時こそ、自分を全肯定しよう
ノースショア 代表取締役社長CEO 石井 龍さん
Ryo Ishii・高校卒業後、ブラジルにサッカー留学へ。20歳で帰国し、3DCGや映像編集、グラフィックスデザインを学ぶ。実写と3DCGを合成した卒業作品がテレビ番組で取り上げられ、映像制作会社に入社。その後、広告制作会社に転職し、CM業界で幅広いキャリアを経て、2004年には劇場公開映画を監督。CMディレクターとして数々のナショナルクライアントを担当し、現職
「こんなCG作品を作ってみたい」湧き上がる純粋な気持ちから、クリエイターとして活躍
私は学生時代、体育と美術が好きで、若いうちにスポーツで夢を叶えようと、高校卒業後にブラジルへサッカー留学に行きました。
20歳で帰国し、次は美術の能力を伸ばしたいと思っていた頃、たまたま観た映画が世界初の全てCGで作られた長編映画『トイ・ストーリー1』でした。
今までの映画では俳優の演技によって観た人が感動してたのが、「CGでこんなに感動するんだ」と衝撃を受けたことを覚えています。それと同時に、「こんな映画を作ってみたい!」という気持ちが沸き起こりました。
さらに、今からCGを学んでおくことで、10年後、20年後に、世の中から求められるスキルを身に付けられるのではないかと思い、コンピュータグラフィックスの学校に入学。そこで3DCGや映像編集、グラフィックスデザインを学びました。
卒業制作で作成した、実写と3DCGを合成した映像がハリウッドのCG事情を特集したテレビ番組で取り上げられ、それを機に派遣社員として映像制作会社に入社しました。
そうして学生時代から実際に手を動かして作品づくりをするなかで、私の場合は自分で映像の一部分を作るよりも、全体の設計を考えるほうが好きなことに気付きました。
世の中に伝えたいメッセージや世界観があったので、作品の全体像を作り上げるディレクターが適職だと思ったのです。
その後、老舗の広告制作会社に転職。自分の得意分野で情熱を注ぎ込み、とても楽しく充実した日々を送っていました。
そんな中で、ふと自分の将来を考えるようになりました。映像クリエイターの主な成功モデルは、フリーランスになって活躍すること。ただ、多くのケースで45歳から50歳頃にキャリアのピークを迎え、それ以降は停滞していく様子を多く見てきたのです。
そこで、まずはフリーランスとして活躍することを目指し、その後はクリエイターではなく、クリエイターの育成やマネジメントをする立場になろうと思ったのです。すなわち、起業してクリエイターの組織を作ることを決めました。
順調なキャリアから挫折を味わう。新たな情熱が生まれ、現在のノースショアへ
その後の2008年2月、CMの企画制作会社としてノースショアを設立。実質フリーランスのような形で活動を始めました。しかし、同時期にリーマンショックが起き、言うまでもなく広告業界も不況に。
よくよく考えた末、一気に事業を転換することにしました。今後伸びると言われていた環境事業で、循環型でエコな社会を志し、バイオ燃料事業を立ち上げたのです。
一生懸命取り組みましたが、結果的には億単位の資金を失い所持金は数万円に。事業停止することになってしまいました。
それまでは、仕事に情熱を注げば注ぐほど結果が出て、周りや世の中にも喜んでもらい、自分自身も賞賛を受けていたので、初めて大きな挫折を味わいました。
「自分は社会から必要とされていないんだ」というような思いが毎日のように自分に去来してとても苦しかったですね。
誰からも必要とされないというのはこんなにも苦しいのだと痛感し、もう一度世の中から必要とされるには何をしたら良いのだろう、と自問自答する日々でした。
そんな時、ウォルト・ディズニーの伝記を読んだことが、大きな転機となります。
ディズニーの会社は、最初はCMのアニメーション制作会社で、そこから仕事や人がどんどん増えていき、会社が潰れそうな時期もあったりなどさまざまな困難に打ち勝ちながら、コンテンツ企業として成長していきました。
その経緯を知り、どれだけ成功している企業や人も、どん底のような経験をし、それを乗り越えて成長しているのなら自分も頑張れそうだと思ったのです。
そして、2010年9月にノースショアを再始動。
それ以来「クリエイティブに全力を注げる、クリエイティブ楽園をつくる。」というビジョンを掲げ、クリエイターにとって最適な職場環境を作ることに注力してきました。
私が仕事において大切にしているのは、目先の利益以上に価値観を大切にすることです。
2020年頃までは、売上や利益を重視して経営をしていましたが、それによって社員の考え方や価値観にズレが生じたことがあります。
その経験をもとに、短期的な視点ではなく、長期的、永続的な視点をもって、組織をより良くするための価値観やミッションを決めることにしました。
2022年3月、新たなミッションである「Make Fans」を策定。クリエイティブの力でクライアントのファン、そして私たちのファンを増やし、社会そのものをクリエイターの楽園にしていくという想いを込めています。
仕事選びは、何よりも「好き」や「やりたい」を大切に
仕事選びをするときは、何よりも好きなこと、没頭できるなどやりたいことを選ぶのが自身にとっての幸せや成功への近道だと思います。それが、ゆくゆくは仕事における情熱になっていくことが多いからです。
私自身も、最初のきっかけはトイ・ストーリーを観て感動し、自分も作ってみたいと思ったことです。
子どもっぽいと思われる動機かもしれませんが、好きという気持ちとやりたいという気持ちでその道に進んだ結果、そこに情熱が湧いてきましたから。自分の気持ちに素直に仕事や会社を選ぶのが、一番幸せなキャリアだと思います。
また、自分が一緒に働きたい人がいるかどうか、働きたいと思う雰囲気やカルチャーのある会社かどうかも大切です。
どれだけ給料などの条件が良く、これから伸びる業界だと言われていても、自分が好きではない仕事、自分に合わない会社だと、精神的な満足感を得られません。
満足が十分に得られず没頭できないと仕事の結果が出ないこともあります。会社説明会や社内見学、面談などでリサーチを重ねてみてくださいね。
これから求められる人物像は、どのような時代においても人格が重要だと思います。
大先輩になりますが京セラの創業者である稲盛和夫さんや、パナソニックを創業された松下幸之助さんも本にも書かれていますが、彼らは激動の時代を生き抜く中で、社会が劇的に変化するタイミングも経験しています。
それでも結局、困難を乗り越えたり成功といった結果を出すのは人だということから、人としての心を大切にした方が良いことは変わらない、とありました。
これからの時代も、需要の高いスキルは変わっていくと思いますが、それ以上に、「この人と一緒に仕事をしたい」「この人と仕事をしたら幸せに感じる仕事ができそう」と思われることで、成功する確率が高くなると思っています。
これまでずば抜けたセンスのあるクリエイターや、高い技術力のあるクリエイターなどたくさん見てきましたが、周りから信頼を得ていない方などは、その後の仕事が減ったり活躍が聞かれなかったりしていくのを見聞きしてきました。
反対に、60歳、70歳になっても活躍している人は、とても謙虚だったり、物腰が柔らかかったりと、人柄が優れている人ばかりです。長く活躍していきたい人は、人格を磨くことにも力を入れると良いでしょう。
苦しいときこそ自分を全肯定しよう。必ず過去よりは成長している
社会に出て壁にぶつかった時、苦しいときは、「自分の現状を全肯定すること」から始めましょう。
これは尊敬する先輩方から学んだことでもあり、私自身も今までいろいろな挫折を味わってきたなかで身に付けた方法です。自分を否定したり、さげすんだりせずに、とにかく自分を肯定しましょう。
具体的には、とても辛い現状に対して、それは数年前の自分と比べてどうなのか、というように考えてみるのです。
学生時代に味わったどん底のときよりは成長しているかもしれないとか、社会人になりたての頃よりは、一つ上の悩みを持っているのかもしれないとか、過去の自分と比べて変化していることを考えると、ポジティブな視点が生まれると思います。
また、目の前に現れる課題というのは、すべて自分の選択によって起きているものです。環境や周りのせいではなく、自分から派生しているものだからこそ、自分で変えられます。
自分に乗り越えられない壁はありませんし、さらに成長する機会にもなります。どんな自分になっていけるのか、どんな風に成長できるのか、といったネガティブな面でなくポジティブな面にフォーカスをして、焦らず一歩ずつ進んでいきましょう。
取材・執筆:志摩若奈