最後の最後は「直感」を信じて進め|好きなことを突き詰めればそれが価値になる
manaby 代表取締役社長 岡﨑 衛さん
Mamoru Okazaki・1987年生まれ。宮城県仙台市出身。大学時代に起業し、障害者向けの就労支援事業所を運営する。その後、新しい就労支援の在り方を構想し、2015年に「第3回ダイムラー・日本財団スタートアップ基金 ビジネスプランコンテスト」にてグランプリを受賞。その後、一人ひとりが自分らしく働ける社会をつくりたいという想いから、2016年にmanabyを立ち上げ、現職
「自分に正直に生きる」を貫くために起業
高校生の頃にキャリアについて考えた時、「好きなことを仕事にしたい」「自分に正直に生きていきたい」といった思いを持っていることに気づいたので、それからは自然と「起業」を将来の道として志すようになりました。
すぐにでも実現したかったので、在学中に起業できそうな宮城大学の事業構想学群に入学。ただ、講義で学ぶだけでなく、実際に行動に移していく必要性を感じたことから、インターン先を探し始めました。
そのなかでも気になったのが、障害者の就労支援をおこなうソーシャルベンチャー。どの仕事も社会に貢献していることは確かですが、その度合いが特に大きい事業だと感じたのです。
実際にインターンを始めると、自分が予想していた以上に障害者の方々の思いや悩みに共感することがありました。たとえば精神疾患のある方に多いのは、「周りの意見や社会の当たり前に合わせると、心身の調子を崩してしまう」という悩みです。
私自身も、周りに合わせるのではなく正直に生きたいという思いもあって起業を志すようになったので、とても共感する部分がありました。
そうしたインターンでの経験を経て、大学3年生の頃に起業。障害者の就労支援事業を始めることにしたのです。
障害者の方でも在宅勤務できる社会へ
日々支援をするなかで感じたのは、障害者の方が就職しても、入社後にすぐに辞めてしまうケースが多いということ。
就業後の利用者様にヒアリングをしてみると、職場に馴染めなかったり、人間関係で悩みを抱えていたりといったことや、自分らしく働くことができないという声もありました。職場での障害者の方への理解や配慮が足らず、さまざまな悩みが現場では生まれていたのです。
しかし、就労移行支援という枠組みのなかでは、就活時のカウンセリングや職業訓練など、あくまでも就業までのサポートしかおこなうことができませんでした。
なんとかこの状況を改善したい。そう思っていた時、決定的な出来事が起こりました。
今から約10年前、アプリ開発のスキルを持っている地方在住の方をご支援したときのことです。当時はアプリ開発のスキルを持つ人は引く手あまたでしたから、すぐに就職先が見つかるだろうと思っていました。
しかし当時の地方ではそもそもそのスキルを活かせる就職先が少なく、就職活動に大苦戦。首都圏には多くの求人がありましたが、その方は住み慣れた土地を離れることに不安を抱えていました。結果的には、それでも就職することを優先し、首都圏まで面接に行くという選択をされました。
その様子を見て、「障害者の方でも在宅で働くことを選べる社会にできないか」という構想が生まれたのです。この構想をまとめたものはビジネスコンテストでもグランプリを受賞し、まさに社会から求められていることであると強く実感したことを覚えています。
そして、「一人ひとりが自分らしく働ける社会をつくりたい」という想いから、2016年にmanabyを設立しました。
私たちのミッションとしても掲げている「一人ひとりが自分らしく働ける社会をつくる」という想いは、多くの利用者様に届き、ありがたいことにたくさんの感謝の声もいただいています。
たとえば、身体に麻痺の症状があり、自由に動かせるのは右腕のみという方。中学生の頃から20年近く外出できない状態が続いていました。ただ、学校に通っていた頃にはパソコンに関する賞を受賞するなど、ITに関する高い能力がありました。
相談支援事業所からの紹介でmanabyを知り、そこで障害者の方が多数活躍しているということを聞いて、「自分も働けるかもしれない」と初めて希望を抱いたとおっしゃっていました。
その後は実際にmanabyを利用していただけることに。自宅から事業所までの道のりは途中まではご両親が送られ、そこからは当社のスタッフが迎えに行き、みんなで力を合わせて支援を続けました。
その結果無事に就職でき、初任給をもらったときはとても感動されていました。私たちとしても感無量の思いでした。
長年自宅から出られなかった方や、社会との距離を取っていた方が、明るい気持ちで社会復帰したと聞くと、「この事業をやっていて良かった」と心から思います。
コミュニケーションは状況と相手に合わせて工夫すべし
仕事において大切にしているのは、高校生の頃から変わらず「自分に正直に生きること」。これは今後の人生においても変わらず大切にしたいと思っています。
自分自身の考え方や価値観は社会の中では少数派だと感じることもあり、それを認めて受け入れながら、正直に生きることを貫いています。
できるだけ周りに迷惑を掛けないようにする配慮は必要ですが、できないことはできない、やりたくないことはやらない、というのは正直に伝えるようにしています。
また、利用者さんやスタッフとのコミュニケーションにおいては、そのときどきの状況に合わせて工夫することを心掛けています。
たとえば、経営に関する話をするときは、論点がズレたり話が脱線してしまわないよう、結論を意識しながら話を進めて会話に導線を作るようにしています。
一方で利用者さんやスタッフの思いや考えを聴くときは、ただ聴くことに徹します。というのも、結論を求めてしまうとそこに向かっていくための会話になり制限が生まれてしまうからです。
状況に合わせたコミュニケーションを取ることで、お互いに信頼関係が築けていけると思います。これはさまざまな場面で活かせる考え方だと思うので、ぜひ就活生の皆さんも意識してみてくださいね。
最後の最後は自分の「直感」を信じて
就活における業界や企業選びでは、損得勘定よりも、「自分に合っているか」を重視するのが良いと思います。
今伸びている市場でも数年後にはどうなっているか分かりません。たとえ今の給与や賞与が魅力的に見えたとしても、それだけを目的にするのは避けた方が良いと思います。私がインターンを選んだときも、まずは「自分に合うか合わないか」を判断基準にしていました。
ただ、実際に働くまでは仕事がどういうものかなんて分かりませんよね。だからこそ、そこで働いている人はどんな人なのか、会社はどんな雰囲気なのか、事前にできる限り判断材料を集めて、それからしっかりと吟味して選んでいくことが大切です。
そして、最終的には「直感」も大切にしてください。なんとなくでも「ここは合わないかも」と感じたなら、素直に自分の直感に従った方が良いと思います。恋人選びと同じようなもので、理屈では測れないものもあるはずですから。
周りの意見や条件面だけで会社を選ぶと、後から後悔することもあると思うんです。その点、「自分で選んだ」という認識があると、仕事に対する責任感やモチベーションにもつながります。
「生産性」と「希少性」で、会社にも社会にも求められる人材に
これから求められる人物像は、会社においては「会社に貢献するために生産性を上げられる人」です。特に今は残業時間の削減が進められているので、限られた時間の中で成果を上げることが必要です。
まずは成果を上げていく方向性を決めるために、「自分がどのようにキャリアアップしていきたいのか」を若手のうちに考えておくと良いでしょう。
専門性を高めていくのか、マネジメントのほうに進むのか。それによって、日々の努力やアプローチが変わってきます。
自分で決めきれなかったら、いろいろな人に相談してみて自身の適性や思いを整理してみてくださいね。
また、社会的に価値のある存在になるためには、逆説的ですが、あまり社会を気にしすぎず、自分の好きなことを突き詰めていくと良いと思います。
「社会的に価値がある」というのは、「希少価値が高い」とも言い換えられます。そして、希少価値というのは、「需要に対して供給が少ない場面」で生まれます。
ただ今社会に求められているからといって人気の業界に身を置いたとしても、そこで稀有な存在になるのは確率的にかなり難しいです。
それよりも、自分が好きなことを仕事にして、その業界で自分自身の能力を高めていったほうが、結果的には社会的な価値も高まっていくと思います。
最後に。就活をしていくと、思うように進めることができなかったり、自身と他の人との違いが目についたりして「自分はやっていけないのではないか」「社会からドロップアウトしているのでは」といった思いが芽生えることもあるかもしれません。
ただ、もし自分が社会の中で少数派であると感じたとしても、気にしなくて大丈夫。社会において少数派だからこそ結果的に功を奏したというケースも多いですし、あまり気負いせずに、自分を責めず、前向きに考えてもらえたらと思います。
何よりも、自分に正直に就活や仕事に向き合っていってくださいね。
取材・執筆:志摩若奈