一瞬一瞬に全力を尽くしていれば後悔はない|失敗か成功かを考えず、まずは走り出してみよう

シャボン玉石けん 取締役 営業本部長 松永 康志さん

Yasushi Matsunaga・1973年、福岡県生まれ。早稲田大学を卒業後、電機や食品、家庭用品などの外資系グローバル企業にてマーケティング業務に従事。2009年12月にシャボン玉石けん入社。商品企画、広告、広報、販促などのマーケティング業務に従事。2014年からはマーケティング部、営業部、通信販売や工場見学・出張授業などを行う石けん推進部の3部門を統括。2019年からはSDGsも推進。2021年3月、取締役 営業本部長に就任

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大手日本企業の内定を辞退して外資系企業へ。なんとかなる・なんとかするマインドを磨けた1社目

キャリアにおける最初のターニングポイントは、就職活動の終盤に内定辞退をしたことです。国内大手の電機メーカーに就職が決まっていたのですが、内定者の会で社歌が流れてきた瞬間に「この社風は自分には合わないかもしれない」と直感が働きました。

内定を辞退する際は会社やリクルート担当の大学先輩にご迷惑をお掛けしましたが、若気の至りもあり、意思は曲げませんでした。若くとも潜在的に持っている価値観はあるはずで、直感的に合うと感じる会社を選んだほうが幸せに働けるだろう、と今でも思っています

その後は一度内定を辞退した外資系の電機メーカーに「入社したい」と相談したところ、快諾いただき入社させていただけることになりました。しかし、実家の家族には心配されました。新卒で入社を決めたグローバル企業ではありますが、内定を辞退した日本企業と比べれば、親世代にとってははるかに認知度の低い会社でした。

それでも意思を貫いたのは、「人と違うことをしたい」というあまのじゃくな性格も関係しているかもしれません。当時でいえば外資系に新卒で入社する人は珍しかったですしね。高校時代に1年間アメリカ留学をしたときも、日本人留学生の多くが西海岸や東海岸に希望を出すのですが、中部のエリアをあえて選んだ記憶があります。その町には日本人がいなかったため、英語力も身に付けることができました。

 もしあのまま国内メーカーに入社していたら、その後のキャリアが変わっていたかも……とは今でも思うことはありますが、結果的に1社目の選択には満足しています。

入社後は英語が多少できるということで購買部門に配属されました。日本のサプライヤーから電子部品を仕入れて、海外のグループ工場に供給するような部署です。2年目にはいきなり単独で海外出張にも行かせてもらいました。

技術畑の年が離れた大先輩ばかりのチームになり、手取り足取り指導していただける環境ではなかったので、当時は正直つらかったです(笑)。

一方で「何かをやってみたい」というときに止められることもない環境のおかげで、後々のキャリアにつながる「なんとかなる、なんとかする」というマインドを身に付けられた実感があります

当時、同部門は部品だけではなく日本市場やサプライヤーの新技術や新商品などの情報も提供していました。毎月冊子にして海外グループに提供していましたが、それでは情報は古くなります。そこで、まだインターネットが普及しきっていない時代でしたが「紙資料をやめてオンラインで提供しよう」ということになり、海外のグループ内のクライアント向けにイントラネットを立ち上げることになりました。データベース構築やイントラネットなどは全くスキルも知識もなかったため、外部研修にてデータベースやアプリケーションの開発などを学び、手探りで作り上げました。

この経験からも、ファーストキャリアでは「チャレンジをさせてもらえる環境に飛び込むこと」を勧めたいですね。その経験値がキャリアを拓いていく鍵になります。就職活動でも「成長の手応えや充実感が得られそうな企業かどうか」といった観点を重視してみると良いと思います

ただし成長実感を得るためには、自ら率先してチャレンジしようする姿勢も必要です。失敗か成功かはわからなくてもとりあえず動き出してみて、走りながら修正をする、というスタンスも良いと思います。

松永さんからのアドバイス

マーケティングの面白さに目覚めて転職。2社目ではヒット商品を生み出す経験も

入社3年目にはまた違う部署に異動することになり、ここで初めてマーケティング関連の仕事を担当します。

パッケージデザインやCM制作、展示会やショーへの出展など、多様な業務経験を通じてこの領域の仕事の面白さを知ることになりました。次第に「もっとマスに訴えかけられる商品を手がけてみたい」、「コンセプト開発からできる商品を作りたい」と思うようになり、社会人6年目のタイミングで、この職種で転職をすることにしました。

そうして2社目に選んだのは外資系の調味料メーカー。クッキングソースの新商品開発に携わったり、経営や営業社員を相手に社内プレゼンテーションをしたりと、初めての経験をたくさんさせていただきました。

あちこち美味しい洋食屋さんを回っては味を勉強し、自宅でもたくさん調理をしました。ヒントになる味を見つけたときは、味を伝える能力がないので研究開発の担当者をお店に連れていき「こういうソースを作りたい」とイメージを伝えていましたね。そのソースはヒット商品となり、今でも売り場に並んでいることをとても嬉しく感じています。

無論、成功体験ばかりだったわけではありません。営業社員から「こんなものは売れない」といった厳しい意見をもらうことも日常茶飯事でした。ただそうした厳しい言葉を投げてくる人ほど、いざとなれば熱心に販売してくれることが多い、ということも新鮮な気づきでした。今でもその先輩とはその当時の戦友として連絡を取り合っています。

食は生活にも身近な分野なので、とても楽しかったです。「ずっとこの仕事をしても良いな」と思っていましたが、一方で自分の力不足を感じる場面も多々ありました。

特に逆さまボトルのケチャップを新発売する際に担当しましたが思うようには売れませんでした。デザインやCMの打ち出し方などは、経験を積んだ今思うと「もっと違うやり方があったのではないか」とも思います。当時渋谷にあったバーでキャンペーンも展開したのですが、SNSが今のように普及していれば、もっと話題になったのではないかと今でも思っています。

そうした経験を経て「もう少し本格的にマーケティングを勉強したい」と思うようになり、次の会社に移ることにしました。

松永さんのキャリアにおけるターニングポイント

地元へのUターンを決意して当社へ。面接には企業理解を深めてから臨もう

3社目に選んだのは、外資系の家庭用化成品メーカーです。社内のやりとりはすべて英語というグローバル企業で、同じ外資系でも、1社目や2社目とはまた違った雰囲気の会社でした。

ここでは外資マーケター出身の社員も多く、トイレタリー部門の一員として、マーケティングの基礎的な部分や戦略的思考を学ばせてもらいました。本社との結びつきが強い会社だったので、海外のリサーチャーと一緒に家庭のトイレを調査で見て回ったことも印象に残っています。

この会社には、2年ほどしか在籍していません。というのも、このとき第二子を授かったばかりでちょうど子育ての場所を考え始めた時期だったんです。「自分が育った環境と同じように、海のそばで子育てがしたい」という考えから、関東圏の海沿いのエリアを検討していたのですが、「年老いていく両親の近くにいたい」という思いも膨らんできて、地元へのUターンも考え始めていました。しかし、Uターンするとしても働き先がないと生活ができません。その時、数年前に生まれたばかりの上の娘を連れて家族で工場見学をしたシャボン玉石けんのことを思い出しました。

幼少期から母が作る無農薬野菜を食べて育っていましたし、両親は海を守るボランティア活動をしていました。それに妻はナチュラル志向で石けんユーザー。無添加石けんへのこだわりには共感するところがありました。マーケティング職は大好きですが、「自分が心から薦めたいと思える商品やサービスを扱っている会社でマーケターとして働きたい」という思いも強く、シャボン玉石けんなら自分のキャリアも活かすことができ、会社や社会にも貢献できるのではないかと思いました。

根拠はないものの「良い商品を出しているから、今後まだまだ会社の売上を伸ばせる」と確信し、募集もされていなかった当社の門を叩いてみることに。会社の歴史や商品、今後の市場のことを考えたり、専務が何度か東京で面談をしてくれたり、知れば知るほど魅力的な会社だと思い入社を決めました。

このときも含め、キャリアのなかでは三度の転職を経験しています。いずれのタイミングでも1社しか受けていませんが、どの選考に際しても、その企業のことを深く掘り下げてから臨みました

就職活動時、相手を知れば知るほど熱意も伝わることは確かです。「就職は結婚と同じ」とよく言われますが、相手をよく知らないままでは「なぜ結婚したいのか」をきちんと伝えることができず、相手に承諾してもらうのが難しいことと同じことだと思います。

これは面接をする側になってからもよく思うことですね。企業理解を深めている人は「自分の軸や動機とその会社のどの部分がマッチするのか」という部分が伝わってきやすいです。逆に会社の理解が十分でなく、軸や目的が定まっていない人は、本気度が伝わってきにくい印象があります。

説得力を持って「なぜその会社に勤めたいのか」「なぜその職種に就きたいのか」を伝えるためにも、企業研究はとことんやってから面接に臨むことをおすすめします

松永さんからのアドバイス

会社の理念や地域とのつながりの大切さに気づき、キャリアの充実感が広がった

当社にくるまでの3社はメーカーでありながら委託製造が中心で、自分たちの手で製造をしている企業ではありませんでした。その点、当社に来てからはよりモノづくりに近い場所で仕事ができています。通信販売なども自社で運営しているので、お客様の声を直接聞けることも有難い環境です。

入社してからは広告や商品企画などを社内横断的に見ることができるマーケティング部門を新設していただき、マーケティング関連の業務を一元化したり、ほぼ全商品をリニューアルしたりと、いろいろなことをやらせていただきました。広告や広報など手法はたくさん変えてきましたが、振り返ってみると自分自身がこの会社に育てられ、変化したのではないかと思います

当社は「健康な体ときれいな水を守る。」という企業理念をとても大切にしている会社で、そこに向かって一体となって働ける雰囲気があります。以前在籍した外資系企業3社もかっこよい立派なビジョンやスローガンはあったとは思いますが、正直覚えていません。その一方当社の理念や環境方針は何も見ずとも暗唱できます。冒頭で話したとおり、私には「社歌を歌う企業は合わない」と内定を辞退した過去があります。そんな人間が、理念に向かって仕事をすることの大切さに気づいた、というのは大きな変化だと感じています。

社内や地域の清掃活動などにも積極的にかかわるようになりました。今まで職場の掃除は自分の業務ではないという考えを持っていましたが、掃除をし始めてからは細かなところに気が付くということも多くなり、仕事にも活きると分かりました

子どもの小学校のPTA会長職も3年間務めました。最初は渋々で始めましたが、いざやってみると、利害関係のない方や教職員などとの関わりなど「仕事とは違って得るものがある」と気づき、その後は地域の自治会活動などにも参加しています。母校の高校や地元の大学などでも講演をさせていただく機会もあり、教育について考える時間なども持てています。

感謝したりされたりすると自分の幸福感が増すことを、身をもって体験しています。ボランティアは人のためになるだけでなく、自分の成長にもつながるのだな、と実感しました。

このようなキャリアの広がりを持てているのはUターンをしたからこそで、地域とのつながりは、キャリア全体の充実度や幸福度にも影響することがわかりました。心身と社会的な健康を意味する概念として「ウェルビーイング」という言葉がありますが、まさにこの状態です。

東京を離れることには不安もありましたが、キャリアのなかで一番大きなターニングポイントになった気がしています。結果論ですが、今はその選択をして良かったと心から思えています。

昨年からは役員になり、今までよりも会社全体のことを考える視点になりました。人は成功体験を得られるほど、モチベーションが高くなるもの。若手社員が失敗を恐れずに新しいことにチャレンジし、たくさんの成功体験ができるようサポートしていくことも、今の私の役割だと考えています。

松永さんが感じている「キャリアの充実感」の広がり

一瞬一瞬に全力を尽くしていけば、歩んできた道に後悔することもない

これまでのキャリアのなかで、ひどく落ち込んだことはなかったように思います。「企画開発した商品が売れない」などの反省や失敗はたくさんしてきましたが、「その時々で一生懸命やった」と思うことができれば、自分の歩んできた道をひどく後悔するようなことはありません。この点は、学生の方にもぜひ知っておいてほしいですね。

偶然ですが、昨年には学生時代に内定辞退をした企業グループのセミナーに出かける機会がありました。「その時々の仕事を一生懸命やっていれば、またつながるご縁もあるものだな」と感慨深かったです。 

ポジティブな性格ということもありますが、未来や過去のことで不安になるよりも、「中今(なかいま)に感謝して生きよう」というスタンスは常に意識しています。「中今(なかいま)」は日本古来から神道にある言葉で、過去・現在・未来という区切りをせず、時間軸をあまり意識しないといった概念です。「一瞬一瞬に全力を尽くす」という姿勢は、これからのキャリアにおいても大切にしていきたいですね。

当社は小さな会社だからこそ、個々人の能力やスキルを高める必要があります。外部のセミナーなども含めて、自身を成長させるために学ぶ機会もたくさんあります。私も現在コーチングを新たに学んだり、しばらく使用していなかった英会話も学び直したりしています。個人の一番の学びや成長は仕事を通してだと思いますが、当社はチャレンジングな業務も多いです。自社の商品を広げることは人や社会の貢献になるため、気持ちよくビジネスができます

当社は新卒やキャリア採用を行っていますので、もしご興味がある方がいればぜひ当社にチャレンジしてみてください。人と自然にやさしい無添加石けんを一緒に広げてくれる方をお待ちしております。

松永さんが贈るキャリアの指針

取材・執筆:外山ゆひら

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