「なりたい自分」が分かればあとは進むだけ|自分を過少評価せず「強み」を見つけて伸ばしていこう

リビン・テクノロジーズ 代表取締役社長 川合大無さん

Daimu Kawai・1975年千葉県生まれ。大学卒業後、専門商社ニチモウ入社。その後、アフィリエイト広告のベンチャー企業だったバリューコマースと、サイバーエージェントを経て2004年にインターネット広告代理店シースタイルを起業し代表取締役に就任。2006年から不動産査定サイト「リビンマッチ」等を立ち上げバーティカルメディア事業に進出。2018年に社名をリビン・テクノロジーズに変更し、2019年東証マザーズに上場

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将来について何も考えなかった就活以前

大学の卒業を前にして就職活動を始めるまでは、将来について本当に何も考えていませんでした。

小学生の頃はプロ野球選手になりたいと思っていましたが、成長するにしたがって子供らしい夢と現実の違いも分かってきますし、大学生時代には何の将来設計もなく仕事や職業に対する特別な希望も持っていませんでした。

さすがに卒業したら仕事に就かなければならないとは思っていましたが、就活でいろいろな会社を当たっているうちに何となく自分に合った会社や仕事が見つかるだろうと、たかをくくっていました。

ところが何社回ってみてもどうもしっくりとこない。この会社に入りたい、この仕事をしたいという出会いには至らないのです

それで仕方なく、就職本に掲載されていた適職探しのマニュアルに従って、自分の人生を振り返ってみました。

生まれてから自分がどんな経験をしてきたか、そこで何を感じたのか、二十数年分の記憶をたどり書き出す作業に1週間かけ、最終的にはA4版20ページほどにもなりました。

その結果、自分は起業して会社を経営したいのだと強く思うことになりました。

人生を振り返って浮かび上がってきた自分の思いは、「何か大きなことをやりたい」「皆がなかなかたどり着けない所までいきたい」「大きな会社を作って社会にインパクトを与える事業を産み出したい」という夢でした。

それに加えて「仕事」はこの先数十年もの膨大な時間を費やすものなのだから、それに値することをやりたいという思いも重なり、なおさら仕事を通じて何かを成し遂げて胸を張れる人生にしたいと思うようになりました

その思いを実現するために思いついた具体的な方法が、「起業して社長を目指すこと」だったわけです。

私にとっては、なりたい自分を見つけられたら半分は人生に勝ったようなものです。あとは、なりたい自分になるために邁進すればいいわけですから

就活をきっかけに固めた将来設計を解説する画像

20代での起業を目指し3社で修業

こうして就活をきっかけに将来設計の目標とすべきことが明確になったので、今度はその目標実現へ向けた計画を逆算して立てました。

まずは大きな会社を作って社会にインパクトを与える事業を産み出すために、20代のうちに起業すること。そして起業するための力を蓄えるために、5年間に3社で経験を積むこと。この2つでした。

新卒で入社したのは専門商社のニチモウでした。商社という響きに「ビジネス全般の勉強ができそうだ」と感じたからです。

ここでは与えられたあらゆる仕事を覚えてやろうと意気込んで入ったのですが、想像とは違った展開になりました。

というのも配属された部門の事務方が異動してしまったため、私が営業事務を任されるようになったからです。ひたすら請求書の作成や在庫管理、トラックの手配をする毎日でした。

正直なところ、楽しかったり面白かったりする仕事ではありませんでしたが、おかげで事務作業を完璧に身に付けたのでバックオフィスの仕事は完璧。これは結果的に会社を興す際にも大いに役立ちました

入社から2年たち転職したのがアフィリエイト広告代理店のバリューコマースというベンチャーでした。インターネット系の仕事を覚えたかったし、営業を経験したかったので選んだ会社でした。

仕事内容はテレアポ営業でしたが、最終的にトップセールスになりました。ここでの経験は非常に重要で、社長になる夢に近づけた実感がありました。

というのも、それ以前の私は社長になるには人脈が不可欠で、それがなくては始まらないと信じていたからです。

ところがテレアポ営業では、見ず知らずの会社に電話して先方の担当者に会ってもらうことができ、しかも、商品を買ってもらえることがわかったからです。

驚きました。これなら人脈などなくても物は売れるし社長としてビジネスができると自信を持てました。むしろ必要なのは継続的な努力だと分かりました。

毎朝、仕事の前に自分なりのテレアポ用のリストを作成。新聞や雑誌、街の看板などをチェックし、広告を出している会社を片っ端から探し出し、アポイント候補になる会社を選んでリスト化する作業を毎日繰り返しました。

サボらず、ずっと努力し続けることがトップセールスの実績につながったわけです。

この会社も2年半で辞めて、3社目として転職したのがサイバーエージェントでした。転職エージェントに勧められて入ったのですが、ここでも多くを学ばせてもらいました。

企業文化の大切さと気の合う仲間の重要性

サイバーエージェントで驚かされたのは、大変優秀な人材がとにかく努力している会社だということ。皆が労を惜しまず仕事に打ち込んでいました。

サイバーエージェントという会社が、そういう企業風土・文化を創り上げていた点に驚くと同時に、企業風土や企業文化こそが業績に直結している事実を目の当たりにして強く感銘を受けました

さらにこの会社では、あらゆるWebマーケティングの手法や知識を学ぶことができたのも重要な点でした。

もう1つサイバーエージェントへの転職に関連して学んだ重要な点があります。それは事業をする場合、気の合う者同士、考え方が合う仲間とやるのが一番だということです

リビン・テクノロジーズでも、私の考えに一致するメンバーとともに事業に取り組み、2019年には上場するところまで成長させることができました。

企業へ向けたプロセスを解説する画像

目の前の仕事を覚える前に辞めるのは「もったいない」

これから企業に属して働こうという新卒の皆さんにとっては、自分と気の合う仲間がいて周りと考えが一致して、職場の雰囲気も良い会社を選べれば理想ですが、入社前にそこまで判断するのは実際には難しいでしょう。

むしろ会社の選択を間違ったと感じても、いったんは任された仕事に打ち込む方が得策です。若い頃は柔軟性がありますし環境に合わせたり状況を打開するための時間もあるはずです。

それをせずに、自分には合わないと判断してすぐに辞めてしまうのは、むしろもったいない。何も仕事を覚えないうちに辞めていたら、仕事ができるようになるまでに何社経験しても足りなくなってしまいます。

私もファーストキャリアで就いた仕事は、営業事務という期待していた仕事とは異なるものでした。

しかしこの仕事をしっかり身に付けたことが、その後のキャリア形成、起業や経営者としての仕事にも大いに役立ったのは、先ほど説明した通りです。

個々の仕事にやりがいは必要ないというのが私の発想です。そもそも個別の仕事の内容は大部分が問題解決に関することです。

大小関わらず日々の問題を次々と解決することが仕事の実態ですから、仕事自体が面白いというわけではありません。

そうではなくて、仕事を通じて成長する自分の姿やキャリアを通じて自己実現していくことにこそ、やりがいや喜び、面白さが感じられるのではないでしょうか

川合さんが考える仕事との向き合い方

  • 会社選びを間違えても何かを得るまで食らいつく

  • 個々の仕事にはやりがいは不要というのも1つの考え方

「人よりちょっとできる」それも自分の強み

自分の長所は意外に気づきにくいものです。私は小学校1年から剣道を始め、大学時代まで続けました。最初のうちは親からすすめられて嫌々ながらでしたが、投げ出すことなくずっと続けました。

それほど強くなろうという気持ちもなく、試合に負けてもさほど悔しいとも思いませんでした。ただし剣道を途中で辞めるのは格好悪いという気持ちが強くありました。

そうした経験を振り返ってみると、粘り強く一つの事を続ける能力が他人よりあったのだと思います。ただし自分はその強みに気づいていませんでした。気づいたのは2つ目の会社でトップセールスになったときでした。

トップセールスになれた理由は、毎日サボらずセールスの準備を含めた営業のための作業をやり続けた、継続的な努力の賜物だと自覚できたからです。

これから就活をする人にアドバイスできるとしたら、自分のことを過小評価しないことです。自分では大したことではないと思っている部分でも、それが優れた特徴であることは少なくありません。

たとえば全国で1位の成績を取ったとか優勝したとか、皆がすごいと認めてくれることだけが強み、特徴ではありません。

むしろ「ちょっと人よりできること」が自分の可能性を秘めた特徴であって、それを伸ばすことで大きな強みに育てていくこともできます

川合さんからのアドバイスの画像

「自分はできる」と自信を持つ

予定通り20代で起業することができ40代で上場も果たしました。ただこの先の夢もあります。次は社員1000人の企業になること。ゆくゆくは日本の経営者トップ100に入るのが大目標です。

できないとは考えていません。私はいつも「自分はできる」と自信を持っています。他の人にできて自分にできないわけがないと思いますし、今はできなくてもいつかはできるようになると信じています

もともとそんな風にポジティブな考え方でしたし、それが普通でした。あえて言えば大学の卒業旅行でインドへ行った経験が、そんなポジティブな考え方をさらに補強した面はあるかも知れません。

友人に誘われたのがきっかけで訪れたインドでしたが、当時のインドはかなりヤバイ場所で、命の危険を感じるような経験もしましたが、何とか無事に生きて日本に帰ってくることができました。

それからは「大抵のことは何とかなる」「インドでの経験を思えばどこでもやっていける」と考えられるようになり、ポジティブ思考が強まった面があるように思います。

ポジティブ思考のベースになるもの

  • 「自分はできる」と信じる

  • 今できずとも、いつかはできると考える

  • 大抵のことは何とかなると受け止める

欲しいのは自分で判断できる人材

「求める人材」という面で考えるなら、やはり若さが持つ柔軟性は重要ですね。

リビン・テクノロジーズでは初めのうちは仕事の経験者を中途採用していましたが、ある時点から新卒採用に重点を移しました。というのも、仕事の経験がなくても柔軟性のある新卒の方は伸びしろが大きいと分かってきたからです。

また、テクノロジーの進化で単純作業は人間が担わなくても構わない時代に向かいつつあるなかで、自分で考え行動できる人材がより重要性を増しています

人間でなければできない仕事、たとえば何かと何かの要素を組み合わせたり、すり合わせや調整をする仕事はなかなか機械化も自動化も難しい面があります。

また自分の考えを発信して周りを巻き込んだり、自分の考えに基づいて仲間と一緒に実行する力は、今後ますます求められるようになるはずです

そういう力を身に付けるためにも、自分に自信を持ち、自分の特徴や強みを自覚して伸ばすように心掛けていくことをおすすめします。

川合さんが贈るキャリア指針の画像

取材・執筆:高岸洋行

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