一本道ではなく樹形図のように広がるキャリアもある|就職活動では「やりたいこと」と「できること」のバランスを探そう

アイエスエフネット 最高ヒューマンリソース責任者CHRO 山本英治さん

Eiji Yamamoto・大学卒業の翌年、2005年アイエスエフネットに入社。エンジニアとしてITインフラ全般の設計・構築・プリセールスを担当。技術リーダーなどを務めたのち、入社8年目に大阪支店長となり、以降、名古屋支店長や東海エリア本部長を経験。2021年からは人事採用責任者を兼任。2022年に西日本責任者、2023年には最高ヒューマンリソース責任者CHROに就任

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塾講師からIT業界へ。ファーストキャリアでは業界の将来性と人に注目してみよう

学生時代は塾講師のアルバイトに注力していました。さまざまな企画を考え、提案できることが楽しく、やりがいを感じられていたので、卒業後も1年ほど続けていましたが、支店拡大の話が出たときに、初めて「この道をずっと進むのだろうか」と将来を考えるようになりました。少子高齢化が進むなかで業界の将来にも不安を感じ、他業界への就職を決意しました。

その際に注目したのがIT業界です。中高生時代から少しずつPCが普及し、インターネットがどんどん広がる時期に学生時代を過ごしたので、「未来の可能性があり、おもしろそうな業界だな」と感じていました。

IT業界のなかでも、「新しいことができそうな若くて新しい会社」「社内が固まりきっていないベンチャーでありながら、小さすぎない会社」という2つの希望に当てはまったのが、アイエスエフネットです。大学で情報文化学部に在籍していたので、ほんの少しだけプログラミング経験はありましたが、知識はほぼゼロからの状態で飛び込みました。

私のようにやりたいことが明確に定まっていないタイプの方は、「業界の将来性」に注目してファーストキャリアを選ぶのは良い方法だと思います。成長性が見込める業界ならばベストですし、せめても市場規模が縮小しそうにない業界を選ぶのがベターです。

業界を決めた後は、「人」で見ていくのがおすすめです。企業も、所詮は人が形作っているもの。就職活動を通じて「ひとり対大勢」ではなく「個人対個人」として向き合ってくれるかどうか、自分がかけている熱量と同じくらいの熱量を持って向き合ってくれるかどうか……といったポイントで感覚的に惹かれるところは、自分に合う会社である可能性が高い気がしますね。

私自身を顧みても、また中途採用の社員たちを見ていてもよく感じることですが、1社目での経験は20〜30代の仕事の考え方のベースになります。数字にこだわるかどうかや成果に対する考え方、チームや人間関係に対する考え方などの多くは、1社目で刷り込まれることが多いです。

「自分で思っている以上に、企業文化や社風には影響を受ける」ということを意識したうえで、最終的な1社を決めていくと良いと思います

山本さんからのメッセージ

意外なチャンスからキャリアは広がる。明日の自分に期待し、楽観的に課題に向き合っていこう

当社に入ってからはまず7年間、エンジニアとしてキャリアを積みました。後半は技術部門でのリーダー職なども担いましたが、大阪支店長の話をもらったのをきっかけに、マネジメント路線に舵を切りました。ここがキャリアにおける最初のターニングポイントと言えるかもしれません。

「技術職を離れることになるのだな」とは思いましたが、決断に迷いはありませんでした。180度違うフィールドをアサインされた感覚はなかったからです。「エンジニアたちが活躍できるフィールドを作っていく役割だな」「エンジニアの気持ちがわかるマネジメントができる」と理解し、自分の意思でやろうと決めました。

もともと私は「自分が決めた一本道でキャリアを進んでいける」とは考えておらず、「キャリアとは樹形図のように広がっていくもの」と理解しています。「自分で決めた道をまっすぐに突き進んでいく」というキャリアも格好いいなとは思いますが、それが叶うのは奇跡的な確率という気もしますね。

それに、ひとりの人間が掴めるキャリアの選択肢は、無限にあるように見えて、ある程度限られているもの。新しいことや次のステップへのチャンスを柔軟に受け入れることで、キャリアを築いていくスタンスもあるよ、ということは、学生の方にもぜひ知っておいてほしいことです。

「樹形図のキャリア」のイメージ

実際に、エンジニアの気持ちや成長ステップを身をもって理解できていることは、マネジメントにおいて非常に役立っています。

たとえばですが、私がエンジニア時代にはその時々の技術レベル以上の業務を振ってもらうことが多くありました。「自分にできるだろうか」という不安や乗り越える苦労はありましたが、そのおかげで成長できた実感があるので、部下に対しても今のレベルから110〜120%くらいの業務にアサインするようにしています。

私がエンジニアだった頃は今ほど会社が大きくなかったので、200〜300%くらいレベルの高い業務を振られることもありましたが(笑)、前任の支店長が近くにいてサポートしてくれたおかげで、安心感を持ってチャレンジできた気がします。

「助けてもらえる環境があるからなんとかなるだろう」と思えていましたし、「今の自分には無理でも、1週間後の自分にはできるかもしれない」と楽天的に捉えていましたね。その予想どおり、時間の経過とともにできることは増えていきました。

学生の方も就職活動中、あるいは新入社員時代、何かしら不安や困難を感じる局面がきっとあるだろうと思います。できるだけ周りの助けを借りることは意識しつつ、「今すぐできなくても、1週間後、1ヶ月後の自分はできるようになっているかも?」くらいにポジティブに受け止めてみましょう

山本さんからのメッセージ

「できること」「向いていること」のバランスを探すのが就職活動

2年前に人事責任者となってからは、学生の方にも多くお会いしています。

採用についての私の考えは「あくまでマッチングである」ということ。学生さんの不安や熱意を理解し、応募者側の目線に立って話さなければ、会社側の思いは決して伝わらないという実感も強いです。

これから就職活動をされる方々にアドバイスをするとすれば、「自分のやりたいこと」と「自分に向いていること」は結構違うよ、ということでしょうか。就職活動とは「できること」「向いていること」のバランスを探していく過程、くらいに思っておくといいかもしれません。

「自分にできること、向いていることが何か」を知るには、身近な人たちから自分がどう見えているか、という客観的な情報を集めるのがベストです。

Web検索で口コミなどを集めるのもひとつの方法ですが、誰彼問わず意見を集めてしまうと迷いが増えてしまう可能性も。就職活動の過程で、できれば「この人の意見は聞こう」と思えるような信頼できる人間を見つけるのがおすすめです。オンラインは企業の”数”に当たるための便利なツールとして大いに活用しつつ、「話を聞きたい」と思える先輩社員や会社を見つけたら、その先は対面で話を聞けるチャンスを求めていきましょう。

私自身も重要な意思決定をするときほど、周りの人の意見に耳を傾けるようにしています。自分の判断は自分で思っている以上に偏りや傾向があり、無意識に自分の好きなことやそれまでの経験値に左右されているもの。最終的にその意見を聞くかどうかは、自分で決めることができるので、判断する前段階ではできるだけ多くの意見を聞いてみるといいと思います。

「この仕事をやってみたい。でも向いていないかもしれない」という不安がある場合は、それが能力的な問題なのか、性格的な問題なのかに切り分けてみましょう。能力不足の場合は努力でカバーできるので、やりたい気持ちが強いのであればチャレンジしてみるといいと思います。

一方、性格的に向いていないという場合は、なかなか変えられない部分なので、思い切って方向転換をしたほうが幸せなキャリアになる可能性を感じます。たとえばですが「単独行動が好き」な性分なのに、大勢の人と協調性を持って動かなければならない類の仕事を選んでしまうと、後でかなりしんどくなる気がします。

山本さんからのアドバイス

私自身は明確にやりたいことを持っていなかった人間ですし、今でも明確な得意業務や専門領域はありません。ただ「どのフェーズの仕事が向いているか」については、年々よく見えてきています

世の中の仕事は、大まかに分けると「①マイナスを0にする(課題解決)」「②0から1を生む(企画創造)」「③1を10にする(発展拡大)」「④10を守っていく(維持安定)」という4つのフェーズがあり、それぞれに向いているタイプの人がいると理解しています。

私は①と③、つまり課題解決と発展拡大は得意ですが、④の「現状を維持していく」というフェーズは非常に苦手です。②の企画創造はビジネスの目線では最重要ですが、ここが得意な人は、経営者など社内でほんのひと握りの人材という印象です。このあたりの得意・不得意を見出していくと、キャリアの選択の際に役立つかもしれません。

仕事の4つのフェーズ

自分だけ突出するより「チームの評価を上げられる人材」が活躍する時代に

私がこれからの時代に重宝されると思うのは、「チームの評価を上げられる人材」です。自分だけが組織内で突出してやろう、周りを出し抜いてやろうというスタンスではなく皆が力を発揮できる環境を作れる人、というイメージです。

わかりやすい例で言うなら、自分で資格を取って終わりにするのではなく「このような資格の勉強をして仕事に役立っているよ」と周りに情報共有し、同僚のスキルも上げようと働きかけられる人。同僚のスキルを上げることは、結果的に自分の成長にもつながっていきます。

「個の力は、チームの力に勝てない」ということは、近年のさまざまな研究結果でも導き出されていることです。たとえば、Google(グーグル)が成果をあげるチームに必要な条件として、5つの要素(心理的安全性・信頼性・構造と明瞭さ・仕事の意味・仕事のインパクト)を挙げています。

詳しくは割愛しますが、仲間がフォローしてくれるという安心感(心理的安全性)や、お互いの仕事ぶりを尊重する姿勢(信頼性)がなければ、チームとして良い結果を導き出せない、ということです。

お互いの役割を明確にし、円滑にコミュニケーションを図りながら皆が意見を言いやすい雰囲気を作れる人は、どのような職場でも重宝されると思います。

ソロスポーツの選手などは例外かもしれませんが、会社という組織やチームで仕事をするならば、この意識は持っておいて損はないはず。「誰だって人に認められたいし、人の役に立てたら嬉しいという気持ちがある」ということを理解していれば、チームとしての目線を持つことは難しくないと思います

上司と部下は似てくる。人間関係の良さは長く働くために重要な要素

当社に入って17年が経ちましたが、「自分に合った会社に入ることができた」と今でも満足を感じています。この満足感には、人間関係の良好さが大きく関係していると思います。人事部にいると、人間関係を理由に転職活動をしている人に多くお会いするので、個人差はあれど「人間関係の良さは、待遇以上に大事なポイントではないか」と感じています

入社当時の当社は数百名程度の組織でしたが、現在は2,000名の規模にまで成長し、ワーク・ライフ・バランスなどは良い方向に大きく変わりました。ただ社風の魅力や人の良さは、当時から変わっていないと感じます。

上司と部下は似てくるもの。理不尽に叱る上司のもとで育てば、自分もいずれ理不尽に叱る人間になってしまいます。その点で、私は大変恵まれたと感じています。当社に入ってから、理不尽な上司のことで悩んだことは一度もありません。「チームの手柄を部下の手柄として褒める」「他の人がいる前で叱らない配慮をしてくれる」など、上司の良いところを見て育つことができました。

そうした環境で育ててもらったことで、私の育成やマネジメントのスタンスも、童話「北風と太陽」でいうところの太陽のスタンスです。強く厳しく伝えるというよりは、暖かい環境を作ることで、自分で気づいてもらえたらと考えています。

人事担当者になってからは「社員たちに人間関係の悩みにリソースを割いてほしくない」「自分の力でなんとかなる部分で勝負をしてほしい」という思いがより強くなりました。本人の努力でどうにもならない部分、頑張りでどうにもならないところのフォローは我々の仕事です。

また当社は創業以来、未経験からのエンジニア育成をやってきた会社なので、「エンジニアとしてどのようなキャリアを歩んでいくか」も本人任せにせず、一緒に考えていく環境を整えています。私自身ダメダメだったところから一人前に育ててもらった実感があり、やるべきポジションを与えてもらって今の人間になれた実感が強いです。

今は社員たちそれぞれに最適と思える案件を渡すことができたとき、それをやりきってくれたとき、それによって成長した姿を見せてくれたときにやりがいを感じますし、「よく育ってくれたな」と感じられる瞬間に、一番のキャリアの充実感があります

社員たちが育つ環境づくりに注力することが、これからのビジョンです。

山本さんが贈るキャリアの指針

取材・執筆:外山ゆひら

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