「天命追求型」でキャリアを築くという選択|将来ビジョンや目標を持たない生き方
NPO法人湯来観光地域づくり公社 理事長 佐藤 亮太さん
Ryota Sato・筑波大学在学中にイギリス・ロンドンのBarnet FCでインターンシップ(インターン)を経験。大学卒業後、福島ユナイテッドFCに就職。東日本大震災で被災し、広島へ移住。2014年、湯来町へ移り住み、田舎cafeおそらゆきの運営や稲作、WWOOF(ウーフ)の受け入れなどを手がける。2018年からNPO法人湯来観光づくり公社の理事長を引き継ぎ、アドベンチャーツーリズムを軸とした人生の転機になる体験プログラムの開発や、温泉街再生等をおこなう
今に全力を尽くして道を切り開くキャリアもあると知ってほしい
小さい頃からの夢は国連(国際連合)で働くことでした。きっかけは、テレビでユーゴスラビアの紛争を見たこと。当時、幼いながらも心が大きく動いたことを覚えています。
そんな私は、現在、広島の湯来町という小さな町を拠点に、地域活性化に取り組むNPO法人の理事長として活動しています。昔の私から考えれば、まったく想像もしなかった世界に身を置いていることになります。
就職活動を前に、将来自分はどう生きていきたいかというビジョンを考えている人も多いと思います。就職活動を振り返って私が今でも覚えているのは、採用試験のときに「20年後の自分、30年後に自分はどうなっていたいですか? 」と問われて、全くピンとこず、書かなかったということがありました。
その後、いろいろな仕事を経験し現在に至りますが、自信をもっていえるのは、将来ビジョンや目標を描けなくても、目の前のことに全力を尽くしていれば、おのずと道は切り開かれるということ。ふとした人との出会いや出来事をきっかけに次の道に自然と巡り合うことでキャリアを積んできました。
夢のかなえ方にはいろいろな考え方はありますが、私はこの2つのタイプがあると考えています。
目標達成型と天命追求型
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目標達成型
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天命追求型
1つは「目標達成型」。夢や目標を設定し、期日を逆算して区切り、それに向かって着実に行動する、という今のビジネスの世界で主流の考え方です。
もう1つは「天命追求型」。こちらは、目の前のことを1つ1つ一所懸命やることでおのずと道が切り開かれていくという考え方です。
私は、後者の「天命追求型」であると自覚しています。
どちらがいいという話ではありません。夢のかなえ方、キャリアの築き方として2つの考え方があるということをまず知ってほしいです。
目標がない、将来ビジョンを描けない、と悩んでいる人も大丈夫です。無理矢理目標を設定する必要もないのです。目標を設定して、そこに向かって緻密に努力するほうが合う人もいれば、今、目の前に起きていることや、今現在の人とのご縁を重視してキャリアを選んでいく方法もあるのです。
両方の考え方を知ったうえで、あなたはどちらが合うかをぜひ感じてみてほしいと思います。
イギリスでのインターン経験から描いた「サッカーを通じたまちづくりがしたい」
「国連で働きたい」という夢に向かって筑波大学の国際総合学類に入学しました。念願の国際法のゼミに入るまでは「目標設定型」で順調に進んでいったのですが、ちょっと気を抜いたせいで、ゼミを出されることになってしまいました。
やりたいことが見えなくなった私は、1年大学を休学して留学することを決めました。
サッカーが好きで競技としてもやっていたので、サッカー文化を感じたくてイギリスに留学。現地のプロサッカークラブでインターンシップ(インターン)をするというチャンスを得ることができました。そこで目の当たりにしたのが、イギリスではサッカーが人材育成の分野に深く入り込んでいる実態です。
実際にかかわったのが、国・警察・サッカークラブが一体となっておこなう「子どもの非行防止プロジェクト」です。イギリスでもサッカー選手になれる人は当然一握り。ただ、将来サッカーにかかわる仕事に就くという夢を持つことによって子どもを非行から防ごうと考えられているのです。
サッカーが人材育成にここまで入り込んでいるのかと、強く衝撃を受けました。同時に、この体験をきっかけに「サッカーを通じたまちづくりがしたい」という将来ビジョンを描くようになったのです。
その後帰国し、いったんは就職活動をはじめたのですが、「日本でももう少し体感してみたい」という想いが強くなり1カ月でやめることに。当時、つくばからJリーグ入りを目指していたクラブで、選手兼運営という形で、1年間関わらせてもらいました。
自分自身もプレイしながら、クラブ運営の細かい部分にまでかかわるという貴重な体験を積むこととなりました。
約100社を応募! 就職活動は社会人や同年代と会って話すことができる貴重な機会である
本格的に就職活動を再スタートしたのは、サッカークラブでの1年間の経験をした大学6年目のことです。
「入社後からしっかりと会社の力として働きたい」という思いが強くあったので、大企業は一切考えずベンチャー企業のみに特化して周りました。
興味のあった人材業界を軸に置きながら幅広い業界を見て周ったので、全部で100社くらい周ったはずです。100社も回ると、エントランスだけでなんとなく「こういう会社だな」というのがわかるようになってきました。
場数を増やすということは、それだけたくさんの社会人と会ってお話を聞けるということ。実はこれは、就職活動中の学生だからこそできることで、社会について様々な視点で教えてもらえるという経験は本当に貴重な場であると知っておいてもらいたいです。
それに社会人だけでなく、同じ就活生との出会いも大切です。就活時に出会った人が、社会で活躍していて、今でもとても刺激を受けることが結構あります。
佐藤さんの就職活動のポイント
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即戦力として働ける会社で働くため、ベンチャーに特化
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人材業界を主軸に置きつつ100社を周る
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ワクワク働いている自分の姿をイメージできる会社を選ぶ
内定をいただいた中から最終的には、人材会社向けのシステムを作っている会社への入社を決めました。決め手は、社長の語るビジョンに共感し、心からおもしろい会社だと思えたし、実際にそこでワクワク働いている自分の姿をイメージできたからです。
無意識に発している言葉に実は大きなメッセージが含まれていることも
内定をいただいてから早速、週に4回くらいのペースで実際にインターンで働きはじめました。ところが、私のキャリアにおける大きなターニングポイントが訪れます。
きっかけは、友達から誘われて半年ほど起業スクールに通ったことです。それを機に、改めて自分がこれから何をして生きたいのか? を考える自分と向き合うこととなりました。
留学体験から「スポーツを通じたまちづくりをしたい」という長期ビジョンをもっていた私です。できれば学生の間に、実際にその分野の仕事に取り組まれている方に話を聞いてみようと考え、実際に多くの人に会いに行きました。
その中で出会ったお一人が、福島サッカークラブの社長さんで、その社長さんの目指すものと私が思い描いたものが見事に一致していて、意気投合したのです。さらに「今人材を募集しているから応募してみないか」とお誘いまでいただいたので、正直とても悩んでしまいました。
どうすべきかと心底悩んでいたとき、ターニングポイントとなったのが、コーチングを勉強していた友達からの言葉です。ふとした瞬間に私が発した「東京の仕事も捨てがたいんだけど……」という言葉に対して、その友達は「それは潜在意識として東京の仕事は捨てるっていうことを前提に考えている言葉だね、本当は福島に行きたいっていうことじゃない? 」とフィードバックしてくれたのです。
「うわ、本当だ」と心が決まりました。と同時に、自分が無意識に発している言葉に実は大きなメッセージが含まれているんだということに気づかされた忘れられない経験でした。
友人の言葉のおかげで、遠回りする必要はない、自分自身がやりたいと思っている「スポーツを通じたまちづくり」に最初から飛び込んでみようと決断することができました。
内定先にも正直に伝えました。迷惑なことだったと思いますが、とても応援してくれて、その後の福島のサッカークラブのスポンサーにもなっていただけました。感謝しかないですし、本音をしっかり伝えることの大切さを知りました。
目の前の仕事に全力を尽くすことで、想像以上のことが待っている
福島ユナイテッドFCでは、ありがたいことに入社1年目からサッカースクールの責任者を任してもらいました。
サッカースクールの運営をどうするか、どうやって生徒を呼び込むかをすべて自分で考えて実行していかなくてはいけません。難しい仕事ではありましたが、周囲の知恵を借りながらコミュニケーションを深めることで、会社ともスクールの保護者の方とも信頼関係を築け、実際に成果も出ました。
そんな矢先に東日本大震災が起きました。幸い家族も含めて無事でしたが、ライフラインが止まってスーパーも営業できない、食べ物がない。そのときに強く思ったのが、「食べ物を作れるかどうかってこんなに重要なことなのか」ということです。
様々な状況から、福島を出ようかどうしようかと悩んでいた時に、声をかけてきてくれたのが、学生時代に起業スクールの同期の一人です。広島出身の彼は、妻と東京で一緒に働いていたということもあり、広島市で飲食店を立ち上げるから一緒にやらないかと、妻を誘ってくれました。
広島市は、これまでまったく縁のない土地。でも、人との縁、偶然の出会いを大切に考えて誘いに乗ってみようと思いました。「とりあえず行ってみるか」と僕もついていくことにしました。
この頃までは、どちらかというとまだ目標達成型で動いていたと思います。でもビジョンを描いてもその通りにはならない。さらには、広島市に来て、ビジョンを描こうと思っても、全然イメージが湧かない、という経験もしました。
一方で、広島では多くの素敵な出会いに恵まれ、そこからまた新たなご縁につながり、自分の想像以上のことがどんどん起きてきた。そんなときに、人間には「目標達成型」と「天命追求型」の2種類のタイプがあるという話をはじめて聞き、なるほど、と全てがつながった感覚を得ました。
それからは迷うことなく、出会った役割や仕事に一所懸命取り組み、その結果また次の道が現れ、そこでまた新たに一所懸命頑張るということを続けてきたように思います。そして何より、自分は今のままでいいんだ、こういうキャリアの積み方が合っているんだと納得できたことはとても大きかったと思っています。
そして、温泉大好きな私が広島で初めて訪れた温泉地の湯来町にご縁があり、2014年にさらに移住しました。
もう一つ大切にしていることは、大きく動くときは、しっかり辞めてスペースを作ること。広島市に来たときもそうでしたが、湯来町に来たときも、家だけ決めて仕事は決まっていない状態でした。そのような状態だったこともあり、あり得ない出会いと仕事に巡り合うことができました。
仕事を決めていなかった私でしたが、家から徒歩2分の場所のカフェ経営を引き継がせていただくことになり、そして現在は、NPO法人湯来観光地域づくり公社の代表を引き継がせていただき、仕事をしています。
主な仕事は、アクティビティの開発や、湯来温泉街の再生。その中で、湯来温泉街を、スポーツ選手の湯治場にしていこう、という官民協働のプロジェクトもスタートしています。学生時代に描いていた「サッカーを中心としたまちづくり」という将来ビジョンとはまったくかけ離れた仕事をしてきたようで、不思議なことに、再びそのビジョンと再び交差しています。
期日を決めたりしているわけではないし、普段意識はしてないですが、昔に思い描いた「サッカーを通じたまちづくりがしたい」という方向には進むんだな、と感じています。しかも一回りも二回りも大きな形で。無駄なことは何もないんですね。
これらの経験から、妄想はどんどんするべきだと私は思います。思いっきり妄想して放っておく。そして、目の前に取り組む。そうすると、ふと気づくとその妄想がどんどん形になっていきます。
就職活動では、学生の特権を生かして多くの会社をまわり、たくさんの人と話をしてほしい
少しでも興味があること、気になることがある人は、実際にかかわっている人に会いに行くことをおすすめします。話を聞くことによって必ず気づきを得られるし、新たな視点が生まれるのはもちろん、感性も磨かれます。
知ってほしいのは、社会人は積極的な学生に対しては総じて好意的であるということ。私自身、学生時代にはたくさんの人に会いにいくという経験をしましたが、皆さん真摯にいろいろな話を聞かせてくださり、応援してくれました。
お金も払わず話を聞けるなんて、学生だからこその特権です。ぜひその特権を最大限活用してほしいです。興味の対象となる人を探して、どんどん会いに行ってほしいなと思います。
どうしても興味・関心が見つからないという人は、何かを一生懸命頑張っている友達を応援してみるのはどうでしょうか? 応援する中で、やはり何かしら感情の変化が出てくると思うので、そこから新たな気づきを得ることができると思っています。
私自身の就職活動は、ベンチャー企業のみをターゲットにしましたが、大企業かベンチャー、どちらがいいか正解はありません。
最終的に大事なのは、その会社の掲げているビジョンに共感できるかです。そのうえで、そこで自分が働いている姿を思い描けるかどうか。
ぜひ、ワクワク働いている自分をイメージできる会社と出会ってほしいと願っています。
今後求められるのは「自ら生み出す力」「飛び込む勇気」
AI(人工知能)との戦いになるこれからの時代に求められる力の一つは、「自ら生み出す力」だと考えます。自分で考えて、自分で見い出すという部分では、発想力のようなものが重要になってくるはずです。妄想力とも言えますね。
もう一つは、どんな状況にでも「飛び込む勇気」。未知の世界のことは、誰にもわからないものです。リスクがあっても自分で飛び込んでいける人がこれまで以上に求められる時代になっていくと思います。
実際、私自身も、普通に考えると無理そうと思われるようなことにチャレンジしてみたら思いがけず受け入れてもらったり、まったく縁のない土地に後先考えず飛び込んでみたら新たな出会いや仕事に巡り合えたという体験を数えきれないほどしてきました。
うまくいくかなんて、結局はやってみないとわからないのです。やる人が変われば、結果も変わるはずです。
「自ら生み出す力」「飛び込む勇気」を身につけるには、人が言う「そんなの無理だよ」という言葉を信じないことが大事。人がいう「無理でしょう」という言葉ほど当てにならないものはない、と思っています。
私が身をもってそう感じたのは、イギリス留学時にロンドンのプロサッカークラブのインターンに応募しようとしていたときのこと。
そもそもイギリスの学生にとっても人気のインターン先だったので、「日本人なら絶対無理でしょう」と出国前から言われていました。でも、挑戦すると決めたら現地の大学の先生が履歴書を熱心に添削してくれて、その甲斐あって実際にインターンを体験することができたんです。諦めなくて良かったと思いました。
縁があり、機会が巡ってきているのですから、自分が熱意をもって取り組めるものを見つけながら、そこに飛び込んでいく力をもつことです。今現在も日々感じることですが、前向きに挑戦しようとしている人には、自然と「応援しよう」と思ってくれる人が集まってきてくれますし、またそこから新たな道が拓かれていきます。
思わず応援してしまう、後押しされる人材になる、というのも大事な要素なのかなと思います。
今後求められる人材の条件
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自ら生み出す力がある人
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飛び込む勇気がある人
地方移住のメリットとデメリット
地方創生、UターンやIターンなどに興味がある人も多いと思います。
地方で働く魅力の大きなところは、やったことが結果として見えやすいことでしょうか。ほとんど都市部で働いたことがないので比較はできないのですが、「変化を感じやすい」という点はあるかなと思っています。
一方で、地方はどうしても刺激が少なくなりがちです。定期的に外に出ていって新しいことに触れて視野を広げることは必要かなと思います。
人間関係の面では、地方ならではの難しさはないとはいえません。だからこそ、日頃からのコミュニケーションが大切です。ポイントは、失敗したら謝ること。きちんと謝ると、それをきっかけに人間関係がぐっと深まるという経験を何度もしてきました。
きちんと怒られて、きちんと謝る。これが良好な関係を築くポイントです。
取材・執筆:小内三奈