自分の気持ちに正直に築くキャリア|「やりたいこと」を見極めることが未来を形作っていく

ワコム AES module and Core technology, Vice President, Head of AES module & Core Technology 原 英之さん

Hideyuki Hara・大学で物理学を専攻した後、大学院に進み理論物理分野の論文で修士を取得。2008年にワコム入社。1年後に開発部門への転属を直訴して異動。基礎技術の研究に取り組み、デジタルペンの新技術となるアクティブES(AES)を開発。2015年から開発メンバーの一人としてAESの製品化プロジェクトに参加。2016年からはプロジェクトの技術開発の責任者を務め、2021年1月より現職。日本、台湾、中国にまたがり100人近いメンバーから構成されるAES技術開発部門を牽引している

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ターニングポイントは自分の「やりたい」に従ったこと

新卒でワコムに入社して今までキャリアを築いてきましたが、大きなターニングポイントは、入社1年で上司に直訴して技術開発部門へ異動したことです。怖いもの知らずの新入社員だったからこそできた、ある種の蛮行でした。

最初の配属は製品の設計の部署で評価の仕事だったのですが、業務をおこなう中で、だんだんと自分がやりたいのは技術開発の仕事だと感じてしまって。そんな折に会社の忘年会の席でたまたま事業部長と話をする機会に恵まれたので、思い切って異動を願い出たのです。

いま振り返れば、新入社員がいきなり事業部長に人事の希望を直訴するなんて、組織論的にはかなり強引なふるまいだったと思います。しかし日々仕事をしていくなかで、本当にやりたいことに携わっていくことが自分にとっては必要でした

社会人として、その実現の仕方には賛否があると思います。しかし、そのときに直訴していなかったら自分のキャリアも大きく変わっていたはずですし、会社に対する私の貢献度もいまより小さかったかもしれません。

就活の際も企業に所属してからも、やはり何をしたいのかを自分に問い続け、明確にしたうえで仕事と人生を切り拓いていく姿勢が必要だと思います

原さんのキャリアにおけるターニングポイント

直訴をした翌年からは、希望通りに技術開発部門で働けるようになりました。そこからは、会社のレジェンド的な研究者のもとで技術開発に取り組む毎日。そうした日々のなかで、たまたまひらめいた技術的アイデアを追求していくうちに、そのアイデアの将来性を会社が認めてくれたのです。それが現在携わっているAESなのですが、認められたあとには技術開発チームが設置され、そのうちのメンバーの1人になりました。

そして、開発したAES技術を基に製品化が進められることになり、プロジェクトとして立ち上がると、その技術開発部門を任される立場となりました。今では、製品化部門と技術開発部門の両方を統括する立場まで任せていただけるようになりました。

現在、ワコムのデジタルペン技術は、タッチペンに対応するパソコンやタブレットの大手メーカーのほとんどのモデルで採用・搭載されており、皆さんも知らないうちにワコムの技術を使っているはずです。私の職業意識の原点でもある「モノづくりで社会に驚きを与えたい」という夢に少しは近づけたかなと思います

自分の興味関心をもとにファーストキャリアを選択

大学と大学院では理論物理を学びましたが、その経験や知識が広い意味で仕事を支えてくれていますし、役立っています。学生・院生時代に学んだことが、直接的にではなくても自分の人生を形作る要素として役立っていてくれるのは喜ばしいことだと感じています。

そもそも物理学に興味を持ったきっかけは、子供向けの「絵本で学ぶシリーズ」的な本で、相対性理論を解説しているのを読んで、とても面白い話だと感じたことでした。たしか、とてつもなく速い速度で動くと物体は縮むとか、そんな話です。子供心に刺さりましたね。

物理学への関心はどんどん高まり、大学では物理学を専攻し、卒業後も研究を続けるため大学院に進みました。大学院を出て就く仕事としては、そのまま研究を続ける、教職に就く、民間企業に就職するなどの選択肢がありますが、私は企業への就職を選びました

というのも、元々物理学への関心とともに、モノづくりへの関心を持っていたからです。「モノづくりで社会に驚きを与えたい」という思いは学生時代から持っていました。ですから、大学院を出た後はメーカーに就職しようと思っていたのです。

大学院は愛知にあったので、トヨタやデンソーといった日本を代表するモノづくり企業で働く選択肢もありましたが、自分的には自動車といった大モノの製品や技術にかかわるより、もう少し小物のデバイス系のメーカーが希望でした。

そんな風に企業選びをしている中で、たまたまワコムに出会いました。もともと子供時代からの趣味で絵を描くことが好きだったので、デジタルペン技術で知られるワコムの存在は認識していました。そのワコムの新卒の採用枠があることを知って、すぐに応募。当時のワコムは現在より規模が小さめでしたが、企業規模の大小は特に気にしていませんでした。

企業規模の大小とか、社会的なブランド価値だとか、そういったことをあまり意識せず自分の興味とやりたいこと本位で企業選びをしたことは、いま振り返っても正解だったと思います

企業を選ぶときは、規模やブランドよりも自分の興味を優先させて選択してみよう

トレンドや知名度ではなく自分の考えを軸にした企業選びを

私自身は入社以来約14年間、転職はせずに充実したキャリアを歩んでいます。これは希望する職種と会社に出会える幸運に恵まれたからで、そんな私が企業選びについてアドバイスできることは限られてしまうかもしれません。

唯一言えるとしたら、就職において一番重要なのは、自分自身に対する気付きだということ。それまでの人生で自分が何をしてきて、何を大切にしてきたか。自分は何が得意なのか。人から見てどんな強みを持っているのか。そんなことを、もう一度よく見つめてみてください。

そして、その気付きを自分の考えの軸として企業を選んでみましょう。就活生の中には、コンサル系の企業が人気で有名企業だから志望するとか、IT系企業がトレンドだから志望するという人もいると思いますが、そういった判断軸とは一線を画して考えてみてほしいです。

それにトレンドは必ず変化するので、そういうものに乗っかる必要はありません。それよりも、自分が入社した場合にやってみたい仕事が具体的にイメージできる会社を選ぶのが正しい選択だと思います。逆にそうしないと、入社してからさまざまな環境要因や会社の事情に流されて、自分が何をやっているのか分からない状況に陥ってしまう可能性が高くなります。

就職してからも、やりたいことが自分のなかに明確にあり、それができる自信があれば、積極的に自分の考えや希望を発信すべきです。私もそうしてキャリアを切り拓くことができました。

新入社員だからといって遠慮する必要はありません。むしろ最初のころほど周りは聞く耳を持ってくれますし、失敗も許されます。早いうちから主張しておけば、周りの理解を得るのも早くなるので、ぜひ遠慮せずやりたいことを発信していってくださいね。

原さんが思う、就活で考えるべきポイント

  • 過去の自分を振り返り、自分自身に対する気付きを得ること

  • 自分がやってみたい仕事をイメージできる企業を選ぶこと

今後もとめられるのは自分の頭で考えることができる人材

採用にもかかわる立場として言えば、面接で重視するのは学生の皆さんが企業に入ってから何をしたいのかということです。やりたいことが頭のなかに明確にあって、会社が必要とする内容と合致していれば採用することになります。

相手が何をやりたいかを探るためにも、面接時の逆質問は大いに歓迎しています。質問の内容で会社に対する理解度や、仕事の捉え方も分かりますし、会社にどれくらいの興味、関心があるかも測れます。これらは書類審査では分かりにくいものなので、遠慮せず聞いてくれた方が採用側もメリットになるんです。

企業として求める人材については、自分で考えて自走できる人です。言われたことだけやっていては、とてももったいないなと思います。

たとえば何かの測定を頼まれて、測定結果だけを報告する人は、自走できる人とは言えません。測定結果を踏まえて問題点を指摘できる人が今後は求められると思います。さらに問題点を指摘したうえで、自分なりに考えた対処法まで提案できる人なら申し分ありません。

そのように自分で行動できる人、自走できる人になるためには、全体のプロセスを捉えて、次に必要な行動を準備する習慣をつけることが大切です。言われたことだけをやる習慣が付いてしまえば、無意識のうちに惰性で物事を処理するようになってしまいます。

たとえばアルバイト先で、先輩や仲間がする仕事を想定して、先回りして必要な準備を整えておいてあげる。そんな心掛けをしてみるだけでも、自走する力は鍛えられると思いますよ。

原さんが思う、今後求められる人材像

  • 自分の頭で考え自走できる人

  • 求められたことをやるだけで終わらない人

就活でも仕事でも、大小はあれど誰でも必ず壁にぶつかることになるでしょう。私は壁にぶつかったときには「為せば成る 為さねば成らぬ 何事も 成らぬは人の 為さぬなりけり」という言葉を思い出します。やらないで諦めたり、自分は何もしないで環境や人のせいにするのは戒めなければなりません。そういった姿勢も自走する力を養うことにつながると思います。

現在は市場環境が目まぐるしく変化する時代。ついこのあいだまで企業の頂点に立っていたようなGAFAでさえ、いきなり株価の急降下に見舞われているのが現実です。将来どのようなビジネスが成長し、どの企業が伸びるか見通すのは困難であることから、就活に悩んでいる人も多いと思います。

しかし環境の変化によって、自分の考え方の軸までフラフラしてしまえば結局後悔することになります。自分が本当は何が好きなのか、何をやりたいのかを、しっかり見据えたうえで、仕事を通じて実現したい自分の未来に向かって進んでいってください

取材・執筆:高岸洋行

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