現場を見て、感じて、企業選びに役立つ「肌感覚」を磨け| 大切なのは心に従うこと。始めの一歩は自分の意思で

アイサンテクノロジー 代表取締役社長 加藤淳さん

アイサンテクノロジー 代表取締役社長 加藤 淳さん

Atsushi Kato・1967年愛知県生まれ。東京測量専門学校を1987年に卒業しアイサン(現アイサンテクノロジー)入社。入社1年目に広島営業所の立ち上げを任され5年間にわたり新市場開拓に取り組む。その後本社へ戻り1992年に取締役就任。東日本営業本部長兼東京支店長、マーケティング本部長、経営企画室長、MMS(移動式高精度3次元計測システム)事業本部長などを経て2017年より現職

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人の2倍も3倍も働く覚悟で父親の会社に入社

父親が創業した測量関連のソフトウェア開発を祖業とするアイサン(現アイサンテクノロジー)に入社したのですが、自分としてはもっと別の仕事がしたいという思いがありました。中学時代に見たラグビーの早明戦に感激した記憶が鮮烈で、体育教師になりたいと本気で考えたりもしました。

ですから入社前は、人生について仕事について、暗中模索、五里霧中といった言葉がふさわしい状況でした。つまり明確な将来設計も職業観もないままに社会人になってしまったというのが正直なところです。

人生の目標を見出しかねているそんな時期に、それならば会社の仕事を手伝えと父親に押し切られ入社することになったのですが、実は入社前に東京の測量専門学校に行かせてもらえる条件に惹かれたというのが本音です。東京での一人暮らしは10代の若者にとっては魅力的な交換条件でした。

会社に入ってからも経営者になりたいとか、会社で大活躍しようとは考えてはいませんでした。ただし、父親の会社に入る以上は他の社員の2倍も3倍も働かなくては認められないことを覚悟すると同時に、自分なりのベストを尽くそうと決意を固めました

恩人との出会いが社会人としての自分を育ててくれた

アイサンテクノロジー 代表取締役社長 加藤淳さん

入社した年の秋、まだ業界の右も左もわからない私に命じられたのが広島営業所を新たに立ち上げる仕事でした。任地は土地勘もなく知り合いもほとんどいない広島。最小限の家財道具と着替えを詰め込んだ商用バンで、8時間かけて広島に乗り込んだときは不安でいっぱいでした。

営業所といっても社員は自分だけ。事務所は住居兼用。誰かに頼るわけにもいきません。毎日飛び込み営業10件完遂というノルマを自分自身に課して頑張ったつもりですが、ほとんど営業成果も上がらない。当時全国5カ所にあった営業所の所長が集まる全国会議では肩身の狭い思いしかなかったですね。

それが変わったのは1年ほど悪戦苦闘を続けた後のこと。ある顧客との出会いが突破口になりました。当時主に販売していたのは不動産登記のための測量業務をパソコンを使って効率化するソフトウェアでしたが、販売先は登記を扱う測量会社か土地家屋調査士が大半。私に仕事のターニングポイントを与えてくれたのは、ある土地家屋調査士の先生でした。

その先生は土地家屋調査士を開業したばかりで、私が飛び込み営業で訪れた別の調査士さんの紹介でコンタクトしてきてくれたのです。先生も仕事を始めたばかりだったので、「倍返しするよ」との言葉を信じて大幅な値引きに応じましたが、実際には2倍や3倍ではきかないくらいにお世話になりました。

広島という土地の事情や、不動産登記のノウハウなど、私の営業に役立つ情報を教えてもらっただけではありません。営業と顧客のビジネス関係にとどまらず、仕事上の悩みや愚痴を聞いてもらうこともあり、先生はいわば私の育ての親でしたね。

そんな出会いに恵まれたこともあって、5年後に愛知本社に戻る頃には営業担当が4人、事務担当が1人、所長の私を含めて6人体制の営業所として、広島での事業展開を軌道に乗せることができました

加藤さんの人生のターニングポイント

  • 入社半年後に営業所開設を任される

  • 見知らぬ任地で人生の恩人に出会う

  • 周りの助けもあって新営業所を軌道に乗せる

 

若さがもつフットワークを生かし、周りの知恵を借りて成果につなげる

たまたま知り合った土地家屋調査士の先生に可愛がっていただけた理由は何だったのか。その出会いをきっかけに人脈を広げビジネスを拡大できた理由は何だったのか。その答えは、自身だけにあったわけではありません。営業所の全員が、平均年齢22歳という若さを生かして「素早いフットワークは誰にも負けないようにしよう」と一致団結できたのが一番の理由です

顧客からの問い合わせや照会があれば、時間を空けずに応答する。問題が生じたら、すぐさま対応、対処する。とにかく待たせない。しかも丁寧に誠意をもって仕事にあたる。仕事の王道といえますが、それを全員で徹底しました。

そうやって信頼を一つひとつ積み上げていった結果が、広島営業所のビジネスの成果となって表れました。

広島時代には、フットワークの他にも重要なことを学びました。それが1人の力には限界があること。営業所長の自分一人では何もできません。社員が一致団結して初めて成果を上げられることを身をもって理解したんです。

また上司や会社の先輩社員の力を借りる重要性も知りました。現場では営業所長として決断して方針を決定しなければなりませんが、自分の手に余る問題を抱えたときや行き詰ってしまったときは、本社の上司や先輩などに教えを乞いました。

自分の頭で考えられることには限界があります。自分より経験が豊富で優れた考えやノウハウを持った人物の知恵に頼るのは本当に重要ですね

若者が仕事で成功する法則についての画像

説明会にはとにかく数多く参加して企業判断の肌感覚を磨け

本社に戻ってから2年間ほど、新卒生の採用を担当したことがあります。採用側を経験した立場で、就活生にアドバイスをするのならば、とにかく多くの企業の説明会を回ったほうがいいと伝えたいですね。

どんな業界でも業種でも構わないから、自分の目で見て、肌で感じる体験を重ねるほど、いろいろな事柄が見えてくるはずです。ですから自分の息子が就活を始めたときにも、できるだけ多くの企業を回って見るように助言しました。

参加した説明会で、担当者がどのような立ち居振る舞いをするのか、どんな身なりをして説明に臨むのか。すべてが企業を知るための材料になります。社員の立ち居振る舞いや身なりが、実は会社の業績や雰囲気と強い相関関係があることは、長年の営業経験で実感してきたことです。

合同会社説明会ではなく、個別の会社で実施する説明会であれば、その会社の廊下で社員とすれ違ったり、エレベーターに乗り合わせたりもします。その際の対応や就活生に対する社員の気配りも観察しておくこと。できればトイレに入って汚れ具体もチェックできれば、それも企業判断の参考になります。

業績や待遇は公表資料で外部から知ることができますが、定量的に計測できない社風や会社の雰囲気を知るために必要なのは、多くの企業を見て感じることで培われる肌感覚が一番信頼できる判断基準になるはずです

加藤さんが勧める企業判断力の鍛え方

  • なるべく多くの会社説明会に参加する

  • 社員の立ち居振る舞いや身なりも観察する

  • 会社を訪れたら社員の対応やトイレもチェックする

仕事でも就活でも多くの壁が立ちはだかるはず。それをどう乗り越えるか。こういったときこそ積極的に周りのアドバイスを求めることを勧めます。さきほども申し上げましたが、自分が現時点で持つ力は、自分の経験値や知識の枠を超えるものではありません。

しかし周りには自分より経験を積んだ先輩や、自分より知識の蓄えが豊富な人物がたくさんいるはずです。自分がそのような人たちの域に達するまで待っていたのでは、目の前の壁を乗り越えられません。アドバイスを外に求めることは、時間を有効に利用することとイコールです

40歳を過ぎて、あれがわからない、これができないでは困りますよね。しかし若いうちは知らないことは恥ではなく、失敗することも長い目で見ればプラスです。

アドバイスを聞いて「それがいい」と感じたら、躊躇せず即実行することも大切です。実行してみて、さらに磨く。そこで次の課題や問題が出れば、またアドバイスを求める。その繰り返しが仕事や自分の力を進化させます。

加藤さん流の壁の乗り越え方

もう一つ挙げるとするなら、与えられた持ち場でベストを尽くす姿勢です。古い言葉かもしれませんが「石の上にも3年」です。これからも人材の売り手市場は続くはずで、転職のハードルはますます低くなり、キャリアアップのチャンスは広がります。

しかし与えられた場でベストを尽くせなければ、壁は乗り越えられず、たとえ転職できたとしても場所を変えただけで事を成せるとは思えません。

与えられた場所でベストを尽くすのは自分のためでもあるのです。ただしベストを尽くせたかどうかは周りの評価ではなく自分が判断すべき。自分がやり切ったと思えるか否かが重要です。付け加えれば、ベストを尽くす人間は必ず周りが応援してくれて、道が開かれるものです。

求められる素直な人材になるため「一日一善」を心掛けてみる

人材を見極めるうえでもっとも重要なポイントは、素直であることです。能力は高いに越したことはありませんが、知識やスキルは会社に入ってからでも鍛えられます。

期待するパフォーマンスを発揮してくれるまでに3年間かかる人もいれば5年間かかる人もいますが、それは大きな問題ではありません。しかし素直な人材でなければ、会社として鍛えてあげることができません。

素直な人間になれるか否かは教育にかかわる問題で、簡単には解決しません。それでも素直な人間を目指すことは、心がけ次第で可能だと考えています。必要な心掛けは「一日一善」。私も常に心掛けるようにしています。

アイサンテクノロジーは社是として「知恵」「実行」「貢献」を掲げていますが、企業としての貢献とはつまるところ優良納税。納めた税で社会を良くし明るい日本を作り上げる。個人も企業も小さな善行を積み上げる心掛けが、結局は自分や自社を正しい成長に導いてくれるのではないでしょうか

就活は社会人への第一歩となる経験ですから、それ自体が人生を形成する重要なイベントです。私のように目標や仕事観があいまいなままに第一歩を踏み出す人もいれば、明確な将来設計や目標を持つ人もいる。踏み出し方は人によって千差万別。それで良いのだと思います。

ただし第一歩を踏み出す際には、必ず自分で判断し決断を下すべきです。決めた理由が、親や先輩に勧められたからでは後悔するだけ。自分の心に従うことがもっとも重要な点だと思います。

加藤さんが贈るキャリア指針

取材・執筆:高岸洋行

 

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