やりきる、自分でやる、できないことをやる|「今」目標がなくたって大丈夫!「高い山を登る」という意思を携え、まずは一歩から

FCEエデュケーション 代表取締役社長 / FCE Holdings 取締役 尾上 幸裕さん

FCEエデュケーション 代表取締役社長 / FCE Holdings 取締役 尾上 幸裕さん

Takahiro Onoue・2002年同志社大学商学部を卒業後、経営コンサルティング会社に入社。営業推進本部にて、フランチャイズの加盟開発に従事する。2004年には「7つの習慣J®」事業の展開に関わる中日本や東日本地域のマネージャーを歴任。2016年にFCEエデュケーション取締役、2018年に同社代表取締役社長に就任後、現職。2019年にはFCE Holdings取締役にも就任

この記事をシェアする

「絶対安心な仕事」はない。自分にマッチした仕事か徹底的に見極めて

キャリアにおける最初のターニングポイントは、小学生の頃から「何でも自分で決める姿勢」を習慣化できたことです。幼少期に親が離婚して母親に育ててもらったが、思い返すと「ああしろこうしろ」と指図されることが全くなかった。だから自分で決断することが当たり前になり、その姿勢によってキャリアを切り拓けた実感があるので、片親の境遇に置かれたことは今となっては有難かったと思っています。

高校生の頃には、たまたま読んだ書籍に影響されて商社マンになろうと決意。「商社には学閥があるらしい、商社に行けるくらいの大学には行かなければ」と思い込み、猛勉強をして同志社大学に入学をしました。

予定どおり、就職活動では大手商社を受けまくったのですが、結果は全滅。英語をまったく勉強しなかったことを悔やみましたが、よくよく自己分析をしてみると、商社への志望動機は薄っぺらなものであることに気づきました。それよりも、自営業として奮闘する母親を見て育つなかで「経営力を身に付けたい、経営者になりたい」という生活に根ざした動機が心の奥底にあることがわかったのです

その自覚をしたうえで、再びの就職活動を開始。「段階的に時間をかけてステップアップできる会社より、一気に自己成長できて経営力を磨けるところがいい」という軸をもって企業を探し、最終的に決めたのが当時は東証一部に上場していたコンサルティング会社です。「起業家輩出機関」とも言われていた同社に、「いずれ30歳くらいまでに起業しよう」という思いで飛び込むことにしました。

このような経験をした私から就職活動について伝えられるアドバイスは、「業界や職種で決める就活はおすすめしない」ということです。

世の中が目まぐるしく変わっている時代ですし、個人的には「この仕事なら絶対に安心」と言い切れるような業界や職種は今や存在しない、と思います。職種なんて希望配属になるかもわからない。そして同じ業界でも、企業のカラーは千差万別。業界で企業を見るのではなく、「その会社がどのような考えを持っていて、自分の考えにマッチしているかどうか」をしっかり見てみることが大切です

会社の考えを理解するには、まずは公式に発信されている情報にひととおり目を通すこと。そのうえで「本当にそうなのか」を確かめる目を持って、企業と接してみるのがおすすめです。面接担当者や先輩社員との会話のなかで、「会社のビジョンを浸透させようと努力しているか? 」「会社として公言していることを本気でやろうとしているか? 」といったポイントを確かめてみてください。

尾上さんからのアドバイス

ステージダウンするキャリアを避けるためには「やり切る気概」が必要

とはいえ「ファーストキャリアでどこを選ぶか」はそれほど重要でもない、というのが私の考えです。それよりもずっと大事なのは、自分自身が「やり切る」という気概を持って仕事をするかどうか。どんな会社に入ってもやり切る経験はできるので、まずは縁あって入った会社で「目の前の壁を乗り越える気概を持って働く姿勢」を大切にしてみてください。

転職が当たり前になった時代ですが、「1社目でやり切ったから次のステージに行きたい」という理由の転職ならば、ステップアップにつながると思います。しかし、主体的に動く経験をしないまま、ただ目の前の壁から逃げる選択をしてしまうと、自分の価値を下げる転職を繰り返してしまう可能性が高いです

実際、転職のたびにステージダウンを繰り返してしまっているケースは少なからず見受けられます。転職希望者と話していると、もったいないなと思うことがしばしばありますね。「聞いていた話と違った」「上司がこういう人で、自分に合わなかったから」という転職理由は多く聞かれますが、上司の考えや意見に納得ができないなら、上司より上の立場に行く努力はしてみたか? 会社に気に入らないところがあるなら、自分で変えてみようと試みてみたか? といった点は、ぜひ一度自問自答してみてほしいです。

「今の自分のままで活躍できるところ」という目線で会社を探すのではなく、「縁あって入った会社で、まずは一段上に行く努力をしてみよう」という意識を持つことは、充実したキャリアを歩んでいくために非常に大切なことかと思います。

社の再建のため残留を決意。「壁の向こう側に行く方法」を考え続けよう

キャリアにおける2つ目のターニングポイントは、会社が解体されるタイミングで「辞めない選択」をしたことです。

新卒で入社をしたコンサルティング会社は2012年に民事再生法の適用を受けました。営業が強い会社でしたが、数年前から社員がどんどん辞めていく状況になり、私も他社からお誘いをいただいていましたが、結果的に残る選択をしました。

残ってほしい、と誰かに引き止められたわけではありません。入社2年目から営業部門の最年少リーダーにも抜擢いただき、マネージャーにも昇格させてもらっていましたが、とはいえ、社内で特別に重宝されていた人間だったわけではありません。

ただ自分がどうありたいかを考えたときに、「自分のことだけを優先して外に出るのは、かっこいい生き方と言えるのだろうか」と疑問に感じました

普通の経営者ならおそらく諦めているような状況で、必死に事業部門を残そうと手を尽くしてくれていた当時の社長や、現在のグループ代表である石川の姿に感銘を受けたことも大きな理由です。20代の頃はかなり好き勝手にやらせてもらっていたので、それを許容してくれていた会社に愛着があり、恩返しの気持ちが強かったです。

「お二人の尽力で会社が存続できたとしても、仕事をとってくる人間がいなければ会社は立ち行かない、それなら自分がやろう」「自分が中心となって会社の再建にチャレンジしてみよう」と決心して遮二無二頑張ってきた結果、昨年10月グループとして東証に上場を果たすことができました。

尾上さんのキャリアにおける、ターニングポイント

33歳になる頃には、FCEエデュケーション学習事業部の事業部長に就任、チームとして年間最優秀賞を4度受賞、38歳では代表取締役社長に就任するなどなど、順調に道のりを歩んでこれています。

もちろんその過程でもたくさんの壁がありましたが、諦める選択肢を意識したことは一度もなかったように思います。精神的にかなり追い込まれたタイミングもありましたが、「大変なことも含めて楽しいと思えるかどうか」は事業の一番本質的な部分という気もします。常に「この壁を乗り越えなければ後はない」という感覚を持って仕事をしています。

壁にぶつかってくじけてしまいそうなときは、「自分じゃ越えられない、と決めてしまっていはいないか? 」ということを自問自答してみると良いと思います

壁は必ずしも真正面から、しかも自分ひとりで登らなければならないものではありません。回り道をすればたどり着けるかもしれないし、誰かに梯子をかけてもらって乗り越えたって構わないのです。極論、壁の向こうにさえ行ければいいのですから「壁を超えられない理由」は一切考えず、とにかくどうやって壁を乗り越えるかに集中する。そうしていれば、何かしらの方法が必ず見つかってくると思います。

ひとりでやりきれたほうがカッコいい、という気持ちもあるかもしれません。私も20代の頃にはそのように考えていた時期がありましたが、その美学のもとでは、自分の能力やキャパシティ以外のことができません。

責任が重くなるにつれ、自分のプライドよりも「どう責任を果たせるか」のほうが重要だと考えるようになり、自分の責任を果たすためならば、人の手だってどんどん借りたほうがいい、というスタンスに変わっていきました

素直に「誰か助けて」と周りを頼れる人ほど、いろいろな応援や武器をもらいやすい、ということは経験上、お伝えできるアドバイスです。

尾上さんからのアドバイス

失敗を恐れるばかりでは「今以上の自分」にはなれない

FCEエデュケーション 代表取締役社長 / FCE Holdings 取締役 尾上 幸裕さん

3つ目のターニングポイントは、役員昇格後、事業方針の社外発表会の旗振り役を自ら引き受けたことです。事業の責任者ではありましたが、それまではプレゼンに苦手意識が強く「自分が担うべき仕事ではない」と考えていました。

変わることができたきっかけは、ある日、極力やりたくなかったお客様プレゼンを任されたこと。案の定、グループの代表から散々なフィードバックをいただき、帰りの新幹線では一言も発すことができないくらい自分に苛立っていました。

それでも、すぐに再プレゼンをしなければならない状況だったので、土日に徹底的にトレーニングをして、月曜の再プレゼンに臨みました。するとそこで想像以上に良い反応をいただき、プレゼンに対するコンプレックスが大きく改善したのです。

この出来事により、長らく「できると思ったことしかやっていなかった」ということを自覚させられました。たまたま成果を出せたセールスの領域の仕事だけ、自分がうまくやれる仕事だけに集中していたのだな、もっと伸ばせたところがあったのに無視していたのかもしれない、無駄に時間を過ごしてしまった……と大いに反省しました。

以降はどんな仕事や役割を振られても、一切断らなくなりました。「今の自分でできないならば、やれるようになればいい」と思えているので、失敗することに対しても何とも思わなくなりましたね。

失敗を恐れていては、できることしかやらない人間になってしまう。むしろ「やったことがないことこそ、どんどんやっていこう」というスタンスに変わり、最近は若手中心にやっている社内イベントにまで「自分もやりたい」と手を挙げています(笑)。

尾上からのメッセージ

目標を本気で追いかけていれば、モチベーションを失う暇はない

昨年には上場を果たすこともでき、今は株主を含めたステークホルダーの皆さんの期待に「いかに応えていくか」ということしか考えていません。今の事業を名実ともに業界No. 1と言われるところまで伸ばしていくぞ、と決めているので、そこだけに集中して仕事をしています。

営業時代であれば契約を取れることやお客様が喜んでくれるのが嬉しい、役職者になれば社員が活躍してくれるのが嬉しいなど、キャリアの変化に応じて「喜びの対象」は変わってきた実感がありますが、そのほかの感覚はあまり変化していません。若い人からは「モチベーションをなぜ保ち続けられるのか」といった質問もよくいただきますが、これは常に目標があって、それを本気で追いかけているからだと思います。

「目標がある」という人はたくさんいても、その目標を本気で追いかけている人となるとかなり限られてくるので、キャリアアップしたい人はそのあたりにも意識を向けてみるのがおすすめです。

私の場合は、常にその時々の目標に意識がロックされているので、未達であればいかに挽回するか見ていませんし、達成したらすぐに次の目標が現れてくるので、365日24時間モチベーションを失う暇がない、という感覚です。現状維持を良しとすれば後退していくと考えていますし、「常に昨日より今日はより良くなっていたい」いう気持ちも原動力になってくれている気がします。

逆に言えば「常に今以上の目標を見ていたい」というだけで、「キャリアを通じてこれをどうしてもかなえたい」といった類の具体的な夢はありません。しかし、無理に夢を設定する必要はないと考えています。

高い山に登ることに集中していれば、どんどん景色が変わっていって、そのうち「あの山に登ってみたいな」「あっちの景色を見たいな」などと思えてきて、次に行きたいところが自然に見つかってきます。

その観点では、社会に出る段階では、ただ「高い山を登るぞ!」という一点だけを決めていれば十分。夢や目標が見つかっていないならば、無理やり作り出す必要はないと思います。

「夢は無理に作らなくていい」と尾上さんが考える理由

会社に「してもらおう」ではなく、自分で責任を持って全力で向き合える会社を探そう

これからの時代に活躍すると思う人の特徴は、「環境変化を受け入れられる人」そして「責任を自ら作り出せる人」です。

社会を取り巻く環境は常に変わっていくので、仕事をしていれば、世の中の変化に振り回されることもあるでしょう。そうしたとき、自分の外に責任を置いて「俺のせいじゃない」と自分をなぐさめるのは簡単ですが、そうしたところで環境が変わってくれるわけではありません。環境の変化を受け入れたうえで「どう進むか」に思考を切り替えられる柔軟性がある人は、変化の激しい世の中でもたくましく生き残っていけると思います。

また、責任は「会社から持たされるもの」ではなく、自分で設定するもの、というのが私の持論です。上述したように、私が会社の危機の際に残ったのも「自分がやらなかったら会社がつぶれる」と、自分で勝手に責任の設定をしただけです。そしてその責任を全うしようと行動したことで、会社の再建に貢献することができました。

誰かから頼まれなくても、退路を絶って責任感を自分で作り出せる人は、どんな環境や状況に置かれても、必ず結果を出していけると思います。

尾上さんが「これからの時代に活躍する」と思う人の特徴

就職活動においては「この会社でなら全力で打ち込めそうだ」と思える企業を選んでみるのもおすすめです。

近年は「いかに成長できる環境か」を軸に就職活動をしている人が多いですが、会社はビジネススクールではありません。「成長させてくれる会社かどうか」といった受け身なスタンスでは、成長の手応えはなかなか感じられない可能性も。

それよりも「ここなら全力で向き合える」という自信を自分自身が持てるかどうか、という点に着目してみてください。目の前の仕事に全力に取り組み、お客様から良い反応をいただくことに集中していれば、給与などは後から付いてきます。

あらゆることについて「会社がこうしてくれる」ではなく「自分でやる」に置き換えて考えてみると、就職先の選択の幅はぐんと広がると思いますね。自分がやれば良いだけなので「B社にすべきか、C社にすべきか」といった変な迷いがなくなり、あまり悩まずに飛び込めると思います。

主体的な気持ちを持てる人は、「自分で行動することを許容してくれる会社かどうか」という1点だけは、入社前に見ておくといいかもしれません。会社の指示を聞いてくれる歯車のような人材を探している会社に入ってしまうと、‟自分で責任を持って仕事ができる社会人”には成長しづらいです。

責任意識を鍛えるには、学生時代のうちから、常に自分より1つ上のポジションに目線を置いて物事を考える習慣を意識してみると良いと思います

アルバイトやインターンの立場であっても「この場合、店長ならどう考えるかな」「オーナーならどういう決定をするだろう? 」といった目線で考える癖を付けておくと、社会人になって、実際に責任ある仕事をするときに役立つと思います。

尾上さんが贈るキャリアの指針

取材・執筆 外山ゆひら

この記事をシェアする