「自分にはできない」と思わず粘る人だけが壁を超えられる|効率性よりも経験量にこだわって自分の力を高めよう
アクティブ アンド カンパニー 代表取締役社⻑ 兼 CEO ⼤野 順也さん
Junya Ono・大学卒業後、パソナ(現パソナグループ)で営業を経験後、営業推進、営業企画部門を歴任し、同社関連会社の立ち上げなども手がける。後に、トーマツコンサルティング(現デロイト・トーマツコンサルティング)にて、組織・人事戦略コンサルティングに従事。2006年、アクティブ アンド カンパニーを設立し、現職
サンプル数はひとつでも多いほうが、自分の選択に自信を持つことができる
キャリアにおける最初のターニングポイントは、小学生の頃から家の手伝いをした分だけ、お小遣いをもらえるという教育方針のもとで育ったことです。
私の家では、食器洗いや風呂掃除などの家事メニューにそれぞれ10〜20円といった単価が付けられていました。ときには稼いだ額が2歳下の弟に負けることもあり、「年齢や性別に関係なく、仕事をした人がお金をもらう」という成果主義の感覚や、「働かざる者食うべからず」の価値観を養うきっかけとなったように思います。
その後のアルバイトでも、無意識に成果主義のところを選んでいました。高校時代は野球場でビールの売り子として、1杯あたり数十円の積み上げで稼ぎましたし、大学進学後も、運送会社やガソリンスタンドなど体を動かした分だけ稼げるガテン系のアルバイトばかりをしていましたね。「座っていれば時給いくらになる」というタイプの仕事にはあまり魅力を感じませんでした。
就職活動は、バブル崩壊後に「就職氷河期」という言葉が生まれた、まさにその時期に始まりました。インターネットはまだまだ黎明期だったので、就職本に付いているハガキを出して会社案内の資料をもらうのが一般的な時代です。
そんな状況でも、就職活動自体はかなり真剣にやったほうだと思います。400通ものハガキを出し、そのうちの40社の説明会に参加。メーカーや金融、アミューズメント業界など幅広い業界を見ましたが、話を聞くなかで「業界全体に古い価値観がある」「スピードが遅い」などと感じるところもありました。あくまで個人的な感覚ですが、そのなかで一番将来性を感じたのが人材業界です。
当時、人材派遣業界は今ほど大きなマーケットではなかったのですが、「会社の数だけチャンスがある」と考えると、将来に向けて非常に広がりがある業界だと感じました。一番広がりのある業界や業種に行きたいと思っていたので、ぴったりだと感じて狙いを定めました。
求人広告を扱う会社は複数ありましたが、人材派遣事業を主軸としていて、かつ新卒採用をおこなっている企業は7社ほどしかなく、そのすべてを受けて、最初に内定をもらったパソナへの入社を決めました。
このような就職活動をした私から就活生にアドバイスするならば、まずは「1社でも多くの企業を見てみること」をおすすめしたいです。
最近は1クリックでエントリーでき、企業情報も気軽に膨大に見られるようになりましたが、その割に5〜10社くらいしか見ずに就職先を決めている学生が多い印象を受けます。そしてそのなかの少なくない人たちが、入社後早々に「他の会社のほうが良かったかも」と迷い始めてしまうのです。就職活動中に十分に企業を比較検討しておかないと、そういった事態が起こりやすくなるのではないかと思います。
サンプル数は1つでも多いほうが、自分が歩みたいキャリアのロールモデルも見つかってくると思いますし、自分がした選択に自信を持つことができるはず。
十分に比較検討したうえで選んだ1社であれば、入社後も他社によそ見をせず、目の前の仕事にまっすぐに集中できます。入社後の活躍のためにも、就職活動中には、できるだけ多くの企業を見てみると良いと思います。
ファーストキャリアでは「仕事の当たり前」がつくられる
パソナの創業者である南部靖之氏(現:パソナグループ代表取締役グループ代表兼社長/パソナ代表取締役会長CEO)は、社員に対して「ベンチャー企業を立ち上げよう、起業しよう」という育成方針を示していました。そのため多くの先輩社員が、辞めて会社を作ったり、子会社の社長になったり、といったキャリアを歩んでいました。
その環境のなかにいると、私も自然に「自分のキャリアの先にも社長という選択肢があるのかも」と思うようになっていきました。「同期の中で1番になりたい」くらいの目標はありましたが、まさか「いつか企業のトップになる」という目標設定をするとは自分でも思っていませんでしたね。このビジョンが芽生えた点で、パソナに入ったことはキャリアにおける大きなターニングポイントだったと言えるかと思います。
以降は「社長になるためには、こんな経験が必要」という目線が生まれ、「マネジメント力は早く磨いたほうがいいな」などと逆算しながらキャリア選択をするように。そうこうするうちに、こういう事業領域をやりたいというビジョンも見えてきました。
人材を紹介するだけで終わらず、採用後の定着や戦力化を図るフェーズに携わるコンサルティング会社を作ってみたい。そのように考え、南部社長に相談してみたところ「子会社の社長をしながらやってみないか」と提案をいただいたのです。
しかし、コンサルティングという仕事が実際にはどんなことをやっているのか、どのようにお金をいただいているのか、具体的に理解できていない状態だったので、正直自信を持ちきれませんでした。そして結局「一度、外の空気を吸って勉強したほうが良さそうだ」と思うに至り、6年半を過ごしたパソナを離れ、外資系のコンサルティングファームに移ることにしました。
それが2社目となる、デロイト トーマツ コンサルティングです。1年ほどでコンサルタントの実態を理解でき、やれそうだなと思えたことから、退社して当社アクティブアンドカンパニーを設立。31歳のタイミングでしたが、これが3つ目のターニングポイントです。
自分の経験からも強く感じることですが、1社目での経験は、その人にとっての「仕事の当たり前」をつくります。就職活動でも「ファーストキャリアは自分の職業観の基準になる」という意識を持って、企業を見ていくのがおすすめです。
例を挙げると、大企業で働いていると社長に会うことは滅多にありませんが、数十名くらいの会社だと毎日のように社長の顔を見て話す機会がありますよね。つまり後者であれば、「社長に直接話を聞ける」ということが自分の常識になるということです。
上記はほんの一例ですが、細かい部分も含めて、どのような環境が自分にとって良いのか、といった観点から考えてみるといいと思います。
また、今この時点で大きい業界に注目する学生の人はかなり多い気がしますが、「今はそれほどの規模がなくても、右肩上がりに伸びている業界」に注目してみることもおすすめしたいです。
伸びている業界で、かつ若手に裁量をくれる自由度の高い会社であれば、その伸びるスピード感とともに自分も成長することができるからです。実際、25年ほど前に飛び込んだ人材派遣業界は見込みどおり大きく成長し、その過程のなかで、私もいろいろなチャンスに恵まれた実感があります。
私がもしも今の時代に就職活動をするならば、同じ人材業界でも「テクノロジー×人材」の事業をやっているところに注目します。あくまで個人的な意見ですが、ITの仕事も専門的ではなくなってきているので、一概に「IT業界に就職すれば安心」とは言いきれない時代になってきたような気もしています。1つの領域ではなく、「IT×物流」「テクノロジー×広告」など、2つ以上の領域を掛け合わせた事業に取り組んでいる企業には飛躍の可能性を感じますね。
景気に大きな影響を受けた創業期。社長として「前を向く大切さ」を知った
起業後の道のりは、決して平坦なものではありませんでした。3カ月ほどで売上は立つようになったのですが、その後リーマンショックが起こったのです。倒産する企業が増えるなかで、そのあおりを受けた創業2年目頃が一番苦しかったです。
自社の赤字が膨らんでいくだけでなく、8人いた社員の半数が辞めてしまい、社内がピリピリした雰囲気に。「人材領域の会社なのに、4人も辞めさせてしまった」ということがショックで、人生で一番自信をなくした時期といえるかもしれません。
会社を畳んだほうがいいのでは、とまで思い詰められていた時期もありました。しかし、現在の常務取締役である八代智氏が「こんなこともあるよ、ここで落ち込んでいたら前進できないから乗り越えよう」と声をかけてくれ、退職者の仕事の整理に動き出してくれたのです。その姿を見て「トップである自分がこのままではいけない」と気持ちが切り替わり、前を向くことができました。
八代氏は2社目にいた頃の先輩で、退職手続きの際にたまたま出くわし、当社の話をしたところ「詳しく話を聞いてみたい」と申し出てくれた人物です。「コンサルティングだけでなく、実現フェーズまでアドバイスできる良い会社を作ろう」という事業のビジョンや方向性に賛同し、ジョインしてくれました。彼がいるから、設立18年目となる現在まで当社を続けられていると思うほど、頼りにしている人物です。
その後も、さまざまなことがありました。2011年には東日本大震災が発生。リーマンショックをようやく抜けて、これまでの3倍の規模のオフィスに引っ越し、「さあこれからだ」という時期に、景気が冷え込んでしまいました。大丈夫だろうかという不安に苛まれましたが、再びの不況の波を乗り越えられたことは、キャリアのなかでも大きなターニングポイントと言えるかと思います。
人は「本気でイメージできること」しか実現できない
充実感を覚える瞬間は、キャリアを経るごとに変化してきています。
プレイヤーとして動いていた頃は、お客様が「なるほど」と言ってくれたときや、メモを取り始めてくれたときにやりがいを感じていました。この2つの動作は「コンサルタントとして、お客様の思考の範囲を超えたアドバイスができた」ということの表れだと思っていたからです。
マネジメント側になってからは、社員たちが自律的に判断して動いている姿を見たときに、一番の手応えを感じます。私が把握していない仕事が増え、知らないところで円満に取引を終えていたり、新しい会社と取引が始まっていたり、といった状況を見られるときは特に嬉しいです。
「自分のやりたい」からスタートするのに、最終的には「社長がいなくてもやれる状態にする」のがゴールだと考えると、社長とはなかなか矛盾したおもしろい職業だなと思うことがあります。
自分がやりたいことをやるために人を集め、資金を集め、自分がいなくても回るような会社という器を形作っていく、今はその過程に醍醐味を見出しています。社員たちがみんな頑張ってくれているので、仕事は意図的にどんどん任せるようにもしています。
最終的なビジョンとしては、「この会社があったからこそ、このマーケットができた」と言われるような人物になること、そしてそのような会社であり続けることを目指しています。海外進出も視野に入れていますし、いずれも実現できるビジョンだと信じて疑いません。
自分が「ある」と信じられる未来ならば、かなえられる。私はキャリアを通じて、そのように学んできました。実際、1社目で「自分のキャリアの先に社長という選択肢がある」と思えていなければ、絶対になっていなかったと思います。
「そうなっている自分」を本気でイメージできるかどうかでキャリアは変わる、ということでもあります。総理大臣になる想像はまったくできませんが(笑)、当社をこの市場になくてはならない会社に成長させていくことは、既にイメージができています。
「大変だ」と思えるのは、自分事として捉えている証拠
仕事のなかで壁にぶつかったとき、「こりゃ大変だな」と感じることは、必ず乗り越えられます。これは自分の仕事じゃない、と思うことは自分の壁になりませんが、大変だと思うのは「自分がやる仕事だ」という前提があるからです。
自分の仕事だと思った途端に壁が出現しますが、「自分事としてその壁に向き合える限り、必ず乗り越えられる」と私は思っています。
人間にとっての1番の障害は、自分で「できない」と思ってしまうこと。成果を出す人の共通点は諦めない人。単なる精神論ではなく、GRIT(グリット:やり抜く力、粘る力)がある人ということです。すぐに諦める人は、どんなに頭脳が優れていても成功を掴める可能性が低くなってしまう、というのが持論です。
私は人間が持っている能力には、それほど大きな差はないと思っています。「自分にはできない」と思うか、「あの人にできて、自分にできないわけがない」と本気で思えるかどうか、という部分に差があるだけです。
「本気になればなんだってできる」と自分に思わせることができる人、できない理由を並べ立てるのではなく「どうやったらできるか」を考えられる人は、どんな会社に入っても活躍できると思います。
できないと思ってしまう思考パターンはとても強力です。社内で何か新しいことをやろうとすると、最初はほとんどのメンバーが「無理です、無理です」と言ってきます。しかしそこから「こうやったらできちゃうんじゃない? 」という提案をしてみると、全体の雰囲気が変わってきます。「もしかしてできるかも? 」と思えた瞬間に、皆ワクワクしてくるのです。
その方法でできなければ、他のやり方を考えればいいだけ。経験やスキル不足でできないならば、新しい本や人に出会ってインプットを増やせばいいし、やりながら身に付けていくこともできます。
新しい可能性を信じ、GRITを持ってゼロからイチを形にしていける人は、どこでも重宝されると思います。自分で自分の思考の幅を狭めており、キャリアにおけるワクワク感に自分で蓋をしている人は少なくない気がするので、これから社会に出る人も、ぜひこの点は意識してみるのがおすすめです。
私は仕事において「とにかく量をやること」を大事にしています。営業活動を5件やるより、50件にアプローチしたほうが10倍の経験値が得られる。後者のほうが、チャンスが来たときにモノにできる確率が高いと思うからです。結果的に売上につながったのが同じ5件だったとしても、経験値には圧倒的な差がついています。
効率的に売上を上げられるよう賢く動こうとする人も少なくない時代ですが、自分が動いた分だけ自分の力になるということは知っておいてほしいですね。
効率よく売上を立てれば上司や経営者を喜ばせることはできるかもしれませんが、量をこなすことは自分だけの力になります。50社にアプローチしたからこその経験量・幅・質を活かせる場面は、後から必ずやってきます。
今の時代には通用しない価値観かもしれませんが、もし共感してくださる人がいれば「自分の成長のために、経験値を増やすためにこう動いてみよう」と考え、量も意識して動いてみてください。
迷いや悩みが生じたときも同様、アドバイスをもらう量にこだわってみると良いと思います。2〜3人に聞いて決めるよりも、できれば20〜30人、可能なら40〜50人に意見を聞いてみてください。サンプル数が増えるほど多くのアイデアやヒントが得られますし、「自分にとって一番魅力的なゴールを示唆してくれる人」が現れる確率も高くなるはずですよ。
取材・執筆:外山ゆひら