モチベーションの源泉は「自己表現欲求」|顧客の喜ぶ姿が仕事の“たのしさ”につながった
ビースタイル ホールディングス 代表取締役社長 三原 邦彦さん
Kunihiko Mihara・芝浦工業大学工学部機械工学科卒。1995年、人材サービスを提供するインテリジェンス(現:パーソルキャリア)に入社。エンジニア派遣事業部 事業部長、子会社のECサーブテクノロジー 代表取締役社長などを歴任。2002年7月に、主婦に特化した人材派遣事業を軸にビースタイルグループを創業。2020年4月にホールディングス体制へ移行し、現職
夢はオートバイレーサー! オートバイへの好奇心が学生時代の私を力強く支えてくれた
ビースタイルを起業したのは、今から21年前の2002年です。アルバイト時代を含めて人材業界に約10年身を置いて、身を粉にして働く中で、結婚・出産を機に、働きたいけど働けないという人を大勢見てきました。
この先必ず起きる労働人口減少の問題を解決するのは主婦とシニア、外国人、ロボットしかないと考え、その中でも「実際に優秀な方たちを数多く見てきた女性たちが結婚・出産後働ける場をつくりたい」という想いから事業の立ち上げを決意しました。
でも、はじめから起業をすることが夢だったわけではありません。実は、小さいころからずっとオートバイレーサーになるのが夢でした。
最初は、好奇心だったと思います。小学生のころから、オートバイと一体になりコーナリングするレーサーを見てはとにかく「かっこいい」と強烈な憧れをもっていました。自分が主人公のオートバイマンガを80ページ×5巻も描き上げるくらい、寝ても覚めてもオートバイが好きでしたね。
そして高校進学後、ようやく夢のオートバイに乗ることができるようになり、念願だったレースにも出場、夢の世界が現実に近づきつつありました。
「プロのレーサーだけの世界で生活ができるのかなぁ」と考えたのも事実ですが、オートバイへの情熱は変わりませんでしたので、進学先を理工系大学にしてオートバイの開発ライダーを目指し、開発もレース活動もどちらもできるように勉強を始めました。
希望どおり、芝浦工業大学の工学部機械工学科に入学し、実験や設計などの授業と向き合う日々がスタート。レース活動も同時におこない、国際B級ライセンスの取得を目指して頑張ろうと思っていました。
ところが、実際にやってみて気づいたことは、いわゆる同じことを繰り返すのがどうも苦手で、「実験」がつまらないということ。計算し、細かい部品を書く「設計」も性に合わない。実験や設計をやり続ける理系職は自分に向いていないと、すぐに理解してしまいました(笑)。
その後、大学時代からビジネスの世界にかかわり始めたこともあり、理系職やレーサーとしての就職意向は薄くなっていきました。
結局仕事として憧れ続けたオートバイにかかわることはできませんでしたが、小さい頃に感じたちょっとした好奇心こそが、学生時代の私のモチベーションの源泉でした。
好奇心からすべてがはじまる。今現在も、この想いは変わっていません。
仕事を通じて喜ぶ人がいて、仕事の“たのしさ”を知ることができた
大学に入学して最初にアルバイト先として選んだのが、実は派遣会社の営業でした。その選択がその先のキャリアへと続いていくのですが、きっかけは、中学時代の先輩から聞いた「派遣会社は儲かるらしいぞ」という何気ない一言です。
当時お付き合いをしていた彼女が社会人になるタイミングだったので、自分も負けじとスーツにネクタイをして働きたいという気持ちもありました。
そんな偶然が、今の人生を創るのですから、何があるかわからないものです。
はじめて働いてみて感じたのは、お金を稼ぐことよりも社会とかかわって活躍すること、結果を出してお客さんに喜んでもらうこと、派遣スタッフさんが仕事に就いて喜んでくれることなどが、想像していた以上に嬉しかったこと。それらは心から楽しいと感じましたし、営業でしたから、自分の営業活動によって新規の取引が始まったりすると大きな達成感も感じましたね。
ところが、3年働いたアルバイト先が突如倒産。そこから不思議なご縁で、私のキャリアは人材業界へと一直線に進んでいくことになったのです。
学生ながらシステムの開発〜売り込みまで経験! 自分に適した就職先を見つけられた
アルバイト先に、未払いのお給料をもらえない代わりにくださいとお願いしたのは、オフコンの派遣システムのマニュアルでした。
当時、マッチング作業はすべて紙でやっている点に課題を感じていて、「ITを使えばもっと効率化できるのではないか? 」と考えていたのです。そこでシステム開発のできる親友を誘って、もらったそのマニュアルを元にWindows版マッチングシステムの開発に着手しました。
学生でしたから、後先を考えず、好奇心からシンプルに即行動したのだと思います。Windows版のAccessを使ってマッチングできるシステムを作れば売れるだろうと、友人の力を借りて作り込み、売り込みに行った先のひとつがインテリジェンス(現:パーソルキャリア)でした。
「買ってください! 」という学生だった私たちの必死な営業に対応してくれたのが、インテリジェンスの創業者で、現USEN取締役会長の宇野康秀さんでした。
システム自体は買っていただいたのですが、システム開発よりも私の営業力に期待いただき「それよりも派遣事業を一緒にやろう」「派遣のオーダーをとってきてよ」と言われ、今度はインテリジェンスでアルバイトをすることとなりました。そこからは、さらに派遣の仕事にのめり込んでいきましたね。
一方で、そろそろ周囲が就職活動をスタートするタイミングでした。興味のある会社も見て回ろうと考え、外資系企業などを見て回りました。当時は外資系のIT企業がどんどん日本に入ってきて勢いがあったので、何となく憧れのようなものがあったんだと思います。
外資系企業はそもそも狭き門だったということもありますが、実際に面接などで話を聞いてみると、本国のプレッシャーが強く日本に意思決定の権限があまりないことがわかってきました。インテリジェンスは何でも自由にやらせてもらえる環境だったので、その環境を選択する意向の方が高くなっていました。
父が経営者だったので、当時からいわゆるサラリーマン的な働きをする感覚はゼロだったと思います。裁量権をもって働ける環境に惹かれ、アルバイト先だったインテリジェンスにそのまま社員として就職することを決めました。
7年間で35年分働いた! モチベーションの根底にあるのは「自己表現欲求」
インテリジェンスでは、アルバイト生活を含め7年間働きました。エンジニアの派遣事業に3年携わったのち、29歳のタイミングで子会社の設立にかかわり、社長を任されるなどさまざまな経験をさせてもらいました。
会社の急成長、急拡大とともに、私も日々半端ない仕事量をこなし、7年間で人の5倍は働いたと自負しています。送別会で「定年」と言って辞めたほどです(笑)。計算上は、35年分働けばもう定年ですよね。ただ、それだけ過酷な環境で働いても、辛いと思ったり疑問を感じることはほとんどありませんでした。
私を動かしているエネルギーは、ただ一つ、「自己表現欲求」だと思っています。仕事ができて、結果を出して、お客様や社内も含めていろいろな人に貢献したい、認めてもらえる人間でありたい。この気持ちがすべてでした。
もっとお金を稼ぎたいなどの気持ちも、もちろんあるにはあります。でも、私がこれまで常に結果にこだわって働き続けることができた、そのモチベーションの源泉となっているのは「自己表現欲求」、いわゆる自分はこんな人間でありたいという気持ちですね。
あと、頑張りたいけど頑張れない、夢中になることを見つけられないと悩んでいる皆さんに伝えたいのは、昔も今も変わらず、何事も最初は「好奇心」から始まるということ。
サッカー選手もサッカーを最初に始めたきっかけは「好奇心」であったはずです。「サッカーって面白そうだな」という好奇心からまずは遊びで始めて、そこから向上心と成功体験を繰り返していくことで、サッカーへの情熱が生まれてくるのだと思います。
「情熱を注げるものを見つけたい」なんて嘆いている人もいますが、そんなものが見つかるはずはないんですよ。まずは「好奇心」からスタートです。そして、向上心が生まれ成功体験を繰り返すことによって自然とハードルがどんどん上がっていき、その繰り返しの結果として、自然と情熱が湧いてくる。
逆に言うと、いくらサッカーの「センス」あっても、向上心と成功体験がない限り情熱は生まれませんから、パフォーマンスは上がっていかないでしょう。思考や行動も含めて努力をしなければ、決していいプレイはできないと思うのです。
ビジネス領域においても同じです。いい仕事をするためには、何を考えどう行動すべきなのか。高いレベルをもとめて努力し、自分の中で成功体験を積み重ねていくことで仕事への情熱が生まれてきます。そのレベルまでやっていかないと、本当の意味でいい仕事、いいビジネスパーソンにはなれないということだと思います。
仕事のレベルが上がっていくと、当然難問にぶつかることが多々出てくるでしょう。「この仕事はやっぱり私に向いていない」とか「目標が高すぎる」などと、できない言い訳、やらない言い訳が心を支配していきます。
でも、言い訳する暇があるのなら、目標を見つめ出来ない課題を特定することです。一見「無理かも」と思ってしまうような難問も、一つひとつ分解して一つずつクリアしていけばゴールにたどり着くことができます。分解するそのプロセスを面倒くさがらずに進められれば、きっと成功体験につながる。科学的に考えてみることが大切です。
そして同時に、「気力」も必要です。大きな壁として立ちはだかる難問をクリアするには、当然時間がかかります。だからこそ科学的に考えるだけでなく、計画通りに進めていくには「気力」も必要となる。
いい仕事ができるビジネスパーソンになるには、「科学」と「気力」が両方必要になってくると私は考えています。
「動機」がなければ仕事で結果は残せない
その道のプロと言われる人に話を聞いてみると、中学生頃からすでにその道を目指していたという話をよく聞きます。すでに「はたらく動機」がセットされているということですね。もし目指している道があるのであれば、それに向かって努力すればいいと思います。どんな業種や職種であっても、強い動機があるからこそ一流になれるからです。
一方、自分の進む道がわからない人は「自分にどんな動機があるか? 」を考えて会社を選ぶのがよいのではないでしょうか。とくに20代でまだ社会人経験も浅いと、自分が信じられる商品でなければ売るのは難しいと思います。
実はスキルや経験、ナレッジが十分にあっても、根底部分の動機がセットされていないと結果が出ないことは、科学的にも証明されているんです。そのため学生の皆さんであれば、「自分の性格的になんか頑張れそうだ」とか「何となくいい会社だな」といった部分で「なぜその会社か? 」を考えてみると良いと思いますよ。
成長産業といわれる業界に入ったほうが、給料も社内におけるポジションも上がっていきやすいだろう、と考えている人も少なくないと思います。たしかに、成長産業のほうが給料は上がりやすいかもしれません。でも、それだけを理由にその業界を選択したとしても一流にはなれないでしょう。
また「会社の価値観や掲げているビジョンに共感できるか? 」という視点も動機になります。会社を選ぶということは、自分が乗るべき船を選ぶようなもの。だからこそ行き先がはっきりとしていて、その方向に共感でき、それが動機になるような選択をしたほうがよいでしょう。
「動機」とは、一人ひとり感じる部分が違うまさに感情的な部分なので、日頃から琴線に触れる経験を増やしておくと良いですね。意識してさまざなものに触れ、体験の幅を広げたり、インターンシップなどにもどんどん参加することも良いのではないでしょうか。
さまざまな経験を通して、自分はどんなものに共感するのか、どんなことであれば頑張れるかなどが見えてくると思っています。何もしないで、家にいるだけではわかりません。全ては行動ですね。
「活躍できる」「貢献できる」と確信できる会社に入社しよう
私としては、20代はしっかりとビジネス能力を身に付けることができる会社を選ぶべきだとも思っています。
社会はやはり厳しい世界です。想像している世界と現実の世界は大きく違うものなので、その厳しい現実を乗り越えるだけの力を付ける必要があります。その力がなければ、いざ30、40、50代になって「これをやりたい」と思ったときに、選択することができません。
そのため最終的に入社する企業を決めるときには、その会社で時間と、心と、体をしっかりと投資し、結果で貢献できる気持ちがあるかどうかが重要な気がします。
厳しいことをいいますが、企業は企業の成長のために社員を雇っているのであって、社員個々のスキルや経験の習得を目的に雇っているわけではありません。給与をもらっている社員が企業の成長に貢献することは、当然だからです。
企業で働くうえで知っておくべきこと
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企業は企業の成長のために社員を雇っている
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働く限り企業の成長に貢献することは絶対条件である
私自身多くの貢献をしたから、会社が多くのチャンスをくれたのだと思いますし、そこで出会った仲間も自分の大事な人生の資産ですから、その貢献は仲間にも伝わるはずです。会社と個人の健全な価値交換関係を、創り上げるイメージですね。
これからは「ポータブルスキル」と「センス」が必要になる
どんな業界、企業にいっても活用できるポータブルスキルは、時代が変わっても必須のスキルです。具体的には、行動力、コミュニケーション力、思考力などがあげられますね。
それに加えて、昨今重要さが増しているのが、センスです。スマートフォンを中心としたデバイスを介したやり取りが一般的になるなかで、どういう仕掛けをして見た人の心を動かすか。感情を創造する力、いわゆる知覚力です。
デバイスを介して興味関心を引くよりも、人間同士のコミュニケーションのほうが簡単ですよね。対面であれば1時間くらい時間を使って心をつかむところを、デバイスを介すと5秒程度の短時間で顧客を惹きつけなくてはいけないのですから、Webデザインの仕事などは今本当に難しい仕事になっていると感じています。
知覚力を養うには、海外に行ったり、映画や絵を観たり、音楽を聴いたり……もちろんスマホやWEBを見ることも重要ですが、大学生であれば恋愛も良いのでは? (笑)
好きな人に想いを伝えるにはどういう言葉で伝えればいいか、どうコミュニケーションをとったらよいか、どうすれば好きな気持ちが伝わるかなぁと考えるはずです。僕の考えでしかないのであくまで参考程度に。
最後に、皆さんにぜひ伝えておきたいメッセージを送ります。
僕なりの価値観ですが、社会に出てどれだけ多くの人に、自分にしかできない、特別なエフェクトを創れるかを目指してほしいですね。スポーツ選手でも、ビジネスパーソンでも、料理人でも、YouTuberでもいいです。自分にしかできないエフェクトにこだわってほしい。
人とあまり比べないこと、妥協して一般的な選択をしないことです。現代はとくに正解がない、予測不可能な時代と言われていますから、人との比較ではなくて、まずは一生使い続ける自分を大事にして、社会に役立つ働きを創り続けてほしいと思います。
取材・執筆 小内三奈