具体的なビジョンを伴った夢でなけば実現は叶わない|素直さと好奇心を持って新しい価値観を生み出そう

インテグレート 代表取締役社長 藤田 康人さん

インテグレート 代表取締役社長 藤田 康人さん

Yasuto Fujita・慶應義塾大学を卒業後、味の素に入社。1992年、ザイロフィンファーイースト社(現ダニスコジャパン)を、フィンランド人の社長と2人で設立。日本にキシリトール・ブームを仕掛けた。2007年、インテグレートを設立し、現職

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「働くのって楽しい」。カルチャーフィットが企業選びの軸だった

学生時代はバブルの真っ只中。サークル活動も盛んで、学生がカルチャーの発信源として注目される「女子大生ブーム」なんて言葉もあったぐらい、毎日全力で楽しんでいましたね。そのうちに、インカレでイベントの企画や運営を始めたら、いくつか企業がスポンサーに付くようになって、活動が広がり、学生起業のような形になりました。

刺激的で楽しい毎日でしたが、どこかで「大学生の起業なんて一生ものではない」と冷めた考えもありました

だからいざ社会に出るときには、自分で事業をやるのではなく、企業に就職しようと思っていました。インカレイベントのビジネスで実感したのは、プロモーションだけではモノ・サービスは売れないということ。商品開発や市場創造にかかわってこそ、ビジネスだと予感していたんです。

だから生活に近い領域でモノづくりにかかわれる会社を志望。舞台は大きい方が良いと、海外に展開していることも重視しました。結果的には、車や家電より身近な感性を活かせる食品に狙いを定め、海外展開にも積極的な、味の素に就職しました。

好きなことをやれるか、チャンスがあるか、カルチャーが合うかを考慮して選びましたが、実際に素晴らしい会社で働けたと思い返します。さまざまな仕事をさせてもらい、役割を与えてもらい、手応えのある仕事ができました。人生最初の会社で「働くのって楽しい」と思えたのはありがたかったと思います。

ファーストキャリアの選択

ファーストキャリアで人生全てが決まってしまうことはあり得ませんが、重要な選択であることは間違いありません。最初の会社で働くことの面白さを感じられれば、きっとその後のキャリアも良い方へ進んでいけるのではないでしょうか。

やり切ったと思える経験が次のステップへの糧となる

味の素では国内市場の仕事を積み重ね、さまざまな経験をしました。その中で出会ったのが、キシリトールです。フィンランドのザイロフィンという会社が、日本にまだない商品であるキシリトールを携えて、味の素に提携を持ちかけてきたのです。どんなものかわからない商品、市場すらない商品だったため、すぐに味の素と提携することにはなりませんでした。

でも、私はその得体もしれない商品に強く惹かれたんです。ザイロフィンはヨーロッパに本社を持ち、世界中に工場を持つグローバルカンパニーでもありました。社内で海外向けの仕事を手がけさせてもらえるようになるには、まだまだ時間がかかりそうだと感じていたタイミングで「アジアのマーケティングのトップ」というポジションのオファーをもらったので、グローバルな舞台に上がるチャンスだとも思いました。

藤田さんのキャリアの変遷

かなり苦労をしてこだわりを持って入社し、実際にたくさんのプロジェクトにかかわった、味の素は大好きな会社。5年間で大きく成長させてもらったし、自分だけでは叶えられないような経験も積ませてもらいました。

でも、全力で取り組んできたからこそ、退社して次の道へ行こうと思えたんです。どんな仕事でも「やり切った」と思える経験は大きな糧になり、自分を後押ししてくれます。

5年間売り上げはゼロ。志を同じくする仲間で困難を乗り越えた

1992年、フィンランド人の上司とともにザイロフィンファーイーストを設立しました。希望に満ちた船出でしたが、ここから5年間は苦労を重ねることになります。

まずは厚生省から食品添加物として認可を得ねばなりませんが、これまでにない健康効果のある商品なので、厚生省も取り扱いに苦慮していました。私たちはキシリトールについて理解してもらえるように、各所へ足を運びました。

苦労を続けている間、5年間は売上ゼロ。正直に言うと、何度もやめようと思いましたね。それでも頑張れたのは志を同じくする仲間がいたから。

上司と2人でキシリトールが日本に根付くことを夢見て、毎晩のように語り合ったことを思い出します。辛いときでも、一人でなければ乗り越えられると、身をもって実感した時間でした。

藤田さんからのメッセージ

もう一つ苦難を乗り越えられた理由は、キシリトールが浸透した日本の姿を強く思い描いていたから。フィンランドに出張したときに見た光景が、自分の道標になっていました。

キシリトールを日常的に使用するフィンランドでは、虫歯が完全に過去のものになっており、小学生で虫歯を経験したことのある子はごく一部だけだったんです。その光景を見て本当にびっくりしましたし、いつか日本でもキシリトールの使用で虫歯を減らすことがきるのだと、信じるようになりました。

自分で具体的にイメージできないものは実現できないんです。逆に言えば、具体的なイメージがあるなら、それを目指して進み、叶えていくことができるということ

私はフィンランド留学経験のある歯科医に協力を仰ぎ、メディアへの露出を高め、虫歯のない世界をPRしていきました。そして時間をかけて、2,000億円規模の大きな市場を作ることができたのです。フィンランドで見たイメージがまさに、現実のものとなりました。

当社は結構、夢見がちな人が集まってくるんですよ(笑)。なぜなら、夢見るパワーの凄さを知っているから。ぼんやりとした夢でなく、具体的なビジョンを伴った夢は、実現への大きな力になります。細部まで詳細に思い描き続けることで、夢は夢でなくなるものです。

新たな価値観に出会う場をもとめよう。素直な好奇心を大切に

インテグレート 代表取締役社長 藤田 康人さん

キシリトールの市場を創造できたことで、ここでも私は一定のやり切った感を感じていました。素材メーカーとして商品開発など市場を創造する仕事を存分に経験して、もっと幅広い商品をマーケティングの力で世に広めたいという気持ちも強まりました。キシリトール以外にも機能性食品や素材が生まれ始めており、自分の知見を生かしてマーケットを作っていけると考えたんです。2007年、私は独立起業し、インテグレートを設立しました。

面白いこと、新しいことに触れて、広げていきたいという気持ちは、学生時代から変わりませんね。その気持ちがあればたいがいうまくいくと思うんですよ。面白いからやってみたい、と思えば積極的にかかわることができます。さらに環境の変化に柔軟に対応し、自分を変えていくこともいとわないでしょう。素直な人、好奇心が強い人はこれからの時代でも活躍できると思います。

成長のキーになる資質

そのためには、学生時代の経験や出会いが大切です。リアルな体験はもちろん、インターネットを通じた経験でも良いと思いますよ。ただ一つ、「フィルターバブル」には気を付けてほしいです。

SNSなどでは、自分の興味関心の範囲の中に孤立してしまいがちです。居心地の良いレコメンドに甘んじていると、新たな価値観に出会うことはできません。バブルとレコメンドの先へ自分を広げていくことが大切です

私自身もヘルスケアに関連したマーケットで長年やってきましたが、その先はなんなのか問い直しています。そこで考えているのが、ウェルビーイングという考え方です。体に良いだけでなく、心身ともに良く生きるということ。昨今はこれをキーワードにしています。守りに入らず、新しい価値観を知りたいというワクワクを忘れないことで、自分を進めています。

不安定な環境ははチャンスにもなり得る

生まれてからずっと経済が右肩下がりの中で育ってきた若い世代は、将来に希望が持ちにくいのももっともです。加えて世の中のさまざまなことが変化し、流動化しており、呑気に未来は豊かになると思えないのは当然です。しかし、不安定な時代は同時に、大きなチャンスの時でもあると捉えてみてはどうでしょう

誰でもが成功するチャンスがあります。ルールを変えて物事を動かすチャンスもあります。産業を変えていく側やトップランナーになれるかもしれません。未来は予測するものではなく、作っていくものだと思っています。自分が世の中を少しずつ変えられると信じたら、ちょっとワクワクしませんか。

私は日本の閉塞感を打ち破るために、日本の良さ、価値、素晴らしさを世界に伝えていくビジネスを推進したいと思っています。不透明な今だからこそ、チャンスがあると思うんです。皆さんも萎縮せず、好奇心と夢を心に、チャンスをフル活用して活躍してほしいですね。

藤田さんが贈るキャリアの指針

取材・執筆:鈴木満優子

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