積極的に打席に立って自分だけの専門性を磨こう|経営の中核を支える人事領域の奥深さ
クラダシ 取締役執行役員CHRO 徳山 耕平さん
Kohei Tokuyama・1982年生まれ。慶応義塾大学を卒業後、2007年よりザイマックスに入社。2016年よりLoco Partners(ロコ パートナーズ)にて人事・広報・営業責任者などを担当。2020年7月にクラダシに入社、2022年7月より現職
領域にこだわらずに挑戦し、人事職と出会う
新卒で入社してから、ずっと人事としてキャリアを歩んできましたが、最初から人事領域の仕事に興味があったわけではありませんでした。むしろ人事になるまで興味がなかったと言っても過言ではないかもしれません。
就活の際も、私は理系の大学院に進んでいたので、選択肢としては専門性を活かしたエンジニアや研究者が就職先の王道なんだろうなと思っていました。
しかし自分の周りの先輩も、学生時代の研究内容を100%生かした仕事についている人は非常に少なかったのです。だとしたら、職種にこだわりすぎずに可能性を広げてみようと思いました。
そこで出会ったのが、ザイマックスという会社。法改正に伴って急拡大する不動産証券化市場においてリーディングカンパニーとなるべく成長を続けるベンチャーでした。外資系金融企業が多い領域で日本企業として面白い取り組みをしていると感じましたし、成長市場で自分の能力を伸ばしたいという思いにも合致しました。そこで不動産資格も取得し、意気揚々と入社したんです。
ところが新卒入社して早々に、人事に配属されました。想像もしていなかったので、ただただびっくり。うれしいも残念もなかったですね。採用も労務も人材育成も何もわからないままのスタートでした。
しかしその後のキャリアを考えると、この会社で人事の仕事をスタートできたことは良かったと思います。同社はリクルートからスピンアウトした企業という来歴があり、経営陣が人事領域を非常に重要視していたからです。
同社では、人が事業の柱であるという認識があり、人事は経営の重要な要素として扱われていました。そんな中で人事のイロハを学べたのは貴重な経験だったと思います。
抽象的な課題は仮説を立てながら進もう
人事への配属について、組織として人事面を充実させる意図があって積極的に人を配置したのでしょうが、なぜ私が選ばれたのかはいまだにわかりません。自分の性格がコーポレートに向いているとは思えないからです(笑)。
しかし、その後スタートアップ企業でも人事領域にかかわり続ける中で、人事だからこそ自分の特性が生かされる場面もあったなと思います。
たとえば、2社目の転職先はまだ小さなベンチャーで、組織も未成熟。人事、広報、法務とコーポレート部門を一手に引き受ける形になりました。
このようなフェーズでは、ブルドーザーのように全体を大きくならしながら進めていくことがもとめられるので、私は抽象度の高い課題について、仮説を立てながらクリアしていきました。存在していない曖昧なものを、マイルストーンのように仮説を立てることで、ゼロから生み出していったのです。
営業や開発と違って、人事などのコーポレート職は形のないものを生み出し、管理する仕事です。だから曖昧なものを曖昧にしたままにせず、進めていく方法が問われます。そこで仮説・実行・検証を繰り返すことが有効だと気づき、実現することができました。
コーポレート部門の仕事に限らず、抽象度の高い問題を扱う際には、仮説の有用性を意識してみてほしいですね。
人との縁で切り開くキャリア
ファーストキャリアから現在の会社に至るまで3つの会社を経てきましたが、いつもきっかけになったのは「人との縁」でした。知り合いからの生の情報を元に、興味の持てる企業に身を投じてきました。
人材募集の情報はもちろんですが、その企業で働いている人の実感が何よりの指針になりましたね。
私が人との縁を大切にするために心がけていることがあります。それは社交辞令を社交辞令で終わらせないこと。「また今度ご飯行きましょう」「一緒に行きたいですね」「ぜひ誘ってください」という言葉は、日本ではほとんどが社交辞令ですよね。でも、これを社交辞令にしないんです。
私はこの言葉が発されたら必ず約束を守ります(笑)。実際には、時間には限りがあるのでご飯にいつも行けるわけではないのですが、「勇気をもって人の懐に土足で踏み込むこと」を心がけています。
もっと話を聞きたい、今後も関係を続けたい、一緒に居て学びたい、そんな気持ちがあれば踏み込んでコミュニケーションします。素朴に遠慮をせず、相手に近づくんです。ここから広がった仲間がキャリアの要所で私を導いてくれました。
若手社員を見ていると、真面目で目的意識が強く、自分から負荷をかけて成長できる人が多いと感心します。でもどこか遠慮があるというか、踏み込んだコミュニケーションやコミットメントを避けている人が多いようにも感じます。
選択肢は数多くあるのですから、土足でも踏み込んでみる勇気が大切です。その一歩として、目の前の素敵な人にもう少しだけ近づいて、話を聞いてみてはどうでしょう。
いろいろな会社を見て、さらに自分が採用の担当もしたうえでよく聞くのが「会社の人が良さそうだったから入社した」という意見。特に新卒採用では決め手になっているように思います。実際、採用担当者は人当たりの良い人に任せることも多く、会社の印象を高められるようにしている側面はあります。
でも、その「良い人」と自分は仕事上のかかわりがないかもしれないし、「良い人」は退職するかもしれない。その場合、自分が感じた良さが会社の中で再現性のあるものなのか、少し考えてみる必要があると思います。
採用担当以外の人はどうだったか。社員が皆良い感じだったとすれば、それはなぜなのか。経営者が採用に力を入れているのか。会社のバリューが浸透しており、自分がそれに共感しているのか。「良い人」が多いことが業界全体の特徴や構造なのか。そもそも、自分が良いと感じた要素は何なのか。この掘り下げをすることで、納得感のある就職や転職になります。
「会社の人が良い感じだった」という直感をみくびってはいけません。会社の本質を捉えている可能性が高いです。ただし、その先を少し考えましょう。良い感じの人が生まれる理由が分かれば、自身の価値観や働くモチベーションも整理されますよ。
人事は経営企画の中核にある仕事
2つの会社を経て、現在のクラダシに参画したのは、コーポレート部門の仕事と共に事業作りにもコミットできそうだったからです。会社が拡大戦略を取ったタイミングだったので、ゼロから組織と事業を作り上げることがもとめられていました。
私は人事という仕事を始めたときに、人事は経営の重要な要素だと学びました。そしてここでまさに、経営企画の中核として人事領域を進めていく仕事ができています。事業の計画があり、その中で必要な人事戦略を進めていく。両者は決して独立したものではなく、経営の両輪なのです。
人事の仕事をしてみたいという人もいれば、人事なんて裏方仕事だと思う人もいるでしょう。私は人事は経営の中枢部分だと思っています。だから会社全体のことを理解し、考え、ある種経営者の目線で会社を変えていくことができる魅力的な領域だと思っています。
逆に言えば、会社のことがわからない状態で人事の仕事をしても、意義のある仕事はできないのです。人事を目指す人はもちろん、たまたま人事職についた人にも、経営という観点を忘れないでほしいです。
合理的な判断で辛い壁を乗り越える
長くコーポレート部門の仕事をしてきましたが、もちろん困難に突き当たったこともあります。
たとえば事業拡大の中で順調に人を増やしていた時、経営陣と100%の合意形成ができず、社員に皺寄せが及んでいると感じたときがありました。会社を良くしたい、社員に還元したいと思っているのに、社員を苦しませることになり悩みましたね。
そんなときには、そうした負の感情に惑わされず、冷静に合理的に判断することを心がけました。合意を形成するにも、論理的に整理し、妥協すべきところ、譲れないところをクリアにして挑みました。感情に振り回されているうちは良い解決ができないですからね。
しんどい場面こそ、冷静に考え抜くことで、打開できる可能性が高まりますよ。
どんどん打席に立って唯一無二の専門性を得よう
これからの社会では終身雇用がほとんどなくなり、一つの会社だけでキャリアを積み上げていくことは少なくなっていくでしょう。会社内だけで通用するスキルや経験もあまり意味を持たなくなってくるかもしれません。
だからこそ、とにかく変化に対応してアップデートし続けられる柔軟性と、その中でも意味を持つ独自の専門性が評価されるようになると思います。
専門性を築くためには、とにかく打席に立つことが重要。自分の意思で取り組んで、成功や失敗をすることでしか身につかない学びがあります。そうした特有の学びを繰り返し、横展開できるように整理していくことで、あなただけの専門性になるのです。
成長産業には、その打席がたくさん用意されています。否応なく手をあげて経験するチャンスがあるのです。だからぜひ社会に出る最初の一歩は、右肩上がりで拡大を続けていく可能性が高い業界に飛び込んで、専門性を高めていってほしいですね。
取材・執筆:鈴木満優子