人間関係がキャリアをつくる|就活の「正解」は自分の手で切り開こう
monoAI technology(モノアイテクノロジー) 取締役 山下 真輝さん
Masaki Yamashita・20歳で起業し、広告代理業や店舗ビジネスなど複数の事業を立ち上げ、拡大させた後売却。その後、SBI証券にて資金調達業務などを担当。イーファクター(現:metaps)に入社し、アプリリワードサービス『metaps』(メタップス)を立ち上げる。2013年、ライヴエイドを創業し、スマートフォンのアドネットワーク事業『Aid』(エイド)をリリース。ベンチャーキャピタルから億単位の資金調達を実現し、2015年に上場企業へ事業売却。IoTや民泊事業などを手掛けたのち、2021年より現職
就職希望から起業の道へ。プロミュージシャンの経験が人生を大きく変えた
大学を卒業して良い会社に入ろう。最初はそう思っていて、起業することは考えていませんでした。
そんな私ですが、プロのミュージシャンとして活動を始めたことがきっかけで大きく人生が変わることに。
中学から始めたギターでしたが、精力的に活動したことが功を奏し、高校生になると次第に音楽の仕事をいただけるようになりました。すると18歳のときに大手事務所から「ミュージシャンとして活動してみないか」と声を掛けてもらえたんです。すでに大学に受かっていましたが、夢を追ってプロの道に挑戦することに。約3年にわたり、スタジオミュージシャンとしてアーティストの全国ツアーに同行し、音楽に向き合う日々を送っていました。
そんななか、世の中ではファイル共有サイトが台頭し、音楽や映画などのデジタルコンテンツを無料でダウンロードできるように。今まで著作権で守られていたものが、第三者によって簡単に広められるようになり、「音楽を作ったとしても価値がなくなるのではないか」と恐怖を感じましたね。
ずっと音楽のことだけを考えて生きてきましたが、そこから違う仕事にも目を向けようと、仕事を探しはじめました。でも、自分にとってロマンを感じられなかったり、ピンとくるものがなかったりしたので、「それなら起業するしかない」と覚悟を決めたのです。
起業してみて感じたのは、世の中の経営者やビジネスは完璧ではないこと。不完全でも事業は成り立たせられますし、一見きらきらしているように見えてみんな案外泥臭いことをしているのだと実感しました。
周囲から好かれる努力を! どんな仕事も人間関係がカギを握る
ある日SBI証券でベンチャー投資をしている知り合いから連絡があり、久々に会うことに。彼曰く、近年では若い起業家が増えているとのこと。「山下くんは若くて起業家との年齢も近いから、良いベンチャーキャピタリストになれると思うよ」と誘われてSBI証券に入社を決めました。
大手の金融企業ということで、ダイナミックで華やかな仕事ができるとイメージしていましたが、実際は地道なものでした。
たとえば海外の企業に対する投資判断をするときも、ロジカルに理論立てて考えるというよりは、関係者と食事に行って軽く話すだけ。周りを見ても、最終的にはその人の好みで決断を下すことが多く、どんな業界や仕事においても、人間関係が大きな影響を与えるのだと知りました。
そう思うとミュージシャン時代も、プロデューサーなどの音楽関係者からいかにチャンスをもらえるかどうかが重要だったなと思います。
起業してからも、良好な人間関係を築けていたからこそ、周囲から「この仕事やってみない? 」とチャンスをもらえて、新たな環境で経験や能力を培うことができました。まずは周りから任せてもらえる、選んでもらえる存在になることが重要ですね。
そのためには、相手から好かれる努力をしましょう。自分の上司はどういう人が好きなのか。どういう人のことを信頼しているのか。日々観察しながら、先回りして相手のもとめている要素を取り入れてみてください。
どんな上司にも好かれやすいのは、自分なりの意見をもっている人です。若手のうちは、自分の判断で決められることは少ないかもしれませんが、何事も「自分だったらどうするのか」を考えるようにしましょう。周りにも伝えていくと、「仕事に対して積極的に取り組んでいる人だ」と認知してもらえて、信頼や信用にもつながっていきます。
また、上司の意思決定を真似することもおすすめです。普段からどんなふうに意思決定をしているのかを観察し、どんどん真似してみましょう。というのも、上司からすると大きな仕事を任せるなら、自分に近い意思決定をする部下のほうが安心できるからです。チャンスに恵まれやすくなると思うのでぜひ参考にしてみてくださいね。
「誰と付き合うか」。周囲との関わり方で自身の成長が決まる
あるベンチャーサミットで、イーファクター(現:metaps)の創業者に出会い、一緒に食事に行きました。彼は当時20代前半にもかかわらず、社会貢献を意識してビジネスをおこなっていて、その視座の高さに刺激を受けましたね。「IT分野で人間の生活や習慣を変えたい」というビジョンに共感し、何か手助けできればと同社にジョインしました。
入社後、あらゆる企業の上層部の方に会う機会が増え、その方々とかかわるうちに大きく成長していくことができたと思います。いつしか付き合う人も変わり、ビジネスで活躍している人たちに囲まれるように。さらに、上場企業の社長から「自分で起業しないの? 山下さんが起業するなら、いくらでも投資するよ」と言ってもらえたんです。
その言葉に勇気をもらい、実際にライヴエイドを創業しました。20歳で起業したときは完全に自分1人でやりましたが、今回はベンチャーキャピタルの人と共に事業を作り上げていくという、新しい経験をすることができました。経験豊富な彼らと月に数回壁打ちをして、PDCAを回して……と繰り返していくうちに、ビジネスパーソンとしての能力を底上げすることができました。その後事業売却を経て、2021年に当社にジョインし、今までの経験をもとに取締役を務めています。
誰と付き合うかどうかで、人生のほとんどが決まると言っても過言ではないのではないでしょうか。自分が目指しているような人の近くで、チャンスをもらったり、引き上げてもらったりすることが大事ですね。
就活に答えはない。自分の選択を正解にしていこう
前提として、就活に正解や不正解はありません。どんな業界や企業を選んだとしても、努力によって自分次第で正解にしていくものです。たとえ第一志望の企業とご縁がなかったとしても、別の環境で幸せになることはできます。ファーストキャリアの選択以上に、その後の生き方が重要であることは忘れないでくださいね。
強いて言うのであれば、なるべく早いうちから意思決定できる企業がおすすめです。人間の能力というのは、どれだけ意思決定したかによって決まると考えています。自分でリサーチをして、KPIを設定し、行動や見直しを重ねていく。その過程を経験できる環境のほうが仕事を楽しめると思いますし、自己成長のスピードもとても速くなります。
また、どんな企業を選んでも、そのなかで「上位5%」の結果を出すように意識しましょう。人間関係がキャリアに大きな影響を与えるという話をしてきましたが、社内でトップクラスの領域に身を置くことができたら、自ずと切磋琢磨できるような人たちとかかわれるようになります。インターネットには出回っていないような有益な情報を得られることも増えるので、今後の人生やキャリアにも活かすことができますよ。
就活の不安は「分からない」から生まれる。縁やチャンスを逃さない行動力を意識しよう
就活生のなかには、就活やキャリアに対して不安を感じている人もいるかもしれません。不安というのは「分からない」という感情から生まれているので、億劫かもしれませんが、とことん不安な気持ちを掘り下げ、シミュレーションしてみてください。最悪のケースを想定してみると、意外と大したことがないのだと分かり、行動しやすくなるはずですよ。
行動力がある人は、どんな時代でもチャンスに恵まれるでしょう。スキルや技術はどんどん一般化されていて、今後もその傾向が強まると思いますが、一人ひとりの行動力は代替されることはありません。積極的に行動するからこそ得られる経験も多いと思います。
あとは、あまり先々のことを考えず「今楽しいことを全力でやる」というスタンスもおすすめです。私もそういう感じで、今はエンジェル投資家(起業したての企業に投資する投資家)として若者の夢を応援することに注力しています。
起業してから現在まで、いろいろなチャンスをもらってきたので、今度はチャンスを与える側に回りたくて。今までの起業やビジネス経験をもとに、若者ならではの熱量に刺激を受けながら、一緒になって夢を追うことがとても楽しいです。
今までの人生を振り返ると、周りの人たちからご縁やチャンス、仕事を与えてもらいながら、自分のことに集中してキャリアを築いてきたように思います。就活やキャリアにおいて、何か1つでも取り入れてみてくださいね!
取材・執筆:志摩若奈