自分が選んだキャリアを正解に変える力を養うために|「頑張って成果を出せた」という小さな成功体験を重ねていこう

おてつたび 代表取締役CEO 永岡 里菜さん

おてつたび 代表取締役CEO 永岡 里菜さん

Rina Nagaoka・三重県尾鷲市出身。大学卒業後、PR・プロモーションイベント企画制作会社に入社。続く2社目で地域活性化の事業にかかわり、「地域に人が訪れる仕組みを作りたい」というビジョンが芽生える。フリーランスとして全国を回ったのち、2018年7月におてつたびを創業、以降現職。地域の短期的・季節的な人手不足で困る事業者(宿泊施設や農家など)と、「知らない地域へ行きたい」と思う地域外の若者をマッチングするWebプラットフォーム『おてつたび』を全国に拡大中

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3年間社会経験を積んで教師になることが、最初のキャリアプランだった

キャリアを切り拓く原動力になっている「ゴールに向かってやり切る力」は、学生時代のさまざまな経験を通じて培ってきた実感があります。

たとえば、初心者で飛び込んだ中学のバスケットボール部では、大半が経験者のなか「レギュラーに入りたい」という強い思いを持って自主練を重ね、最終的にはレギュラー入りを果たすことができました。大学進学の際も、合格可能性がE判定の状態からスタートし、皆に無理だと言われるなかでも志望する大学への合格を果たしました。

大学進学をきっかけに上京しましたが、当時は正直キャリアのことを具体的に考えられてはいなかったなと思います

関東圏の大学を選んだのも高校の先生からの助言によってでしたし、「人に触れ合うのが好きだから、先生の仕事が良さそうだな」と消去法で教育学部を選択しました。

当時は世の中にどんな仕事があるのかを知らなかったので「人とかかわる仕事=教師=教育学部」と考えていたのですが、選択肢は広く持っておきたかったので、教育専科の大学ではなく幅広い学部がある総合大学へ進学し、小学校の先生を目指して勉強をしていました。

ただ教育実習に行った際に「社会人経験がないままでは、子どもたちに伝えられることがあまりない」と感じたため、まずは民間企業に就職して、3年間くらい社会を見てから先生になったほうが良さそうだと判断。ではどんな会社に入ろうかを考えたときに、頭に浮かんだのがベンチャー企業です。

10年前の話ですし、国公立大学の校風もあり、自分の周囲には新卒でベンチャーに入ろうという同級生はいませんでした。ただ「3年間で辞める」と決めていたので、短期間で成長するためには若手にも裁量を任せてくれるベンチャー企業が最善だと思ったのです。

0から1を生み出し、課題解決を提案できる企画営業をやりたい気持ちがあったので、その軸でベンチャー企業を絞っていきました。

いろいろな企業を見るうち、会社のカルチャーや雰囲気は人が作るもので、ベンチャー企業の場合は特に「トップがどのような考え方をしているか」が重要になると実感しました。代表や社員の方々の人柄を見ながら、若手にも裁量を与えてチャレンジさせてくれる会社を探し、プロモーションイベントの企画制作を手掛ける会社に入ることにしました。

100%の場所はない。正解の会社を探そうとせず、自分の力で100%に近づけていこう

カルチャーフィットする会社を1社目に選んだことは、結果的に大正解でした。成功すれば花束を持たせてくれ、失敗すればフォローや後始末をしてくれるような社風だったので、思いきったチャレンジができました。プレゼンテーションや資料作成のスキル、コーディネート力なども身に付いた実感があります。

一方で、キャリアのなかで一番しんどかった3年間でもあります。裁量をもらえるからこその大変さではあるのですが、10本のプロジェクトが同時並行で走っていた時期もあり、働き方改革の前でもあったので、毎日のように終電帰宅、時には朝3〜4時まで働くといった生活をしていました。

物理的にはかなりタフな状況ではありましたが、気持ちの面ではやりがいを感じられていたので、「自分はハードなことも嫌いではないのかも、仕事が好きだな」ということも自覚できました。

学生時代から新人時代を振り返って今あらためて思うのは、「正解を選ぼう」と考えて動く必要はないのではないかということです。就職活動でも「どの会社に進むのが正解か? 」という目線で企業選びをしている人は少なくないかと思いますが、「選んだものが正しいかどうか」より、選んだものを正確にしていく力を身に付けていくことのほうがはるかに重要だと思います

選んだものを正解にしていく力を養うためには、「どんな環境でも逃げずに最後までやり切る努力をして、手応えや成果を得られた」という成功体験を重ねることが肝になる気がします。

上述したエピソードでも、バスケットボール部に入った当時、あまりにも底辺からのスタートだったので、母には「しんどいなら辞めてもいいよ」と言われていました。そこで「一度できることをやりきってから、辞めるかどうかを考えよう」と決めて努力をしたことで、レギュラーを勝ち取ることができました。

受験でも同様、厳しいと言われるなかで合格することができた。そうした小さな成功体験の積み重ねが、自分の選択を正解に変えていく力につながっている気がします。

永岡さんからのメッセージ

もちろん、時には環境を変える決断をしたほうが良い場合もあるとは思いますが、世の中にパーフェクトな場所はありません。キャリアのスタート地点から「100%の選択肢を見つけよう」と思うのではなく「自分の力で100%に近づいていこう」という心構えを持っておくのがおすすめです

そしてすぐには見つからなくても、「自分がどうありたいか」「何をしたいか」を見つけようとする姿勢が、先々の良いキャリアにつながっていく気がします。

「相手の顔が見える仕事がしたい」「人生を地域に使いたい」というビジョンが徐々に見えてきた

1社目でハードな日々を過ごすうち、自分のこれからの人生を何に使いたいのかといったテーマについて考えるようになりました。そして自分と対話を続けた結果、「私は相手の喜ぶ顔が見える仕事がしたい、それならBtoBよりもBtoCのビジネスが良いのではないか? 」というビジョンが見えてきたのです。この方向性を見つけられたことは、キャリアにおける2つ目のターニングポイントです。

1社目はBtoBの仕事がメインで、意思決定者の顔が見えるときには手応えを感じられるのですが、そうでないときにはなかなかやりがいを感じられず、自分は相手の顔が見えないと最大限の力を発揮できないタイプであることを自覚しました

仕事の先で誰が喜んでくれるのか、喜んでくれる人の顔がダイレクトに見えるBtoCの仕事にかかわりたい――。そんな今の仕事観の軸となる思いが見えてきて、予定どおり3年で退職をすることに決めました。

永岡さんのキャリアにおけるターニングポイント

とはいえ、その段階ではまだぼんやりしたビジョンしか描けておらず、「具体的に何をしたいのか」についての結論は出ていませんでした。そんなとき「うちで働きながら見つけたら良いんじゃない? 」と言ってくださったのが、キャリア2社目となるベンチャー企業の代表です。

食育を中心に地域活性化の企画やコンサルティング、プロデュースを手がけている会社で、農林水産省との和食推進事業の立ち上げなども経験できました。全国各地に足を運ぶ機会があり、ここで1年間を過ごすうち「自分の人生を地域に使いたい」という明確なビジョンが見えてきたのです。

プライベートの旅行を含め、国内外に足を運ぶなかで、自分はやっぱり日本が好きで、しかもわかりやすい観光名所ではない場所のほうに惹かれるという確信を持ちました。特に現地の人との出会いや対話が楽しく、一見何もなさそうに思われる地域にも必ずその土地で培われてきた歴史や文化があり、一歩踏み込んだときにおもしろいものが見えてくることを感じていました。

皆に「どこそれ? 」と言われるような地域に、スポットライトがあたる事業を生み出したい。そう思ったときに、まさに自分が生まれた三重県尾鷲市のような地域の魅力を伝えていくことが、自分の人生のミッションだと閃きました。ここが3つ目のターニングポイントになります。

「失敗しても再起できるチャンスはある」と思い、20代での起業を決意

おてつたび 代表取締役CEO  永岡 里菜さん

事業のビジョンや人生を賭けたいミッションが見えてきて、次に考えたのが「地域にスポットを当てるにはどうすればいいのか? 」というテーマです。この頃には「自分で起業するのがベストなのでは? 」という考えが、頭に浮かぶようになっていました。

起業を考えるようになったのは、2社目の代表の存在にも少なからず影響を受けているかもしれません。5名程度の小さな会社でしたが、非常にビジョナリーな人で、毎年の創業パーティーには「代表にお世話になったから」と多くの人が集ってきていました。そういった姿に憧れを抱き、起業という選択肢も良いかもしれないと無意識に感じていたのではないかと思います。

とはいえ、周りに同世代のロールモデルはおらず、それなりに不安はありました。友人たちが社会でどんどん活躍していく姿を見るなかでの葛藤もありましたし、自分が本当に起業できるのか、実際には地域に役立つことなどできないのではないか、そんな思いが頭のなかをぐるぐると巡っていました。

その状態から抜け出すためにも「頭で考えているより現地を見てみよう! 」と思い立ち、半年間ほど、全国各地を見て歩きながらフリーランスで仕事をしました。足を運ぶことで実際にいろいろなことが見えてきましたし、地域を巡っているうち起業の決心も固まっていったのです。

自分はまだ26歳だし、仮に起業してうまくいかなくても再起できるチャンスはある、20代だからこそリスクが少ないだろうと思えるように。今となっては「何歳になってもチャレンジできる」とは思うのですが、当時は「30代になって家族を持ってからでは、自分の性格的にこんな大きなチャレンジはできないだろう」などと考えたことを覚えています。

チャレンジの決意を固めた経緯

そして2018年7月、当社おてつたびを起業。その半年後に、人手が欲しい地域と地域で働いてみたいユーザーを結ぶマッチングサイト『おてつたび』を立ち上げました。

以来5年間、さまざまな紆余曲折がありましたが、登録いただいている事業者・ユーザーの数は順調に増加しています。海外渡航ができない時期に国内に目を向ける人が増えたことも追い風になり、登録ユーザー数は30,000名を突破(2023年2月時点)。「おてつたび先」としても約900の事業者や自治体に登録いただいており、47都道府県すべてでマッチングを実現できています。

誰も損をしない仕組みを作り、多くのつながりを生み出せる組織を目指したい

起業後の一番のターニングポイントは、創業2年目の後半、正社員メンバーを迎えたタイミングです。それまでも他の仕事をしながらハーフコミットで手伝ってくれる仲間はいましたが、大事な人生の一部をかけて、当社にフルコミットしたいと思ってくれる仲間ができたことの喜びは、非常に大きかったです。

私のブログを見て連絡をくれたメンバーを含め、まずは3名体制でスタート。社員として動いてもらえると責任を取れる範囲が広くなるので、ひとりでやっていた頃よりもできることが格段に広がりました。現在は10名ほどの組織になっています。

組織づくりについては現在進行形で模索中ですが、いろいろなことに対して「つながり」を生める組織でありたいというのが現在のビジョンです。地域とのつながりは原体験としてベースにありますが、今はもう少し大きく「人のつながり」を生んでいきたいと考えています

10年、20年、30 年と続くような仕組みづくりをしていくために何より大切なのは、「三法よし」つまり「WIN-WIN-WIN」の状態をつくることだと考えています。誰かが搾取されるような状態になると絶対に続かないので、かかわる人皆が幸せになる仕組みを確立させていきたいです。

キャリアにおいて充実感を覚えるのは、自分たちの仕事を通じて「心から喜んでくれている人がいる」と感じられるとき。あくまで私の場合はですが、届ける相手の顔が見える仕事ができたほうが充実感につながりますし、自分自身は相手の顔が見えた方が本質的なもの、より良いものを生み出すパワーを発揮しやすいです。

しんどいときや気持ちを切り替えたいときは、サウナに行ってリフレッシュします。サウナの中では「今なぜしんどいのだろう? 」「自分はどうしたいのか? 」といった考えを巡らせることも多く、自分と対話する時間にもなっています。余計な情報が入ってこない場所で、自分の原点や初心に立ち返ることができる感覚があります。

「なぜこうなの? 」という目線で世の中を見ていると、自分の意見が生まれてくる

これからの時代に活躍すると思う人材の特徴は2つあります。「問いを立てる力」そして「一次情報を取りに行く力」がある人です。

問いを立てる力は、楽しく疑問を持つ力、知りたいと思う力、興味や好奇心を動かす力とも言い換えられるかと思います。物事に対して「どんな理由や仕組みでこうなっているのだろう? 」と疑問を持って見ていると、自分で考える力も磨かれていきます

たとえば、ある地域を訪れた際「どうしてここには人が来ないのだろう? 」という問いを立てると、「そもそも魅力がないから? 魅力はあるけど伝わっていないから? この地域を知らない人が多いから? 」といった仮説が自然に生まれてきて、一番もっともらしいと思える答えに近づける可能性が出てきます。

疑問を持つ習慣の大切さは、1社目の上司から教わったことでもあります。PRの仕事だったこともありますが、街中のいろんな広告やキャッチコピーを見て、「なぜこの伝え方にしたのか」を考える習慣を付けてみると良いと助言をいただき、その目線を養ってきたことが、今の仕事にも活きていると感じます。

従来の仕組みやルールをより良くする場合においても、「なぜこれはこうなっているんだろう」と問いを立てる力が役立つ気がしますね。「自分はどの部分に違和感を覚えているのだろう」と考えていくうちに、取るべきアクションが見えてきますし、受け身で「こういうものだから」と片づけてしまわない意識もとても大切な気がします。

社会で活躍するために大切な2つの力

また私は「現場にしか答えはない」という持論を持っているので、疑問を感じたら、自分の足で確かめに行くことを大切にしています

上記の例であれば、「本当にその地域には魅力はないのか」「そもそも人々が考える“魅力”とはなんだろう」といったことを自分の目で確認しに行きます。それでもまだ疑問が残るときは、人を連れて行って感じることを聞いてみたり、地域の人にヒアリングを重ねたりしながら、仮説をブラッシュアップしていきます。

問いを持ち、かつ一次情報をもとめて深掘りしていると、だんだん本質的な部分が見えてくるようになります。その積み重ねで自分の意見も生まれてくるので、「私はこう思う」と言える人間になっていくでしょう。

特別に難しく考える必要はありません。目の前の人や物事に興味を持ってさえいれば、自然に生まれてくる目線ですし、どんな仕事にも生きてくる力だと思うのでぜひ意識してみてください。

永岡さんが贈るキャリアの指針

取材・執筆:外山ゆひら

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