強みに目を向ければ誰もが「主役」になれる! 労働市場のゲームチェンジャーを目指して

VALT JAPAN(ヴァルトジャパン) 代表取締役CEO 小野 貴也さん

Takanari Ono・中学から大学まで野球一色。大学卒業後、製薬会社でMR(医薬情報担当者)として3年間勤務。2014年にVALT JAPAN(ヴァルトジャパン)を起業し、現職。就労困難者向けDXプラットフォーム「NEXT HERO」を展開

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100社近く落ちた就活。シフトチェンジで一気に好転

不自由な思いをしている人のQOL(生活や生命の質)を上げるサポートをしたい」。これがファーストキャリアから一貫している私の思いです。

学生時代は、甲子園にも出場経験のある立正大学淞南高校、プロ野球選手を輩出する富士大学の野球部に所属し、朝から晩まで野球漬けの日々を送っていました。

大学3年生で就活を始めた当初、周囲は野球関係の仕事に就いたり家業を継ぐ人ばかりで、野球を引退して自分と同じように就活をする人は一部であり、頼れる人も少ない状況でした。

そんな中、なんとなく憧れていたマスコミ業界を目指し、一部上場の名前を知っている100社近くの会社にエントリーしましたが、すべて落ちてしまいました。

ほとんどの就活生が内定を持っていた時期になっても一つも内定が出ず、本格的に焦りました。根本的に就活のやり方を見直す必要があると感じ、改めて「自分を使ってほしい」と思える仕事は何かを考えたところ、ある経験を思い出しました。

それは小学5年生で腹膜炎になった経験です。盲腸が破裂して病原体が体中に回り重症を患いました。

無事に完治しましたが、「あと6時間治療が遅かったら致命的だった」と医師に告げられぞっとしたのを覚えています。

そんな経験をしている自分だからこそ、病気などでつらい思いをしている人に貢献する使命があるのではないかと考え、医療業界にシフトチェンジしました

医療業界を志すまでに至るエピソードや熱意を伝えたところ、それまでとは打って変わって選考に通過するようになりました。そして、最終的には「小野くんみたいな人が必要だ」と自分の熱意を見込んでくれた塩野義製薬への就職を決めました。

入社後は、「医薬品を通じてつらい思いをしている人に貢献できている」という実感から意欲的に仕事に励み、充実した社会人生活を送ることができたと実感しています

小野さんの企業選びの基準

障がい者の生の声が退職のきっかけにーー根本的な課題解決のため

仕事は充実していましたが、当時私は過食症・拒食症の摂食障害を患っていました。

大学3年生の時の高校時代の恩師の他界や、就職活動が上手くいかないストレスが積み重なって発症し、社会人になってもなかなか克服できませんでした。一人で病気と向き合うことがつらくなり、この悩みを共有できないかと、患者会という精神疾患者の情報交換の場に出向きました。

今思えば、この経験が自身のキャリアを決定的に変えることになったと感じています。

患者会の方々と意見を交換するうちに、皆ある悩みが共通しているのだとわかりました。それは「仕事を頑張りたいのにうまくいかない」という思いです。仕事を頑張ろうとしても上手く進められず、自分を責め、精神的なダメージから症状が悪化し、さらに強い薬を服用する負のスパイラルから抜けられない状態になっていました。

私は摂食障害を患っていましたが、それでも仕事は自分の居場所であり、存在価値を感じられていました。

患者会の参加者は皆、仕事が上手くいかない原因として自分を責めていましたが、自分の経験から、彼らではなく環境と社会的構造に問題があるのではないかと思ったのです。どんな人も仕事を通じて活躍できるような社会の仕組みを作りたい。それが患者のQOLを高めることにもつながると確信しました。

そして製薬会社の退職を決意し、「社会的就労困難者が仕事を通じて、自分の存在価値を”強く実感し続けられる社会”を創る。」のミッションを掲げたVALT JAPAN(ヴァルトジャパン)を起業するに至りました

障害でなく強みに目を向けるマインドで障がい者を支援

障がい者は、知的・精神的・身体的な部分で不自由があり、その点に目を向けられて仕事で十分に活躍できないと本人が思ったり、周囲から思われがちです。

ただ、足りないものに目を向けるのではなく、今ある強みをフル活用しようとすることが、仕事で活躍できる第一歩なのではないかと思っています

強みや好きなことを紐解いてみると、必ずそれを活かせるマーケットがあるとわかります。

たとえば同じ物流業界の中でもいろいろな事業があります。手先が器用な人なら、物流業界の中でもギフト市場で強みを活かせます。ギフト市場は人手不足で、複雑な包装や装飾が必要とされます。ロボットを投入するにも、カスタマイズ性が高い作業であることからハイコストとなり、人の手が欠かせない産業です。

人材が不足していて、成長産業であり、特性を活かせる。そのようなマーケットであれば、たとえ障がいを持っていても自分らしくいきいきと仕事ができます。

それらに該当する事業として、現在は「物流」「IT運用」「AIアノテーション」「客室清掃」「製造代行」「バックヤードのサポート」「大企業との新規事業開発」の7つの市場と就労困難者をつないでいます。

自分らしくいきいきと働ける市場の見つけ方

前例がないことの難しさーー労働市場のゲームチェンジが叶う未来を信じて

VALT JAPAN小野さんインタビューカット

就労困難者の潜在的能力を企業の戦力に変換する。この事業モデルには前例がありません。その分失敗が多く、特に創業当初は失敗が日常茶飯事でした。

しかし、我々の失敗は、労働力を提供するワーカーの失敗となってしまいます。だからこそ、なるべく失敗は起こさないようにする必要があり、失敗から改善し、成功体験を作るPDCAサイクルのスピード感を何よりも大事にしています

大変なことが多い反面、やりがいは大きいです。当社では、20年後に1,500万人減少するとされる労働人口減少問題と、同じく1,500万人(積み上げ方式)の就労困難者問題の2つの難題解決に挑戦する、就労困難者特化型DXプラットフォーム「NEXT HERO」を展開しています。

NEXT HEROのミッションとして「労働市場にイノベーションを起こし、新たな社会インフラをつくる」を掲げていますが、労働者側・企業側の双方から「NEXT HEROのミッションに共感している」「私たちも一緒にチャレンジしていきたい」と言われたときはとても嬉しく、難易度の高い目標ではありますが、必ず達成しようと鼓舞されます。

私たちは就職支援の会社ではありません。目指すのは全く新しい労働市場の構造改革であり、労働市場にゲームチェンジを起こすことです。労働者側・企業側双方の満足度を上げ、いわば三人四脚で同じゴールに向かっていると実感できると、大きなやりがいにつながります。

ゴールまでの解像度が上がることで熱意と行動力を維持し続けられる

創業当初はもちろん熱い想いに燃えていましたが、熱意と行動量は年々増しています。

「仕事で迷惑をかけてしまう」「うまく進められない」と目の前で落胆していた人たちと一緒に新たな未来をつくるために始めた事業ですが、その実現可能性がどんどん高まっていると感じられるからです

ビジネス領域でイノベーションを生み出してきた方や成長を牽引されてきた方、就労支援領域の知見を持つ方、メディアの世界で業界を牽引されてきた方など、さまざまな領域で活躍されてきた方々に、VALT JAPANのミッションに賛同し、参画していただいています。

コクヨ&パートナーズなど大手企業でも導入事例が増え、社会的就労困難者が仕事を通じて自分の存在価値を強く実感し続けられる社会の実現可能性が高まっているといえます。

ただ、私たちが挑戦しているのは、国が数十年かけても解決が困難とされてきた難易度の高い課題です。時にはもう少し成果を積み上げやすいビジネスモデルや領域を選択すれば良かったのではないかと思うこともあります。

しかし、毎年ゴールまでの道のりの解像度が上がるにつれ、必ずミッションを実現できるという展望が強くなり、それを励みにしています。

目標との大きなギャップを感じるとモチベーションが下がることがあると思いますが、そのような時こそ一歩一歩歩みを進め、目標との距離が近づいていることを実感すれば、熱意を維持できるのではないかと思います

小野さんのメッセージ

ファーストキャリアは無形の「会社」ではなく目の前の「人」を見よう

私の場合はやりたいことに向かって突き進むことができていますが、そもそもやりたいことが見つからない人もいると思います。それは、会社という建築物を選ぼうとしているのが原因かもしれません。

会社は組織であり、人でできています。働く人をしっかり見て、その人の考え方やアイデンティティに好感を持ち、「貢献したい。一緒に働きたい。」と思えるかが重要なのではないでしょうか

VALT JAPANのメンバーも、「ビジョンを一緒に追いかけたい」と私の思いに共感して入社を決めてくれています。こんなに嬉しいことはありません。

たとえば「大手企業に行きたい」と思う人もいると思いますが、その場合も一緒です。大手企業の場合は社員や役員一人ひとりの考えに触れる機会は少ないと思いますが、商材やアイデンティティ、理念などが好きだと思える会社に入社すると良いでしょう

もしどうしてもやりたいことが思い浮かばないのであれば、深刻な社会課題に目を向けるのはいかがでしょうか。

社会全体で、これまで国が担っていたような社会問題を、経済の力とかけあわせて解決する動きが加速しています。やりたいことというよりも、ミッションに立ち向かうキャリアです。難易度が高い領域に挑戦し、頭を悩ませるのはとても面白いですよ

活躍できるのは変化に順応しながら自分をチューニングできる人

これからの時代、活躍できる人材になるためにはアジャイルが重要なのではないかと思います。ニーズの変化に順応しながら、自分自身をチューニングできる力です。

今の素の自分をぶつけて課題に当たると、どうしても足りない思考やスキルがたくさんあるので、限界を感じ、つらくなってしまいます。

そこで、目の前の課題を解決するために自分の考え方を変えていくことが、これからの時代を生き残るためにも必要だと思っています。

変化を楽しみ、進化する力を付けられる人こそ、いつまでも活躍できる人材なのだと思いますね

自分の人生は自分が主役! 不安も楽しむ気持ちで

新卒の皆さんには、NEXT HEROのコンセプトでもある「自分の人生、自分が主役」という言葉をお送りしたいと思います。

現在は選択肢が溢れる世の中、何かを選ぶ際、それが誤っているのではないかと不安になるかもしれません。もちろん選択を誤ってしまうこともあるでしょう。しかし、自分の人生は自分が主役であり、その選択や不安な気持ちを楽しんでみてください

たくさん失敗しても、それを楽しむ心持ちでいると、道は自ずと拓けてくると思います。

小野さんが贈るキャリアの指針

取材・執筆:赤松真奈実

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