「枠」にとらわれず考えられるかどうかで、キャリアの充実度は変わる|新たな環境に飛び込んで「変化への柔軟性」を身に付けよう

エニタイムズ 代表取締役 角田千佳さん

Chika Tsunoda・2008年に大学卒業後、野村證券に新卒入社。株式や債券の営業職を経験後、サイバーエージェントに転職し、PRプランニング業務を担う。2013年5月にエニタイムズを創業し、現職

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社会人1年目に「楽しそうに働いている人が少ない」「枠にとらわれている人が多い」ことに気づいた

キャリアにおける最初のターニングポイントは、社会に出てまもない時期のことです。

私は幼少期から「仕事=ワクワクして楽しくて、夢があるもの」と認識していたのですが、実際の世の中には苦しそうに働いている人や、ネガティブなムードが漂っている企業や職場が決して少なくない。その事実を目にして衝撃を受けたのです。

素晴らしい世界が待っていると思って社会に飛び込んでみたら、真逆の状況があり、とても残念な気持ちになりました。カラフルな世界を想像していた世界が真っ暗だった……。そんな感覚になったことを覚えています。

学生時代はチアダンスに没頭し、アルバイトもあまりしていなかったので世間知らずだったということもありますが、両親がイキイキと楽しそうに働いている家に育ったことは関係していると思います。

父は大企業を辞め、小さいながら自分の好きなフィットネス関係の会社を起業していました。母も教員免許を生かして小さな塾を開いていたので、毎日楽しそうに働く2人の姿を見ながら「仕事とは楽しいもの」と理解していました。

学生時代に訪れた世界の貧困地域に住む人たちのほうが、むしろ笑顔いっぱいだった、ということも思いました。そういった国に比べると、東京は衣食住に困っている人は少ないのに、笑顔の人が圧倒的に少ない。

「なぜこういう状況なのだろう?」と疑問を抱き、いろいろな人に話を聞いて歩きました。

そのうちに「何かしらの“枠”にとらわれている人が少なくない」という状況が見えてきました。見えない社会の枠組みや、自分やコミュニティが作っている枠組みなど、法律以外の枠にとらわれて動けなくなり、不自由さを感じている

幸せの尺度は人それぞれ違いますが、枠にとらわれているせいで、幸せを感じられることが少なくなっているように見受けられ、「人々が無意識にとらわれている枠を広げられたら、幸せな人生を過ごせる人が増えるのではないか?」という持論形成に至っていきました。

まずは自分がとらわれている事実に気づく必要があるのではないか。身の回りにある社会から、何かを変えていくことはできないか。当社エニタイムズの起業までには、この後まだ紆余曲折がありますが、会社として掲げているビジョンは、この時期に感じたことがベースになっています。

就職活動では「情報の信憑性を確かめ、聞いたことを鵜呑みにしない」姿勢を心がけて

私は学生時代、国際公務員を目指していました。小学生の頃に日本人で初めて国連難民高等弁務官を務めた緒方貞子さんの本を読み、現在進行形で戦争が起きていること、戦地に出向いて難民支援をしている日本女性がいることに衝撃を覚えたことがきっかけです。祖母から聞いた日本の戦争の話にも、とてもショックを受けました。

そうして高校生になる頃には、開発途上国の開発援助やUNESCOの活動に興味を持つように。いろいろと調べた結果、民間企業で数年間経験を積んでから、大学院に行って受験資格を得て国際公務員となり、UNESCO(国際連合教育科学文化機関)やUNDP(国際連合開発計画)に入ろう……。というキャリアプランを描くようになりました。

その前提で就職活動をスタートし、上述の夢を語ったところ「それならうちの会社がぴったりだよ!」と勧めてくださったのが、1社目となる企業のリクルーターの方でした。

「グローバル展開もしているし、業界トップ企業だからいろいろな企業が見られるよ」「個々人がやりたいことができる会社だよ」と勧められ、その言葉に魅力を感じられたことから、他社をほぼ見ないで入社を決意。

実際に入社してみると「リクルーターの方が言っていたことは半分くらいしか真実ではなかったな」と感じましたが、その方はすでに退社をされていました。

この経験から皆さんに伝えられるのは、就職活動では良いなと思う会社が見つかっても、できるだけたくさんの会社を見てみよう、聞いたことを鵜呑みにせず、情報の信憑性を自分でもちゃんと調べよう、という2点です

会社の実情を掴むには、できるだけ多くの先輩社員(OBやOG)の話を聞いてみること。アルバイトやインターンと正社員では見える世界も違うので、アルバイト経験がある会社でも「よく理解できているはず」と盲信しすぎないほうが良いと思います。

ただ、どんなに企業研究を重ねたとしても、実際に社会に出てみないとわからないこともたくさんあると思うので、「学生のうちは理解しきれなくて当然」という前提でいてもいいかもしれません。

今は転職も副業もできる時代ですし、自分なりに就職活動に力を注ぎつつ、「入ってみて合わなければ次に行こう」という気持ちも持っておくのがおすすめです。

併せて、「あまり良い条件ではないけれど、なぜか興味を惹かれる」「何かが違う気がする」といった直感も軽視しないのがベター。直感は経験に基づいて生まれてくるものなので、自分にとって理にかなった判断であることも多い、と私は考えています。

角田さんからのアドバイスの画像

自分がイキイキと熱量を持って働ける選択肢として、起業が視野に入ってきた

キャリアにおける2つ目のターニングポイントは、起業する予定など微塵もなかったにもかかわらず、「自分で会社をやってみよう」と決意したことです。

1社目を数年で退社し、2社目となるITメガベンチャー企業で、エンターテインメント系のPRプランニングの仕事をしていた頃のこと。2年半が経ち、そろそろ大学院に行こうかと考えていた矢先、国連の系列で仕事をしていた昔のチアダンスのチームメイトと久しぶりに会うことに。

彼女に進路を話してみたところ、「イメージよりも官僚的な組織だから、あなたには向かないのではないか」「今みたいにイキイキ働くことはできなくなるかもしれない」と言われたのです。

数年後にその話をしたら、本人は「私、そんなこと言ったっけ?」と忘れていましたが(笑)、私にとっては重要な助言となりました。確かに2社目では0から1を作る仕事をしていて、毎日がとても楽しかったのです。ただし、エンターテインメントは人生を注ぎたいほどの熱量は持てない領域だとも感じていました。

そのときに思い出したのが、「枠にとらわれている人が多い現状を変え、誰もが自分の人生や働き方を変えられる社会にならないか」というテーマでした

この社会課題をまずは小さく始めていけばいいのではないかと思い立ち、フリーランスのような感覚ではありましたが、起業を考えるように。「一緒に手伝いたい」と言ってくれる親友の言葉にも背中を押され、決心をしました。

「まずはビジネスモデルを考えよう!」ということで、溜まっていた有給休暇を使ってパラオの無人島に出かけることに。すでに起業していた友人たちも一緒に、リフレッシュしながら事業モデルの検討を重ねました。

そうして私自身の信念を「豊富な幸せの尺度を持った社会の実現」という言葉にし、エニタイムズ社を創業しました。そして、当社エニタイムズのビジョンも決まりました。このビジョンは、常にすべての意思決定のベースになっています。判断に迷ったときは、今も必ずこの軸に戻って考えるようにしています。

いち早くリモートワークを実現したことで、海外での子育てとの両立も実現

起業したその年に、現在の当社のサービスである「ANYTIMES(エニタイムズ)」をリリース。日常の中で手助けを必要としている人と、その依頼に応えて多様な働き方をしたい人をつなげるプラットフォームで、メディアからも注目いただきましたが、起業後の数年間はかなり苦しい時期が続きました。

創業直後には大きな失敗をして貯金を使い果たしてしまう、という経験もしています。落ち込みましたが、一緒に起業した友人の存在も精神的な支えになり、「こんなこともあるんだね」と二人で励ましあって乗り切りました。

失敗をしたからこそ次にやるべきことが見えてきたのも事実なので、「必要な経験だった、高い勉強代を払ったと思おう」と納得することにしました。

そして、その後もさまざまな、いわゆる「失敗」は経験してきましたが、それはどれも結果として「チャンス」となっています。厳しい状況のときだからこそ、今まで気づかなかった視点が浮き上がってくることも多いのです

失敗を長く引きずるか、その後の足かせになるかどうかは、その失敗をどう捉えるか次第。この経験から得た「失敗を経験として捉えれば、チャンスになる」という学びは、就職活動中の皆さんにもアドバイスできる部分かと思います。

角田さんからのメッセージの画像

苦しい時期を乗り切れたのは、2社目の経験を生かしてPR関連の会社も同じ時期に立ち上げていたことも大きかったですね。そちらでの黒字に助けられました。

そうして創業半年が過ぎる頃、初めての出資の話をいただいたことが、エニタイムズとしての転機になりました。あまりに良い話だったので当初は騙されているのでは、と疑ってかかったほどです(笑)。恥ずかしながら、私はそのときに初めてスタートアップ企業の資金調達の仕組みを知りました。

出資元は上場企業で、知人も働いていて、よくよく調べてみればとても有難い話だったので、お話を受けることに。ここが3つ目のターニングポイントと言えるかと思います。

またその後、2017年の年始からフルリモート体制にしたことも大きなターニングポイントになりました。「出産直前まで帰省して実家で仕事がしたい」という社員の声を受けて思いきってオフィスを手放してみたのですが、実際にやってみると良いことづくめでした。

オフィスの家賃や運用コストが不要になり、その分を社員たちの給料に還元できるうえ、「母国へ帰省中も仕事をしたい」という外国人メンバーにも場所の制約なく働いてもらえる。エンジニアが多い会社ということもありますが、社員たちから「リモートのほうが仕事がはかどる」といった声も多く聞きました。

今では当たり前になったリモートワークですが、当時はまだまだ活気的な働き方で、当初は半信半疑だった部分もあります。しかし「オフィスがなくてもやっていける」と確信でき、社員全員の固定観念を取り払えるきっかけになりました。

以降は、私自身も居場所にとらわれない働き方を実現できています。現在はイタリアと東京の2拠点体制で仕事をしており、育児は基本的にイタリアでおこなっています。リモートのおかげで出産直前や出産翌日にも仕事をしていました。今後はさらに拠点を増やし、多拠点生活をすることも考えています。

角田さんのキャリアにおけるターニングポイントを解説する画像

常に順風満帆で歩んできたわけではないですが、充実感を持って働けている私から学生の方に伝えたいメッセージは「自分で選択したキャリアのほうが充実感は大きい」ということです。

学生時代、周囲を見ていると「自分が行きたい業界だから」ではなく「倍率が高い人気業界だからとりあえず受けてみる」という就職活動をしている人はとても多かったです。これも「社会がこうだから」「周りにこう見られるから」というにとらわれている典型ではないかな? と思います。

ぜひ「親の期待や周りの目線がなかったとしたら、自分はどうするだろう?」という目線で考えてみてください。それを繰り返すことで、自分が本当にやりたいことが少しずつ見えてくると思います

積極的に環境を変える意識を持ち、「変化に柔軟に適応できる人」になっていこう

これからの時代に活躍すると思うのは、変化に柔軟に適応できる人。テクノロジーの進化で目まぐるしく世の中が変わっているので、いかに視野を広く持ち、いかに固定概念にとらわれずに生きられるか、ということが問われる時代になっている気がします

進化論を唱えたダーウィンの言葉に「強い者、賢い者が生き残るのではない。 変化できる者が生き残るのだ」というものがありますが、これは現代の社会にも適用できる考え方だと思いますね。

視野を広げたいなら、「環境を変えてみる」のが手っ取り早い方法です。旅行も良い手段だと思いますし、普段会わない人や違うコミュニティに接してみるだけでも、新しい視点が見えてくるはずです。

ただし、興味を持って相手の聞く姿勢でいなければ、新しいことを聞いても「ふーん」で終わってしまいます。見るもの聞くものに興味を持ち、常に「どうしてこれはこうなのだろう?」と疑問を持ちながら、新しい環境に飛び込んでみるのがおすすめです

変化に適応できる人になるには「環境を変えてみる」ことが有効であることを解説する画像

私は現在、異国での子育てをしていますが、まさに新しい環境そのもので、日々多くの発見や気づきを得ています。国が違うと180度変わる常識もある。今まで想像でしかなかった母親や家族の目線も、「こういうことだったのか」と真に理解できるようになった実感があります。

とはいえ、今でも「固定観念や枠にとらわれていないかな?」ということは、常に自問自答しながら生活をしています。

これからもまだまだ新しい考え方や固定概念に気付かされていくだろうと思っていますし、それによって自分の世界を豊かに広げていくことが、キャリア全体を通しての目標と言えるかもしれません

エニタイムズとしてはここ2〜3年、少しずつ成果が積み上げられてきた実感があり、OEMという形で、アジアでの展開をスタートさせています。イタリアは法律の壁があるので未定ですが、期を見計らいながらグローバルに事業を広げていく予定です。

まだまだやるべきことは多いですが、エニタイムズの事業は、ビジネスというより「世の中にこの仕組みが必要だと思うからやる」という感覚があり、この感覚は創業時より強くなっています。

特に最近、ANYTIMESを通して人生が良い方向に変わったとおっしゃってくださるサポーターさん(ANYTIMESでサービス提供をしているユーザーさん)たちが増えてきて、本当にここまで続けてきて良かったと思っています。

友人のお母様から教わった大好きな言葉「愚公移山(ぐこういざん=何事も根気よく努力を続ければ、最後には成功する)」を胸に留めつつ、これからも信念を持って、地道に事業を進めていきたいと考えています

角田さんが贈るキャリア指針の画像

取材・執筆:外山ゆひら

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