「自信がないワタシ」だからこそ成功できた|ネガティブ思考はキャリア選択の武器になる
mederi(メデリ)代表取締役 坂梨 亜里咲さん
Arisa Sakanashi・大学卒業後、大手ファッション通販サイト及びECコンサルティング会社に就職、マーケティング及びECオペレーションを担当。2014年より女性向けWebメディアを手がけるロケットベンチャー(現:4MEEE)に参画。ディレクター、COOを経て、2018年より代表取締役に就任。2019年mederi(メデリ)を設立し、以降現職
脱カメレオン! 揺らがない「自分の軸」をもって内定を獲得
小さいときからアイドルに憧れ、「自分もアイドルになるんだ」と強い思いをもって上京しました。少しずつステップを重ね大学在学中に読者モデルを経験し、CDデビューを果たすこともできました。
しかし、やはり芸能界は厳しく、この世界で生きていくのは難しいと痛感。そこで、芸能活動に見切りをつけて就職活動に舵を切ることにしました。
就職活動を始めた当初考えていたのは、自分でちゃんと稼いで東京で暮らせるようになること。上京する際も母に心配をかけたので、きちんと稼いでいるところを見せて母を安心させたい、ということぐらいしか考えていませんでした。
しかしその程度の考えだったので、なかなか内定をいただくことができませんでした。業界、職種を問わず、手当たり次第に受けては、不合格を突きつけられる日々……。「自分は必要とされていないのだろうか……」と思い、とてもつらかったですね。
そんなとき東日本大地震が起こり、就職活動の一時中断を余儀なくされました。否応なく自分のことを見つめ直す機会が訪れ、自分の一貫性のなさが内定をもらえない理由だと気づいたのです。カメレオンのように面接のたびに志望理由を変えていたので、上辺だけ取り繕っている姿を面接官にも見抜かれていたのでしょう。
「自分が本当にやりたいことって何だろう」。自分の過去や興味関心を見つめ直している時、思い出したのが故郷宮崎での日々でした。ファッションやコスメが大好きな私は、ネットショッピングを頻繁に活用し、夢や喜びを得ていました。自分の人生にとってファッションは価値の高いもので、ネットショッピングはユーザーとして知り尽くしている……。自分の本当にやりたいことに気づけたおかげで、その後ラグジュアリーファッションサイトを手がける会社から内定をいただくことができました。
“ちょっとだけ得意”は小さな自信になる。少しずつ積み重ねて「武器」にしていこう
1年ほどECサイトの運営会社で経験を積んだ後、友人がメディアを立ち上げることとなり、自分も参画することにしました。そのメディアは「日本中の女性を可愛くする」というモットーを掲げていて、強く共感したことを覚えています。
ファーストキャリアで入社した企業は業務体制や運用が比較的定まっていましたが、生まれたばかりのスタートアップ企業は、決まっていないことや変化していくことばかりでした。自分としては決められた範囲の中で動くより、裁量権をもって仕事できる方が向いていると感じましたし、責任範囲も広かったので、1カ月の働きが3カ月にも感じられるような充実感に満ちていましたね。
その後、執行役員COOや社長も任せていただき、1年で黒字化を達成するなど、順調に事業を進めることができました。タレント活動や就職活動の挫折を経て、自分にすっかり自信をなくしていましたが、ちょっとだけ得意なファッションやコスメの知識や経験を生かして、会社を大きくできたことで手応えを感じることができましたね。
突然何かのプロフェッショナルになれる人は多くありません。いつも自信満々にはいられない人もいるでしょう。そんな「何の取り柄もないワタシ」でも、好きや得意をかき集めれば、自信や経験、やりがいを感じることができるはず。小さな突破口から少しずつ、自信を積み上げていけると良いですよね。
「時間」と「お金」。自分の価値観は2つの軸で見つけよう
2社目では社長も任せていただき、1年で黒字化を達成するなどとても充実した日々を送っていました。しかし、子会社社長で挑戦や意思決定には限界があったので、次第に「もっとハードルが高いことをしたい」と、起業を考えるようになりました。
どのような事業にするかを考えた時、「自分のお金と時間をつぎ込んできたものであれば強みになるかもしれない」と思ったんです。人生の中で大切な時間とお金をつぎ込んできたものは、自分にとって大切なものだし、人よりも熟知しているもの、こだわりのあるものだと言って良いでしょう。自分のお金と時間をつぎ込んだもの、10代の自分にとってはファッションやコスメ、EC、そして20代の自分にとっては不妊治療でした。
実は将来の出産について理想を持っていた一方で、不調が多く婦人科に通っており、自分の妊孕性(妊娠するための力)に不安を持っていました。婚約を機にブライダルチェックをすると、非常に妊娠しづらい体質だということがわかったんです。何となく予想していたとはいえ、結果は非情でつらいものでしたね。
この経験があったからこそ、女性の健康や妊娠・出産・キャリアを助けるビジネスをしようと決心。人並み以上に時間とお金と心を費やしてきた分野であり、きっと良い事業を作れると思ったんです。
ところが半年ほどプロダクトを考えましたが、思いついたのはもう世の中にあるものばかり。ようやく最初のプロダクトを考え、いくつものメディアにも取り上げていただきましたが、好調は長くは続きませんでした。なかなか売上を作ることもできず、とうとう資金も尽きそうになってしまい、起業したばかりなのに辞めたい気持ちすら湧いてきました。
しかし、ここでやめたら本当にダサいな、恥ずかしいなと思い、腹をくくりました。もし会社を畳んで転職活動をするとしても、中途半端で終わったら胸を張れるキャリアではなくなってしまうとも思ったので、できることをやり切ってみようと決心。その後なんとか資金を調達し、次のプロダクトやサービスも生み出しながら、会社を着実に成長させて今に至っています。
また、自分の核となるものを見出すために、時間やお金を割いてきたものを見直すことに加え、自分の問題意識と合致する社会課題にも目を配ることもおすすめします。
実は歳を重ねるにつれて、あれほど共感していた前社メディアのモットーであった「日本中の女性を可愛くする」に、心の底からシンパシーを感じなくなっていたのも、次のキャリアを選んだきっかけでした。可愛いものは今も大好きですし、メディアの力も信じていますが、「自分がやっているがどれだけ社会に影響しているんだろう」と疑問を持つようになったんです。
その気持ちから、20代後半からもっと社会課題に向き合った仕事をしたいという気持ちも強くなり、30代は少しでも世の中を良くしたといえる仕事を成し遂げたい、と考えています。
これから社会に出る皆さんは、まだ実感を持って世の中の課題を感じることも少ないかもしれません。しかし世の中の問題に目をむけ、そこに自分が影響を与えることができたとき、これ以上ないモチベーションや意義を感じられると思います。そのためにも、少しずつ社会を見つめ、課題を感じ、関心を高めることが重要です。自分が向いていること、好きなことの先に、社会貢献があれば一番素晴らしいですよね。
ネガティブこそ強み。「自信がない」から成功できた
自分で事業を立ち上げ、軌道に乗せることができている今も含め、今まで自分に大きな自信を持てたことがありません。うまくいかないのではないか、失敗するのではないかと不安も感じます。
しかし自信がないからこそ、人一倍リスクを回避するし、事前にこれ以上ないほどシミュレーションして、堅実に進めていくことができるのです。私は会社の“ネガティブ担当”だと考えています。取締役はポジティブ担当なので、ちょうど良いんですよ(笑)。
組織運営で意識していることは、従業員や周りの人に、苦手なことをはっきり伝えることです。苦手でできないかもしれない、助けてほしいというのを自ら伝えたうえで、得意な人に割り振っているのです。トップが正直に弱みを見せることで、より健全で強い組織ができると信じています。
また、私は有言実行ではなく「不言実行」タイプです。大きな宣言をしてやりぬくより、ある程度実行したうえで確度の高いできることを伝えたいな、と思っています。できなかったらどうするのか、とまず考えてしまう方なので、まずは実行に移して、できなければできる方法・期日を模索するようにしています。
自分に自信がない人は多いと思います。「自分には無理だ」とすぐ腰が引けてしまう人もいるでしょう。しかし、それが長所になることも知っておいてほしいですね。無理に自分に自信を持とうとしたり、よく見せようとしたりせず、「自信がないからこそできる手堅い取り組み」に強みを見出してみてはどうでしょうか。
「人生のシミュレーション」でキャリアの選択肢を広げよう
私は20代の早い時点で、結婚や出産のタイミング、その後のキャリアの築き方に関して数多くシミュレーションしてきました。結婚や出産によってキャリアが左右されることは事実ですし、人生の節目についてさまざまな心構えを持っておくことは重要だと思うんです。
私のように細かく想定しなくても、少なくとも5年後の自分がどうなっていたいかについては、思いをめぐらせるのも良いのではないでしょうか。5年後のビジョンを持って、そのためにどんな選択肢があるか、どんなことができるか、それがうまくいかなかったらほかのプランはあるか、ぜひシミュレーションしてほしいですね。
私は自分の会社や事業を大きく、より良いものにするために、まずは“信頼貯金”を貯めていこうと思っています。周囲からの信頼をコツコツ積み重ねれば、大きなことにも手が届きます。会いたい人に紹介してもらえたり、思ってもみない支援を受けたりできたのも、信頼を貯めてきたからだと思っています。
組織を良いものにするのも、プロダクトが愛されるにも、信頼が基盤になります。この信頼をバネに、プロダクトを利用するユーザー、従業員、この事業にかかわる全ての人が幸せになれるような未来を築いていきたいですね。
取材・執筆:鈴木満優子