自己理解のアップデートを重ね、オーダーメイドのキャリアを拓け|意思と責任の調和のとれた社会人を目指そう

LiB(リブ) 代表取締役社長 松本 洋介さん

Yosuke Matsumoto・大学卒業後、2003年リクルートに入社。2007年4月トレンダーズにCOOとして入社し、2010年6月より同社取締役に就任。2012年10月営業取締役として東証マザーズへの上場実現に大きく貢献。7年間で売上10倍への成長を牽引し、2014年3月に退任。2014年4月にLiB(リブ)を創業し、以降現職。「LIBZ エキスパート」「LIBZ ドラフト」の2つの事業を展開する

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ファーストキャリアの選択は「どういう経験がしたいのか」から逆算しよう

キャリアにおける最初のターニングポイントは、大学時代に学生起業をしたことです。

自営業の親の姿を見て育ったこともあり、小さい頃から「いつか自分も商売をしたい」という思いを抱いていました。大学入学後は、サークル活動の延長でビジネスにチャレンジ。大学生に特化したアルバイトマッチングやゼミ・サークルなどの団体旅行マッチング、大学生向けの市場調査やデータマーケティングといったビジネスの真似事みたいなことを仲間たちと始めました。

次第にかかわる仲間も増え、それなりに仕事は回り始めましたが、組織としてはサークルに毛が生えた程度。やればやるほどビジネスの奥深さや難しさを感じ始めていましたし、「このまま友達が寝袋で寝転んでいるオフィスで過ごしていたら、ただの小銭稼ぎがうまい人になってしまう」と危機感を覚えるようになりました。

そんな中で、松下幸之助氏や本田宗一郎氏など経営者の書籍を読むうちに「小銭稼ぎではなく、もっと意義のあることがしたい」という思いが芽生え、「事業を通して家族や世の中を幸せにしていると思いたい」という目標が生まれました。ここでキャリアに対する目線が1段上がった気がします。

上記のビジョンを体現するためには、ビジネスを一度きちんと学ぶ必要があると感じました。そこから「商売する力を身に付けられる環境に身を置くべきだ」と思うようになり、大学3年生の終わりに就職を考え始めたのです。

就職せずに自らの事業に邁進する選択肢もあったので、就職活動では心から行きたいと思えた数社程度の企業しか選考を受けていません。最後まで本命企業の2社で迷った結果、最終的にはリクルートへの入社を決めました。

リクルートを選んだことに後悔はありませんが、今の自分ならばもう1社(B社とします)のほうを選んでいた気がします。後から知ったことですが、当時のB社はかなり苦しい時期にあり、多くの社員が辞めてしまう苦しい状況にあったそうです。しかしその後、残った若い社員たちが奮起して立派な会社に成長させており、その道のりにはすごいドラマがあっただろうと想像できます。

一方のリクルートは、私が入社したときには既に立派な会社で、事業を円滑に進める仕組みも出来上がっていました。在籍中に得られたであろう経験値や過ごせた時間の密度を考えると、会社の成長や変革のフェーズに参加できるB社のような環境のほうが合っていたのだろうなと思います。

この経験から就職活動のアドバイスをするとすれば、会社を選ぶ際には「自分がどうなりたいか」「企業でどういう時間を過ごしたいか」「仕事を通してどういう経験をしたいか」を逆算して考えることが大切であるということ。「評判がいい会社だから」など、誰かのモノサシで測ってしまうとミスマッチの原因になってしまうと思います。ちなみにリクルートは本当に良い会社でビジネスのスタートをリクルートで過ごせたことには後悔はありません。

「松本さんからのアドバイス」の画像

レベルの高い課題に必死で挑んだことで「何者か」になれた

リクルートに入ろうと決めた一番の決め手は、内定者の会で出会った同期社員たちが非常に優秀だったこと。「こんな人たちと一緒に働けるならおもしろそうだな」と思い入社を決めました。今も交流が続いている良い仲間です。

人脈だけでなく、リクルートで得られた成長や経験にも満足しています。しかし一方で、入社してすぐに「いずれ自分でビジネスをするための再現性ある経験をするために入社したのに、仕組みが完成しすぎていて真似しようがない」と気づきました。大きな組織のなかの1人として働くことにも、拭いきれない違和感のようなものがありましたね

そんなことを思いつつも、周りの皆さんが上手に持ち上げてくれる環境だったので(笑)タウンワークやホットペッパーの全国営業MVPを何度も受賞したり、新規事業開発室にてファッションモバイルサイト「eruca.(エルーカ)」創刊に携わったりと、結構頑張って仕事をしました。

しかし入社4年目くらいになると「さすがにこのままではいけない」と思うようになり、「先に会社を辞めると決めてしまおう」と思い立ちました。ここで起業の道を決断します。

学生起業の経験から「起業はお金と人を揃えてからするべきだ」という考えがありました。まずはどうやって「お金」を集めればいいかを考えましたが、当時はベンチャーキャピタルなどの存在も知らず、方法がまったく思いつかなかったのです。そこで複数の創業社長にアプローチし、相談をさせてもらいました。

そのなかの一人が、トレンダーズの経沢社長でした。紹介を受けて会いに行ったところ、会社で不安定な事業の立て直しに協力してくれないかという提案をくれたのです。おもしろそうだとすぐに興味が湧きましたが、引き受けるからには同社の状況を知る必要があると思い「全社員と1on1ミーティングをさせてくれ」とお願いしました。

そのミーティングで同社の課題と自分がすべきことが鮮明になり、自分のability(アビリティ)にも適した仕事だと思えたため入社を決意。入社歴にかかわらないフラットな組織を作ることや、これまでなかった営業部隊の立ち上げ、拡大に注力しました。

松本さんのキャリアにおけるターニングポイント

最初の1〜2年は本当に大変でした。事業を支えるような強いプロダクトもないうえに、組織もまとまっていない。何より自分がまだ26〜27歳の若造で力不足を感じる場面が多く、学力レベルを間違えた塾に入ってしまったような感覚に陥ったこともあります(笑)。人もどんどん辞めていってしまうし、毎日朝3時まで働いても出口が見えず、メンタルも疲弊しきっていました。人生で一番寝ていなかった時期でしたね。

この状況を脱するため、信頼している人たちに頭を下げて「うちに来てもらえないか」と打診して歩きました。そして「まさかこんなすごい人たちが来てくれるなんて」と思うような方々が入ってくださったことで、行き場を失っていた水が少しずつ流れ始めていったのです。

そうして入社から5年後には、入社時からのミッションであった東証マザーズへの上場も実現。入社当時と比べて、売上も約10倍までに成長させることができました。

起業のための資金も貯めることができ、それまで何者でもなかった自分と会社を何者かにすることができたという意味で、トレンダーズに入社したことは、キャリアにおける2つ目のターニングポイントと言えます。

この時期には、本当にたくさんの方に助けていただきましたね。ある先輩から、「鍵を持っている人が、門番の姿をしているとは限らないよ」という言葉も教わりました。問題の鍵を解くキーマンは想像もつかない人であることも多い、つまり「大変なとき、思いもよらない人が助けてくれることもある」というメッセージだと理解しています。この言葉は心に深く刻まれており、今でも大切にしています。

普段、自分にメリットがありそうな人だけに良い顔をして過ごしていると、いざというとき、救いの手はなかなか得られない気もします。知り合う一人ひとりのご縁を大事にする姿勢は、これから社会に出る人たちにもおすすめしたいですね

ビジネスの世界では、WILL(意志)とMUST(責任)のバランスを取る意識が必要

記事中画像

無事にトレンダーズが上場を果たした後、「自分で起業する」という選択肢が再び目の前に現れてきました。それまではトレンダーズが自分の会社だと思って必死でやっていたので、他の選択肢を考えていなかったのです。

そのままトレンダーズに残って会社をさらに大きくする道もあったのですが、いろいろな状況も重なって、会社を出ることを決意。それまでは役員として、創業社長のカルチャーを担いできましたが、一度ゼロから自分が創業社長となってカルチャーを作ってみたいと思ったことが理由の1つです。

会社を出ると決めてから、最初に取り組んだのは人集めでした。ビジネスのテーマは決めず、いうなれば「どんなジャンルの音楽やるかは決めてないけれど、俺とバンドやろうぜ」という感じで声をかけていましたね(笑)。そして一緒にやりたいと集まってくれた仲間たちとブレインストーミングをするところからスタート。事業の方向性は割とすぐに決まりました。

また起業に踏み切れたのは、この時期に「すべきこと(MUST)」より「やりたいこと(WILL)」が勝ったことも理由の1つです。WILLとMUSTは「エゴと責任」とも言い換えられるかと思いますが、2社目にいた頃の私は会社の立て直しを引き受けた責任感もあり、MUST 100%で仕事に取り組んでいました。

上場を達成したことで、WILLが少しずつ顔を出すようになり、MUSTよりもWILLが勝ったときに初めて会社を出ようと決心できたのです。「辞めるなら今だな」「今を逃したら辞められないかもしれない」と感じたことを覚えています。

「WILL(やりたいこと)とMUST(すべきこと)のバランスを取ろう 」の画像

これまでたくさんの社会人に出会ってきましたが、WILLだけで生きている人には出会ったことがありません。私も退社を決意した時期はWILLが強くなっていましたが、その時々で比重は変わるもの。キャリアを歩んでいくうえでは、常にWILLとMUSTのバランスを調整する作業が必要だと思います

これから社会に出る人にも「MUSTも、WILLと同じくらい大事にしてね」と伝えたいです。なぜなら責任を果たすことができない人には、チャンスもやってこないからです。責任を果たして初めて周りから応援され、感謝される人間になる。すると大きなチャンスをもらえるようになり、大きな仕事にチャレンジできます。

もちろんWILLも大切です。WILLは環境や状況などによって変化することもあるので、常にその時々の自分のWILLに自覚的になり、WILLをかなえるための機会を作ろうと行動することを心がけてみてください

自分のWILLがわからないときは、「自己対話」がおすすめです。私自身も定期的にひとり合宿をして、自分と向き合う時間を持つようにしています。いつもと違う環境で過ごし、「今不安なことはなにか」「今何をやりたいのか」「逆に何を辞めたいのか」など等々、自分の思いを言語化する作業をしています。

WILLを自覚できたら、次はそれを口に出してアクションにつなげていきましょう。「あれが欲しい」とあちこちで発信することで、「それ、あの人が持っているよ」などと導いてくれる人に出会える確率が高くなると思います。

時代を超えて残るような、価値あるコミュニティを作り上げたい

キャリアにおいて充実感を覚える瞬間は年々変化しています。 若い頃は「もとめられる役割に応えられた」と感じたときに充実感を覚えましたが、徐々に「かかわるサービスを広げられた」と感じる瞬間に一番やりがいを感じるようになりました。今現在は「今までの社会になかったオリジナリティのある機能を提供できている」と思えるときに、手応えを感じます。

これからやりたいことは、ビジネスという手段を通じて社会を良くし、人々が幸せに暮らせる仕組みを作ること。事業やサービスはあくまでそのための手段であり、「自分が考えた事業をやりたい」といった気持ちは微塵もありません。

ガラケーを想像するとわかりやすいと思いますが、事業は時代のニーズがあって成立するものなので、時代の流れとともになくなってしまうものもあります。せっかく自分の人生を会社にコミットするなら、時代を超えてもなくならない輝き続けるものを作りたい。それができたら自分の人生に意義を感じられるのではないかと考えています。

そのためにも、いつでも事業のアイデアを形にできる、不変的な価値が回り続けるコミュニティを会社として作り上げたいですね。自分がいなくなっても、社会のなかをずっと「当社」というロボット掃除機が走り回っているようなイメージでしょうか(笑)。天国から仲間たちと地上を眺めて「今日も会社が元気だな、かっこいい事業を作っているな」と思えるようなコミュニティを作り上げたいです。

リクルートの創業者である故・江副浩正氏は「自分の一番の作品は、リクルートというコミュニティだ」と語っていたそうですが、そんなふうに思える状態を目指したいですね。

多様な環境で働ける能力を磨き、オーダーメイドのキャリアを描こう

最後に、これからの時代は「自分のために仕事をしている」というスタンスが重要になってくると思います

今までは1つの会社に入りさえすれば、終身雇用の前提のもと、会社が勝手にキャリアパスを描いてくれました。そういった意味では「就社」活動と言えるでしょう。しかし今は、自分でオーダーメイドのキャリアを考えなくてはならない時代になっています

そのためには「自分はこういう目標を実現したいから、今はこんな経験ができる環境を選ぼう」といったような主体的なモチベーションが必要です。自分の内なる変化を自覚し続け、常に自己理解をアップデートさせながら、その時々で最適だと思う環境をもとめていくことが大切だと思います。

「こんなことをやりたい」という志を持ったら、具体的にどんなことに携わりたいのかを洗い出し、それを実現する能力を磨いていきましょう。いきなり世界大会ではなく、まずは地方代表から始めて、力がついたら全国規模のことを目指していくイメージです。

ただし、キャリアのチャンス自体は順番待ちではないことも知っておいてください。チャンスは多くの人が気づいていないところに落ちていることも多く、世の中の逆張りをするだけで大きなチャンスを見つけられることもあります。

1日でも早く大きなチャンスが欲しい人は、若いうちからバッターボックスに立たせてくれる会社を探してみるのがおすすめです。

ただし、万人にそれが正解とは思いません。たとえばカラオケに行って一番にマイクを握りたい人もいれば、その場を理解してからゆっくり曲を入れたい人もいるでしょう。「ずっと聞いているだけでいい」という人もいるはずです。あくまで自己理解に基づいて行動を選んでいくことが、オーダーメイドのキャリアを作っていくうえで大事なことだと思います

「自分で考えた「オーダーメイドのキャリアを」の画像

その時々の自分の意志に従い、フレキシブルに自分の望む環境に飛び込むためには、多種多様な人やカルチャーのある環境で働ける能力を養う必要があります。一般的に考えるなら、新卒入社組の社員が大半を占める会社よりも、多様なバックグラウンドを持った人が集まっている変化の多い会社のほうが、多様な人と働く力は養いやすいと思いますね。

もしくは、1つの社内にたくさんの職種(営業、生産管理、開発など)があり、立場を超えて連携ができるような会社を選ぶと、自分と違うタイプの人とも一緒に仕事ができる社会人に成長できると思います。

ともあれ、くれぐれもモノカルチャーでしか働けない、つまり同じメンツや似たような職種の人としか仕事ができない人にならないこと。「1つの会社のなかでしか働けない人」になってしまうのは、変化の多い時代であることを鑑みてもリスクが高いと思います。

「松本さんが贈るキャリアの指針」の画像

取材・執筆:外山ゆひら

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