「人からの意見・評価」をまずは素直に受け止めて|そこから「やりたいこと」をかなえるためのキャリア設計をしていこう
ラ・クレタ 代表取締役社長 前田 圭介さん
Keisuke Maeda・東京都出身。2001年に渡伊し、ペルージャのサッカーリーグ・セリエDでプレイ後、2004年サニーサイドアップに入社。2008年より博報堂プロダクツ、2010年よりインテグレートにてPR・広告・マーケティングに関するキャリアを積んだのち、個人自業主となる。2012年にラ・クレタとして法人化し、2018年より本格的に組織化を図る。設立以来、現職
「今の場所で積み上げていく」ことがゴールへの近道になることも
「キャリアを築いていく過程では、いきなりまったく違う場所にジャンプすることは難しい」
「それまで自分がやってきたことをベースに考えたほうが、目的やゴールに最短距離で近づけることもある」
これは、私がこれまでのキャリアを歩んでくるなかで感じていることのひとつです。何かやりたいことがあったとしても、まったく違う世界にゼロから飛び込もうとするより、「今、足もとにあること」に夢中で取り組んだほうが、一見、遠回りに見えても近道になりえる、ということです。
社会に出ると、「自分がやりたいこと」と「人から評価されること」が同一ではないことが往々にしてあります。この2つのバランスをどう考え、どんなルートで目標を目指していくかはとても重要な観点だと思います。
私は現在、PRの世界でキャリアを積んでいますが、この仕事は周りの方から適性を見出していただいたのがきっかけです。
サッカー選手を引退後、中田英寿さんや前園真聖さん、ビーチバレー選手などのマネージャーのひとりとして、選手のサポート業務を担っていた頃に遡ります。彼の一挙手一投足でさまざまなビジネスが動く、そのダイナミックな世界を見られたことは非常に良い経験でした。しかし、それはあくまで彼の実力で「自分はこれからどうしていくべきだろうか」と迷っている時期でもありました。
すると、顧客対応をしている私の姿を見た先輩のひとりが、「PRの世界が向いていそうだから行ってみたら? 」と勧めてくれたのです。そこから社内のPR部にキャリアチェンジをしました。
その後、PR会社、広告代理店、マーケティング代理店を3社ほど経験し、独立して個人事業主をしていた頃には、「自社プロダクトを作ってみたい」とPRなどの代理店業界の世界を離れてみたこともあります。
しかしこのときも「顧客からもとめられること」と「やりたいこと」の違いをヒシヒシと感じましたね。PRの世界の人としてブランディングしてきた自分が、いきなりまったく違う分野のことをやろうとしても、顧客からすれば信憑性がなくなるだけで、ビジネスとしては相当なリスクなのだと気付きました。そこから「いったん、PR会社として大きくなろう! 」と決意したことは、大きなターニングポイントだったと思います。
資本や人材が豊富な会社に成長させることができれば、いずれ何でもできる。まずは得意なことをして、自分たちが世の中に受け入れられてから、好きなことをやろう。
そのように決意し、今は自社を成長させることに一番の充実感とやりがいを見出しています。近々思いきりジャンプをするためにしゃがんでいる状態、という感覚です。
あの時期に「自分のやりたいことはこれじゃない! 」とあちこち転々としていたら、逃げ回ってばかりになり、世の中に受け入れられていなかったと思います。
これまで築いてきたものがある環境で積み重ねていったほうが、いずれやりたいことに挑戦できる自信や力が付く可能性もある。私はそのように考えています。キャリア選択で迷った際は「新しい環境を探す」ということも大事ですが、「今あるものをベースに環境を変えていく」という選択肢もぜひ考えてみてください。
自分を積極的にアピールする姿勢は、社会に出てからも役立つ
PRの仕事を始めてからがセカンドキャリアだとすれば、私にはそれ以前にサッカー選手をしていたファーストキャリアがあり、その間には一時期、スポーツマネジメントの世界を模索していた時期もあります。
選手時代は、常にそのときどきの目標に集中していました。試合に出る、レギュラーになる、選抜に入る、試合で勝つなど、常に何かしらの目標に向かって、人よりも多くの練習をしなければ上には上がっていけない世界なので、目標設定の習慣は身に付いているように思います。
単身で海外リーグに挑戦したのも、幼い頃からずっと目標として定めていたからです。小学6年生の頃にJリーグが発足し、「15歳で単身ブラジルに渡った」という三浦知良選手の本を読んで「自分も海外に行ってサッカーをやる」と決心。中学生になると、親にもその本を見せながら、必死でプレゼンテーションをしました。
「高校だけは出てくれ」と懇願されて進学したものの、海外へのツテが見つからず、いったん大学にも進学。社会人チームでプレイしていたのですが、サッカー雑誌でユーゴスラビア人監督が率いるチームの入団テストを見つけた際に、「このコーチに紹介をお願いして、海外に渡る道を作れるのではないか? 」と閃いたのです。
テストを受けて無事に合格し、早速「海外チームに紹介してもらえないか」と打診してみました。すると「今のユーゴスラビアは内戦で状況が悪いから、イタリアのチームなら紹介できるよ」とのこと。すぐにイタリアに渡ることを決め、ここがキャリアにおける最初のターニングポイントといえるかと思います。
自分を積極的に売り込んだことで、目標への道が開けたのは確かです。採用活動をしても感じることですが、若い世代の皆さんにも「もっと自分をアピールしたほうがいいよ」ということはぜひ伝えたいですね。
私たちのほうからも、どんな会社かはきちんと説明しなくてはと思ってはいますが、「会社が自分に何をしてくれるのか」というスタンスの人が、近年かなり増えている実感があります。
皆さんの側からもぜひ自分の目指しているものや自分がやってきたことを積極的に売り込んでほしいです。そういう目線で面接に臨んでくる人に対して 、私は「お、頼もしいな」と注目します。
自分を売り込む姿勢は、仕事をし始めてからも必ず役立つはずです。
たとえばPRの仕事では、企画書を何度もやり直すという局面があるのですが、相手に言われたことをそのまま形にして返すだけでは「ふうん、こんなものね」程度に受け取られるでしょう。
しかし、「1を頼まれたら、自分は3〜5のものを見せてやる」くらいの心構えで臨んでいると、こんなにもやってくれたんだ、と驚かすことができ、ひいては評価や次の依頼につながっていきます。
アピールすることが怖い、恥ずかしい、と思う人もいるかもしれませんが、コツは一喜一憂しないこと。私は常に「ひとつでも多くの打席に立つこと」を念頭に置き、淡々と取り組む姿勢を心掛けています。
無論、プレゼンでは熱心にアピールしてもなかなかOKをもらえないこともありますが、そうした大変な局面をひとつでも多く乗り越えていけた人ほど、その世界で戦える強い人材に成長できると思います。
キャリアのなかでは「1回やってみないとわからないこと」も多くある
イタリアに渡ってチームに所属するまで、そして所属してからのさまざまな努力の甲斐あって、現地では試合にも出られる状況になりました。
そこからセリエAを目指し始めたのですが、セリエAのクラブとの練習試合などで圧倒的なレベルの差を痛感させられ、「プレイヤーとしてはこれ以上、上に行けない」と判断。20歳という年齢で、ファーストキャリアを終えることにしました。
セカンドキャリアをどうするかについては、かなり悩みました。イタリア語や現地で築いたサッカー人脈のネットワークを活かせる「代理人」が良いのではないかと考え、まずはスポーツマネジメントの世界に飛び込んでみました。
高校生や同年代の日本人選手をイタリアのチームに紹介したり、時にはインドネシアのチームに派遣したり、実現できたことはいくつかあるのですが、どのくらいの手数料を取れば良いかすらわからない状態で、結果として、ビジネスとして成り立たせる方法を見出すことができませんでした。
基本的なビジネスマナーすら身に付いていない若造だったこともありますが、「選手時代とはまた違った熱量や思いが必要になる世界だ」と痛感したことも、スポーツマネジメントの世界を離れた理由のひとつです。
サポート側として「いずれクラブ運営をするんだ! 」くらいの高い熱量を持っている人が多く、選手あがりの自分には難しいと実感し、帰国することを決めました。
この経験からわかったのは、自分にどんな仕事が向いてるかを知りたいなら、一度やってみるしかないということ。
興味のあることはとりあえずやってみて、それを通じて自分を少しずつ知っていくことが、充実したキャリアを描くために一番重要なことではないか、とも思います。
実は今の会社を作るまでにも、いろいろな挑戦をしています。3つの会社を経験し、独立後は6年間、自分ひとりで動いていました。しかし次第に成長の限界を感じ、「せっかくならインパクトのある大きなうねりを生み出したい、それには組織が必要だ」と考え、起業をするに至りました。
「最初からちゃんとした組織を作っていたら、もっと早く会社を大きくできていただろう。数年分のロスをした」などと悔いることもありますが、それは結果論でしかありません。
自分ひとりで動いてみた期間があったからこそ大人になれた部分もありますし、無駄な回り道に見えても「自分で一回やってみないと、わからないことはたくさんある」ということなのだろうと思います。
他者の意見を聞かなくても成功できるのは、1%以下の天才のみ
ビジネスの世界で成長したい人は、ぜひ「人の話をちゃんと聞く姿勢」を心掛けてみてください。相手を知ることは、翻って自分を知ることにもなります。
私自身、顧客や同僚がいなければ、自分や会社は存在できないもの、くらいに思っているので、何はさておき「目の前の相手が何をもとめているか」に耳を傾ける姿勢を習慣づけています。
新人時代は特に「その世界のビジネスのやり方」を吸収しなければ、ひとりよがりな状態に陥ってしまう可能性があるので、「自分より経験のある年長者の言うことを、いったん聞いてみよう」という心構えが大切かなと思います。
もちろん、世の中には人の話を聞かなくても成功できる、超優秀な天才タイプの人もいます。自分がそういう人物だと思えるならば、誰の言うことも聞かず好きにやってみるのも一案です。ただしそういう人は実際には1%以下しかいない、ということは心得ておくといいと思います。
人の話を聞く姿勢は、「他者からの評価を素直に受け止めてみる」ということにもつながります。自分もそうでしたが、若い頃は特に「自分はこうありたいのに、そんなふうに見られているのはイヤだ! 」と意固地になり、なかなか頭を切り替えられない人は少なくないのではないでしょうか。
就職活動においても、何かしら認めてもらえたことがあるならば、一度それを受け止めてみるのがベスト。自分の理想像にこだわって、自分を低く見積もる必要はありません。自分が望んだ業界や志望先でなくても、評価してくれる会社があるならば、「今の自分はそういう感じに見えるのだな」くらいに、リラックスして受け止めてみるといいのではないかなと思います。
若い世代にチャンスが多い時代。熱量がある人が世の中を動かせる
大企業かベンチャーか、という選択肢で迷っている人の場合は、「道を踏み外せるタイプかどうか」「今はない道を作ってみることもやってみたいかどうか」という観点で考えてみるといいと思います。
大企業にはいろいろと充実した環境がありますが、商法や商流がすでに完成しているので、そこから外れたことをやろうとすると、かなりしんどくなると思います。「大きな道に沿っていく」ほうが得意な人、自分の力で何かをしたい気持ちが強くない人は、完成した道やレールがある大企業を選ぶのがベターかもしれません。
一方、ベンチャー企業の場合、その世界の大きな道に寄り添う意識も必要ですが、それだけではほかと差異化できない局面が来るので、時には思いきって道を踏み外し、今はない道を作ろうとするチャレンジも必要になります。
キャリアを通して何かしらやってみたいことがある人、あるいは何かやりたいことを持ちたいと思っている人は、こちらの選択肢のほうがおもしろいかもしれません。
学生時代のうちから「やってやるぞ! 」と火がついている人は、いきなり起業をしても構わないと思います。経営は言ったもの勝ち、やった者勝ちの世界。相応の熱量があれば、そこにユーザーや仲間が付いてきてくれる可能性は十分にあると思います。
社会に出てから火が付いてくる人もいるので、始めるタイミングを焦る必要はありません。ただし時代は変わっても「何かを成し遂げたかったら無我夢中にやるしかない」というのは不変的な事実で、「熱量がないと世の中は動かせない」ということは心得ておくといいと思います。
ちなみに、当社のようなPRや広告の世界に入りたいと考えている人は、「世の中の新しいものに対して、前のめりに探究心を発揮できるかどうか」「根拠のない自信を持って、これが流行る! と他人にも伝えらえるかどうか」といった観点から、適性を考えてみることをオススメします。
若い人にとって、今はとてもチャンスの多い時代。国全体の成長が鈍化し、今までのやり方やレールを壊さなければ、これ以上は成長できないという局面に来ているからです。若い人は固定概念がない分、新しいものを生み出せる力やチャンスをたくさん持っていると思うので、ぜひそうした武器も存分に生かしつつ、粘り強く自身のキャリアを切り開いていってください。
取材・執筆:外山ゆひら