“自分で選ぶ”ことが社会人としての第一歩|自責思考で自分だけの「良い会社」を見つけよう

法律事務所ZeLo(ゼロ)・外国法共同事業 代表弁護士 兼 LegalOn Technologies 取締役(監査等委員)共同創業者 小笠原 匡隆さん

法律事務所ZeLo(ゼロ)・外国法共同事業 代表弁護士 兼 LegalOn Technologies 取締役(監査等委員)共同創業者 小笠原 匡隆さん

Masataka Ogasawara・2009年早稲田大学法学部3年次早期卒業、2011年東京大学法科大学院修了。2012年に弁護士登録(第二東京弁護士会所属)、2013年に森・濱田松本法律事務所へ入所。2017年に法律事務所ZeLo・外国法共同事業を創業後、現職。並行して、AI契約審査プラットフォームなどを開発するLegalForce(リーガルフォース)(現:LegalOn Technologies〔リーガルオンテクノロジーズ〕)を創業。2つの組織を経営しながら、法律業界全体の生産性向上の実現、法務サービスのクオリティ向上に対する貢献を目指す

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ファーストキャリアは社会人の「素地」ができる場所。自分軸で後悔のない選択を

弁護士になろうと決めたのは高校時代でした。

祖父が精密機器を造る工場を経営しており、債権者との関係などで苦労する姿を間近で見てきました。その中で「経営者をサポートする仕事がしたい」という思いが芽生え、それならば弁護士が適任だろうと考えるようになったのです。

また、父は自由な性格の人だったのですが、上場企業の社員としてどこか窮屈そうに働いているように見えたことも、「自分で考えて、自分で責任が取れる仕事がしたい」と思うきっかけになりました。

「弁護士になる」。この想いは一度もブレることなく、大学を早期卒業して2年間のロースクールを修了し、無事に司法試験に合格しました。そして就職活動をする際に重視したのは、自分の性格に合う事務所を見つけること。子どもの頃から新しいものやおもしろいものが大好きで、ワクワクすることにはいくらでも没頭できる性格だったので、「若手の意見も尊重してくれて、かつ新しいチャレンジがどんどんできそうなファームが良いだろう」と考えました。

入所を決めた森・濱田松本法律事務所は、まさにそのようなカルチャーがあるところでした。国内大手事務所の1つで、紛れもないビッグファームなのですが、設立以来の開拓精神があり、若い人を最前線に立たせてくれる風土があります。

また「うちに来い」とおっしゃってくださった藤原総一郎弁護士のカリスマ性に魅了されたことも、入所を決めた大きな理由です。それまで見たことのないような底知れぬ知性と凄みを感じ、また人間的な魅力にも圧倒され、そうした人と働ける環境に価値を見出しました。

念願だった弁護士になり、自分の活躍の場を定めたという点で、ここがキャリアにおける最初のターニングポイントと言えるかと思います。

同ファームでは4年強を過ごしましたが、弁護士としての素地はすべてそこで作られた実感があります。自分の経験を鑑みても、ファーストキャリアの選択は非常に大事だと思います。ビジネスパーソンとしての基礎が否応なしに築かれる場所ですし、「変えられない何か」が作り上げられる場所なので、慎重に考えて選んでくださいね

小笠原さんのキャリアにおけるターニングポイント

人より早く成長するなら「量」が大切。自責思考で自分が選んだ道を正解にしよう

森・濱田松本法律事務所に入所後は期待したとおり、非常に充実した仕事ができました。「教育された」という意識はまったくありません。尊敬する先輩弁護士がやっていることを真似てみる、自分で考えて試す……という繰り返しで経験値を高めていきました。

訴訟準備のために1週間事務所に泊まり込むこともありましたが、自分で望んでしていたことなので、まったく苦ではありませんでした。

これは、あくまで私の持論ですが、仕事はある程度の「量」をやらなければ、人より早く成長するのは難しいと思いますね。世の中には「1万時間の法則」(=何かを習得するためには1万時間の練習が必要である)という説もよく言われますが、エキスパートになるには一定の時間を要するのも事実です。1日でも早くその域に達したいならば、何かを捨ててでも、仕事に時間を使う必要があります。

もちろん誰もがそうする必要はありません。「ゆるやかな成長曲線が良い」という人は、ほかのことにも時間を使いながら、バランスよくキャリアを考えると良いでしょう。

ただし、会社に何かをもとめてしまうと成長は遅くなるということは、老婆心ながら伝えられるメッセージです。

成長はあくまで自分起点。「会社の環境に足りないものがあるなら自分で補う」「自分で選んだキャリアを自分で正解にしていく」という気概やマインドセットを持っておかなければ、環境のせいにするばかりで成長できないという事態にも陥りかねません。

小笠原さんからのメッセージ

「夢中になれること」は「本気でやったこと」の中から見つかる

法律事務所ZeLo(ゼロ)・外国法共同事業 代表弁護士 兼 LegalOn Technologies 取締役(監査等委員)共同創業者 小笠原 匡隆さん

キャリアにおける2つ目のターニングポイントは、社会人5年目に同事務所を辞め、法律事務所ZeLo(以下、ZeLo)の起業をしたことです。

仕事をある程度自分で回せるようになり、「お客様も自分を支持してくれている」という根拠のない自信に満ち溢れていました。当時29歳で、今思えばまだまだ未熟でしたが、若気の至りで自信過剰になっていた時期とも言えるかと思います(笑)。

起業のきっかけとなったのは、「アメリカではリーガル×テクノロジー(リーガルテック)が進んでいる」といった情報を聞いたこと、そして多くの起業家たちと交流をしたことが関係しています。

チャレンジをしている周りの起業家たちに刺激を受け、日本の法曹界にもいずれAIが導入されるだろう、自分たちの手で業務をもっと効率化していこう、自分たちならきっと世界のトップファームが作れるはずだ――。そのような大志に燃え、同僚であった角田望弁護士(法律事務所ZeLo共同創業者・副代表弁護士)とともに、事務所の外に出てみようと決心しました。

いざ事務所を飛び出してからは、さまざまな想定外の出来事に見舞われました。ZeLoを創業してから1年半ほどは売上がそこまで育たず、資金が底を突きそうになったこともあります。LegalForce(現:LegalOn Technologies)では、契約書に関連するリーガルテックのプロダクトの開発なども手がけていましたが、作っていた製品を捨てて新しく製品を作り直すなどのピボット(方向転換)を何回か繰り返していました。

今振り返ると「生きるか死ぬか」と思えるような状況が続いていました。ただ、一度も「つらい、大変だ」という心境になったことはありません。ロジカルに方法を考えて結果を出していくというより、気力でなんとかするしかない状況の連続で、「むしろ燃える、おもしろい」という感覚でした。

小笠原さんからのアドバイス

私が一番キャリアの充実感を覚えるのは、没頭できる仕事が目の前にある状態のとき。子どもの頃からおもしろいゲームが発売されると、春休み中に10日間ぶっ通しでやり続けるような性格だったので、その感覚にも近いです。

「この訴訟に勝つためなら、なんでもやってやる」などと仕事に没頭しきっている瞬間が一番楽しいですし、時間の感覚がないほど夢中になるくらいの「フロー状態」に入って力を発揮できている瞬間に、一番キャリアの手応えを感じますね。

これから社会に出て“没頭できる仕事”を見つけたいならば、まずは目の前のことを超本気でやってみる姿勢を心掛けると良いと思います

ゲームでも「負けてもいい」「くだらない」などと思いながらやっていると、楽しめないですよね。逆に、一見退屈そうなゲームでも「絶対に勝ってやる」と思いながら真剣にやっていると、意外におもしろくなってくるものです。

小さな仕事でも、一見退屈そうな仕事でも、まずは本気でやってみる。「仕事が楽しくない、夢中になれない」と悩むときは、自分が本気でやっていない可能性を顧みると良いのではないでしょうか。

人生はトレードオフ。意思決定とは「選ぶ」ではなく「捨てる」こと

意思決定においては、「自分で決めること」を何より大事にしています。経営する立場になってからは、「VISIONやPrinciples(行動指針)に沿った決断かどうか」を検証し、明確にデータを持っている人の意見も考慮に入れながら、感情ではない最終決定を下せるよう心掛けていますね。

私にとって、意思決定とは「選ぶ」ではなく「捨てる」こと。Aという人生を選んだら、Bという人生の可能性を捨てることになるからです。だからこそ、Aという選択を正解にするぞ! という力が湧いてきます。

人間は、理由がなければそうそう必死で頑張れない生き物だと私は思います。捨てた選択肢があるからこそ、「自分を納得させられる人生にしなければ」という思いが強くなり、自分自身を奮起させることができるのではないでしょうか。

就職活動の面接には、できれば自分が「何を選んで何を捨てるのか」「何を犠牲にして、何を得ようとするのか」を説明できる状態で臨むのがおすすめです。それを理解していると、自分という人間のことを会社側にしっかり伝えられると思いますね。

「多少休日を犠牲にしてでも仕事をガンガンやりたい」という人もいるでしょうし、「ワークライフバランスを重視した働き方をしたい」という人もいるでしょう。

働き方や会社選びに「どれが正しい」ということはないからこそ、社会に出る前に自分が大事にしたいことや将来どうなりたいのかを明確にし、自分の価値観を形成しておくことが大切かと思います。

意思決定は「捨てること」と心得よう

また、キャリアの選択においても自分で決めるということは大切にしてほしいですね。

面接する側としてよく思うことですが、「親にも相談してみます」「友達がこうなので」等々、第三者の考えに意思決定の比重を置いている人が一定数いる印象を受けます。参考意見にするのは良いと思いますが、ビジネスの世界で成功するためには「自分で引き受ける」ということが本質的に重要な要素です。自分で考えて自分で決める、それができないと組織の中では成長できないでしょう

入る会社を決めるのは、社会に出る最初の出発点。社会人としての意思決定は就職活動からスタートしていると考え、誰かに意思決定を委ねることなく、自分で決めることにこだわってほしいですね。

会社は無数にあるので、仮に第一志望が通らなかったとしても、いつかまた心惹かれる会社に出会えると思います。大学まではある程度わかりやすい偏差値があるものですが、社会に出ると価値観は一気に多様化します。「絶対にこの会社に入らなければ、成功できない」というルートはありません。

面接は相手もいるので自分1人でどうこうできるものではないですし、たまたま面接官の人間性やその年度の採用基準と合わなかった、ということもあるでしょう。営業活動や恋愛と同じで、タイミングも縁もあることだと理解すれば良いと思います

大切なのは、自分のストーリーを作ること。自分が納得できて、自分が楽しいと感じられる仕事ならばそれが正解なのです。キャリアの選択においては「誰かにとっての正解が自分の正解とは限らない」ということを、肝に銘じておいてくださいね。

小笠原さんからのメッセージ

万人にとっての「良い会社」は存在しない。自分に必要な情報を見極める力を磨こう

私がこれからのキャリアで成し遂げたいのは、ZeLoで掲げているVISIONやPrinciplesを実現すること。道筋としてはまだまだ2合目あたりの感覚ですが、独立したときの志は一切変わっていません。テクノロジーを使いながら海外にも進出し、世界のトップファームになっていくことを目指しています。

法律事務所にもいろいろなカラーがありますが、ZeLoは大きなVISIONや方向性を共有し共感してもらいつつ「それぞれが自分で考え、自分の意志で興味があるところを全力でやっていこう」という方針の事務所です。自分の指向性を発揮して成長したいという人に興味を持っていただければ嬉しいですね。

就職活動中は多くの情報を耳にすることでしょう。たとえば「社会貢献をすべき」「休日数を重視したほうがいい」といった意見が多く聞かれたとしても、自分に照らし合わせてみれば、それが正解とは限りませんよね。それ以外の価値観を大切にしたい人もいるはずなので、万人にとって良い会社はない、ということです。

いろいろな正解がある前提ですが、「チャレンジしたい、成長意欲が強い、ワクワクしたい」という人であれば、成長性の高い会社を選ぶのがおすすめです。成長している会社にいると、日々いろいろな出来事が起きるので経験値を高められますし、任される領域も広くなりやすいです。自分のポジションがすごい速度で変わっていく体験もできると思います。

これからの社会で活躍すると思うのは、自分で考えられる人。協調性も大切ですが、世の中で言われることを鵜呑みにせず、ときには迎合しないことも重要です。自分に必要な情報を見極める力を養い続けてくださいね。

小笠原さんが贈るキャリアの指針

取材・執筆:外山ゆひら

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