仕事は面白がった者勝ち|想像力×判断力で自分の道を切り拓こう

旭光電機 代表取締役社長 和田 貴志さん

旭光電機 代表取締役社長 和田 貴志さん

Takashi Wada・1982年に旭光電機に新卒で入社。1986年に技術部配属、自動ドア用近赤外線センサ「パルサーチ」を開発。 2004年に同会社で取締役技術部長就任し、その後現職

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電子回路に出会って50年。おもしろいと思ったからこそ変わらずに夢を持ち続けた 

新卒で旭光電機に就職してから現在にいたるまで、実に30年以上をこの会社で過ごしてきました。電子に魅了されて技術者となり、ものづくりの第一線に立ってこれまで多くの課題を解決しています。電子技術でたくさんの人の役に立ちたい。その思いはずっと変わりません。

「世界貢献」という最終目標を掲げ、自動ドアの改良をはじめJAXAの超小型衛星用撮像装置の開発プロジェクト参加など、1人でも多くの人の助けとなるよう今でも試行錯誤を繰り返しています。そうして今のキャリアを築くまで、根底には常に飽くなき電子の世界への探求心と、純粋な「好き」という気持ちがありました

小学生の頃、誰でも簡単に電子回路を組むことができる実験キットをもらいました。このときに自分の未来が決まったのです。子ども心に感じた「電子の力ってすごい。おもしろい」と心が震える感覚を、今でも仕事を通して味わい続けています。

なぜここまでブレずに夢を持ち続けていられるのかと聞かれることがよくあります。それはひとえに電子の世界の奥深さと、新しい物好きである自分の性質がぴったりはまったからなのです。

世の中にはどんどん新しい電子技術が生まれ、それがもとになって世の中のあらゆる産業やサービスが日ごとに進化しています。特にここ50年ほどは目まぐるしい勢いで発展を遂げており、毎日毎日新しい技術に出会うことができます。こんなにおもしろいことはほかにありません。しかもそれがたくさんの人の役に立つ。自分の天職はこれだったんだ──。そう確信しましたね。

そうして電子回路に噛り付いているうちに、自然と今のキャリアを築くことができました。でも、決して上だけを目指して行動してきたわけではありません。

仕事で成功したいと思うなら、大切なのは向き合う仕事を面白がって全力で取り組むことです。そうすれば結果は勝手についてきます。まずは熱中できるような、長く持ち続けられる夢を見つけましょう。

和田さんのキャリアの原点

夢の原点は無償の「好き」

誰しも夢を持っているわけではありません。中には「やりたいことなんてない」と感じながら就活をし、仕事をしている人もいるでしょう。では夢を見つけるにはどうすれば良いのか? それは自分が何かを「好き」と思った瞬間を深掘りすることです。夢のもとになるのは、何かを強く好きだと思う気持ちにあります。

つい最近のことだけでなく、子ども時代までさかのぼって丁寧に自分自身の気持ちと向き合ってみてください。子どもの頃って好きなもので利益を得ようとか、これが自分のためになるかどうかって考えませんよね。ただ純粋に、ひたむきに好きなことと向き合っていたと思います。そこに自分の夢がある人は多いのではないでしょうか。

一方で、よく「好きなものを仕事にすると嫌いになってしまう」なんて言葉も聞きますよね。これも間違いではありません。ただ、夢にできる「好き」とそうでない「好き」には明確な違いがあるのです

それは、自分の「好き」が無償のものであるかということ。

夢になる「好き」は、損得勘定抜きに取り組めるものです。自分の中に好きという思いへの熱量があるからこそ、誰に評価されなくても、たとえそれを仕事にすることで困難に直面することを知っていたとしても、没頭し続けることができます。

それぞれの「好き」の違い

もし自分の中に好きだと思えるものがあるなら、それを仕事にすることで直面しそうな困難をあらゆる角度から考えてみてください。立ちはだかる壁を越えられそうだと思ったり、むしろそれが面白そうだと思えるなら、きっとそれが自分にとってのかけがえのない天職になるでしょう。

今日ある仕事が明日なくなる現代で大切なのは価値ある自己投資 

仕事をおもしろいと思うからこそ今のキャリアを築くことができたとお話ししましたが、何の行動もなしに、ただ流れに身を任せてきたわけではありません。仕事に没頭する傍ら、セルフモチベーションの勉強をしていました。簡単に言えば、自分が仕事をする意味を見出してそれを原動力にするための考え方ですね。この能力を身につけるための教材に、実に150万近くを投じました。当時は周囲から「詐欺だよ」なんて言われたものですが、それほど価値があると思ったのです。

当時の自分には、漠然と「電子の世界で成功する」という自信と確信だけがありました。その一方で、具体的なものはありませんでした。成功するにはどうすれば良いのか。どのようなマインドを持てば良いのか。その学び方がわからなかったのです。今の自分に足りないものは確信を現実に変える手段だと思い、それを手にするための出費は惜しみませんでした。

そこで学んだのが、好き、おもしろいという気持ち100%で仕事に臨むのではなく、自分の仕事がどのように人々に役立っているのか、自分のする仕事の意味は何かを考え、「おもしろい仕事」から「おもしろくてたくさんの人の助けになる仕事」という認識にシフトしていくこと。その結果生まれたのが、現在のぶつかる心配のない、安心して使うことのできる自動ドアです。

今でこそ自動ドアに関する事故はほとんどなくなりましたが、当時は自動ドアに挟まれてしまったりぶつかるケースが多く、怪我をする人もいました。「自動ドアは危険なもの」という認識が広がっていたのです。

自動ドアが正しく作動しないために困っている人がいる。では自分の力でそのような人たちの役に立つにはどうすれば良いのか? それを考えた時、もっと安全で安心な自動ドアを作ろうと思いました。「おもしろくてたくさんの人の助けになる仕事」を体現できた仕事だったと思っています。

結果として自動ドアの安全性向上に成功し、今では業界トップシェアを誇り年間15万台以上出荷するほどに成長しています。

もちろんこれが正解とは言いません。大切なのはそのときの自分に必要なものを見極め、価値のある人材になることです。ぜひ今の自分に何が足りないのかを今一度考え、それを補うチャンスがあると思ったときに惜しみなく投資をしてください。必ずこれからの時代に長く必要とされる人材になれるはずです。

今、世の中の仕事は次々にAIに取って代わられています。今ある仕事の中にも、数年後にはなくなると言われているものが多いですよね。そのような現代において求められる人材になるには、第一に「AIに代替できないスキル」を身につけることです。そのために、ぜひ価値のある自己投資をしてください。

旭光電機 代表取締役社長 和田 貴志さん

想像力と判断力が自分の市場価値を上げる 

機械では代替できない能力を持っている人は、この先長く必要とされます。そこで身につけたいのが想像力と判断力です。この先どれだけ機械が発達したとしても、想像力と判断力を働かせなければならない局面においてはなかなか人間の代わりになることはできないでしょう。これからの社会で自分の市場価値を上げるためにも、この2つの能力を身につけることをまず目指してほしい。

実は代表取締役社長となった今でも技術部長の仕事を兼任しています。背景にはもちろん電子の世界に魅せられた者として現場に身を置いていたいというのもあるのですが、まだ想像力と判断力を持った人材が見つかっていない実情があります。

旭光電機の財産は、何よりも技術です。それを今後どのように進化させ、どのように発揮していくのか。それを正しく判断して舵取りをする必要があります。またその舵取りをするには、想像力を働かせて未来を展望する力が不可欠です。これは何も旭光電機だけに言えることではありません。どこの企業、どこの業界であっても必要になる人材です。

この2つの能力を身につけるために、好きなこと、おもしろがれることにとことん打ち込んでくださいね。

想像力と判断力の関係

好きなことに打ち込めば、それをもっと良くしようと思えます。もっと良い電子回路を設計するにはどうすれば良いのか? どうすればもっとおもしろくなるか? それを考えることで、頭が働いて想像力が鍛えられてきました。

一方で、好きなことを続けていくのは簡単ではありません。1日の時間は限られているうえに、やらなければいけないこともたくさんあります。では何を優先し、何を捨てるのか。ここで判断力が活きるわけです。自分の夢のもととなる好きなことを取るか、別のものを取るか。どちらが将来の自分のためになるのか。それを正しく判断できてこそ、より好きなことに打ち込むことができます。

正しい判断をした結果自分の将来に役立つものを大切にしていくことができれば、その時点で十分に市場価値の高い、価値ある人材です

ぜひ学生のうちからこの視点を養う意識をしてみてください。自分が見つけた好きなことは、将来に活きるものでしょうか? それを続けた結果困難に行き当たった時、乗り越えることができるでしょうか? 想像力と判断力を働かせてこれを慎重に考え、その結果今の自分に残ったものへひたむきに打ち込みましょう。

和田さんからのメッセージ

新社会人の在り方は仕事を選ぶか、仕事に選ばれるかの二軸で考える

ファーストキャリアを選ぶ際には、仕事とどのように向き合うかを考えてみてください。おすすめは2つの軸で検討することです。

1つは、仕事を自ら選ぶこと。ただ、これは明確にやりたいことがある人でないと少し難しいかもしれません。「ファーストキャリアはあくまで通過点」と考えられるくらいの人に向いているでしょう。たとえば将来の目標が起業にあるなら、それをしっかりと未来に据えたうえでどのように目標を達成するかが想像でき、かつその未来に近づくために今自分に本当に必要なものが何かを判断できる人、つまりすでに想像力と判断力が備わっている人にぴったりな道です。

もう1つは、仕事に選ばれること。まずは与えられた仕事にひたむきに打ち込む方法ですね。学生時代に学んだことのうち、仕事に役立つものはごくわずかしかないなんてことはよくあります。仕事についての真の学びは、仕事に打ち込んだ先にしかないのです。

だからこそ自分が選ばれたときにはその仕事に一生懸命に取り組み、できる限り知識を吸収しましょう。周囲はそんな姿勢を必ず見ています。いずれ評価につながって出世した頃には、想像力と判断力を備えた価値ある人材になっているはずですよ。

初めて社会に出るのだから、不安なことが多いでしょう。自分の判断に自信を持てず、頭を抱えることも何度もあるはずです。けれど何事にも直向きに取り組むことで自然と想像力と判断力が身につき、確実に必要とされる人材になっていきます。先のことをあまり恐れすぎず、まずは飛び込んでみてください。そしてそこに、おもしろいと感じられるものを見つけましょう。

判断力と想像力を磨いて努力をした先に、自分にしか進むことのできない道が自然とでき上がっているはずです。

和田さんが贈るキャリア指針

取材・小林駿平
執筆・瀧ヶ平史織

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