「社会に出てから自分を知る」のも遅くはない|人生の時間を費やす価値があると思えるテーマを探してみよう

トリビュー 代表取締役社長 毛 迪さん

Mou Dei・中国生まれ日本育ち。2014年リクルートに新卒入社し、ゼクシィの広告営業として戦略立案や制作ディレクションに従事。 2016年から1年間はコンサルティング企業・アーキタイプにて大企業向け新規事業の立案や出資先の支援業務を担当。 2017年トリビューを設立し、現職

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留学先で初めてキャリアを考え、社会人になってからやりたいことが見つかった

初めてキャリアについて真剣に考えたのは学生時代、海外留学をしたタイミングです。日本にいる頃はサークル仲間と遊んだり、お酒を飲んだり、目の前のことを楽しんでいるタイプの大学生でした。

しかし在学中にアメリカと中国に留学し、特に留学生として1年間出向いた中国では国内とは異なる貴重な経験ができました。

当時の中国に来ていた留学生は、人生を真剣に考えている真面目な学生が多く、彼らに刺激されて「このままでは良くないな」と思うように。募集を出していないインターン先に自らアタックして2ヶ月間働かせてもらうなど、積極的な行動をするようになりました。よくわからないところへ飛び込んでみる勇気を磨けた、良い機会だったと感じています。

とはいえ、そのときはまだ「どんな人生を選びたいか」までは見えていませんでした。帰国後まもなく始めた就職活動でも、海外に関われる仕事として漠然と商社を希望していましたが、知人に「リクルートが合うと思うよ」と勧められ、受けてみることに。若手にも責任の大きな仕事を任せてくれる風土が気に入って入社を決めました。

そして入社後、朝から晩まで仕事に時間を費やす生活になってみて初めて、学生の頃に気づけなかったことが見えてきました。

一番大きな気づきは、興味を持てない分野の仕事は、最後の最後でこだわりきれない部分が出てくる、ということです。仕事は一生懸命にやっているつもりだったのですが、実はそもそもブライダルにあまり興味がなくて……。自分が心から商材に価値を見出せていないのに、それを熱心にアピールする仕事にどこかで矛盾を感じていました。

そこから「どんなことだったら頑張れるのだろう? 」「どういうテーマなら、人生の時間を使いたいのだろう? 」と自問自答を始めました。自分の原体験を深掘りしてみたところ「外国語教育」「美容」という2つのテーマが見えてきたんです。

「自分がこだわりきれる領域の仕事なら、もっと世の中に価値を出せるし、働いていて楽しいはずだ」と思い至り、入社後2年間で退社を決めました

ファーストキャリアでは、社会人としての「当たり前」が形成される

とはいえ、ファーストキャリアにリクルートを選んだことに、後悔はありません

入社1年目の社員でも一人前として扱ってくれる会社でしたし、一つひとつの仕事に本気で向き合っていないと指導を受けるという環境で身に付けた”常識”は、今も仕事をするうえでのベースとなっています。責任感を持って本気で仕事をしている人たちも多かったので、そのスタンスにも大いに影響を受けました。

「1社目で自分の ”当たり前”が形成される」という前提に立って、最初の就職活動をしてみるのはひとつの方法論かと思います。先輩社員たちがどんなマインドで仕事に向き合っているのかを見て、そこに共感できたり、自分がこうなりたいと思えたりする会社は、有力な候補になるはずです。

企業規模は会社の良し悪しにあまり関係ないと考えていますが、あえて挙げるならば、大きな会社の事業にはそれまでの歴史ややり方があるので、大きな変化や方針転換をするにはかなり労力がかかります。

管理者のポジションも埋まっているので、キャリアアップを果たせるチャンスも、確率的には低くなるのかな? という印象です。自分の考えややり方で仕事をしたい、ガンガン昇進したいという人は、歴史や確立した事業がない企業のほうがマッチする気がします

また良い会社かどうかは、社内の飲み会の様子にも表れるように思います(笑)。社員どうしが愚痴や悪口、噂話ばかり言っていたり、合コンや社内恋愛のことばかり話していたりする組織よりも、「もっとこんなことをやりたいよね! 」と仕事のことを前向きに話している社員が多い組織のほうが、良い会社だと感じます。

そうした態度の違いは、社員たちが会社の事業を自分事として考えているかどうかにも関係している気がします。組織が大きすぎるとどうしても仕事を自分事化しづらい傾向があるので、会社の事業に影響を与えている実感をもとめるならば、ベンチャーや中小企業も含めて検討してみるのがおすすめです

社員全員がそのサービスや事業、会社をどうしていきたいかを真剣に考えている組織は、私自身も目指すところです。当社の社員はサービスの元ユーザーが多く、多くがミッションに共感してくれて入ってくれているので、飲み会でも「もっとサービスをこうしていきたい」という話をしてくれているのではないかな? と期待しています(笑)。

キャリアに迷うときは「リスクをとってでも欲しい選択肢なのかどうか」を考えてみよう

起業を決意して1社目を退社してからは、4ヶ月間ほど「誰にどんな価値を提供するのか、具体的にどんな事業をしようか」について考える期間を設けました。価値あるテーマとして見出した「外国語教育」「美容」の領域でそれぞれ50個ずつ、100個のビジネスモデルを考え、そのうちのひとつが現在の事業となっています。

またこの時期にはいろいろな人に会ってたくさん話を聞いていたのですが、とあるベンチャーキャピタルの代表から「まだ事業が決まりきっていないなら、うちでしばらく働いてみたら? 起業準備をしながらでもいいよ」とお誘いをいただきました。投資家サイドからベンチャー企業を見れば、やりたいことにより近づけるだろうと感じ、1年弱ほどこの会社で経験を積ませていただきました。

そうして2017年、無事に当社トリビューの創業を果たしました。リクルートを辞めるときからこの瞬間を目指していたので、「やっと起業できた! 」という感覚でしたね。ここが今までのキャリアのなかでの一番のターニングポイントと言えるかと思います。

このときに限らずですが、大きな意思決定をする際には、それぞれの選択肢のリスクとメリットを検討します。起業の際には「3年で潰れてしまった場合のリスク」も考えてみました。まだ26歳だしどうにかなるだろう、起業経験があることを面白がって採用してくれる会社はあるはずだ、ひとつの会社にいるよりもむしろキャリアの幅が広がり、市場価値が上がるのではないか……そんな結論に至ったため、迷いなく決心ができました。

選びたい選択肢にリスクを見出した場合には「リスクを取ってまでその選択肢が欲しいのかどうか? 」について、腹落ちできるまでしっかり考えるようにしています

就職活動やキャリアの選択にも応用できる考え方だと思うので、よければ参考にしてみてください。

私がキャリアのなかで一番充実を感じるのは、「自分の人生の時間を使う価値がある」と思える事業に関わることができ、かつ「自分自身が成長・変化しつづけている状態」にあることです

その点で、起業してからは変化と成長の実感に事欠かない、退屈しない毎日を送れています。毎年まったく違うジャンルの課題に向き合っていますし、違う部分の成長をもとめられる感覚ですね。ずっと同じことをしていられない性分とも言えますが(笑)、「事業が伸びるか伸びないかはすべて自分の責任」という環境だからこそ、大きく成長することができたと感じています。

自分が成長しなければ課題を乗り越えられない=成長するしかない! という思考になるので、大きく成長したい人は「イヤでも成長するしかない環境にあえて身を置くこと」は、ひとつの手だと思います

無論、プレッシャーを感じる場面がないわけではありません。大きな額の融資契約書にハンコを押す瞬間などはドキドキしますし、会社で起きることはすべて私の責任だという気持ちは持っています。ただ生来、怠けやすい性分で、トレーニングジムに通い続けられないくらいには意志が弱いので(笑)、プレッシャーがあったほうが頑張れるだろうと自覚しています。

それに「なぜ私はこんなに必死で仕事をやっているのだろう? 」とふと思う瞬間にも、自分の時間を使う価値があると思えることをやれている! という実感が、精神的なよりどころになっています

ユーザーさんから「こんなにすてきなサービスをありがとうございます」といった言葉をいただけることもあり、そういったときには「自分が提供したかった価値を提供できている」と感じて心から嬉しいですね。

人の話を素直に聞き、変化に柔軟に適応することが、社会で活躍する秘訣

これからの時代にバリューが高まると思うのは、「変化に適応できる柔軟さ」と「素直さ」を備えた人材です。この両方の要素を持っていると、「環境に合わせて知識をアップデートできる人」にもなれると思います。

入社後5年も経つと、会社はまったく違う組織の状態になっていることもあります。そのときに「今どうあるべきか」を考えて柔軟に動いていける人でなければ、会社の成長と変化に付いていけなくなってしまいます。

素直さについては「人の話を聞いて、かつ一旦受け止められること」だと理解しています。耳の痛いことを指摘されたときに「いやいや」と否定から入るのではなく、「そう見られているのだな」と客観的な事実として捉え、受け止められるかどうか。この“受け入れ力”があるかどうか次第で、成長度合いが大きく変わってきますよ。

私自身も、フラットに人の話を受け入れる姿勢は大切にしていますね。その延長線上で「わからないことは経験している人に聞く」「質問をたくさんする」ということも心がけています。

自分だけでどうにかしようとすると、大抵何かしらの知識が不足するんですよね。そんなときも、積極的に人の話を聞きに行ったことで、課題の解決策や方向性が見えたことがこれまでも多くありました。「世の中にはいろいろな経験をしている人がいるのだから、経験者にどんどん話を聞いてみればいい」と考えると良いと思いますよ

これからの時代に活躍する人材の特徴

  • 変化に適応できる柔軟さがある人

  • 人の話を素直に聞ける「受け止め力」がある人

  • 環境に合わせて、知識をアップデートできる人

「自分はこういう人だから」と制限をかけず、感情が触れる瞬間に注目してみよう

人の話を聞くだけでなく、人に話を聞いてもらうことで乗り越えられた壁もあります

創業後の3年間は私自身が努力をして成長すれば、大抵の壁を乗り越えられていました。ただ4年目くらいから社員数が増え、並行して業務量も大きく増えたことで、自分ひとりの頑張りでは乗り切れないフェーズがやってきました。

このタイミングになって初めて、社員にうまく仕事を任せることができない自分の傾向に気づき、コーチングに通って自分の思考と向き合ってみることにしました。

コーチの方に話を聞いてもらいながら内面を掘り下げていくと、過去の経験から「自分が頑張ったからどうにかなった」という妙な自信や凝り固まった思考の癖があることを発見しました

「自分でやったことがあることには自信があって当然だけど、それなら、やったことがないことは人に任せられるよね? 」「自分もやったことがないことで、しかも担当者のほうが使える時間が多いなら、その業務に長く時間を使える担当者のほうが良いものができるはずだよね? 」そのように思考を整理していった結果、徐々に社員にも仕事を任せられるようになっていきました

いざ手放してみると思いのほか仕事はスムーズに運び、その成功体験が積み重なっていくうちにどんどん人に仕事を任せられるようになっていきましたね。自分は論理的な人間だと思っていましたが、ロジカルさとは関係ない気持ちの問題だったのだな、と気付かされました(笑)。

この経験からも、人にはそれぞれ思考の癖があり、意外とそれに囚われて生きていることも多いのではないかと想像します。最初から「自分はこういう人だから」と自分で自分に制限をかけてしまうのも、その現れだと思いますね。

思考の癖を探るなど改めて自分自身を掘り下げてみることは、キャリア設計においても有意義な気がします。そのためには「感情が触れる瞬間」に注目してみるのがおすすめです。嬉しいとき、悲しいとき、むかついたとき、そうした瞬間には自分を知るためのヒントが詰まっています。

たとえば私は会社勤めだった頃、人に仕事のやり方を決められることを非常に心地悪く感じていました。そこから「ゴールまでの方法論は、完全に任せてほしいタイプなのだな」という自分の傾向が見えてきました。

一例ではありますが、このようにネガティブに感じた経験からでも、「自分はどういう人間なのか」「自分の活躍できる場所はどういう場所なのか」というヒントが見出せると思います。

自分の強みや市場の動向を総合的に考えて、最適な選択をしよう

美容医療分野での事業を選んだのは、私自身が美容クリニックのユーザーとして情報収集をする際に「十分な情報がない」と感じた原体験があったこと。加えて中国や韓国で美容医療プラットフォームが伸びている状況があり、タイミング的にもチャンスだと感じたことも理由です。

市場環境、自分の強みを活かせるか、事業を始めるタイミングといったことを総合的に考えた結果「これだ! 」と思えたのが、現在のサービスでした。ちなみに外国語教育のテーマでは、見込みのある事業を思いつかなかったので、事業分野としては選びませんでした。

美容医療市場は、今の国内では珍しい成長市場のひとつです。施術件数も年々大きく伸びていますし、美容医療を受けたこともオープンに話せる風潮が生まれてきており、世の中への受け入れられ方が変わってきた実感があります。

一方で、リスクを伴う医療行為であるにもかかわらず、そのために必要な情報はまだまだ十分とは言えません

そこで、⼝コミや体験談をたくさん見ることができ、そこから自分が良いと思うサービスを選択できるアプリ「トリビュー」を作りました。順調に会員数を伸ばせており、会社としても一段階大きくなってきた実感があるので、このアプリをさらに成長させ、さらにユーザー数を拡大させていくことが、今この時点で私が目指すビジョンです。

取材・執筆:外山ゆひら

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