チャレンジして困難を乗り越えることが自信を生む|やりたいことが見つからない時期も「探究心」を心がけて

トーエイ 代表取締役専務CFO 室伏 敬治さん

トーエイ 代表取締役専務CFO 室伏 敬治さん

Keiji Murofushi・静岡県生まれ。大学卒業後、1993年に特種製紙(現:特種東海製紙)に入社。30代後半まで営業職としてキャリアを重ねる。その後は製造部門で10年間、生産管理や総務・労務管理業務を担当。2020年からは新設された資源再活用本部で事業開発部長を務め、2023年4月より現職。トーエイホールディングス取締役、およびグループ会社であるハヤトの代表取締役社長も兼任している

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仕事の魅力はやっているうちにわかってくる。小さな興味を大切に

私が就職活動をしたのは、バブル崩壊の直後です。「就職氷河期」という言葉が使われ始めるちょうど1年前でした。本が好きで大学では文学部に所属していたものの、仕事としてやりたいことが特に見つからなかったので「長男だし地元に帰ろう」と決めて静岡県で就職活動をおこない、近所にある製紙会社への入社を決めました。

志望動機は「本が好きだし、紙を造る会社も良いかもな」という程度のものでした。当時はインターネット上で企業のことを詳しく調べられる時代ではなかったので、昔から知っている地元の有力企業ということで安心感もあったのだろうと思います。

就職にあたって「やりたいことが特に見つからない」という人は、今の時代にも少なからずいることでしょう。また、やりたいことがあっても「その仕事ができる会社に入れなかった」というケースもあるかと思います。

ですが、そのときに気落ちしたり、先々を心配したりする必要はありません。仕事では、やっているうちにその世界の魅力がわかってきたり、愛着が湧いてきたりするということが大いにありえるからです。

私自身がまさにそれを経験しました。紙に特別な興味があったわけではありませんが、営業として自分の手で売っているうちに、いつの間にか紙オタクのようになっていました。今は新しくチャレンジをしているリサイクルの世界のことで、頭がいっぱいです。

ただしそうなるためには、目の前の仕事に探究心を持つことが必要です。無理に好きになろうとする必要はありませんが、「やるからにはよく知ってみよう」「なぜこれはこういう仕組みなのか」「この業界のことを深く理解してみよう」といった心構えで勉強をしていくうちに、その仕事のおもしろみがわかってくるものだと思います。

まったく興味がない分野の仕事だと、そうした興味や勉強する意欲も湧いてこないように思うので、就職の際には少しでも興味を持てる業界や仕事を探してみるのがおすすめです。

仕事への興味の育て方

修羅場を乗り切った経験は自信や成長につながる。積極的に挑戦を

入社後は1年間工場勤務を経験したのち、2年目から東京の紙の代理店に出向することになりました。自社で造った紙がどのようなお客様に売られ、どのように使われているのかを見ることができ、大変有意義な4年間でしたね。

そこから静岡に戻り、クリエイティブなプロジェクトのメンバーに選ばれたことが、キャリアにおける最初のターニングポイントです

自社の製品や紙の文化財を展示する紙の資料館を立ち上げることになったのですが、その案件に副社長や部長と共にアサインされたのです。当時はまだ20代で、営業としても駆け出しの身分でした。プロジェクトの進め方なども全くわからない状態で、いきなり日本を代表するグラフィックデザイナーや建築家、クリエティブディレクターの方々とやり取りをすることになったのです。

クリエイティブな世界の方々と向き合うのは大変刺激的であり、一方で修行でもありました。あまりの仕切りの悪さに業を煮やしたクリエイターの方から、「僕はもう70代で時間がないんだよ!」とお叱りを受けたことも。1年後、その方は資料館の完成を見ないまま急逝されてしまい、持って行き場のない感情を抱えたこともあります。

この件を含めさまざまな困難に直面したものの、なんとかオープンには漕ぎ着けることができました。問題を1人で抱え込まず、いろいろな人を巻き込んで頼ることの大切さを知りましたし、このプロジェクトを乗り切ったことは少なからず自信になりましたね。

社会人としての自信を身に付けていくためには、このような「困難なことを乗り越えた、やりきった」と言えるような経験をすることが必要だと思っています。どれだけ修羅場をふめるかで成長度合いは決まる、と言えるのではないでしょうか

あらゆることの不確実性が高くなりリスクが取りにくくなった分、大きなチャンスをつかむための第一歩を踏み出すのも難しい時代になっているようにも感じますが、失敗しても命までは取られることはありません。これから社会に出る皆さんも、ぜひチャンスが巡ってきたときには前向きな考え方を持って、積極的にチャレンジしてほしいなと思います。

室伏さんからのメッセージ

やむを得ず進んだ道が、新たな学びのきっかけに

次なるターニングポイントは30代後半、ハードワークにより体を壊してしまったことです。営業として脂が乗ってきて、当時の会社の年間売上の半分程度、およそ100億円の売上を担当するようになり、「会社は自分たちが回している」くらいの思い違いをしていました。今思えば完全に自己満足ですが、長時間労働も厭わず、朝イチの新幹線で東京に出かけて深夜に静岡に帰る、といった生活をしていました。当時も今もブラック企業だったというわけではありませんが、とにかく自走したい、自分たちが会社を盛り上げていくんだという思いが強かったんですよね。

そしてある日、文字通りぶっ倒れてしまったのです。復帰後は営業部門に戻らず、製造部門への配属となりました。生産管理や総務、労務管理などを担いましたが、それまでとは180度違うポジションになったことに対する戸惑いがあったのは事実です。バックヤードの仕事は「できていて当然、できていないときだけ連絡が来る」という立場なので、営業のときのように自分の成果が見えにくく、モチベーションをどう維持すればいいのだろう、という葛藤がありました。

そのときに決めたのは「これまでの経験を活かし、さまざまな部署や人の架け橋になろう。同僚や部下を褒めたり認めることで良いチームを作ろう」そして「自分の悩みを正直に話していこう」ということでした。いろいろな人に気持ちを開示して一緒に考えてもらっていると、地道な仕事も頑張ることができましたし、頑張りは必ず誰かが見ていてくれることにも気づきました。「明けない夜はない」という言葉通り、悩みはいつの間にか消えていたのです。

工場での10年間は、「メーカーとしてのモノづくりの根幹を担っているのは製造現場である」ということに改めて気付かされるきっかけとなりました。優れたチームワークによってさまざまな課題を解決していることにも感銘を受けましたし、現場を束ねる課長さんたちの人柄も含め、営業時代には知らなかった「人のマネジメント」について大きな学びを得ました。

室伏さんのキャリアにおけるターニングポイント

しかし製紙産業は当時すでに成熟産業で、2010年代に入ると、ペーパーレス時代の波が押し寄せていることを体感できるくらいになっていました。会社としても新しい事業の柱を立ち上げる方向に舵を切り、そこで持ち上がったのが環境関連事業です。紙はそもそもリサイクル産業という側面があり、時代の流れを汲んで今後は本格的にやっていこうということで、2020年にリサイクル事業を推進する資源再活用本部が立ち上がりました。それと同時に私もこの部署に移ることになります。

リサイクルの世界では経験の少ない当社が成長するには良いパートナーが必要と考え、まずは日本全国のリサイクル企業を調査し、M&A(企業合併)候補として有力だと思える会社をリストアップしました。そのうちの1社が、このトーエイです。事業の幅が非常に広く、調べれば調べるほど面白い会社だなと興味が湧きました。

M&Aはいろいろな目的でおこなわれますが、我々が当時目指していたプラスのシナジーを生むための「成長戦略型M&A」はもっとも難易度が高いと言われます。何度もトーエイに交渉に出向き2年間にわたる交流を続けた結果、ついに2023年、念願の資本業務提携を果たすことができました。このタイミングで私自身も代表取締役CFO(最高財務責任者)として当社に参画させていただくことになり、現在にいたります。

それまで営業や製造の仕事を経験してきましたが、リサイクル業界や経営に関してはほぼ素人です。次世代に向けて新たなスキルを身に付けるためのリスキリングや50の手習いという感覚で、現在はイチからこの2つの領域の勉強に励んでいます。

仲間たちと共に成長し、社会に貢献できるようなチャレンジを続けたい

トーエイ 代表取締役専務CFO 室伏 敬治さん

転職はせずとも3つの会社を経験し、営業から製造現場、紙の業界からリサイクル業界へ、といった新しいことへのチャレンジを繰り返してきましたが、変化に対する不安を感じることはあまりなかったように思います。それよりも楽しさが勝っていました。普段から散歩やドライブであえて知らない道を行くのが好きなタイプなので、その感覚に近いのかもしれません。大変でも楽しみながら仕事をしたいですし、一緒に仕事をするチームのメンバーにも楽しんで仕事をしてほしいと思っています

私がやりがいを感じるのは、自ら考えたことをしっかり準備して実行に移せたときや、仲間と一緒に努力して目標を成し遂げたとき。これは若い頃も今も変わりません。

一方で「何に充実感を覚えるか」といったことは、キャリアとともに少しずつ変化しています。営業時代は、自分が売った紙がベストセラーに使われているのを書店の店頭で見る瞬間などに、一番の喜びがありました。今は当社でリサイクルした素材が新たな製品として生まれ変わったときなど、「社会に価値を提供できた」と感じられる瞬間に充実感を覚えます。

また体を壊して以降は、ワーク・ライフ・バランスも重視するようになりました。昨年トーエイで働くため愛知に移り住んできたのですが、「次なる故郷が見つかった」という感覚を覚えるほど愛知での暮らしを楽しんでいます。趣味や休息の時間をしっかり持ったほうが仕事でもより良い結果が生まれる実感があるので、これから社会に出る人にも、仕事だけではないキャリアの形成を目指してほしいです

「挑戦と革新」を謳っているトーエイで仕事ができていることには大変縁を感じており、これからもチャレンジを続けていきたいです。リサイクル事業を日本から世界に展開したり、新しいリサイクル事業を立ち上げたりすることで社会に貢献し、仲間たちとともに成長していくことが、これから私が目指すビジョンです。今こうして働けているだけで十二分に幸せですが、これから残り10年強のキャリアで実現したいことを想像すると、そのような姿が思い浮かびました。

周りと同じで満足せず、面倒がらず、自分で宿題を作れる人間になろう

多くの人との出会いのなかで成長させてもらえたことも、「充実したキャリアを歩めている」という実感につながっています。

いろいろな仲間と働いてきましたが、時代が変わっても、「一緒に働きたい」と周りから望まれる人材には普遍的な要素があると思います。私が思うに、その要素とは「誠実であること」「宿題を自ら作れること」「数字に強いこと」の3点です。

室伏さんが考える「活躍する人材」の特徴

混同されがちですが、「誠実さ」と「真面目さ」は似て非なるものです。相手の気持ちを思いやり、自然な気遣いができることこそが「誠実さ」だと考えています。誰に指示されなくてもサッと気遣いの行動ができることは、「この人になら仕事を任せられる」と思われる人物の特徴だと思います。

2つ目の「宿題を自ら作れる」人材になるには、学生時代から「面倒がらずにやってみる」という習慣を身に付けるのがおすすめです。人と同じことだけで満足せず、遊びでも勉強でも、ちょっと大変そうなことにトライしてみてください。与えられた課題に対して正しい回答ができるだけでは、新しい価値を生み出すことができません。これからの時代は、自由な発想で自ら「これをやってみたらどうだろう?」といった宿題を発見し、それを提案できる人が求められると思います

最後に「数字に強い」というのは、企業で働くならばほぼ確実に求められる要素です。仕事は「この案件は、最終的に利益を出せるのか?」「何をすれば会社の成長に貢献できるのか?」といったことを考えながら取り組んでいくものなので、数字と無縁でいることはできません。会計や簿記に詳しくなる必要はありませんが、キャリアを通して、多少なりとも数字的なセンスは身に付けていくと良いと思います。

企業選びの決め手は「人」と「未来」

社会に出て30年以上が経ち、多くの企業を見てきましたが、改めて今思うのは「企業は人なり」ということです。良い会社とはイコール、社員が生き生きとやりがいを持って働いている会社ではないかと思います。若い頃は華々しい業界に目を奪われることもあると思いますが、誠実な仕事をしている会社でなければ社員も生き生きと働くことは難しいです。就職活動では、社内からそういった活気と勢いのある雰囲気を感じ取れるかどうかも確かめてみてください。

また中長期的な目線を持って、業界・企業の将来性や発展性を考えてみることも大切です。今絶好調の業界でも、10年先も同じ状況である保証はありません。逆に、過去には苦戦していた時期があっても、復活を遂げていった業界や企業もあります。100%予測することは難しいでしょうが、「社会に本当に必要とされている事業をやっているのか?」といった観点を持って業界研究をしてみると、自分なりの答えが見出せるかもしれません。

興味のある業界が今どのような状況なのかをインターネット上で調べ、今後どうなっていきそうかを考えてみるだけでも有意義だと思います。

最後に、学生の皆さんは成長の伸びしろをいっぱいに持っている、無限の可能性を秘めた存在であることを忘れないでいてほしいです。結果を急ぎすぎず、自分の次なる故郷、長年付き合う仲間たちとしてやっていける会社を、焦らずによく見極めてみてください。成功と幸福が皆さんの道を照らし、充実したキャリアが築かれることを願っています。

室伏さんが贈るキャリアの指針

取材・執筆:外山ゆひら

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