ワンチームの人間関係が豊かなキャリアを生む|失敗を恐れずにチャレンジする姿勢を持とう

テラレムグループ 代表取締役社長 水谷 重夫さん

Shigeo Mizutani・1980年、三菱商事に入社。機械部門で主に輸出業務を担当し、水・環境プラント建設に携わる。2000年ジャパンウォーターを設立し代表取締役に、さらに2010年荏原環境エンジニアリング代表取締役、翌2011年水ingに社名変更。2020年より市川環境ホールディングス(現 テラレムグループ)代表取締役社長に就任

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ラグビーが人生の基盤となった。育まれた海外・人への関心

大学時代はラグビー一筋に熱中していました。「練習は不可能を可能にする」「花となるより根となろう」の教えの下、地獄の山中湖合宿など猛練習に堪え、日々練習を重ねた結果、最終学年ではバイスキャプテンを務めました。1つのことに打ち込めば、それ相応の成果を出せるという経験ができたことは、人生の大きな糧になりました

また、ラグビーのノーサイドという精神も、私の原点となっています。真剣に戦った相手も、試合が終われば仲間。握手やハグを交わし合った間柄で本当に仲良くなり、いまだに付き合いが続いています。

ラグビーを続けたおかげで海外遠征の機会を得て、世界への興味関心が高まりました。「もっと海外に出て世界的な仕事をしてみたい」と思い三菱商事に就職したのも、ラグビーでの経験が基盤になっています。

熱中したラグビーを通じて培われた関心

入社した三菱商事では実際に、アフリカや中近東でのビジネスにかかわり、人生を揺るがすようなカルチャーギャップを経験しました。

1つは水と資源のこと。水が貴重で石油が豊富な地域なので、その価値観が日本とは逆転しています。もう1つは宗教にまつわること。1日に5回の礼拝や断食月(ラマダーン)などは日本では全くない習慣を目の当たりにしました。イスラム圏での海外経験が長く、イラン・イラク戦争の戦時下、空襲を逃れて国外脱出も経験しました、その後の9.11のテロなどが起こるべくして起こったように感じられます。

海外のさまざまな場所で、さまざまな観点から、世界情勢を肌で感じることができたのは得難い体験だったと思います。

多くの失敗経験があるからこそ、成功は生まれる

三菱商事ではいつも順風満帆だったわけではなく、失敗もたくさんしましたね。入社早々の失敗は、今でも思い返すと冷や汗が出ます。

ナイル川の灌漑(かんがい)プロジェクトに使う機械の入札案件があり、無事契約権を獲得。喜び勇んで機械メーカーに連絡したのですが、見積もりの価格が間違っている、と。なんと部品や付属品を含めずに3割以上安く入札してしまったんです。

やってしまった失敗の大きさに震えました。どうやって上司に説明しよう、この後どうしたら良いのかと途方に暮れましたね。

すると、メーカーから新しい見積書がFAXで届き「前の見積もりは破いていいよ」との連絡をいただきました。話を聞くと、もともと新入社員が受注できるはずがないとメーカーは考え、相当高めの見積もりを出していたとわかりました。

おかげで何とかピンチを脱却しましたが、この経験から見積もりなどの数字の確認は非常に丁寧にやるようになりましたし、間違いや失敗はすぐに周りに相談することの重要性を痛感しました

1つの成功の後ろに9つの失敗

立派に大きな仕事をしているように思える先輩や上司も、人間です。必ず失敗をしてきたはずなんです。でも、若手や新入社員の頃はそうは思えず、偉大な先輩に気後れしてしまったりしますよね。でも、1つの成功の後ろには、9つの失敗があるんです。それを知って、失敗を恐れずチャレンジする人間になってほしいですね。

チャレンジとは「少しだけ人と違うことをやる」ことである

ビジネスにおいて、チャレンジは非常に大切です。ではチャレンジとはなんなのか。私は、“少しだけ人と違うことをやる”のが良いのではないかと思います

三菱商事では若手社員は、入社から3〜数年後に初めて海外出張するのが一般的でしたが、私はなんとか早く海外出張したかったので、入社1年目から「旅費は自分で負担するので、出張に行かせてほしい」と上司に直談判。やる気を買ってくれたのか、本当に一年目から海外出張することができました。もちろん会社が費用を出してくれましたよ(笑)。

水谷さんからのメッセージ

若手時代にやったもっと小さなチャレンジは、周囲より早く会社に来ること。朝イチで出社すると、さまざまなことがわかりました。

誰が早く出社しているのかはもちろん、部内に届いたテレックスの入電の種分けを通じて、若手でありながら、部署や会社全体のプロジェクトなどの情報を知ることができたんです。このちょっとしたルーティーンのおかげで、他の新入社員よりも企業理解を深めることが理解できました。

もっともっと小さなチャレンジもありますよ。それは、挨拶と質問です。いつも顔を合わせない人にも挨拶したり、わからないことを積極的に質問したり。特に質問は、若手の特権です。

経験が浅いから許される質問はたくさんありますし、質問自体がアピールになって、良い印象を残すこともあり得ます。今しかできないチャンスだと思って、どんどんわからないことを質問・解決していってほしいですよね

人と違う小さなチャレンジをしよう!

  • 挨拶と質問をする

  • 人より早く出社する

  • 意欲があるとアピールする

文字の力を借りて「良い人間関係」が築こう

テラレムグループ 代表取締役社長 水谷 重夫さん

チャレンジと同じくらい大切にしてきたのが、人間関係です。たとえばラグビーを通じて仲良くなった友人たちは、今でもざっくばらんに語り合える大切な関係です。

会社員時代に一緒に仕事をしたメーカーの人達には、テラレムグループの社長に就任してからも、サポートをいただいています。かつてプロジェクトを一緒に取り組んだ縁から、当社へ出資をいただいたことも……。どれもこれまえの自分を取り巻く“人と人の関係”が連れてきてくれた幸運だと思っています。

人間関係を作ることが苦手だと思う人、口下手だから人付き合いが難しいと感じる人もいるでしょう。しかし、会話だけが人間関係構築の方法ではありません。お喋りではなく、手紙・メールやSNSなど文章をコミュニケーションツールとして、自分の思いを伝えることも大切です。ぜひ自分の得意な方法で人との仲を深めてほしいです。私も食事に行ったり飲みに行ったりした後には、すぐにメッセージを送っています。感謝の気持ちを伝えることで、人と距離を縮めることができると思っています。

新型コロナウイルス感染症流行の影響でリアルな人間関係を築くのが難しかった世代の皆さんは、本当に気の毒だと思います。だからこそ、ここから人と人との関係を大切に築いていってほしいのです。日々外に出て、日々出会って、つながりを深めていく。そうした営みがキャリアを豊かにしてくれるでしょう。

志を共有してワンチームへ。築いた人間関係こそかけがえのない財産となる

私は今テラレムグループの社長として、会社を率いていく立場にあります。そこで大切にしたいのは、3つのCとワンチームです。

3つのCは、「Change」「Challenge」「Collaboration」です

時代の変化に合わせ自分自身を変えて、失敗を恐れずに挑戦して、多くの人を巻き込み、その力を集めていく。この大きな流れを作り上げていきたいんです。そのためには、会社のミッションを練り上げ、ビジョンを共有し、パッションを生み出すことが必要です。そのための様々な試行錯誤を重ねています。

また、私は社員に対して日ごろからワンチームになることが必要であると伝えています。非常に優秀な人がいたとしても、1人でできることはそう多くありませんし自社だけでできることも限られています。多くの人や企業を巻き込み、力を合わせた方が、多彩で多様な解答を見つけられるはず。たとえうまくいかなったとしても、集った仲間の人間関係は残ります。そして得難い思い出だって残るでしょう。それこそがキャリアや人生でかけがえのないものになるのではないでしょうか。

これから社会に出る皆さんにも、人とかかわって思い出を残していってほしいですね。私は若手社員時代に、「学生時代遊んでないやつは遊べ、勉強してないやつは勉強しろ」と言われたものです。ラグビーしかしてこなかったから、社会人になって遊びも勉強も全力投球しました。これから素晴らしい仲間に囲まれて、挑戦を重ねて、貴重な体験ができる若者を羨ましく思います。

水谷さんが贈るキャリアの指針

取材・執筆:鈴木満優子

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