理想追求型のキャリアだっていい! オンリーワンの力を発揮できるフィールドを見つけよう

BALIISM Japan 代表取締役社長 イ グデ 長谷川 真之さん

BALIISM Japan 代表取締役社長 イ グデ 長谷川 真之さん

I Gede Masakyuki Hasegawa・日本大学芸術学部にて工業製品の設計・デザインを学び、PC周辺機器メーカー エレコムの商品開発部に新卒入社。商品の企画・マーケティング・プロダクトデザイン業務にかかわる。海外出張を重ねる度に英語力向上の必要性を感じて、同社を退職してバリ島での英語留学を開始。滞在2年目となる2015年に現地の環境負荷の少ない天然素材を活かしたインテリアブランド「BALIISM(バリイズム)」を現地で立ち上げ、その後法人化。製造した商品を日本でも使ってもらいたいと考え、翌年、輸入販売を目的としたBALIISMの日本法人も設立。以降現職。現在は持続可能なサステナブルな暮らしをテーマにした商品開発とブランドマネジメント、環境公演・セミナー・イベントを通じてバリ島の環境と調和したライフスタイルの魅力を発信している

この記事をシェアする

ほかの人と一緒だと目立たない! 本命企業には+αのアピールもあり

キャリアにおける最初のターニングポイントは、中学1年生の頃、人生で初めて海外暮らしを体験したことです。交換留学生としてオーストラリアへ出向き、ホームステイで滞在。たった10日間ほどでしたが、大きな刺激を受けましたね。

今思うとその時から海外に興味を持っていたことが、後に海外でビジネスに挑戦する原点になっていると思います。その後も大学の長期休みにワシントン州立大学の短期交換留学をしたり、韓国から入学した友人の故郷であるソウルに行って地元を案内してもらうなど、学生時代は何かと海外にいっていましたね。

学業では幼い頃から興味を持っていた工業製品の設計やデザインを専攻し、素材加工や商品企画、マーケティングといった商品開発の基礎をひととおり学びました。東日本大震災が起こった年に取り組んだ卒業制作では、雨水を溜めて非常時に使えるタンクを提案し、実際に模型も制作して展示しました。「サスティナブルなモノづくり」という観点は現在の事業ともリンクしています。

その後の就職活動では、興味のあるモノづくり関連の会社でデザイナーになろうと考え、PC周辺機器のメーカーであるエレコムを大本命として臨みました。Apple社やテスラ社のように自社工場を持たないファブレスメーカーであることを選択している点に、時代の先をいく先見性を見出したのが理由です。

エントリー時には「ほかの人と同じことをしていては、志望度や熱意が伝わらない」と考えました。

デザイナー職種は学校の課題だった制作物を提出するよう募集要項に書いてあったのですが、私はその作品集だけでなく「自分がエレコムに入ったら作りたい製品」のカタログを自主的に作ってセットで提出。SPIなどの入社試験対策はほとんどしませんでしたが、その資料によって熱意が伝わったようで、内定をいただける結果となりました。

本命度の高い志望先がある人は、こうした「+αのアピール」をしてみるのも1つの方法です。日本人は真面目な人が多いので「募集要項にない余計なことをしたら、悪目立ちしてしまうのではないか」などと不安になる人もいるかもしれませんが、意欲ある人材や尖った人材をもとめている会社であれば、内容次第で非常に有効なアピールになると思います。

すべての会社に通用する方法ではないでしょうが、ベンチャー企業や外資系企業などの場合、「ほかの人と同じことを避ける」という戦略は高い確率で有効に働くと思います。

長谷川さんからのメッセージ

なんでもチャレンジできる環境は、プレッシャーもあるが鍛えられる

私がエレコムに入社したのは、同社が上場する1年前。急激にいろいろな体制やルールを整えている時期で、ベンチャー企業のような色合いもあり手を挙げればなんでもチャレンジできる社風でした。

入社1年目のときに新しいジャンルの商品を作ってみたいことを上司と商品開発の部長に伝えたところ、実際に新しいプロジェクトが立ち上がり3名だけの小さなチームに配属されました。そこで、スマートフォンをキッチンで快適に使うためのアイテムブランドとして「ELECOOK(エレクック)」を起案。何度も海外出張をさせてくれて、工場のある中国現地法人の担当者と一緒に工場を回ったりしました。

プロダクトデザイナーとしてだけではなく、工場探しや生産工程表の作成、品質基準書の作成などあらゆる業務を経験させてもらったことが今の仕事にも活きていると思います。

海外工場との意思疎通に苦労したり、不良品が出るなど苦い思い出もありますが、若いうちにある程度難易度の高いことにチャレンジできる環境の方が短期間で成長できるかと思います。私は組織の中にいたものの、比較的自由に自分で考え実行する事ができる環境があったので、成長できたなという実感が日に日にありました。

将来自分でビジネスをやりたい人などは、何でもチャレンジさせてもらえる社風の会社に飛び込んでみるのも良い方法だと思います。

長谷川さんからのメッセージ

「お金=幸せ」ではない。バリ島での経験が人生の価値観を変えた

「ELECOOK」シリーズは2013年度のグッドデザイン賞を受賞し、会社からも多大なる評価や期待をいただきました。しかし、忙しさに追われるなかで次第に自分自身を見失ってしまったような感覚に。すぐにイライラしたり、ときには誰かに当たったりしてしまったこともあったように思います。

モヤモヤを抱えながら、社会人2年目の夏季休暇にバリ島で開催された英語の短期語学留学コースに参加したことが、キャリアにおける最大のターニングポイントになりました。

当時私は給与も安定していてボーナスも貰える環境だったので、大阪市内の小奇麗なマンションに住み貯金も増えていった状態だったのですが、何故だかそれと比例して幸福度も増えているわけではない感覚を感じました。

お金が増える=幸福度が上がるというわけでは無いのか? と疑問に思いながら、バリに行ってみると、なぜか皆ニコニコしていて、幸せそうに暮らしている。そんな姿が目に入ってきました

あくまで個人の感想ですが、「経済的には日本の人たちのほうが豊かなのに、幸福度指数はバリの人のほうが断然上だな」と感じ、なにやら惨めな気持ちになったことを今でも鮮明に覚えています。

語学学校の空き時間には、現地のモノづくりの現場も見て歩きました。バリ島は欧米を含め世界中から多くの人が訪れる場所という事もあり、SDGsが発表される前から、既にサスティナブルやエコといった価値観が浸透していて自分の感性にリンクするものを感じたことを覚えています。

長谷川さんのキャリアにおけるターニングポイント

帰国後は「日本から一度出てみようか」という思いがじわじわと強くなり、1年くらいして休職して留学をしようか、それとも思い切って退社しようか、といった選択肢を考えるように。

部長に、半年か1年くらい休業させてもらえないか?と提案した所、「お前はもっとすごいやつだと思っていたのに、なんか中途半端でカッコ悪いな。一旦退職して、また働く気になったら戻ってこい!」と言っていただき、その言葉に背中を押されて、思い切って退社して海外に出てみることにしました。

「2年で退社したら、次の転職に響くぞ」と引き止めてくださった方もいましたが、このままモヤモヤした中仕事を続けても後悔しそうな気もしたので退社することを決意しました

とはいえ、その時点では「現地に行って自分で起業する」という選択肢は一切頭にありませんでした。渡航後は生活費や学費を稼ぐため、現地でアルバイトも探したのですが、時給があまりに安く「これなら自分で何かビジネスをやったほうが良さそうだ」と感じるように。

このことが、起業のきっかけとなりました。

入社2年目の夏季休業を使って行った短期留学中に「ここでなら何かプロデュースできそうだな」という直感はありましたし、生き抜く手段としてではありますが、「どうせならモノを作って売りたい」とバリで起業することを選んだのです。

情報が溢れているからこそ「自分で取りに行く」ことが重要。まずは小さな一歩を踏み出そう

バリでの起業を決めてからは、まず自分で使うテーブルと椅子を作ってもらおうと現地の職人に依頼してみることに。もっと苦労するかなと思っていたのですが、案外簡単に作る事ができたのを覚えています。もちろん言語が違うというハードルはあるのですが、図面は世界共通なので単純な形状なものであれば、言葉で上手く伝えられなくても十分コミュニケーションが取れるのです。

またバリ島はハンドメイドが基本なので、少量からでも請け負ってくれる職人さんや工房が多くあり、大きな資本がなくてチャレンジを始めやすい環境でありました

もちろん、何もかもバリ島のほうが優れている、ということではありません。日本では納期通りに作ってもらえますが、バリ島では納期遅延することがしばしば……。できると言っていたのに結局できない、とあとから言われる事もありました。何度か痛い目も見つつ交渉術も鍛えられ、回数を重ねるごとに現地でのモノづくりするためのコツも掴むこともできました。

また海外でのビジネスを経験し感じたことは、日本人はものすごく「考える民族」だということでした。

考える能力が非常に高く、そこは大きな強みなのですが、考えすぎてしまったり失敗を恐れアクションに繋がるまでに時間がかかることは課題点だと思います。10のメリットがあっても、1のリスクがあるとやらない選択をするケースも少なくない印象です

従来は終身雇用の前提があったので、そんな感じでも経済が成り立っていたのかもしれません。しかし、現在は雇用を保証してくれない社会に変わり、今までのスタンスでは通用しなくなってきた。そのことが、今の社会全体の閉塞感につながっている気もします。

これからの時代を生き抜くために必要な2つの力

これからの時代を生き抜く人たちには、「やってみたいと思ったことは、とりあえずやってみる」という小さなアクションを起こす習慣を付けることをおすすめしたいです。週末限定の副業でも、YouTuberでも何でも良いと思います。給料の1割くらいを投資してチャレンジをしてみて、それがたとえ成果につながらなくても「飲み会5回分を使った」と考えれば、ひどく損をした気分にもならないのではないでしょうか。

また「情報戦に強くなること」も、これからの時代に必須の要素だと思います。

国内にいると気付きにくいですが、日本はものすごく仕組みが整っていて恵まれた良い国です。何か事業をやろうと思ったら、十分すぎるほどのツールと環境があり、手厚い補助制度やイベントなどの発信の場もあります。ただしそういった情報はなかなか表に出てこないので、自分から取りに行くことが必要です。

私自身も多くの失敗を経て「情報の取り方」が鍛えられてきた実感があります。洪水のようにあふれている情報のなかから、自分にとって必要な情報や有用な情報を拾い上げる力は、就職活動においても重要なスキルになると思います

想いや理想の実現は難しい。だからこそ、戦略的に「きれいごと」だけを追求する

BALIISM Japan 代表取締役社長 イ グデ 長谷川 真之さん

NPOやボランティアをやったことがある人ならわかると思いますが、ビジネスにおいて、理想と利益を両立させることは想像以上に難しいです。「社会に良いことを実現したい」と思っている人ほど、社会に出てギャップを感じるケースは少なくないと思います。

それでも、私は「きれいごとだけでビジネスをやっていこう」と決意しています。それが当社の戦略だからです。きれいごとだけを追求している会社は少ないので、そこで差異化でき存在感を発揮できると信じています。

「高い利益を出すためにどういう製品を作るべきか」「今より効率化させるためにはどういう方法で取るべきか」という事を重視していませんし、そういった議論も殆どしていないので、経営のプロから見れば、当社の経営方法は未熟に見えるかもしれません。

しかし、人と人の繋がりが大きな力になり、実際に成果につながっていることは体感できています。

モスバーガーやロクシタンなどの有名ブランドとコラボレーションができたり、広告費を積んでも出演できない国営放送で紹介いただけたりとチャンスをいただけているのも、利益よりもまず「人々に喜んでもらいたい」「あっと驚かせたい」という想いを大切にしているからこそ。また「そんな想いで会社を運営している人がいたよ」というお話が第三者へ伝わった結果、このような形になったのかと思います。

日本は良い国ですが、人口減少のフェーズに入って市場が縮小しているので、今の若い人たちは海外に飛び出してみたほうがチャンスは多いのではないかな、と思うこともしばしばありますね。日本の当たり前と世界の当たり前が違うことを自分の目で確かめるだけでも、いろいろなヒントを得られるはず。海外での不便さを体験したり、現地で当たり前のサービスを日本に持ってきたりするだけでも、ビジネスチャンスになる気がします。

できるだけニッチなところを選ぶと競合も少ないよ、ということも経験上アドバイスできる点です。検索エンジンで「バリ島 サスティナブル」というキーワードで生産しても、製造会社は当社くらいしかヒットしません。

オンリーワンの強みがあるからこそビジネスとして成り立っている自覚があるので、皆さんにも「オンリーワンの強みを出すためには、どう行動や選択をすれば良いのか」を考えながらキャリアを歩んでいくことをおすすめしたいです。

「オンリーワンの強み」にこだわろう!

オンリーワンにこだわるのは、デザイナーとしての誇りも関係しているかもしれません。どこかで見たことのあるものに似ていたり、誰かの真似事では一流のデザイナーだとは言えないため、流行り物に飛びついたり人の真似をしたりしないことはキャリアを通して心がけてきました。

こういうスタンスなので、何か新しい発見ができたとき、新しい視点で物事を捉えることができたときに最も充実感を感じます。今はとても幸福に暮らせているので、これ以上に望むものは特にありませんが「日々の暮らしの中で、誰かを笑わせることができたか、人を幸せにすることができたか」ということを意識し、毎日実践することがこれからの人生のビジョンです。

自分の強みを活かせる会社を探し、豊かな人生を送るための選択を

オンリーワンの観点からも、ファーストキャリアを選ぶ際には「今までコツコツやってきたこと、ほかに負けない強みを活かせる職種につける会社を探してみよう」とアドバイスしたいです。

どんなに知名度の高い会社でも、自分が取り組んできた方向性とかけ離れた職種に就いてしまうと、スタートラインで周囲との差が付いてしまう可能性が大きいでしょう。性格にもよるとは思いますが、「挫折感を味わいながら頑張る」のは精神的にしんどいのではないかなと思います。

そして最後に「今どのような行動や選択をすれば、より豊かな人生を送れるのか」という目線もぜひ持っておいてほしいですね

キャリアへの考え方は人それぞれ違うでしょうが、私としては「家族・友人 > 仕事」という生き方をおすすめしたいです。仕事だけでなく、家族・友人を大切にすると、なぜだか自分自身も幸せになります。今日が自分の最後の日だとしても「あれをやっておけば良かった、ここに行きたかったな」という後悔がない人生を送ってほしいですね。

世界に目を向ければ、目の前の生活のために、自分の仕事や職種を選ぶ余地なく暮らしている人が大勢います。そのことを忘れずにいれば、就職活動で悩んだとしても「就活ができていること自体、贅沢なことなのだな」と気づけるのではないでしょうか。今この瞬間まで自分を育ててくれた親にも、感謝の気持ちを伝えてほしいなと思います。

長谷川さんが贈るキャリアの指針

取材・執筆:外山ゆひら

この記事をシェアする