「攻め」と「守り」で築き上げたキャリア|自分の可能性は自分次第で広げられる
SOICO 代表取締役CEO 茅原淳一さん
Junichi Kayahara・1982年栃木県生まれ。慶応義塾大学卒業後、2006年より新日本有限責任監査法人(現:EY新日本有限責任監査法人)にて、監査業務に従事。その後、クレディ・スイス証券を経たのち、2012年にKLabに入社。経営企画という立場で資本業務提携やM&A、経営戦略の企画などの業務を担当しながら、海外の子会社の取締役などを歴任。2018年1月にSOICOを設立、代表取締役に就任。現在も公認会計士として活躍する
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キャリア選択の核は専門性の高さ。攻めるために「守り」を固めた若手時代
海外・国内問わず通用するスキルを身に付けたい。現在もこれまでも、これが私のキャリア選択の核となっています。
私が大学生で就活していた当時は、日本は不況真っただなかの就職氷河期でした。同じサークルの優秀な先輩が就活に苦労していたのを見て不安になり、今後仕事で汎用的に使える資格を持っておいたほうが良いと考えて公認会計士の資格取得を目指しました。特段高い志があったわけではなかったのですが、公認会計士の資格を取得すれば、監査法人だけでなく事業会社でも資格を活かして働くことができると考えたんですね。
ただ、大学のゼミ活動や就活をしながら資格の勉強をするのはかなり大変でした。これらを両立させるべきか迷いましたが、自分がこれから挑戦していくためにも、今は資格取得に専念しようと腹を括って取り組みました。その甲斐もあり無事資格を取得。今振り返ると、この資格が自分の「基礎」として、この後の私のキャリアを支える盤石な基盤になっていたと感じますね。
資格取得後は、公認会計士の取得者の大半が就職する監査法人に就職しました。「優れたスキルを持った人物になりたい」と思っていたので、企業選びの際はできるだけ早く経験を積める監査法人を意識して選びましたね。
そのなかで、当時クライアント数も多く、さまざまな経験を積めると聞いていたこともあり、新日本有限責任監査法人(現:EY新日本有限責任監査法人)に就職しました。ここでは専門性を高めたいという思いから、金融クライアントに特化した監査業務に積極的に取り組みました。入社から3年目くらいまでは監査の基本やクライアントとのコミュニケーションスキルなど、多くの知見を得られたと思っています。
しかし金融クライアントは規模が大きいため1社につき100人くらいの担当者がおり、監査業務の全体像を把握しにくいことに課題を感じるようになりました。また担当業務だけに絞るとルーティン業務になりやすいため、新しいスキルを身に付けにくい環境に思え、転職を意識し始めました。
金融系の監査業務は専門性が高い一方で、一般的な事業会社では活かしにくいニッチな領域でもあったため、このまま金融に特化した知見をためていくのか、もっと幅広い知見を身に付けられるような環境に移るのかを考えました。悩んだ末に幅広いスキルを身に付けたい思いが勝ったのと、この時期にM&Aに携わる機会があったこともあり、証券会社のクレディ・スイス証券へ転職することにしました。
今やりたいことに集中して挑戦。「攻め」の姿勢が頑強なキャリアを築いた
クレディ・スイス証券では入ってすぐにリーマンショックがあったことで、ひたすらM&Aの提案をするも案件が活発におこなわれない状態になっていました。そんなときに、当時盛り上がっていたネットサービスのプラットフォーム会社の人からお声をかけていただいて、その際に社内見学をしたところ、証券会社とはまた異なった活気のようなものを感じて「とてもおもしろい業界だ」と思ったのです。ただ、当時その会社も組織として成熟しており、私が入社しても証券会社の仕事とあまり変わらないように感じた部分もありました。「これから成長していくような会社で働きたい」と思っていたときに出会ったのが、KLabというモバイルゲームの会社でした。
KLabは当時かなり成長している会社だったのですが、まだ未整備なところも多くスピード感も求められる職場で、自分にすごくマッチしているよう感じられたんですね。ここでなら「攻め」の姿勢で仕事に取り組めると思いました。経営企画の立場で入社したのですが、実際、経営戦略を練ることや資本業務提携、M&Aの業務などさまざまな仕事を任されましたし、自分からも会社を成長させるために多くの提案をすることができました。日本のモバイルゲーム業界が海外への進出などいろいろとチャレンジしている時期でもあり、フィリピンや中国などの海外業務も含め多くの経験ができた、非常に有意義な時間だったことを覚えています。
それからしばらく経ち、KLabも成熟したことで自分自身も「守りの業務」をおこなうことが多くなりました。もちろん仕事は面白かったのですが、未整備な部分が整理されてきて挑戦的に業務に臨むことが少なくなった実感もあったのです。また、当時優秀な同期たちが続々と独立している状況を見て「自分も何か新しいチャレンジをしたい」という思いが沸々と湧いてきて、まずはKLabの社内起業制度に応募しました。しかし、出した案はなかなか通らず、それならばと思って自らSOICOを立ち上げたことが、いまに続く道の始まりです。
このように、今までそのときどきでやりたいと思ったことにチャレンジしてきました。最初に明確なビジョンがあったわけではありませんが、「自分のスキルを高めていきたい」という軸をぶらさず、転職した会社で経験を積んできました。今振り返ると、それが少しずつ積み重なって今の頑強なキャリアを築くことができたと感じますね。
ファーストキャリアで身に付けたスキルや力は、セカンドキャリアに活かされずとも、サードキャリア以降で役に立つこともあります。だからこそ、個人的にはファーストキャリアで2社目、3社目のことを考えるよりも、今の気持ちを優先して仕事を見極め、その会社で成果を出すことやスキルを身に付けることに注力するのが大事だと思いますね。
ただし、何も考えずに突っ走れば良いというわけではないとも思います。今に集中することや果敢にチャレンジすることができたのは、資格という「守り」を持っていたからこそです。もちろん資格そのものが役に立った場面は多くありますが、たとえ直接的に活かされなくても、自分のキャリアと精神を支えることに大きく貢献していると思っています。
頑張れる土台を確保するために「上りエスカレーター」に乗るのがベスト
仕事でチャレンジしたり成果を出すためには、自分のスキルや力を磨くだけでなく、仕事をする環境を味方につけることも重要です。それこそ、リーマンショック下の証券会社ではダイレクトに影響がありました。縮小傾向にある業界や企業に就職すると、担当できる案件がなくなり経験が積めなくなる、スキルが身に付かないため成果も出しにくい……というように負の連鎖が続いてしまうのです。自分がいくら頑張っても上がりづらくなってしまう、まさに「下りエスカレーター」の状態だといえるでしょう。
だからこそ、同じ頑張りでも「自分が頑張る」だけではなくて、「頑張れる環境」に身を置くことが大切になると思っています。それこそ、「上りエスカレーター」の業界や企業は、自分の頑張りがしっかり成果につながるだけではなく、入社してくる人も優秀な人が多く面白い案件もたくさん入ってきます。多くの仕事があるので大変なこともありますが、濃い経験を積むことができるでしょう。
このように、伸びている業界や企業を選ぶことが自分自身を守ることにつながり、ひいてはこれからしっかりと攻めるための盤石な土台となります。そして、こういった特徴を持つ企業は今の段階ではあまりメジャーになっていなかったり、特にBtoB企業であると表には出ないことも多いです。就活の際は、より広い視野を持って「隠れた優良企業」を見つけられるかが、自分の頑張りを最大化させるカギになるでしょう。
自分以外の目や耳も駆使して「隠れ優良企業」に手を伸ばそう
個人的に、隠れた優良企業を見極めるためには3つのポイントがあると思っています。それは「儲かっているか」「雇用を生み出しているか」「従業員が幸せそうに働いているか」です。
会社は儲かっていないと潰れてしまいます。それこそ、業界が縮小しているとやることが減って利益が確保しづらくなる、そして資本やリソースが減っていき、さらにやれることが少なくなる……という負の連鎖に陥ってしまうでしょう。またいくら儲かっている会社でも、経営者一人で回している会社やしっかりしたビジネスモデルがない会社は継続的に雇用を生み出せないため、会社を成長させることができません。従業員が幸せそうに働いていない会社も社員のモチベーションが低い場合が多いため、長くは続かないと思います。
ただ、3つのポイントを満たせていなくてもこれから伸びそうな会社はあります。特に今後成長が見込めるスタートアップ企業かどうかは経営者を見てみると良いでしょう。重要なのは口だけではなく行動がともなっているかどうかです。最初はなかなかすぐに結果に結びつかないことも多いため、どれだけ行動を積み重ねられるかが重要になります。日々行動して都度その進捗を世間に公開している会社は、誠実にビジネスに取り組んでいるといえるでしょう。
そして、このような優良企業はまだ表に出てないことも多いため、情報収集が必要です。判断材料を集めないままいくら自分の頭で考えても正しい答えに辿り着けません。有用な情報を集めるのは自分の力だけでは限界があるので、自分以外の人の目や耳も活用して、リアルで鮮度の高い情報を手に入れましょう。
具体的には、OB・OG訪問をして、先輩の雰囲気や自分が想像しきれないキャリア、仕事について聞くのがおすすめです。入社した後会社の社風や働くなかで受けた刺激などが要因となって、雰囲気ががらりと変わる人もいます。そういった点も含めて現場の人に話を聞くことで、「この会社で自分が働いたらどうなるのか」という、入社後の想定もしやすくなりますよ。
さらにいえば、志望度の高い会社であればそのままエントリーする可能性もありますよね。その際は、OB・OG訪問でできた縁があなたの就活をサポートしてくれるかもしれません。
その点でいえば、会社見学をすることも有効です。KLabに転職するきっかけとなったのも社内見学であり、業界の雰囲気や文化の違いがわかったことで、その業界の企業に転職してみようという気持ちになりました。業界や企業の求人票などからは読み取れない要素を自分で体感することで、自分に合う就職先を判断しやすくなるというのは、実際あると思います。
特に一番最初に入る会社は今後のキャリアにも大きく影響するので、情報をしっかりと集めて慎重に選んでくださいね。
現代に必要なベーススキルは「課題設定力」。ここから自分独自の力を身に付けよう
現代では人間の活動を補うものがどんどん出てきています。特にAI(人工知能)が発達してきて、人間をサポートする一方で人間の仕事がAIに代替されるケースも多くなってきていますよね。ただ、すべての仕事が代替されてしまうというわけではないと思います。その点でいえば、AIができないのは何らかの問題が発生したときに、何もない状態から自ら原因分析し、課題を設定することだといえるでしょう。
AIは人間が課題を与えたうえでその解決策を提示してくれるものです。課題解決はできても、自ら課題を設定したり発見することは難しい。だからこそ、課題設定する力が求められていて、ここに人間にしかない価値があると感じます。自分自身で原因分析して課題を設定し、さらに自走して解決に向かっていける人は強いですね。
たとえば、なかなか案件が決まらないという状況があったときに、原因分析できる人は重宝されます。行動量が足りないのか、説明する際のトークスピードがいけないのか、そもそも提案する顧客リストが間違っているのか、など自らの頭で考えて再度試して改善していける人は期待されるでしょう。
また、当社のインターン生を見ていると、私が就活していた頃に比べて総じてレベルが高いなと感じています。だからこそ、周りと差を付けていくためにはこのような基礎的な力は大事になりますし、期限を守ることや基本的なマナーを押さえることは重要になるのではないかと思いますね。
ただ、最終的に各企業が必要としているのは、自社に足りていない力を持った人材だと思います。いくら優秀でも企業が求めていない力であれば、不採用になることもあるでしょう。結局は企業との相性なので、落とされたとしても過度に気にする必要はないと思います。
反対に、あなた独自の力を必要としている会社は必ずあるので、「この企業とは合わなかったんだな」と考えて、新たな出会いを求めて就活を進めていってくださいね。
取材・執筆:平野佑樹