キャリアは逆算で切り拓け|仕事への没頭が未来の豊かさにつながる
アイユーコンサルティンググループ代表/税理士法人アイユーコンサルティング代表社員税理士 岩永 悠さん
Yu Iwanaga・1983年長崎県生まれ。西南学院大学経済学部卒。大学院修了後、2007年に中堅の税理士法人に入所。26歳の折、国内大手税理士法人に入職し福岡事務所設立に参画。2013年独立開業、2015年に岩永悠税理士事務所を改組して税理士法人アイユーコンサルティング設立。2019年よりグループ化に着手し、現在は7法人1事務所体制でグループを運営。2021年には仕事の傍ら、京都大学経営管理大学院に通い、上級経営会計専門家(EMBA)プログラムを修了
社長になる。その一心で「勉強する大学生活」を選んだ
キャリアにおける最初のターニングポイントは、小学校の文集に「社長になる」と書いたことです。事業を営んだ経験がある父親に幼い頃から「社長になれ」と言われ続け、意味もわからず自分はそうなるのだと思い込んでいました。父とは性格が似ていたので違和感なく受け入れられたのかなと思いますが、要するに「人の上に立てる人間になれよ」という指南だったと理解しています。
商業高校に進もうとしたときにも「社長になるんだから大学へ行け」と勧められ、高校生の頃は塾と部活漬けの日々を過ごしました。大学には無事受かりましたが、受験の反動で入学後はしばらく遊んでばかりの生活に。しかし1年生も終わりに近づいた頃、同じ学部の先輩たちが地方銀行に就職していく姿を見て「このままでは社長になれない」とハッとし、図書館にかけ込みました。
いろいろな職種の本を読んでみたところ、一番独立しやすくて年収も高いと紹介されていた税理士の資格を取ろう、とその場で決意。ここが2つ目のターニングポイントです。
そうして大学2年生で簿記2級を取得し、税理士資格を取るためのダブルスクールにも通い始めるのですが、当時はまだふわふわした状態でした。税理士資格を取るためには会計2科目と税法3科目の計5科目の合格が必要で、学生は2~3科目受験するのが一般的です。初めての試験では、仲の良い予備校のメンバーのなかで自分だけが2科目とも落ちたことにショックを受け、一念発起して勉強に本腰を入れるようになりました。
以降は連続で合格し、働きながら残りの科目の試験にチャレンジする道も考えましたが、自分の性格的に仕事との両立は無理だろうと思い、学位を取得することで特定の試験科目が免除となる科目免除制度が適用される大学院に進学。奨学金とアルバイトで生計を立てながら勉強を続け、大学院の卒業時には無事に税理士試験を終わらせることができました。
目標次第で正解は変わる。キャリアは「逆算」で導き出そう
ファーストキャリアでは、自分が積みたい経験から逆算して2つの観点を重視しました。「税務会計だけでなく、コンサルティングのサービスもやっていること」「小さすぎず大きすぎない事務所であること」です。
地元・福岡でそうした税理士法人を自力で探し出し、応募が出ていなくても直接メールを送って面談をしてもらいました。税理士試験をすでに終わらせている新卒は珍しいこともあってか歓迎してもらい、30名規模の中堅の税理士法人に入職できることになりました。
しかし3年ほど経つと一通りの仕事ができるようになり、少し仕事に飽きを感じるように。万能感に酔っていたといいますか、26歳で天狗になっていたのですね(笑)。
当初は30歳まで働いてから独立するつもりだったので、「その事務所であと2年働いて独立するか」「それまでに違うノウハウを身に付けられるところに転職するか」を考えていた最中に、後輩がタイミング良く大手の事務所から募集が出ていると教えてくれたのです。すぐに応募して「来年、福岡に事務所を立ち上げるのでそのタイミングで採用したい」と内定をもらいました。
その事務所は事業承継や株式交換・会社分割などの特殊な案件をたくさんやっていて、扱う案件の難易度もボリュームも圧倒的でした。プロフェッショナルかつ優秀な同僚ばかりで「自分は草野球のレベルで満足していたのだな」と実力のなさを痛感しましたね。高くなっていた天狗の鼻をすっかり折られました。福岡事務所の設立にも参画し、3年間必死でこなした仕事の絶対量が本物の自信に変わっていきました。
あとは「具体的にいつ独立するかを考えるだけ」という状況になり29歳の年度末に退所し、4月1日に独立開業を果たしました。幼少期からの目標をついにかなえたという点で、3つ目のターニングポイントと言えるかと思います。
キャリア選択は結局のところ「逆算」です。先々にどういう目標を持つかで、何がベストな選択なのかは人それぞれ変わってくると思います。「大手企業か中小企業か」という選択も、その観点でおこなうのがおすすめですね。
大手は組織が基本的に縦割りで、役割分担が明確になっているところが多いです。ジョブローテーションしているところもありますが、基本的には特定の領域を突き詰めやすい場所だと思います。「営業を極めたい」「経理のエキスパートになりたい」など、特定領域の専門家を目指すのであれば大手で働くのも一つの選択肢です。
一方「いろいろな仕事をやれる力を身に付けたい」と思うなら、中小企業のほうが幅広い業務を経験できるでしょう。私の場合は扱える案件の量や幅に限界を感じて途中で転職しましたが、将来独立を考えている人などは特に、大きすぎない会社のほうが得られるものは多いと思いますね。
人生はたった4000週間。自分にとって最良の残り時間を
税理士は知的ノウハウを提供する人的資本のサービス業なので、まずは「自分の価値を上げること」が大事です。私も20代のうちはそうしてきましたし、若手社員たちにも常々伝えていますが、トップになってからはそうした目線も、大変さの種類も、仕事の喜びも大きく変わりましたね。
以前は自分の能力を伸ばせることが一番の喜びでしたが、独立後すぐに2名のスタッフを雇用したこともあり、当初から売上に対する責任意識は一気に大きくなりました。今は組織のために働くという目線になっており、会社の売上を伸ばせたときや、良い人材を採用できたときにやりがいを感じます。
創業から4年が経ち、現在のグループ副代表である出川 裕基(でがわ ゆうき)氏が参画してくれたことが、法人設立後の一番大きなターニングポイントです。前職の後輩で彼自身も独立を考えていましたが、「岩永さんと一緒の船に乗ったほうがおもしろそう。一緒に事務所を大きくしましょう」と言って彼が入ってきてくれたおかげで、東京進出も果たすことができました。
80歳まで生きても人生は4000週間しかなく、20歳から60歳まで働くと仮定すれば、仕事に費やせるのは2000週間のみ。40代になった自分には、あと1000週間しかない。今はそんな気持ちで、「自分がいなくても成長していける組織をいかに創り上げるか」を考えながら動いています。
15年以上、実務寄りの世界に没頭してきたので、少し学説や理論などアカデミックなことも学び直してみようと思い、3年前には京都大学の大学院にも通ってみました。修了はしましたが、「やっぱり机上の理論を中堅・中小企業に活かすのは難しい。大企業向けだな」と改めて感じました。同時に、中堅・中小企業の実務は楽しいと思いましたね。
これは私が「他者を満足させられること」に喜びを感じるタイプだからかもしれません。税理士はお客様からお金をもらったうえで「ありがとう」を言ってもらえる、素晴らしい仕事です。人に対して満足や感動を与えることを目指すという点で、ホテルなどのサービス業とも似ている気がします。
相変わらずビジネスが楽しくて仕方ない状態ですが、今後のキャリアのビジョンは「53歳で税理士法人から退くこと」です。趣味人間でもないので、周りからは「仕事を辞めたら岩永さんは何もなくなるよ」と忠告されていますが、50代になったら今よりも若手を応援する側に回っていきたいですね。若者が何かに夢中になっているときのキラキラした姿を見るのが好きなので、スタートアップ支援などを通じて若者の成長の手助けができたらと思っています。
今のしんどさ=未来の豊かさ。自分磨きにつながる道を選ぼう
18歳の頃、独立の志とともに密かに決めていた目標があります。それは「35歳までに年収3千万円を稼ぐ税理士になる」ということです。年収1千万円だと大きな買い物は我慢が必要。2千万円なら少し考える必要がある。しかし3千万円なら我慢せずにどんなものでも買えると聞いたことがあったので、この額を目標にしました。
改めて今、大学生の皆さんにアドバイスできるのは、「お金を持ってから遊んだほうが断然、楽しいよ」ということです。時間に限りはありますが、好きな車も買えるし、海外にも自由に行けて、いくらでも豊かな人生経験を積むことができます。
学生の最大の財産は「若さ」と「時間」です。これを遊びに費やさず、自分の能力を高めることに使ってほしいですね。もちろん、ときには気晴らしも必要ですが、「今日はやるぞ!」という日を作って、メリハリを意識して行動することが大切です。学生のうちにしんどい道を選んだ人は、あとで必ず楽になります。
20代のうちは、お金がどうこうより、全力でのめり込むことができそうな好きなことを仕事にしてください。仕事にのめり込むことができれば、ノウハウが身に付いて活躍できるようになり、収入は必ず後からついてきます。最近は初任給の高い業界や会社が人気ですが、20代のうちの年収200〜300万円くらいの違いは、30代になればあっという間にひっくり返せます。20代は目先の利益にとらわれる暇があったら、とにかく自分を磨く! という意識でいてほしいですね。
お金はあくまで手段であり、目的と混同しないことが大切です。間違っても「本当はこっちの仕事に興味はあるけれど、初任給が高いから別の業界に行こう」なんて選択はしないこと。お金で人生を決めるのはナンセンスです。
私も3千万円を目標に設定してはいましたが、お金を追いかけて仕事をしてきたつもりはありません。私にとっての充実したキャリアの状態とは、「今日もやるぞ!」という気持ちで朝目覚めること。簡単そうで難しいことなので、毎朝この感覚を持てるならば、十分に充実したキャリアと言えると思います。
物質的な豊かさは心の豊かさに必要ですが、お金を貯め込んでも孤独になってしまう人はいます。お金は幸せに生きるための手段なので、普段から人付き合いにもオープンでいることを心掛けていますね。
良い企業かは「社員を尊重しているかどうか」で見極める
会社を選ぶ際には、できるだけ会社見学やインターンシップに参加して、「オフィスに清潔感があるか」「トップに社員を成長させようという気概があるか」「社員が楽しそうに働いているか」の3点を見てみてください。
オフィスがきれいなのは「良い職場にしよう」と思っている人がいる証です。また、社員を企業の“駒”だと思っているようなトップの下で働くのは、自分にとってプラスになりません。人間性をしっかり見てくれる、成長の機会を与えようとしてくれるなど、「こちらのことをちゃんと考えてくれているのだな」と思える企業を選ぶのがおすすめです。
そして「社員が楽しそうに働いているか」は、一番わかりやすい指標だと思います。1dayインターンではなく、1週間くらいのインターンシップに参加できるとベストですね。1日くらいなら見せかけの社風は作れるものですが(笑)、1週間後も社員たちが心から楽しそうに働いているならば、良い会社だと判断できます。
少子化の日本において、これからも確実に伸びていく業界に入りたいならば、「観光か、技術系か」ということになると思いますが、グローバルな市場に目を向けられる人は、ほかの業界でもいろいろな可能性を持てると思います。
観光産業の強さは、インバウンドの旅行客が押し寄せていることでもわかるとおり。技術力についても、すでに半導体工場などの設立が続々と始まっています。平均的に学力水準が高い人材を比較的安い賃金で雇える日本のような国はほかにないので、“アジアの工場化”していくことは間違いないでしょう。
一方で、国内の価値あるモノを世界に発信する力はまだまだ弱いので、海外進出のコンサルティングができる人や、海外に向けて発信できる人も活躍の場が増えていくように思います。
大切なのは職場で「光る」こと。守破離の精神で道を切り拓こう
最後に、キャリアを歩むうえでは、そのときどきで「今の自分は光っているだろうか?」ということを見つめ直してみることをおすすめします。自称ではなく、客観的に見て光っているかが重要です。
光っていることがわかる指標としては、社内でチャンスが回ってくる人間になれているかどうか。光っている人は、難しい仕事を任される機会が多くなるものです。
光っている人になりたいと思うなら、まずは光っている人(デキる人、成功している人)の真似をしましょう。日本の伝統芸能の修行の過程では「守破離(しゅはり)」という言葉がよく使われますが、これはまずは師の型を守って実践してみて、それからその型を打ち破り、独自の型を見つけていくことが大切、という教えです。
同じような仕事をしているのに、なぜあの人はうまくやれるのかをよく観察して、そして素直に認めて真似てみてください。「自分はこういう人間だから、こういう主義だから」といったこだわりを手放すことができれば、スランプは脱しやすいです。
また、優秀な人はとにかく考えることを大切にしています。自分の失敗だけでなく、周りの失敗でさえも「どうやればクリアできたのか」と次につながるアクションを考えているのです。そのようにあらゆることを自分事として考えられる人は総じて優秀な人が多く、どこででも活躍するでしょう。
独立できるくらいの力を持った優秀な社員たちに、いかにして「ここで働きたい」と思ってもらうかは、私の採用のテーマでもあります。そのために働く環境作りにもこだわっており、実際に離職率が非常に低いことも私の誇りです。今年の2月には、世界的調査機関Great Place to Work® Institute Japanが認定する「働きがいのある企業2024年版」で、初エントリーながら士業で唯一ベスト100にも選ばれました。
また、私が採用面接で聞いてみたいのは「学生時代にこんなことをやっていた」ということよりも「これからこうなっていきたい」という未来の話です。
過去の話は履歴書やエントリーシートを見ればわかる情報なので、端折って構いません。目と目を合わせて、自分の未来を語れる人にグッときます。これは私がプライベートも含め、誰とでも「腹を割って話したい」と思う性格だからかもしれません。オープンスタンスで良い仲間に巡り合えてきた自負があるので、そうである人と一緒に働いていきたいです。
絶対に受かりたい本命の会社を見つけたら、「私は入社して御社のここの部分を成長させます!」くらいの強いアピールをしてみましょう。そのためにも、ここぞという場面で自分の言葉で語れる力を、普段から意識して磨いておくと良いですね。若い人たちが社会のあちこちで光っている姿を見られることを、私も心から楽しみにしています。
取材・執筆:外山ゆひら