自分探しの期間を経て、活躍ができる場所が見つかることも|「目的」がわからなくても「目標」は定めて入社しよう

茨城県大同青果 専務取締役 鈴木 貴元さん

Takamoto Suzuki・2001年に大学卒業後、NECにシステムエンジニアとして入社。次のステップのため、2013年にアクセンチュアIT戦略グループに転職。その後、いくつかのベンチャー企業を渡り歩き、2015年にITコンサルタントとして独立。2017年10月より父親が代表取締役を務める茨城県大同青果に入社し、2022年より現職

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志望業界に入社できなかった1年目。仕事を任せ、導いてくれる上司との出会いがキャリアの土台を作った

仕事ができる人間になりたい。3年間は死ぬほど頑張ろう」「得意な数学・数字に関することでは、絶対に誰にも負けたくない」。1社目の新卒入社時には、そんな決心をしたことを覚えています。

大学卒業後は国内大手のIT企業に入りましたが、IT業界はもともと志望業界ではありませんでした。学生時代は数学科専攻で、「日本の数学教育を変えたい」という教育業界への想いを強く持っていました。

しかし最終面接でそうした想いを語ると、どの会社にも「文部科学省でおこなったほうがいいのでは?」と言われてしまい、教育業界の企業にはなぜか縁がありませんでした。

そこから別業界も見始め、内定をいただいた中で一番大きな会社だったのが、たまたまIT企業でしたそのような経緯だったにもかかわらず前向きに新人時代を過ごせたのは、良い上司に出会えたことが理由です。その方との出会いは、キャリアにおいて最初のターニングポイントだったと理解しています。

その上司は「うちの社員は1年目からリーダーにならなきゃいけないよ。責任ある立場を担う宿命だからね」と繰り返し言い聞かせてくれました。私はたまたま小規模なプロジェクトを担当し、プログラミングなども経験できていましたが、基本的には大規模プロジェクトでプロジェクト管理、上流工程を担う会社だったためです。

失敗をしても「失敗からしか学べないことがあるから」と寛容に受け止めてくれる方で、「失敗をしないということは、現状レベルの仕事しかしていないか、チャレンジをしていないかのどちらだ」などとも捉えられるようになりました。その方の手の平で踊らされていたような感覚もありますが(笑)、若手にもどんどん仕事を任せてくれましたし、しかも要所要所では仕事の考え方を丁寧に教えてくれる、そんな上司でした。

キャリアの中ではいくつかの企業を経験していますが、部下に任せてくれていないタイプの上司とはぶつかることが多かったので、その上司との相性が良かったのかな、と思っています。

企業選びは直感も重要! 自分が働いている姿を想像してみよう

思いがけず入ったIT企業でしたが、結果的に12年間、在籍しました。面接で人事担当者の方と話した際、「相性が良さそうだな」と感じた直観は間違っていなかったのだなと思えています。

キャリアを選ぶタイミングにおいて、「直感で自分との相性を判断する」という決め方は、ひとつの良い方法だと改めて感じています

実は就職活動のときに志望度がかなり高く、その後も何度か転職を試みた会社がありました。何度やっても面接を突破できなかったのですが、後に個人事業主になったとき、初めてその会社の方と一緒に仕事をすることになりました。

しかし協働したことで、「あの人たちと働いているイメージが湧かない。企業文化と合わなかったのだな」と心から納得できたのです。何か新しいことができそうな会社で魅力的ではあったのですが、そのときに初めて「行かなくて良かった」と思うことができました。

そのように思うのは、私が「誰と働くか」を重んじるタイプだからかもしれません。

学生時代、就職相談をしたシンクタンクの代表の方にも「鈴木さんは『何をするか』より『誰と働くか』を重視したほうがいいかもね」と言われたことを覚えています。そのときはピンと来なかったのですが、ここ数年でしみじみ「確かにそうだな」と思えています。

やりたいことにこだわる生き方ももちろんありますが、私と近しいタイプの方は、「自分と合わない魅力的な会社」に固執するよりも、相性や直感重視で就職活動をおこなってみるのは一案です。そこで人間的に相性の良い上司や同僚に出会えれば、仕事も前向きに頑張れると思います。

第1志望の会社に入れなくても、悲観する必要はまったくないです。ある時点で見れば「失敗した」と思っても、後から振り返ってみれば「失敗じゃなかった」ということは往々にしてあるものです

実際、私も第2志望の会社で良かったと思えていますし、1社目でITに関するスキルや知識を身に付けられたことが長らく役立っているので、「もし教育業界に行っていたら、潰しが効かなかったかもしれない」などと思うこともあります。

今の会社に入ってからもやっているITコンサルティングの仕事は、ITに関する教育とも言えますし、「マネジメントをしている部下の成長がやりがいになっている」ということも含めると、必ずしも教育業界に行かなくても教育にかかわることはできています。ぜひそんな風に柔軟に考えてみてください。

長いキャリアのなかでは「自分探しの期間」があってもいい

1社目を飛び出そうかと考え始めたのは、30歳を過ぎた頃です。大企業らしいゆったりした風土にフラストレーションを感じる場面が多くなり、「何か新しいことをやってみたい」という気持ちが芽生えてきていました。特に経営に興味を持ち、中小企業診断士の勉強をしたり、外部研修を受講してみたりと、次なる道を模索していました。

そうして、外資系のコンサルティング会社への転職を決意しかしこのチャレンジは相当に厳しく、2年弱で退社しています。仕事の内容も頭の使い方も今までと大きく異なる世界に、しかも管理職として入ったために、その環境に付いていけなかったのが理由です。この時期が、キャリアのなかで一番大きな壁にぶつかったタイミングといえるかもしれません。

この経験からアドバイスできるのは、「超えられない壁はいったん、逃げてよし」ということです

壁から逃げても、同じような壁が数年後に必ずやってくるからです。その間、目の前の仕事を一生懸命やっていれば、自分自身が成長し、次はその壁を乗り越えられるようになっている可能性が高いです。数年後には、壁だったものを壁とも思わなくなっているかもしれません。

仕事は「慣れ」の側面も強く、継続して取り組んでいれば、知らないうちにできるようになっていることはたくさんあるので、「目の前に現れた壁は今すぐ、絶対に乗り越えなくてはいけない」と気負う必要はないと思います。

ただ、今の自分になって振り返ってみると、「あのときもう1年踏ん張っておけば、違っていたかもしれない」と思うこともあります。

「石のうえにも3年」とはよく言ったもの。1社目のときは最初の3年間を必死で頑張ったことで仕事ができるようになり、結果が出ると「もう少しここで頑張ってみよう」と思うようになり、その繰り返しでステップアップを図ることができました。早々に辞めた立場だからこそ言えることですが、「3年間はとりあえず頑張ってみる」というのは、自分が活躍できる場所を探すうえでのひとつの目安になると思います

その後は中小企業向けのコンサルティング会やベンチャー企業など、3社を渡り歩きました。なかなか自分に合う場所を見つけられず、2015年には個人事業主となることを決意。この頃には祖父が創業し、父が経営していた茨城県大同青果を継ぐことも考え始めていました。

「親が基盤を築いた会社を継ぐ前に、自分で会社を作ってみよう」と決意したことは、キャリアにおける2つ目のターニングポイントといえるかと思います

結果的に、国内の大手企業、外資系企業、中小企業、ベンチャー企業、個人事業主とさまざまな場所を経験できたことになりますが、感想としては、「世の中には、本当にいろいろな世界があるな」ということでしょうか。

野球とひと口に言っても、大リーグやプロ野球、高校野球など、その世界ごとにいろいろなレベルや文化、価値観があるような感覚です。ずっと大企業にいたままだったらひとつの世界しか知らず、知らない世界に対する免疫は付いていなかったように思います。

そうしていろいろな場所を覗いてみることで、少しずつやりたいことや考え方が定まってきた実感もあるので、キャリアのなかでは「自分探しの旅に出る期間」があってもいいと思います。

ただし「何もかも完璧な条件の会社はない」ということは、心得ておく必要があります。仕事内容も年収も職場環境も組織体制も、何もかも理想どおりのところを探そうとすると、悪い辞め癖がついてしまうと思います。

「自分の仕事の手応えがダイレクトに感じられる」ことは中小企業で働く魅力

個人事業主として2年間、自分で売上を作る経験をしてみて実感したのは、年間売上100億円以上を出している父の会社のスゴさです。昔はその事実がまったく見えていなかったのですが、大企業の1部署くらいの売上基盤を作れており、それが簡単なことではないと真に理解することができました。

そうして5年ほど前に、正式に父の会社に入りました。東京から茨城に戻って来てしばらくは、ITリテラシーの違いに戸惑うことが多かったです。当たり前にできていたことができなくなり、「別の国に来たようだな」という感覚を覚えることもありました。

一方で、今まで当たり前にやっていたことをやるだけで、自然に業務改善やICT化推進になってしまうこともわかりました。自社でやっていると他社からも頼まれることが増え、3年前からは本業とは別に、ITコンサルタントとしての仕事も請け負うように。

社内に部門も立ち上げ、まだまだ始めたばかりですが、地方の中小企業の全体的なITレベルを底上げすることで、地域・業界の活性化につなげていければと考えています

ちなみに当社には県内出身者に加え、東京や沖縄県からも若手社員が集まってきてくれています。食品という生活に直結する商材を扱っていることもあり、「地方創生」「地域経済の活性化」「地域の生活インフラの維持」といったテーマに取り組みたい思いがあり、当社を「新しいことに取り組める、社会に貢献できる選択肢」として考えてくれる方が年々増えている印象です。

当社のような中小企業の良さは、自分の仕事のインパクトを感じられること。自分の頑張りがダイレクトに会社の売上に貢献できる手応えは、大企業ではなかなか味わえないものだと思います。

ひとりの社員がいてもいなくても大丈夫な状態」を作っているのが大企業なので、そういう環境では仕事の手応えを感じられなさそうだと思う人は、中小企業やベンチャー企業を検討してみるのがオススメです。

一方、大企業の良さは、仕組みや学べる環境が整っていること。あとは「何年先にどのくらいになれる」といったキャリアの目安が見えやすいことでしょうか。優秀な同僚や先輩もたくさんいるので、仕事のしかたをひととおり学ぶには良い場所だと思いますね。

私は大企業にいる頃から「他の人より、いろいろなことをやるのが好きみたいだな」という自覚はありましたが、外の世界に飛び出してみて、改めて自分のその資質に気づきました。

大企業にも千差万別だとは思いますが、私のように新しいことをやりたいタイプの人や、上昇志向が強い人にとっては、大企業の外の世界で働くこともおすすめですよ

仕事の「目的」が見つからないなら、まずは「目標」を掲げてみよう

自分に合ったキャリアを考えるうえで、「目標」と「目的」の違いを認識してみるといいかもしれません。

「その仕事を通じて、どんなことを実現したいのか、どんな価値を生み出したいのか」というのが目的で、「30歳で年収〇〇円を達成したい」「こんなスキルを身につけたい」といったことが目標です

学生時代のうちから、たとえば「ITやテクノロジーを通じて、地域活性化に貢献したい」といった働く目的がしっかり見えている人は、就職において、そのために必要なスキルを身に付ける会社を選んだり、自分で起業したり、といった選択肢を検討してみるべきだと思います。

ただ実際には、「目的」までは見つかっていない学生の方が大半だと思います。その場合はまず「目標」を立ててみて、それに合った会社を探していくといいと思います。「まずは3年間でこのスキルを身に付けよう」といった目標でもいいですし、もっとざっくりと「10年間で3つの会社を見て、自分に合う場所を探してみよう」といった目標でも構わないと思います。

目標を何も定めないまま入社してしまうと、「この場所にいていいのだろうか」と迷ったときの判断軸が持てなくなります

そういうときに「〇〇のためにこの会社に入ったんだよな」と自分に問い直すためにも、何かしらの目標は設定しておくのがおすすめです。そのように、自分の目標を明確にして、努力して精進していれば、そのうち必ず社会のなかで自分が活躍できる場所を見つけられると思います

最後にキャリアを歩んでいくなかでは、定期的に「自分の棚卸し」をやってみるといいと思います。

今の自分がどんな場所に居心地の良さを感じるか、どんなことにワクワクするのか、どんなときに嫌な気分になるかなど、しっかり把握しておく、ということです

私も30代前半、初めての転職を考えていたタイミングでは、この棚卸し作業をたくさんやりました。当社のインターンシップで採り入れたこともありますが、「過去を振り返って、自分史を作るワーク」などをやってみるのも一案です。自己理解を深めることは、自分にとっての最適なキャリアを考えるうえでとても重要なヒントになると思います

取材・執筆:外山ゆひら

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