チャンスが生まれる需給のギャップを見定めよう。「まずはやってみる」が可能性の扉を開く
スタジアム 取締役CFO 石川 兼さん
Ken Ishikawa・2003年大学卒業後アクセンチュアに入社。その後エムアウト、楽天にてそれぞれ新規事業の立ち上げに携わる。 クックパッドにて人事部長、管理部長を経てバイオテックベンチャーのヘリオスの創業期に入社。 同社の東証マザーズ上場を牽引。同社管理領域担当取締役などを歴任。2017年スタジアムに取締役として参画。管理体制構築、IPO準備、資金調達などを担当
やっていないことを否定しない。行動が「可能性」を開く
自分のキャリアを振り返ったうえで、「活躍してきたな」「綺麗なキャリアだな」とは思いません。地道に、目の前のことに取り組み続けてきただけです。
「事業をやりたい」という思いを抱えて環境を選んできましたが、結果としては、苦手意識を持っていた営業や、あまり興味のなかったバックオフィスの仕事に携わりながらキャリアを形成することになりました。
ただ、そういった意図していなかった道を歩んできたことが、今を形作ったのだと思います。
そうした自分の経験をもとに伝えたいのは、例え望んでいないことをすることになったとしても、「まずはやってみる」ということです。
まずやってみることで、意外と得意なことであると気づいたり、面白さを見出すことができたりもします。実際、今自分が得意だと思っているのはかつて苦手に感じていた営業です。
それに、やってみた結果「やっぱり苦手だな」「向いていないな」と感じたとしても、「本当に苦手なんだな」とわかること自体が1つのアウトプットなのではないかと思います。実際にやってみなければ、何もわからないまま。
就活生の皆さんには、「とにかくまずはやってみること」をぜひ心がけてみて欲しいなと思います。
「事業をやるのって面白い」で大手からベンチャーへ
キャリア選択で大切にしていたのは、「世の中にインパクトを与える仕事をしたい」という軸です。
これは学生時代から意識していて、大学を卒業した後は、広告という面からインパクトを与えられる、CMプランナーをファーストキャリアとして描いていました。
しかしいざ広告系の会社を訪ねてみると、自分の事ではなく親族の職業や大手企業とのコネクションの有無を聞かれることもありました。
今思うと会った方がたまたまそうだった、と思いますが、当時は若かったこともあり「こういう世界で生きていくのは自分には合わないかも」と感じて路線を変更。
自分の腕一本で勝負できるような、コンサルの仕事を目指すことにしました。
そして、コンサル系企業の中でも、ここは特に成長できそうな環境だなと感じたアクセンチュアを選んで入社をしました。
もちろんその分ハードワークでしたが、多くの経験をさせてもらいましたし、おかげでものすごい勢いで成長もできました。今でも大好きな会社ですね。
アクセンチュアでコンサルをやる傍ら、高校時代の友人から「NPO法人を立ち上げるため手伝ってほしい」と誘われたので、ボランティアという形で法人立ち上げの手伝いもしていました。
事業計画を作るなど、ありがたいことに、事業の根幹を練るところにもかかわりを持つことができました。
手伝っていたそのNPO法人の事業は、やがて世の中にそれなりに大きなインパクトを与えるまでに成長しました。
その姿を間接的にとはいえ目の当たりにした経験が「事業をやるのって面白いな」という思いを醸成することにつながり、その後は事業にかかわれる環境を求めてベンチャー企業であるエムアウトに転職をしました。
転職をしたことで給料は半分になりましたが、コンサル時代は自分の実力以上の給料を貰っているという何となくの違和感や、「このまま給料があがっていったらリスクを取れなくなるな」という懸念もあったので、特に気にはしませんでした。
「とにかくやってみる」という形での転職であったように思います。
ベンチャーから大手、大手からベンチャーへと渡り歩く
エムアウトは多くの新規事業を立ち上げるベンチャー企業です。ほとんどが市や区が運営する学童保育所を、民間で作るという事業がエムアウトの中で立ち上がっていたので、入社後はその民間学童保育の事業に携わっていました。
とはいえ、入社当初の社員数は4人。オフィスは住宅用マンションの小さな一室に収まるような規模だったので、トイレ掃除からビラ配り、システム構築、営業、店舗開発など、「なんでもやる」生活を3年程続けました。
入社して3年経つ頃には民間学童保育の事業は成長していて、事業自体がエムアウトから分社化していこうという方向性となり、東急電鉄グループにバイアウトすることがほぼ確定的になりました。
今も「東急キッズベースキャンプ」というブランドに名前を変えて続いています。
事業は続いていくものの、バイアウトすることで環境が変わることもあり、「ここが1つの区切りかな」と楽天に転職。
楽天を選んだのは、新規事業をやらせてもらえる話があったこと、そして、当時から事業をたくさんやっていた企業なので、さまざまな事業にかかわれて、大きく成長もできそうだなと感じたからです。
楽天は今でこそ物流に力を入れていますが、入社当時は主だった物流機能を持っておらず、その面でAmazonに大きく水を空けられようとしていました。
「このままではAmazonとの戦いが激しくなるぞ」「物流に力を入れていくぞ」というタイミングであったこと、そして、もともと事業をやらせて欲しい声を上げていたこともあり、物流事業の立ち上げに携わることになりました。
そうして楽天で忙しく働き続けて3年ほど経つ頃、かつてエムアウトで同僚だった間渕紀彦さん(現スタジアム 取締役)から、「クックパッドで一緒に働かないか」と誘っていただきました。
間渕さんは当時クックパッドで人事部長をされていましたが、正直なところ、自分としては事業をやりたくて転職をしていたのだから、人事には興味はない。
そこで、「新規事業をやらせてもらえるなら」という前提でクックパッドに転職をしました。
しかし、いざ入社をしてみると人事部への配属です。つまりは人事部長である間渕さんのもとで人事として働くことになりました。
「話が違うじゃないか」と思う反面、「まあそうだろうな」とも思っていたので、特に興味はない分野でありつつも、自身のキャリア初のバックオフィス専任者として働きはじめました。
入社して半年経つ頃、間渕さんの人事部長から事業部への異動に伴って人事部長の枠が空いたので、やらせてくださいと手を上げてからは、クックパッドの人事部長として3年ほど務めました。
ただ、忙しく働く中であっても「やっぱり事業をやりたいな」という想いはずっと抱えたままでしたので、やがて「事業をやらせてくれるところはないかな」と改めて探し始めるようになりました。
その中で、クックパッドの元CFOが、新たに立ち上がったばかりのヘリオスというバイオベンチャーに当時出入りしていたこともあり、「管理部門を立ち上げるので来ないか?」と声をかけて頂きました。
自分としては事業をやりたいので、バックオフィスにはあまり興味はなかったのですが、ヘリオスはiPS細胞の実用化による治療薬の開発に取り組んでいる会社。前例のない、世界初のことにかかわれることに興味があったので、バックオフィスとして入社しました。
とはいえ入社時のヘリオスはまだまだ創業期。文字通り会社作りから始まりました。そうして仕組みを整えつつIPOの準備を2年弱という急ピッチでおこない、IPO後の3年間は取締役として経営にかかわりました。
ただ、ヘリオスの分野であるバイオの世界は、高い専門性が問われる業界です。バイオ業界の中で大きくなり続けているヘリオスの経営に、バイオ関連の専門的な知識を持たないまま、取締役として重要な一票を持っていることへの違和感を感じ始めていました。
そのタイミングで、当時スタジアムで事業担当役員を務めていた間渕さんから「もう一度一緒に仕事をしよう」と誘っていただきました。
それまでにも2年くらい声をかけていただいて、時期的にいいかなと思ったタイミングでスタジアムに転職。入社後はこれまでの経験を活かして管理体制の構築やIPO準備、資金調達などを担当していました。
選択に悩みすぎず、選択した後から肯定していく
私自身はこれまではどちらかというと声をかけられたうえで、自分の中の整理がついた段階で転職をしてきましたが、元来、企業選びとはとても悩ましいものだと思います。
ましてや新卒の就職活動は期間が限られていますから、会える人も企業も数が限られているわけで、言ってしまえば、限られた中で意思決定をするしかない。
世界中の企業全てを比べて良い選択をする、という方法は取れません。なので、細かく拘り過ぎず、直感も信じて「これだ」と決めるしかないわけです。
ただ、決めた後で、「やっぱり違う企業が良かった」と思っても過去に戻ることはできません。選択をした後は、その選択をしたことの意義を見出して、「その選択が間違いでなかった」と後の行動で肯定していくことのほうが重要だと思います。
故に、正直なところ企業・仕事選びに関しては深く悩みすぎても仕方ありません。
それに、これだけ多様化が進み、変化が急激に起こる世の中なので、深く悩みすぎるよりも、あえてぼんやりとした方向性を持ちつつも、細かくこだわりすぎず、柔軟に選択肢を選び取る方が良いのではないかと思います。
石川さんの教える企業選びの考え方
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企業選びは限られた時間と数の中で意思決定をするしかない
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深く悩みすぎてもしょうがない。後から選択を肯定していくだけ
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ぼんやりとした方向性を持ちつつも、細かくこだわりすぎない
そして、大手とベンチャー、どちらも経験してきているからこそ思うのは、企業選択の軸としては、「大手だから安定して成長ができる」「ベンチャーだから急成長ができる」という限りではないということ。
「成長したい」という軸で考えれば、大手でもベンチャーでもどちらでも変わりはないと思います。ベンチャーで活躍している人は大手でも活躍できますからね。逆も然りです。
だからこそ、「年齢が近い人が多い環境が良い」「安定している環境が良い」「規模の大きな仕事がしたい」「早くから任せてもらえそうな環境が良い」など、自分の求めているものを明確にして、それをもとに探してみるのが良いと思います。
ただ、「嫌なことでもいとわずやる」というのは成長において大切な事ですが、そこから得られる学びが少なかったり、ただ搾取されるような環境(いわゆるブラック企業的な環境でしょうか)は避けるべきです。
キャリア選択の1つのアドバイスとしては、選択を迫られたときは、あえて難しい方を選ぶと良いと思います。困難な環境に身を置くことで、環境要因で自分が伸びていくので、結果的に成長しやすいからです。
難しい方を選べば当然しんどいですが、環境に追いつくために学ばざるを得ない。そうして追いつこうと踏ん張った経験自体が、自分の「伸びしろ」になります。
企業・業界選びの手掛かりとなる「需給のギャップ」
就職活動を始めていくうえでは業界や企業を絞っていくことになると思いますが、その際は「需給のギャップ」が1つの指針になるかと思います。
需給のギャップがある環境は多くのチャンスが転がっています。たとえば、ひと昔前の中国などは、「みんな車を欲しがっているのに、車が全然ない」というような事をはじめとして、さまざまな需給ギャップにあふれていました。裏を返せば、車の産業を作りにいける、市場に参入できる大きなチャンスですね。
つまりは、需給のギャップのある環境を選ぶことで、多くのビジネスチャンスと挑戦の機会を得ることができて、そしてその分成長もしやすいというわけです。
だからこそ、業界や企業選びの段階においては、「需給のギャップがあるか」をひとつのヒントにして欲しい。
そして、「需給のギャップがあるか」を見極める手掛かりは、「世の中のひずみ」に隠れていることが多いと思います。ひずみは課題とも言い換えられます。
たとえば、今の日本には少子高齢化問題がありますが、少子高齢化という社会の「ひずみ」に対して想像を膨らませてみれば、「それに伴ってどういった産業が伸びるのだろうか」「どういったニーズが増えていくのか」と予測を立てることができますよね。
その予測こそが、「需給のギャップがあるか」を見極める手掛かりになります。
「世の中のひずみ」を見つけるためには広く情報を集める必要がありますが、その場合メディアから得るだけでなく「人」から得るのも手っ取り早いのでお勧めです。
電気自動車の業界について知ろうと思ったら、まずはTwitterでイーロン・マスクをフォローするなどですね。情報は「人」に集まっています。
したがって、情報を集めるときは、知りたい情報のコアとなるような人を見つけてみてください。コアとなる人の発信する情報と、その人の周囲に集まる情報をキャッチすることが、今の時代に合った効率的な情報収集の手段だと思います。
自分に合った企業を探すカギは「体験してみること」
「自分に合った企業」を探すためには、まずは疑似的にでも体験してみることが良いと思います。たとえばゲーム業界に興味があるなら、自分でできる範囲で良いのでゲーム作りに挑戦してみて欲しい。
実際に体験してみれば、楽しさも、つらさもある程度理解できます。インターンなどで体験してみるのもいいですね。とにかく、自分の目と耳と手で、身体で体験してみてください。
自分でやってみるということが難しいのであれば、実際に企業で働いている人に会いに行って、中の人の話を聞いてみてください。そうやって情報を集めていくことで、自分に合う企業が見つかってくることもあると思います。
自分に合った企業を探したうえで、志望先を決めきれない場合は、「自分の大事にしたい要素」を3つほど絞り込んだうえで判断することをおすすめします。
「地方創生に貢献したい」「ワークライフバランスを大切にしたい」「海外に関わる仕事がしたい」など、人によって大事にしたい要素は違います。
その要素を自分なりに明確にして絞り込められれば、あとは会社とその要素が合致するかどうかで判断をするだけです。
自分の求めているものは何なのかを研ぎ澄ませて、判断の軸としてみてください。
「素直さ」と「謙虚さ」が「柔軟な対応力」を育てる
今後求められていく人材としても、変化が起こりそうな「ひずみ」があるところを、「人」から情報を集めて探せるような、「情報感度の高い人」の需要はますます高まっていくと思いますよ。
さらにいえば、次々と情報が入れ替わり、変化が急激に起きているこの現代では、変化に柔軟に対応できて、その変化を前向きに捉えられている人も今後求められていく。
石川さんの考える今後求められていく人物
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変化の予兆を人から情報を集めて探せるような「情報感度の高い人」
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素直さと謙虚さを併せ持つ「変化に柔軟に対応できる人」
変化に柔軟に対応できる人になるためには、「素直さ」と「謙虚さ」が欠かせません。いわゆる「その道の第一人者」に成れる人は非常に少ないですから、ほとんどの人が後追いです。だからこそ、常に学ぼうとする謙虚さが必要です。
とにかく謙虚に学び続け、素直に周囲の意見を受け入れることが柔軟性の獲得にもつながりますし、何より自分の成長にとっても大切です。
自分自身も、常にこの姿勢を忘れずにいたいなと思っています。
壁にぶつからない仕事やキャリアなど存在しない
就活生のみなさんはこれから社会に出て仕事をしていくわけですが、どこかで壁にぶつかることがあると思います。壁にぶつかったり、行き詰まりを感じない仕事やキャリアなどは存在しませんから。
私も、7~8年ほど悩み続けるような壁にぶつかったこともあります。それは、自分が「器用貧乏」だということ。これは長年悩んだ壁でもあり、トラウマのようにも感じていました。
対応力はあるので、若いうちは各所から必要とされて声がかかるし、それでいてアウトプットもすぐ出せるので、多くの場面で重宝されます。しかし、器用貧乏では専門的な知識を持っている人や、1つのことを極めている人には敵わない。
次第に「これでいいんだっけ」という思いを抱えるようになりました。この壁を乗り越えられたのは、5社目であるヘリオスで取締役を任されていたときです。
それまでは一従業員だった自分が経営者側に回ったということで、「覚悟をもって意思決定をする」という立場にこのとき始めて立ちました。
経営者という立場で多くの意思決定をしていくうちに、ただ高品質なアウトプットを素早く出せるだけでなく、意思をもって、仮に反対意見であってもはっきりと言えるようになりました。
その様子を見ていたのか、当時ヘリオスで監査役をされていた先輩から「石川君は優秀な執行者から意思のある経営者になったね」と言ってもらえました。その評価はとてもうれしかったですし、このとき「器用貧乏だった自分」から抜け出せたように感じたことを覚えています。
みんな同じくそれぞれの壁に必ずぶつかるので「悩んでいるのは自分だけではないんだ」と、まずは気を楽にしてほしいです。
仮に壁にぶつかったとしても、もしかしたら明日には超えられるかもしれません。逆に、私のように数年かかったり、もしくは超えられない可能性だってあります。
ただ、一度挑戦してみたうえで「この壁は超えられないんだ」とわかることも1つの成果です。「超えられないなら、違う方向にシフトしよう」「根本的にやり方を変えてみよう」と、対策を練ることができます。
壁にぶつかって、悩んで苦しんでいるときこそ、成長するチャンスです。まずは壁に向き合って、そのうえで困難を楽しんで欲しいなと思います。
最後に。何事も最終的に判断するのは自分です。判断材料を集めるために、人に聞いたり、情報を調べるのも大事ですが、結局決めるのは自分。だからこそ細かく拘り過ぎず、ときには自分の直感を信じてみるのも大切ですよ。
取材・執筆:小林駿平