不可能への挑戦と成功体験が一流を磨く|目標を実現させる“グリット力”を持とう
GA technologies(ジーエーテクノロジーズ) 取締役常務執行役員 樋口大さん
Dai Higuchi・1989年生まれ。東京都出身。幼い頃からサッカー選手を志し川崎フロンターレのジュニアユース、ユースチームに所属。青山学院大学でサッカーを続けるもプロ選手を諦め、卒業後は大手不動産デベロッパーに就職。その後、兄が立ち上げたGA technologies(ジーエーテクノロジーズ)に創業時から参画。2014年より現職
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サッカーの夢に挫折、一流ビジネスパーソンを目指す
自分にとって最初にして最大のターニングポイントは、サッカー選手の夢を諦めたことでした。一度目標を失ったからこそ、次の目標を見つけるため自分自身と真剣に向き合うことができました。そこからは一流のビジネスパーソンに憧れガムシャラに働き始めました。いま思えばサッカー選手に代わる夢が「一流ビジネスパーソン」とは、ずいぶん漠然とした目標ですよね。
仕事もしたことがない自分が「一流ビジネスパーソン」と意気込んでみても、実際のところビシッとスーツ姿を着こなしビジネス街を颯爽と歩くビジネスパーソンという程度のイメージでしかありませんでした。それでも覚悟は本気でしたし、意気込みは無尽蔵にありました。
中学1年から高校3年までの6年間、川崎フロンターレのジュニアユース、ユースチームに所属し、プロのサッカー選手を目指していました。自分で言うのも何ですがサッカーエリートだったと思います。18歳以下の日本代表にも呼ばれ、正直、プロ選手になれると信じていました。
トップチームに上がれなかったときには落ち込みましたが夢を捨てきれず、青山学院大学へ進学して体育会サッカー部に所属。しかし、卒業時にサッカーチームからのオファーはありませんでした。
いま思えば体育会と言えどもプロを目指す厳しさはなく、自分も環境に甘えた結果、サッカーが下手になっていました。一流だったはずの自分が五流くらいまで落ちていたと思います。人間が環境に流される弱い生き物であることもよくわかりました。
幼い頃から抱き続けた大きな夢を失い、夢にとどかなかった自分を心底思い知らされました。だからこそ同じ失敗は繰り返したくない。もう五流の人生だけは歩みたくない。その思いが次の夢へ向かう大きなパワーとなりました。
サッカーに打ち込んだことは決して無駄ではありませんでした。チームで目標を目指す喜びやチームワークの重要性はサッカーを通じて学びましたし、それらがビジネスにおいても重要であることを現在実感しているところです。
本気だからこそ、本気の説得に心動かされる
とにかく「一流のビジネスパーソンになりたい」という一念でしたから、就職先については業種も業界はもちろん、職種や待遇も一切関心がありませんでした。ただし自分が成長するため、一番厳しい環境に身を置きたいと考えていました。就活に励み証券会社と不動産デベロッパーの選択肢が残りましたが、役員面接で「一流を目指すならうちが理想的だし、うちはどこより厳しいよ」と言ってくれた不動産デベロッパーのオープンハウスを選びました。
会社で与えられたのは土地や建物を仕入れる仕事でした。つまり物件を探して一日中歩き回る仕事です。あるときは渋谷から二子玉川まで徒歩で往復したこともあります。そこまで全力を注げたのは、大学時代に全力でサッカーに向き合わなかった後悔があったからです。
周りに流され自分に甘え始めたら、どんどん落ちていく。そんな思いは二度としたくないから、目の前の現実に全力でぶつかり続ける覚悟がありました。だから不動産ビジネスに興味はなくても日々の仕事には全力で向き合えました。
やる気は満々でしたし成績も上がり、周りからの期待も感じ、この道で一流を目指す覚悟を固めかけていました。ところが当社を起業しようとしていた兄が私の人生に割り込んできました。とにかく事業を一緒にやろうと。毎月食事に誘われ説得されました。兄の計らいで同居することになった時期は、仕事から帰ると毎晩、夢を語られビジョンを説明され、一緒にやろうと。そうなると人は洗脳されるものですね。次第にその気になっていきました。
当時、兄が熱く語ったのは、世界のトップ企業を創るというビジョンでした。自分の兄ながら正直なところ「こいつは何を言っているんだ」と最初は思いました。まだ何も成していないのに、いきなり世界のトップ企業を目指すというのですから。しかし兄の熱い思いに触れ続けるうちに、それが本気の夢なのだと納得できました。一流を目指すため厳しい環境を求める自分にとっても、ゼロから創業して世界一の企業を創るなんて、これほど厳しい道はないと思えるようになりました。
20代の自分を磨く3つの心得
13年に創業したGA technologies(ジーエーテクノロジーズ)は社員5名でスタートしましたが、15年に売上高30億円、17年には約100億円と急成長していきました。私も最初の会社にいた頃と同様に仕事に全力を尽くしましたが、プライベートでは自分磨きも心掛けました。まだ 一流には程遠い自分を目標に近づけるには欠かせないと考えたからです。
まずは先人の知恵を学ぶため本を読みました。ビジネス関連の著作が中心ですが、目についた本は手あたり次第。もちろんビジネス経験の浅い自分が読んでも分からない内容も多くありましたが、それが現在の糧になっています。たとえば日本を代表する経営者である稲盛和夫さんの本は、読んだ当初は理解できない内容でしたが、ビジネス経験を積んだ現在はなるほどそうだったかと思う内容ばかりで、改めて感銘を受けています。
人にも会いました。人生のアドバイスを得たい思いだけで、一流経営者や著名な投資家などに直接、会いたいとコンタクトしました。どこの誰とも知れない若造の私でしたが、100人に声を掛けて2~3人は会ってくださいました。売上高数千億円という企業の経営者が会って下さったり、別の人物を紹介してくれる方もいました。ビジネスや経営との向き合い方を学ばせてもらいましたが、物事の捉え方、考え方、世の中との向き合い方など、より根本的な事柄も数多く学ばせてもらいました。
また結果が出ずに悩んだ時ほど、群れないことを心掛けました。結果が出ない時は弱い者同士がくっつき、群れて馴れ合うことになりがちです。そこに意味はなくプラスのエネルギーも生まれないからです。そういう時こそ、あえて真逆の考えを持つ人や、周りのせいにせず自分にしっかり向き合っている人と会うようにしました。
挑戦し続けられる環境こそやりがいにつながる
企業選びにアドバイスするなら、私自身は厳しい環境を求めて職場を選んで来ましたが、他にもいくつか指摘しておきたいことがあります。その一つは時代の波に乗る会社、これから大きな成長が望める会社を見つけてほしいということです。私は急成長を遂げている当社に在籍したおかげで、小さな会社が大きく育っていくのに伴って自分の世界が広がり、成長することもできたと実感しています。
もう一つは失敗を恐れない社風の会社を選べという点です。失敗を恐れて挑戦できない会社では発展できないし、社員も成長できません。高い目標を掲げてそれを達成するのは、挑戦しなければできないことです。また社員が挑戦できる環境を整えるのは会社の責任であり、それができる会社とできない会社とでは、将来性が大きく違ってくるはずです。
逆に採用する立場からアドバイスすれば、これは私だけの考えかも知れませんが、就職希望者のこれまでの人生が一番の関心事です。私は自己PRとか将来の夢とかはあまり重視していません。とにかく過去を知りたい。なぜなら過去の積み重ねがその人物の現在の人格を形成していると考えるからです。ですから面接では、仕事や将来への思いは聞きません。可能な限りプライベートな生活面についても尋ねます。
採用基準として「良い人であること」も求めます。どんなに地頭が良く、学歴やスキルに優れていても、良い人でなければ採用しません。一つ具体的に言えば感謝ができる人。感謝の思いを持てる人こそ、仲間を助けられるし、仲間が一緒に困難に立ち向かって行こうと思える人だからです。
いつの時代も求められるのはリーダー
将来を含めいつの時代にも求められるのはリーダーシップがある人材です。とくに日本のビジネスの世界はリーダー人材不足ですからなおさらです。自分の意見を持って組織を動かせる人材がいない。上から言われたことをまじめにこなすだけではAIに取って代わられ、DXの進展で活躍の場を失うでしょう。しかしリーダーシップを持った人材はテクノロジーが進化しても価値が落ちません。
リーダーとは経営者や経営トップだけを意味するわけではありませんし、リーダシップとはリーダーだけに求められる資質でもありません。組織を率いる人だけがリーダーなのではなく、組織のために考えられる人がリーダー。逆に言えば全員がリーダーの組織が理想的です。入社1カ月目だろうと1年目だろうと、自分の考えや意見があれば発言し組織のために行動することこそがリーダーシップです。
そういうリーダーシップを養うには、さまざまな経験を積むことが必要です。ですから、なるべく多くの経験ができる環境に自分を置くことを心掛けることが大切になります。
目標を実現させる“グリット力”を持て
これまでの自分のキャリアを振り返ると、充実したキャリアを築いていく上でいくつかの重要な事柄があると思います。その一つがグリット力を持つこと。目標はできた、計画も立てた。ただしそれだけでは何も成し遂げられません。そこで大切になるのがグリット力です。つまり継続して努力し続けられる力。自分がサッカーを上達できたのはグリット力によるもので、サッカーで夢を実現できなかったのもグリット力が足らなかったせいです。
もう一つは優れたリーダーシップとの出会いです。私の場合は現在のCEOである兄がそのリーダーです。先ほども言いましたが、最初は「この人は何を言っているんだろう」と理解できない面がありました。しかしそこに優れたリーダーシップがあったからこそ、創業からわずか8年目で売上高630億円という急成長を実現できました。
周りが到底無理だと考える目標を立てて、その目標をチーム全員が本気で目指すようにリーダーシップを発揮できるトップの存在が会社を飛躍させます。もちろん社員全員がリーダーシップを発揮できるかと言えば、もちろんそんなことはありません。それでも、社員一人ひとりが、それぞれの持ち場、責任の範囲でリーダーとしての自覚をもって仕事をすることが必要です。そうしたトップや仲間に恵まれてこそ、自分のキャリアの充実があるのだと思います。
これは企業もサッカーも同じですが、どんなに優れたメンバーがいても一人では何もできませんし、高い目標にも届きません。仲間と共にチームで取り組むから夢を実現できるし、一番の喜びと充実感を得ることができるのだと思います。
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取材・執筆:高岸洋行