できることが広がればやりたいことが見つかってくる|CANの拡大を意識して成長角度を高く持てる場所を探そう
令和トラベル 執行役員CHRO 田村 博司さん
Hiroshi Tamura・2007年リクルートに新卒入社後、一貫してリクルート及びリクルートホールディングスで人事領域に従事。採用責任者やグループ子会社の経営企画責任者などを歴任後、2020年6月に自身の人事コンサルティング会社を設立。2021年4月より令和トラベルにジョインし、現職
やりたいことが定まらない状態で入社! 自身の可能性を広げられる道を選択した
いずれやりたいことが見つかったときに、最もそれを成功させる力がつく会社に入ろう! ファーストキャリアではそんな決断の仕方もあるよ、ということを私自身の過去の経験からまずはお伝えしたいです。
学生時代は交通工学の研究をし、大学院にも進学。まちづくりや都市の研究は楽しかったですし、博士課程のお誘いもいただいていました。
ただ研究者となると一生その道に進むことになりますし、「自分がアウトプットとして創ったものが『社会の価値につながっている』と実感できる環境に身を置きたい」という気持ちが強く、実感できるまでにかなり時間を要する仕事であることがひっかかっていました。
商社やコンサルティング業界への就職も検討しましたが、同じような理由で決めきれずにいました。
ならばいっそ「今はやりたいことを明確に決めきれない」と割り切ってしまおう、と決めてリクルートに入社。ここがキャリアにおける最初のターニングポイントと言えるかと思います。入社時の面談でも「配属先はどこでもいい」と伝え、まずは人事部で採用業務などを幅広く経験しました。
入社5年目には行きたい部署に行ける制度を使って、プロダクトづくりの組織への異動も検討しました。しかしこの頃には人事の仕事の面白さを感じ始めており、部に残ることを決意。30歳前でしたが、「やりたいことが見え始めてきた」という点で、ここが2つ目のターニングポイントになります。
入社9年目になると「より経営に近い仕事がしてみたい」という思いが芽生えてきて、グループ子会社であるニジボックスに経営企画の責任者として着任。ここでの2年間で本格的に経営のことを学び、今につながる「人事×経営」の目線を磨くことができたという点で、3つ目のターニングポイントになります。
この間もリクルート本体の人事制度設計、中途採用、人事のデータドリブン化などのプロジェクトには参画しており、2018年にはリクルートホールディングス全体の新卒採用グループマネジャーを拝命。グループの新卒採用統合プロジェクトを推進する役目を任せていただきました。
私が考える人事の仕事の魅力は「人や組織を活用しながら、経営目線で会社に寄与できる」ことですが、学生時代の頃から、組織に貢献できる仕組みやシステムを創ることには興味があった気がします。就職活動中にも「全体最適(チームやシステムなどの組織全体が最適である状態のこと)を達成したいタイプ」という自己分析をしていました。
皆さんも今までの過去を振り返ってみると、「自分が充実を感じるポイント」を探し出せるかもしれません。「チームや組織を良い状態にすることにいかに貢献できるか」という目線は、そうした経験を通じて養われてきたように思います。
「他者への貢献がキャリアの充実感につながる」ということは、今に至るまで大きくは変わっていません。ただ満足できる貢献度合に関しては、できることが広がるなかで、どんどん広がってきている実感がありますね。より影響範囲が広くなり、「会社全体に貢献した」「社会の勝ちに貢献した」という手触り感をもとめる気持ちが年々強くなっている気がします。
まずは「MUST(やらなければならないこと)」に取り組み、それによって「CAN(できること)」が広がってくると、「WILL(やりたいこと)」が見つかる、というサイクルをリクルートで学びましたが、実際にこの繰り返しで今に至ってい気がしますね。
最初から強い「WILL(やりたいこと)」を持っている人もいるでしょうが、あまり強くこだわりすぎると「やりたくない」という気持ちを強く持ってしまうこともあり、有用なチャンスを失うことがあるので注意が必要です。
「WILL(やりたいこと)」が強くないという方は、まずはなんでも食わず嫌いせずやってみて「CAN(できること)」を増やすことに注力していれば、キャリアは自ずと開かれていくと思うので、 就職活動ではぜひこんな考え方も参考にしてみてください。
他者バイアスに影響を受けすぎず「自分で決める」を大切にしよう
長らく人事や採用領域に携わってきたので、累計で1万人くらいの学生さんとお話をしています。そのなかで全体的な傾向として感じているのは、「他者のバイアスに影響を受けている方が少なくない」ということです。
友達がこの会社が良いと言っていた、先輩社員がやりがいある会社だと教えてくれた、親が、先生がこう言っていたなどに強く引っ張られている方がいらっしゃると感じることがしばしばあります。
いずれにしても、n=1の情報(=サンプル数が1しかいない調査)に強く引っ張られて進路を決めてしまうのは、相当リスクが高いように思います。
人の好みがそれぞれ違うように、企業に対する印象も人それぞれ異なります。たとえばOB・OG訪問をした際、自分が所属する企業に対して、ポジティブな意見を言う先輩もいれば、ネガティブな意見を言う先輩もいるでしょう。
双方とも悪気なく自分の思っていることを述べているだけですが、そこには無意識のバイアスがかかってしまう。誰かの情報だけを盲信しすぎると、そのバイアスに気づかず、誤った判断をしてしまう可能性がある、ということです。
意見をもらうのは悪いことではないですが、盲信はせずに「Aさんはこういうタイプの人だから、そのように思うのかも? 」くらいに軽く聞いておくのがベストだと思いますね。
その上で、「最後は自分で判断する」ということをぜひ強く意識してみてください。自分で決めたという事実が、入社後に頑張っていくためのモチベーションになるはずです。
また「成長できる環境に行きたい」というのも、学生さんたちから非常によく聞く言葉です。その場合、成長には方向性と絶対値の2つがある、ということは前提として意識できるといいと思います。
一般的に自分の思い描く方向性に成長できると言われる環境にいても、本人にモチベーションがなければ、成長の絶対値は小さくなります。逆に、自分の思い描く方向性と少しズレていると感じる会社でも本人のモチベーションが高ければ、成長の絶対値が大きくなっているので、結果的に思い描くゴールにより近づいている可能性があります。
成長できる会社という評判があっても、誰にとっても成長できる会社とは限らない、ということです。本当に成長したいならば、他ならぬ自分自身が成長するために必要な要素があるところかどうか、を見極める必要があります。
そのためには、自分がどうありたいか、自分がどう生きたいかという部分まで見つめる必要があります。「私はこんな人生を送りたいから、この会社に行けば一番、成長できるはずだ」と思えるならば、その選択を正解と考えてOKです。仮にそれが就職以外の選択肢だとしても、まったく問題はないと思います。
漠然と「成長できる企業」という視点で探すのではなく、自分の成長の絶対値を大きくできる企業、という観点で検討してみるのがおすすめです。
ちなみにキャリア論の中で、キャリアの歩み方を「山のぼり」や「いかだ下り」に喩えることがあります。
山のぼりは、登りたい山(=挑戦したい業界や会社)を決めて、そこを一歩ずつ登っていくキャリア。一方、いかだ下りは、どこにたどり着くかはわからないけれども、流れに身を任せつつ精一杯漕いで進んでいくキャリアのイメージです。
現時点でやりたいことが明確に定まっていない人の場合は、後者のいかだ下りを選ぶのがベターかもしれません。さらに自分を成長させる覚悟があるならば、ベンチャー企業のような激流のなかに飛び込んでみるのも一案です。
川を下る過程で、いろいろなタイプの山(企業)を見られますし、激しい波に揉まれるなかで、自分の「CAN(できること)」も、勢いよく増えていくはずです。
過去の経験から学んだことをフレーム化すれば、「次」に活かせる
私自身は、いかだ下りのキャリアを選んだわけですが、その過程のなかで「大きな岩(壁)にぶつかった」と感じたタイミングが2度ほどあります。
一度目は、初めてマネジメントを担った時期です。自分より年次が上のメンバーも多く「マネージャーとして、チームにどう貢献すればいいか」を模索するなかで、振り返ってみるとついついマイクロマネジメント(部下の仕事を逐一チェックし、細かく指示を出す過干渉のマネジメント)をしてしまい、メンバーのポテンシャルを最大化できていない状況を作ってしまいました。
幸い良いメンバーに恵まれて「みんなで良いチームを作ろうよ」というありがたいフィードバックをいただき、以降は、ちゃんと周囲に聞き、頼り、教えを乞おう、という姿勢を意識するようになりました。
頑なにならずに周りの意見を受け止める、という姿勢は今でもずっと大切にしていますね。採用の面接にも、学生さんから教わろう、という思いで臨んでいます。
私はもともと話すより聞くほうが得意な性格ですが、当時は「マネージャーとして成果をあげなければ」という気持ちに囚われ、無意識のうちに自分だけの思い込みや価値観、信念(パラダイム)にすがろうとしていたのだと思います。
ですが、みんなでやっていこうという思いを持てるようになってからは肩の力が抜け、自分の価値観は組織のなかでのひとつの強み(個性)である、と理解できるようになったように感じます。併せて、「自責」と「他責」をきちんと分析して切り分け、すべてを「自責」で捉えるわけでも「他責」で捉えるわけでもなく、適切に受け止めようということも意識するようになりました。
人の成長を促進する思考パターンのひとつとして「グロース・マインドセット(しなやかなマインドセット)」が重要だと言われます。
やればできるという気持ちをもつためにも、できたこととできなかったことを分けて捉えることで、変化できるポイントを言語化し、次に活かす。そのような、自分の価値観だけにとらわれない思考を得られたこの経験は、私にとってのパラダイムシフト(思い込みの変化)になりました。
次に大きな岩(壁)にぶつかったと感じたのは、初めて経営畑に飛び込んだタイミングです。それまでとは違う手腕や力量を発揮しなければならない立場になり、「経験豊富なメンバーに学ぶ」「過去の経験から抽象化してフィードバックする」そして「めちゃくちゃ頑張る」という3点を意識して取り組みました。
この時期はそれなりに大変でしたが、一方で「ある程度、経験が積み上がってくると、新しい部署に行っても1から10まで学ぶ、という感じにはならないのだな」ということにも気づきました。
それまで経験してきた、意思決定のプロセスや課題の捉え方には、仕事の内容が変わっても共通点があり、その蓄積はしっかり活かしつつ、新しく必要な知識は専門家に聞いてインプットしていくやり方が最善だと考えました。
スキルというより、概念を当てはめて活かすということになるかと思いますが、この観点で言えば、学生時代の経験も仕事に活かすことができると思います。
たとえば、テニスサークルで「チームのモチベーションが上がらない」という状況があったとき。課題を明確にし、仮説を立て、一人ひとりと面談をする、練習メニューを変えるなどの有効だと思う改善案を試してみる。いろいろな打ち手を実行してみて、効果を検証しながら最適な対応策を見出していき、最終的に全国優勝という目標を達成できたとなれば、そのプロセス自体はビジネスでも応用が効く、ということです。
無論、課題のタイプは異なるでしょうし、ビジネスではかなり深く課題を捉えていかなければならないことも多いので、「HOW(どうやるか)」の部分は大きく変わってくると思います。それでも、それまでの経験で培った概念やフレームは活かせるのは確かなので、経験していないからできない、新人だから何もわからない、と思い込む必要はありません。
最近は、時代や環境の変化に適応するには「アンラーニング(学習棄却)」をすることも重要だと言われていますが、「アンラーニングしつつフレームは活かす」という感覚で、キャリアを積み上げていくのがベストではないかな、と私自身は理解しています。
令和を代表する強い組織を作り「新しい旅行の価値」を提供したい
最後に、私自身のキャリアと当社についてのお話をさせてください。2020年には人事コンサルティングの会社を立ち上げて独立。一部上場企業からベンチャー企業まで、さまざまな会社の採用支援に関わらせてもらいました。
翌年にはリクルートの同期社員だった篠塚孝哉が立ち上げた令和トラベルに創業期からジョイン。自社の経営は順調でしたが、代表のやりたいことに共感でき、かつ「自分が起業した際に実現したかったことにチャレンジできる」と判断できたことが理由です。
そうして現在は「海外旅行マーケットを変革し、カスタマーに価値を届ける」ことを目指し、人事領域を担いながら組織全体として成長するためのさまざまな業務を手がけています。MUSTは山ほどありますが、それすらもWILLの中に内包されており、やらされている感覚は一切ありません。ひたすらやるのみ! といった感覚ですね(笑)。
スタートアップ2年目の企業なので、まさに激流のなかで、手作りで価値を提供しようと動いている最中です。デジタルを存分に活用し、一人ひとりのカスタマーに対してさまざまな「あたらしい旅行体験」を提供していきたい、というのが当社のビジョン。この会社を通じて社会にどんどん社会に価値を提供していくこと、そして令和を代表するような強い組織を作ることが、今後のキャリアで私がチャレンジしたいことです。
2022年4月にはスマートに海外旅行を予約できるアプリ「NEWT」をローンチし、予約も開始しました。ありがたいことにお問い合わせを多数いただいており、海外旅行マーケットも徐々に動き出している手応えを得ています。
人事としては、多様な働き方を支える体制づくりにも注力しています。インターンシップ(インターン)の学生さんもプロパートナーさん(業務委託の皆さん)も、誰でもが等しくチャンスを取れるような社内体制を作っています。
この7月からは、初めての新卒採用もスタートさせています。既卒も学歴も一切不問。副業や転職もアリの時代、「正社員の方だけを採用したい」といった境界線をこちらから引くつもりはありません。
コミットしてくださる量はある程度重視しますが、「やってみたいけど、働き方には制限があってやれない」という人を取りこぼすのは、会社にとって損だと考えています。「コロナ禍の就職で、行きたかった旅行業界を諦めた」という方にも、注目いただければ嬉しく思います。
「素敵な才能を持った方とは働き方を問わず、協働したい」というスタンスなので、やりたいことが複数あり、パラレルキャリアを希望される方も大歓迎。頭のスイッチを入れ替えたり複数の分野を学習したりと、大変なこともあるかもしれませんが選択肢を選べる時代を楽しんでいることは、とても素晴らしいと私は思います。
今は情報量も選択の幅も昔とは比べ物にならないので、「どれかひとつのキャリアを選ぶ」ということは、昔よりも大変になっている気もします。それでも、学生の皆さんには「いろいろな未来の可能性を持てる、ということだ! 」と前向きに捉えてほしいですね。
自分で選べる豊かさがどんどん広がっている時代だと理解し、働かなきゃ! ではなく、「せっかく選択肢があるんだから、どういうふうにキャリアを歩んでいこうかな」とワクワクしながら道を選んでいってほしいです。
そのためにも、上述したような「過去に縛られすぎずに柔軟に吸収して学ぼうという意識を持つこと」や「自分で決めるという姿勢」が、とても重要になってくる気がします。
取材・執筆:外山ゆひら