失敗から築いた価値観こそが武器になる|人生の全体像を見据えた仕事選びをしよう
グローイング・トゥリーズ 代表取締役 柾木 史子さん
masaki fumiko・1970年、東京都出身。Manhattanville College(マンハッタンビル・カレッジ)を卒業後、新卒就活が終了していたこともあり、フリーランスのリポーターとして活躍する。その後、日本の英語教育に疑問を持っていた背景から、出産後に知的バイリンガルの育成を目的とした英語幼児園Learning Tree(ラーニング・トゥリー)を開設。現在は2歳児から小学6年生までのLearning Tree International School(ラーニング・トゥリー・インターナショナルスクール)の校長を務める
企業詳細:コーポレートサイト
好奇心の大切さを知ったことがキャリアに影響している
学生時代、高校受験に失敗してしまい、入学した高校で何がしたいのか分からなくなっていました。ただ後から振り返ると、英語が好きだったり、いろんな人に会うことに興味があったりなど結果的にこの時間を通して自分の興味を見つめ直す時間になったと思います。
私が経営するグローイング・トゥリーズでは、国際社会に貢献できるような人材を育てる事業をおこなっています。
高校生の頃から起業しようと考えていたわけではありませんが、今後は英語を話さないといけないだろうという考えがあり、アメリカの高校に留学することを決意しました。留学したことで、日本の英語教育の問題点に気づけたことも将来的なキャリアの選択に一役買いました。
受験に失敗したことで、私自身は何も変わっていないのに「第一志望に落ちたんだ」と周りからの評価が下がりました。それに直面して、日本は学歴社会であることをひしひしと感じました。このままレールに乗っていき、偏差値の高いという基準だけで大学を目指すことに疑問が生じた瞬間でもありましたね。
偏差値社会は他人との比較によって成り立ち、その基準で達成しようと思うことは、本当には人を幸せにはしません。これは教育心理学でいうところのパフォーマンス目標で、勉強をして偏差値を上げるといったような、人と比較しての結果を目標にしてしまうと、長期的にはウェルビーイング(身体的・精神的・社会的に良好な状態にあることを意味する概念)が下がってしまうという研究結果も出ています。
それからはビジョンや目的の実現に向けて自分自身を伸ばすマスタリー目標に重きを置くようになりました。自分の興味で動くことの大切さを知ったのは、この失敗経験が大きいです。
6年間の留学経験を経て日本に帰ってくると新卒就活の時期が終了していたので、就職するタイミングを逃してしまいました。そんな状況もあり、まずは「いろんな人に会いたい」「さまざまな場所に行きたい」という好奇心に任せ、語学力を活かせるフリーランスのレポーター業をしていました。
キャリアの大きなきっかけは夫と知り合い、それまでの価値観を壊すことができたこと。起業家の父に昔から「サラリーマンではなく事業家と結婚しなさい」と言われていたこともあり、当時会社員だった夫と結婚することにすごく葛藤したんです。それでもそれまでの自分の価値観を壊し、心の美しい夫と結婚しました。結婚後は生活がガラリと変わり、子どもが生まれましたが生活が苦しく、初めてお金の大切さを身をもって知りました。
ただそのときに「男の人に仕事やお金の在り方をもとめるのではなく、自分でやればいいんだ!」「父のように1から会社を起こそう!」と気づいたんです。
留学時代に日本の英語教育の欠点を痛感したため、自分の子どもを育てる時は幼児期から英語を教えることが大切だと思っていました。また、労働集約型のリポーターでは私が描いているキャリアは実現できないことや、子育てによって英語教育事業という情熱を傾けられるものに気づき、起業することに迷いがなくなりました。
ファーストキャリアは給料より好奇心を揺さぶる仕事に就こう
新卒生をはじめとした若者に伝えたいことは「興味があることには何でもチャレンジした方が良い」ということです。
最初は気軽に興味があることに挑戦してみるのが良いと思います。ただ、将来的には専門性とスキルを身につけて、自分ならではの価値を提供できるようにならないとお金のリターンも少ないため、30代前半には一つの道に定め専門性を身につけられるようにしてください。
就業時間や給与だけで仕事を決めると、受け身の仕事になってしまいます。自分が輝いて生き生きと仕事をするには、ファーストキャリアでは損得だけを考えずに、自分が学びたいと思えることがあり、今後の自分の専門性につながりそうな企業の門を叩くことが大切です。
興味があることを選んだなら、目の前のことに文句を言わずに向き合ってみましょう。入社後のギャップが合っても頑張っていれば、自分の得意分野や本当に興味があることにも気づけるかもしれません。
斜に構えた態度では気づきもありません。将来的には転職してもいいので、まずは素直に人の話を聞き、がむしゃらに仕事をしてみてください。それが理想のキャリアを見つけることに役立つと思います。
時間で自分を売る感覚は捨てた方が良い
これからは「自分で考えて自律的に仕事ができる人」が重宝される時代がきます。
たとえば、私たちのいる教育現場でも、今はデジタル化が進んでおり、システムを作っていかないといけません。現場に一番合ったシステムは外から買ってくるのではなく、現場の人がカスタマイズするのがベストです。そんな時に難しいからとシャットダウンせずに、講座を受けるなど自己研鑽を積んで成長する姿勢のある社員が感謝され、評価されています。
実際、私自身も仕事をしながら大学院に通い、もうすぐ教育心理学の博士号を取得予定です。その知識を使って、教育現場はもちろん、保護者様にご家庭でも子育てを自然に任せるものではなく意識的におこなう大切な行為として、学問的な知見を日常の子育ての場面に取り入れてほしいと啓発活動をしています。また自分自身が成長していないと会社の成長も止まってしまうため、自分も勉強して新しい知見を会社に持ちこんでいるんです。だから、スタッフにも学び続けることを推奨しています。
違和感や問題を感じたとき、どうリアクションするかがその人の人生の分岐点だと思います。もし自分の人生を豊かにしたいのであれば、「この会社にはこれがない」「無駄な時間が多い」と会社に不満を言うのではなく、「もっとこうした方が効率が良いのでは? 」と提案をして、それをできるところから実行してみるべきです。自分で作っている感覚があり、自律性がある人ならそれができます。
定時までとりあえず働いてお金をもらいたいという意識では自律性は生まれません。会社と結婚したつもりで、業務をできるだけ自分ごと化してみる。
そうすれば、自分の100%の力が出せて、もっと仕事を任せてもらえたり、給料も上がったりします。自分ができるようになってきたというコンピテンスを感じるようになる。そんな好循環を回すためにも自律性は重要になります。
今の時代は積極的に育児に参加する男性も増えており、仕事と子育てを両立する難易度は昔よりは下がっています。しかしライフイベントにより、キャリアが途絶えてしまう場合も多いと聞きます。
そこで特に出産を考えている女性は、ライフイベントをキャリアの中に組み込んでしまうのもアリだと思っています。たとえば、結婚や出産後に復職したいと思った際にも企業の戦力になるスキルが必要です。貢献できなければ良い条件で雇ってもらえません。
子どもがいて働ける時間が少ないなら、長時間働ける独身の人に負けない有用性を見せることが肝になります。自分の強みは何か、結婚や出産後に復職する時にどう活かすことができるのかといった視点も考えて就職できると、とくに女性のキャリアはすごく広がります。
ライフイベントを言い訳しないような思考に切り替える
妊娠や出産を大きな出来事として捉えてしまうと、ライフイベントがあるから仕事ができないという思い込みが生まれてしまうこともあります。実際、自社ではベビールームといういつでも授乳できる部屋があり、出産や子育てが日常の一部になっています。
「子育てがあるから仕事ができない」を言い訳せず、むしろチャンスだと考える思考に切り替えてみましょう。出産は体力的には大変ですが、この子のために頑張ろうと思う原動力をもらえて、相乗効果になることもありますよ。
今は子どもを産むことをプラスに思ってくれる会社はたくさんあると思うので、自分のキャリアを長い目で見て、働きやすい会社を選んでみてください。
取材・執筆 丹治健太