最初からキャリアを描き切る必要はない|「自分が何に燃える人間なのか」を掘り下げてみよう
HITOTOWA(ヒトトワ) 執行役員 津村 翔士さん
Shoji Tsumura・2008年にリクルートに入社。中小企業向けの新卒・中途採用支援、派遣会社の集客支援営業に従事。2015年から営業マネージャーを務めたのち、2017年にリクルートを退社。2017年にHITOTOWAに入社。ソーシャルフットボール事業を推進。2018年9月より現職
国際交流を通じて「人が持つ力」を目の当たりにし、人材業界を目指すように
私のファーストキャリアは、人材業界の会社です。この業界を選んだのは、学生時代の経験によるところが大きいです。
大学での4年間、学業もそこそこに多くの時間を費やしたのが、海外インターンシップ(インターン)の運営を主幹事業とするNPO(非営利組織)法人での活動でした。
所属した当初は「高校時代までひと筋だったサッカー以外の何かにチャレンジしたい」という程度の軽い動機でした。しかし、平和な社会の実現をビジョンに掲げるグローバルな学生団体だったこともあり、「社会的に良いことをやっていきたい」という志を持つようになりました。
今の事業にもつながる価値観を得たという点で、ここがキャリアにおける最初のターニングポイントだったと認識しています。
NPOでは、海外の学生を日本の企業に紹介する役割、日本の学生を海外のNPOやNGOに紹介し送り出す役割があり、後者の活動をしていました。その時、「自分が学生を送り出すだけでなく、自分でもちゃんとインターンシップに参加し、経験したい」と思い、大学4年生には1年間休学をし、自分自身も参加者としてインドのNPO法人に参加。日本を飛び出して異なる価値観に触れた経験は、2つ目のターニングポイントになりました。
「人ってすごい」と、人が持つ力や奥深さに気づくことができたからです。
現地では障がいや貧困の課題を持つ子どもたちが通う養護学校の運営および授業のサポートを担っていたのですが、子どもも大人も本当にたくましいのです。大変そうな境遇に見える人でも、自分より元気だったり、自分のほうが元気をもらったりして、「経済的な豊かさとは違う豊かさが、ここにはある」と感じました。
「日本にはうまくいかないことを“環境”のせいにする風潮があるけれど、彼らを見ていたら何も言いわけなんてできないな」などと思ったことを覚えています。
日本は豊かな国なのに、なぜ幸せそうではない人が多いのか……という疑問も抱くようになり、「誰もが自分の能力を発揮できる仕事に就ける=キャリアマッチングが100%うまくいく状況になれば、日本は変わるのではないか? 」と考えた末、就職活動では人材業界を目指すことにしました。
帰国後は、歴史社会学の卒論研究に注力。「オランダの移民政策」をテーマに、都市政策の影響などを調査しました。今の会社ではまちづくりに関する事業をやっていますが、そのタイミングでは特別に興味があったわけではなく、偶然それに近いトピックも含まれていた、という程度でした。
過去を振り返ることで「誰とやるか」を重視する性分だと気づけた
人材業界のなかでもリクルートを選んだのは、インターン参加時に「人として面白そう」だと思える先輩やインターン生にたくさん出会えたことが理由です。
「何をやるか(=仕事内容)」と「誰とやるか(=仕事仲間)」の両方を満たす選択肢だったので、迷いなく入社を決められました。
世の中には「何をやるか」を最重視する人もいると思いますが、もちろん、自分が興味を持てることをやりたいというのは大前提ですが、私は基本的に「誰とやるか」のほうを重視しています。もともと人に興味が強いタイプで、人から何か刺激をもらうことが楽しいからだと思います。
キャリアを振り返っても、「この判断軸は間違っていなかった」と思えているので、私と近しい考えを持っている方は、ファーストキャリアの選択において「この人と働きたい! と思える先輩社員や上司、同期入社の面々がたくさんいるかどうか」「切磋琢磨できる仲間に巡り会えそうか」という視点を大切にしてみると良いと思います。
「誰とやるか」を重視するタイプだということは、過去を振り返って気づけたことです。私は高校のサッカー部時代、フォワードとして印象に残っているゴールが2つあって、ゴールを決めたことそのものよりも、笑顔で仲間たちが駆け寄ってくるシーンのほうが、頭のなかに鮮明に焼き付いていました。
就職活動中に当時のことを思い出し、「自分は誰かが喜ぶ姿を見たくて点を取っていたのだな、仲間や監督が喜んでいる風景が見たくてこれをやっていたのだな……」と気づくことができました。
自己分析の過程では、ぜひ自分のなかに残っている「印象的な過去のシーン」を振り返ってみてください。「自分がどこに一番燃える人間なのか」がわかると、そこから「自分が何を大事にしたい人間か」「仕事において何を重視するといいのか」といったことが見えてくるかと思います。
自分の存在価値や「何のために仕事をするのか」を見失った新人時代
志を持って入社したリクルートですが、新人時代は決して順風満帆ではありませんでした。求人営業として数字を上げられない時期が長く続きましたし、数字を上げられるようになってからも売上自体が目標になってしまい、「顧客に価値を返せているのか自信が持てない」という悩ましさを抱えていました。
変化のきっかけになったのは、仲の良かった同期の「顧客にとって良いと思えば、自分は競合メディアだって紹介するよ」という言葉でした。入社4年目頃だったかと思いますが、当時の自分には目から鱗の考え方でした。そこから「営業としての売上目標は目的ではなく、目的を叶えるための手段だ」と気づくことができ、顧客との向き合い方や営業スタンスが大きく変わっていきました。
比例して、信頼を寄せてくださる顧客もぐっと増えていきました。「予算があるから何か提案をして」「もっと予算があるから、追加でこんなプランはどう? 」とおっしゃる顧客に対し、「費用対効果が悪いので、それはやる必要ないです」と助言したこともあります。
予算を使い切りたいからと結局、すべて発注をいただいたのですが、やはり効果は出ず、「君の言ったとおりだったね」と、以前にも増して信頼をいただけるようになりました。顧客とはその後も長く関係が続き、私の目標売上が足りないときに「うちの部長のアポを取ってあげるよ」とセッティングしてくださったこともあります。
多くの顧客と良い関係性を築けるようになり、「顧客のことを思って動いていれば絶対に喜んでもらえるし、価値を返せる」「顧客のためを追求していれば、回り回って自分の数字にも返ってくる」ということを、身をもって体感することができました。
もちろん、売上目標を達成することは絶対ですし、そこをおろそかにしたことは一度もありませんが、「何のために仕事をしているのか? 」の答えを見つけられたという点で、この時期はキャリアにおける3つ目のターニングポイントだったように思います。
「リーダーシップとは何か」に気づけたマネージャー時代
入社8年目には営業マネージャーに昇格することになります。ただ、「自分がマネージャーになりたいか、やっていけるか」については自信がありませんでした。
そんなときにお世話になっている先輩に相談し、「マネージャーになって損することはあるか? 」と聞かれました。「確かに大変かもしれないけれど、マネージャーとして失敗しても死ぬわけじゃない」「挑戦すれば必ず学びがあるはず」などと思考を繰り返した結果、胸を張って「やりたいです」と答えることができました。
営業マネージャーとなってからは福岡に赴任し、約60名のメンバーとともに福岡でのキャリアマッチング事業を推進しました。ただ最初の頃は、自分らしさを完全に見失っていました。
会社の方針を伝えるだけで自分の言葉を伝えようとせず、マネージャーという役割を演じていた部分があったように思います。「マネージャー=メンバーがやりたいことを叶える役割」だと思っていたのが理由です。
ですが、自分の思っていることを言わずに話そうとすると、部下を説得するため、納得させるためだけのコミュニケーションになってしまうのです。あるとき、メンバーのひとりが「津村さんは、何をしたいのですか?」と問いかけてくれ、「そうか、自分がやりたいことを言わなければ、メンバーたちも言えないよな」とハッとしました。
リーダーは引っ張ることも必要だし、後ろから押すことも必要だと気づくことができました。「リーダーシップとは何か」を考えられたという点で、この経験もキャリアにおけるターニングポイントになったかと思います。
「迷ったら楽しめそうな方を選ぶ」直感を信じて転職を決意
入社9年目には、リクルートを退職。もともと「卒業するのが当たり前」という会社なので、私も最初からその前提でした。「5年間現場をやって、違う仕事を3年ずつやって、11年くらいで卒業かな? 」と想定していたのですが、予定より少し早まった形です。
決心できたのは、昇進前の出会いがきっかけです。福岡に行く半年ほど前、スポーツ経営人材の育成を目的に、Jリーグが立ち上げた「スポーツヒューマンキャピタル」というビジネススクールの一期生募集があり、たまたま受かったことで1年間、社外の方々と勉強をする機会をいただいていました。
そのときの同期のひとりが、HITOTOWAの社長です。グループワークで意見が飛び交い、結論を出せなくなっている場面で、私が議題を本筋に戻していく様子を見て評価くださったようで、「うちへ来てみないか」と声をかけてもらっていたのです。会議をさばくのが得意な自覚はなかったのですが、学生時代からまとめ役を担う機会が多かったので、自然に身についていたスキルかと思います。
スクールの後半は福岡にてオンラインでやり遂げましたが、お誘いの返事は保留にしてもらっていました。営業マネージャーとしてひととおりやれたと感じ、次のキャリアを考え始めた際に「あの話をちゃんと聞いてみよう」と社長のもとをたずね、ビジョンに共感できたことで、1カ月以内に転職の決心を固めました。
このときもそうでしたが、私は「迷ったら楽しそうなほう、自分が楽しめそうなほうを選ぶ」という意思決定のしかたをよくします。楽しむために重要になってくるのが、冒頭に挙げた「この人とやりたいと思えるかどうか」という判断軸なのだと思います。
自分がやりたいことを仕事にできている「公私混同」の状態で、「目標を明確にもっていて、そのために一生懸命になれる人たちと働くこと」が、私がもっとも充実感を覚える状態です。これからもそう思える人たちにたくさん出会っていくことが、キャリアにおける目標のひとつです。
NPOでなくても理想は追求できるが「稼ぐ力」は絶対に必要になる
HITOTOWAに入社後は、スポーツを通じて「災害で亡くなる人がゼロになるまちづくり」を推進する活動をしています。
社会性の高い事業になるので、本事業では顧客目線というよりは、「街や社会の目線に立って、どんなプログラムを開発すべきか」を考える必要があり、「志を立てること」と「それに本気で共感してくれる人と一緒にやること」の2点を大切にしています。
防災の取り組みなどはイベントを1回やればどうこうなるものではなく、地域とも関係を築きながら、腰を据えて継続的にやる必要があります。顧客優先では中長期的にやっていけない事業ですし、逆に、すぐに売り上げにつながらなくても「一緒に企んで大きくしていきましょう」という志をともにできる人であれば、一緒にやる価値があると考えています。
ただし、我々はNPO法人ではなく、あくまで企業である、という線引きは大事にしています。NPOと企業との違いは、利益に対するシビアさです。「利益をもとめられるのがきつい」と感じる人は、NPOに行ったほうが満足度は高いかもしれません。
ただし、先立つ資金がなければメンバーを守ることができず、やるべきことを続けられない状況に陥ってしまうのは、NPOも企業も同じです。課題解決をするためには絶対に「稼ぐ力」が必要で、そうした「事業性」を考えられる目線があるという点で、私はリクルートの経験値やスキルがとても役立っています。
高い志を「絵に描いた餅」にしないためにはチャレンジが不可欠
キャリアを振り返ってみると、要所要所でさまざまな壁にぶつかってきた実感もあります。その際に大切にしてきたのは、「ブレークスルー思考」と、「人生はクローズアップで見れば悲劇だが、ロングショットで見れば喜劇だ」というチャップリンの言葉です。
ブレイクスルー思考は、壁が現れたときに「どう攻略するか試されている! 」と思い込む思考です。ある種のゲーム感覚と言いますか、ここを乗り越えたら成長できる、ラスボスを倒すぞ! というような気持ちで、壁に挑むようにしています。
そしてチャップリンの言葉は「失敗した」と感じたときに思い返します。その瞬間をクローズアップすれば悲劇だけれど、長い人生を俯瞰で見れば喜劇になる……という意味になりますが、大体の失敗は、後になって振り返れば「こんなことあったな」程度に思い出せることばかりです。
就職活動中や新人時代には、壁にぶつかることが何度かあるかと思いますが、気持ちを持ち直すひとつの方法として、よければ参考にしてみてください。
また採用を通じて感じるのは、最近の学生さんはとても志が高いということ。「今のままの社会ではダメだ」と思っている子はかなり多く、こうした志は教えられて身に付くものではないので、ぜひ大切にしてほしいです。
ただし、思っているだけでは「絵に描いた餅」である、ということも心得ておく必要はあるかと思います。理想を形にする過程は甘くはないし、理想を形にするためには「チャレンジを絶対に辞めない姿勢」も必要です。
チャレンジにためらうときは、「長い目で見れば『やってみて損をした』とならないのではないか? 」という自問自答をしてみてほしいですね。仮に「やって損した」とそのときは感じたとしても、後から振り返ってみたら損じゃなかった……ということは往々にしてあるように思います。
仕事に懸命に取り組めば「やりたいこと」は見つかってくる
最後に、これから社会人になる人に伝えたいのは、「キャリアの積み方はひとつではない」ということです。「キャリアを描く=なりたい自分を描いて、そこまでのマイルストーンを置き、それを達成するために努力する」というイメージがありますが、最初から描き切ることができる人は、ほんのひと握りだと思います。
実際には「そのときどきで与えられたこと思えることを一生懸命やって、そのことで周りからの信頼を得て、自分のやりたいことや描きたいキャリアが定まってくる」という人が大半だと思います。私自身がまさにそうでした。
自分が「楽しそう」「面白そう」と思えることを一生懸命やって、そのときどきで楽しさや幸せを感じられるキャリアを描けてきた、と感じられています。「今すぐに、なりたい自分を見つけられなくても大丈夫。そのうち描けるようになるよ、長期的なロードマップを明確に決められなくても問題ないよ」ということはぜひ伝えたいですね。
また、できるだけ自分に合った会社を見つけたいと思うのであれば、とにかく人に会って話をしたり話を聞いたり、を繰り返してみるのがベストだと思います。
話を聞く相手としては、知り合いが一番です。利害関係のない相手に聞いたほうが、包み隠さず正直に教えてくれるはず。インターン先で出会えた社員やサークルの先輩などに「どんな仕事をしているのか、仕事で楽しいと思えることは何か」などを聞いて、自分のやりたいことも話してみて、そのなかで「自分が大事だと思えること」を考えてみてください。
人と話しているうちに気づけることは多いですし、ある程度自分で考えてみた後は、人と話をしながら考えをブラッシュアップしていくといいと思います。
取材・執筆:外山ゆひら