「自分らしさ」を追求しよう。思いっきり頑張れる場所で幸せに働いてほしい
エイチーム 取締役/エイチームウェルネス 代表取締役社長/エイチームライフデザイン 代表取締役 間瀬 文雄さん
Fumio Mase・2007年、日興コーディアル証券入社後、2008年にエイチームに転職。その後、ライフサポート事業本部 比較サイト事業部長を経て、2012年エイチームライフスタイル(現・エイチームウェルネス)代表取締役社長に就任。2018年、エイチーム取締役、2020年にライフスタイルサポート事業本部長に就任。2020年2月より現職
新卒入社後すぐに直面した「頑張れない自分」
エイチームに転職を決めたのは2008年、新卒で入社した証券会社に勤めてからわずか1年後のことでした。
給料が高く、周囲からも「すごいね」と羨まれるような会社。親も喜びそうだしと選んだ就職先でしたが、証券会社は私にとっては、ずばりミスマッチ。「頑張りたくても、頑張れない場所」でした。
お客様が求めていないものでもプッシュ型で強引に提案しなくてはいけない営業スタイルは、どうしても苦手でした。同期とは日々ライバルの関係にあって、お互いの実績を素直に喜び合えない関係もかなり苦痛に感じました。
晴れて社会人デビューし、営業として頑張っていきたいというやる気はあるのに前向きに行動できない。これは、本当につらく不幸せな状態でした。
正直、こんなに頑張れない自分なんて想像もできませんでした。それまで、自分は何でも器用にこなせるタイプだという自負があったのです。
高校3年間は寮生活を経験し、1年生から3年生までの4人部屋で、ほぼ24時間、先輩、後輩と共に毎日を過ごしました。
自分とはタイプが異なるいろんな性格や価値観を持った寮生たちと共に過ごしたことで、さまざまな人間関係の中で揉まれ、色々な考え方や価値観に触れる貴重な体験をし、精神的にもタフになりました。
大学時代は、テニスサークルの部長としてチームをまとめる経験もしていました。
それだけに、前職の証券会社での経験は、大きな挫折感を味わいました。一体何をやっているのか、なんでこんな生活を送っているんだろうと自問自答する日々を過ごしました。
次第に、頑張れない自分を客観的に見ることができるようになっていきました。何でもうまくこなせる自信があるとはいっても、これまでの人生でも思うように頑張れなかったこともあったはず。
そこで、自分がこれまで頑張れたこと、頑張れなかったことを思い出して書き出しました。すると、それぞれに共通するポイントが見えてきました。
頑張れる場所として一番大切だとわかったのは、「会社を信じ好きになれるか」。
華々しさやかっこよさがなくても、会社や経営者の発言や文化に対して信頼できるかどうかです。大切なことがわかったことで一気に目の前が明るくなり、すぐに転職活動をスタートさせました。
転職活動の軸は、「自分が信じ好きになれる会社」かどうか
自分を振り返ることを一切せず、何となく入社を決めて失敗したことから、転職活動は、自分の目で「信頼できる会社か」「その会社を好きになれそうか」を確かめようと必死でした。
ただ当時は、正直今ほど自分にとって大切なポイントが明確にはなっていなかったんだと思います。転職エージェントに登録し、紹介された企業は迷わず受けて内定もいただきましたが、ピンとくる会社にはなかなか出会えませんでした。
実は、私は教育学部出身で、教員免許を持っています。学生時代は教師になろうかと考えた時期もあったのですが、教育実習で学校を職場として見たとき、先生だけの世界に少し閉ざされた雰囲気を感じて就職の道を選んだという経緯があります。
思うように転職先が見つからない中、「もう一度教師を目指そうかな」と考え始めたんです。それを転職エージェントに伝えたら、「最後に1社だけ受けてみてください」と紹介してもらったのがエイチームでした。
間瀬さんの転職活動のポイント
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経営理念とその背景や理念に込められた想いに共感できるか
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働いている仲間が好きになれそうか
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経営者の言葉を信じられるか
それまでたくさんの会社を受けて色々な話を聞きましたが、どの会社の経営理念を聞いても何となく信じることができなかったんです。語っている方の熱意を感じなかったり、かっこいいことを言っているけどなんか違うなと感じたり。
でも、エイチームは違いました。代表が語る経営理念の背景や想いを聞いたとき、本当に不思議なことにすーっと入ってきました。
嘘がないし、信頼できると確信し、「ここでなら頑張れる」と思いました。教師への道の一歩手前で運命的な出会いを果たし、エイチームで働くこととなりました。
責任の一端を自覚し主体的に取り組むことで大きくステップアップ
エイチームに入って14年がたちます。現在はエイチームで取締役を務め、子会社の代表として多くの部下を率いる立場にありますが、これまでを振り返って、自分自身のキャリアを形成していく上でのターニングポイントだったなと思う出来事があります。
入社間もない一般社員だった頃の話です。担当していたサービスで、ものすごく大きなクレームを出してしまいました。
当時の上司からの指示で動いたのですが、私自身それはまずいと気づいていて「本当にやって大丈夫ですか?」と確認していました。上司が「大丈夫」と言うので実行しましたが、結果は予想した通りの大クレーム。
忘れることのできない、苦い苦い経験です。やるべきではないとわかっていながら、上司の指示にただ従うことを選んでしまった自分。阻止するために何かできなかったか? 全力で対応したのか? もっとやれることはなかったのか?
後悔してもしきれないでいたときに思ったのが、「これって、証券会社で働いていたときの自分と同じじゃないか」ということ。「こうしたい」「こうすべきだ」という想いはあるのに、結局言うべきことを進言できず、受け身ともいえる働き方をしていたのです。
自分の行動や考え方を、もっと根本的に改めなくてはいけないと痛感しました。
以来、「すべての出来事は自分自身にも必ず原因がある」「どんな仕事でも責任の全ては自分にあると考えるべき」ということを自覚し、一段上の視点に立って仕事に励みました。
主体的に仕事に取り組むことで、別の視点で考えることができるようになったり、それまで思いもつかなかったアイデアが思いついたりと仕事がどんどんうまく行き始め、自分自身の行動変化も自覚しました。
考え方の軸がはっきりとし、大きく視野が広がることにつながった経験だったと感じています。
また、多くの経営者と触れる中で、成功している人は共通して、あえて負荷がかかる方を選択していることに気づきました。
これまで何度も事業責任者という立場を経験してきた今では、さまざまな意志決定を迫られる機会も多く、ときにはどちらが良いかと迷うこともあります。そんなときでも、個人的なことなら「負荷が掛かる方をあえて選ぶ」ことを信条としています。
なかなか難しい局面もあります。しかし、多くの人が選ばないこと、普通に考えたらやりたくない方を積極的に選ぶ、その積み重ねこそ、成功に一歩また一歩と近づく近道だと思っています。
就職活動では「自分らしさ」を手放さないで
就職活動をはじめる時点で、「やりたいことなんてない」という状態は普通だと私は思っています。
そもそも、やりたいことがある人は、すでにその方向に着実に進んでいるはずです。就職活動に目がいっている時点で、やりたいことを探そうと頑張るのは、とても遠回りな作業だと思います。
失敗から得た教訓としてぜひ皆さんにお伝えしたいのは、今はとにかく「自分らしさ」を追求してみてほしい、ということです。
友達が言っていること、ネット上の話題、世の中の風潮や、今後注目されるであろう業界や社会トレンドなど、私たちの周りには色々な情報が溢れています。
ついつい、受け取った情報が本当の正解のように感じてしまう人もいるはずです。私もかつては、そうでした。世間の評価や給料の良さなどから金融業界に絞り、一番に内定をもらった証券会社に早々に入社を決めたのです。
注意してほしいのは、その「正解だと思っているもの」に何となく共感し、何となく「正解」に近づくように振る舞っているうちに、知らぬ間に「自分らしさ」が失われてしまうことが往々にしてあるということ。
それって、自分に嘘をついていることにもなります。自分にとってこれが一番合っているはずと思い込むと、どんどん迷子になってしまいます。
入社してみたらその場所でまったく頑張ることができず、つらい社会人スタートとなった私がまさにそうでした。
誰にでも、好きなことと嫌いなこと、得意なことと苦手なこと、頑張れることとあまり頑張れないことがあるはずです。
就職先を決める前にやるべきことは、どんなことが好きで頑張れるのか、どんなことが嫌いで頑張れないのか、「自分らしさ」をしっかりと理解することに尽きると思います。
自分の価値観を「削り切る」ことが大切
「自分らしさ」のヒントは必ず、これまでの自分の中にあるはずです。
方法は、学生時代にどんなことに時間を多く使っていたか、どんなときに楽しいと感じたか、どんなことが楽しくないと感じたか、身の回りに多くあるのはどんなものかなどを多い順に書き出す。
小さい頃はどんなことに興味を持っていたのかなど、皆さんのご両親など自分をよく知る人に話を聞いてみるのもよいと思います。
マンガばかり読んでいた、インスタばかり見ていた人でも大丈夫です。「どんなマンガを読んでいるのか?」「なぜマンガが好きなのか?」「どこが面白いと思うのか?」と掘り下げていく。
インスタを見ている人なら、インスタでたくさん見ているのはどんなことか?どこに魅力を感じるのか?であれば、限りなく書き出せるはずです。
その上で、共通していることをまとめてみて、その中で「本当に好きなもの」をもう一度考えてみます。どんどん削っていって、2〜3個になるまで削り落としてみることをおすすめします。
「自分はこうだろう」と何となく作り上げて、それが本当の自分だと思い込んでしまっていることも案外多くあるはずなんです。
でも、絞り込んで最後に残った2つ3つが、自分らしい、自分にとって本当に必要なものなのだと思っています。
ファーストキャリアは長い社会人生のスタートライン、無理せず自分らしく
日頃、自分自身が面接官をするときにその人らしさが一番出ると思うのは、第一印象と会話の中で自然と伝わってくる雰囲気。
第一印象と全然違うなって感じることを論理的に一生懸命説明されても、やっぱり本当のその人ではないなとわかってしまうし、実際そうであることが多いです。
逆に、自分の深い部分を自分らしく素直に出せる人に会うと、信用できる人だなと感じます。
だからこそ、受かることを目的としないでほしいです。無理して自分像を勝手に作り上げず「自分らしさ」を出すことが、自分に合った会社と出会う近道かなと考えます。
ファーストキャリアで選ぶ企業は大切だと思ってしまう気持ちもわかりますが、これから続く長い人生のあくまでもスタートライン。当たり前ですがそこで人生は決まらないし、今理解しているよりもはるかに色々な会社、職種があって、いくらでも修正はききます。
入社後に幸せになれる、そんな就職活動をしてほしいと願っていますし、そのために「自分らしさ」を追求してほしいと願っています。
修正がきく会社を選ぶというのも一つの方法です。会社の中に幅広い職種、仕事がある会社もあるので、仮に営業の仕事で行き詰まっても営業以外の仕事に異動させてもらうというように、会社の中で職種替えできる方法もあることを知っておくとよいかもしれません。
これから求められる人材に近づくために活動量を増やそう
これからの時代には、自分の興味領域、専門領域をもっていて、とことん深く探求し続けられるスペシャリストタイプの人材が求められていると考えます。
ただ、これって誰もがもてる才能ではないですから、別の切り口で勝負できる資質が2つあると考えています。
「適応能力が高い人」と「人望がある人」です。
変化の激しい時代ですから、必要とされる考え方や技術を常にアップデートしていかなければいけません。自分の考えに固執せず、変化に柔軟に対応できる気力、体力があるなど「適応能力が高い人」は強いと思います。
組織を動かすことができる力という意味では、「人望がある人」も絶対条件となります。人間って不思議と、同じように正しいことを言っていても、嫌いな人から言われると正論でも受け入れられないことがあったりします。
これからの時代も変わらず、人望があることはとても重要です。「人望」とは、周りの人たちから、信用と信頼を得て、尊敬されている状態のこと。人望を得るためには、相手の立場で物事を考えて行動する。
そして、その先に自分自身の中長期的な利益や恩恵につながると理解していること。つまり、いつも相手のために貢献欲をもって動きつづけることができる人だと思います。
もし今あなたが、何かの特定分野のスペシャリストでなかったら、人望を身に着けるための働きかけを試みてください。会社や組織、一緒に働く仲間たちが本当に必要とすることを考え、その実現に向けて動き回ってみましょう。人望が身につくきっかけになると思います。
これからの時代に求められる人材の特徴
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自分の興味領域、専門領域をもっていて、とことん深く探求し続けられるスペシャリスト
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適応能力が高い人
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人望がある人
今後求められる人材に近づくために今できることは、とにかくデータを貯めることです。経験がないことを学生時代に極力減らしておくこと。活動量をどんどん増やしましょう、というのが私からのメッセージです。
取材・執筆:小内三奈